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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第四章 魔族の秘密
  第41話 国王に謁見

 国王に謁見する流れになってしまった。
 勇者によるぼくへの説得が進んでいないので、しびれを切らしたものと思われる。

 牢屋のときの棒叩き女のコメントから察するに、イステールとしては少しでも早く魔国を滅亡させ、戦を終わらせたいらしい。
 そうでないと戦後処理がどうだとか領土分配がどうだとか言っていた気がする。

 恐らく、国王はぼくに最後通告をしてくるのだろう。
 さっさと協力せんか、と。
 そしてぼくはそれを拒否するので、では処刑しましょうということになるはず。

 処刑――。

 人間側に協力するつもりは最初からなかったため、ここにきて「やべええ殺されるうう」とパニックになっているわけではない。

 もちろん、魔国その後についてはやはり心配だし、当然死ぬよりは生きるほうがいいので、これがベストのエンディングとは思っていない。

 だが、日本では失敗した治療院がこの世界ではうまくいき、自分の技術が役に立った。
 新宿にいたときは何のために生きているのかわからない状態だったわけで、あのままの状態に比べたら遥かにマシなルートをたどった。

 その点は満足している。いや、大満足だ。
 これだけでも飛ばされた意味はあったのかなと思う。

 ……まあ、どうせ死ぬならということで。
 いけそうなら、今まで知った事実で思ったことを色々ぶちまけてみようとは思う。

 国王がキレてその場で首をちょん切るということになるかもしれないが、それはそれで悪くない。
 ネチネチ拷問されるよりはマシだ。



 部屋で謁見の支度に入る。

「あれ、ヨロイを着てもいいんだ?」
「うん。キミは罪人扱いじゃなくて武人扱い」
「へえ、このまま脱走したくなっちゃうなあ」
「え?」

「……お前、勇者様をまた不眠にさせる気か」
「冗談冗談、無理だってのはわかってるからね」

 脱走については、今まで一度もチャンスがなかったので結局トライできなかった。
 ただ、万一ぼくが脱走し魔国に戻ることができてしまった場合、勇者とマッチョ男の責任は重大ということになっていた気がしないでもない。
 チャンスがなくてよかったという気持ちも少しだけある。



 勇者から段取りについてなどの説明を受けた。
 少し面倒な上に、作法を覚え切れるか不安だったが、勇者もぼくと一緒に入ってくれるらしい。
 わからなくなったら適当に真似すればよさそうだ。

 部屋の荷物はすべてまとめるように言われた。
 袋に入れて持っていき、謁見の間の外すぐにある荷物置きに置くようにとのことだった。
 もうこの部屋には戻しませんよ、ということだろう。

「じゃあ、行こう」
「うん」

 いよいよこれから謁見の間に向かう。

「マコト、たぶん国王陛下はキミに対して直々に協力の依頼をするんだと思う」
「だろうね」
「そこで『わかった』と言ってくれれば、たぶん、キミは助かる」
「言わないけどね…………あっ、イテッ」

 また頬を叩かれた。しかも結構強めに。
 顔が見えないとまずいということで、兜だけ脱いで手で持っていたが……途中まで着けておけばよかった。

 一緒に謁見の間に向かったが、彼女は途中一言も口をきいてくれなかった。
 どうやらまた怒らせたようだ。



 ***



 謁見の間で勇者とともにひざまずくと、顔を上げるように言われた。

「ずいぶん若いのだな」

 それが、ぼくにかけられた第一声だった。
 玉座にいる立派な服を着た壮年の男が、面白そうな笑みを浮かべている。
 この国王はヘンリー十三世。もう長いことこの国を治めているらしい。

 その隣には、厳しい表情をしている将軍風の人物。
 フィリップスという名で、人間の軍の司令官だという説明を受けている。
 イステールという国は封建制のような形態らしく、諸侯がそれぞれ兵を持っている。
 その中でも彼が最も有力かつ有能で、総大将に推されたそうだ。

 他に人はいない。
 謁見ということであれば、兵士が沢山並んで壁を作っていてもよい気がするのだが。
 将軍と勇者がいるから大丈夫ということなのだろうか。

「さて、マコトとやら」
「はい」
「本来お前は謁見が許される立場ではないが、少し興味があってな。会うことにした」

「興味?」
「そうだ。いまだ自供を拒否し、あくまでも魔族に忠節を尽くそうとしているそうではないか」
「そういうことになりますかね」

「……不思議だな。戦で魔国の捕虜となった人間はすべてが殺されている。過去には罪人が脱獄し魔国へ逃亡しようとしたこともあったが、追いかけた兵士が国境付近で発見した時には既に死体であった。
 お前は人間であるにもかかわらず、なぜ魔国で生きていられたのだ?」

「一番最初に会った魔族が変人だったんです。ぼくのことを面白がって、元の国にいた頃と同じ仕事をさせてくれました」
「ふむ。それに恩義を感じ、魔国に不利となる情報は何も話せぬということか」
「それだけということではないですが、まあそんな感じです」

 魔族は自分の患者であり、患者を売ることはできない、という大切な理由もあるが、あえて説明することでもないので適当に答えた。

 国王は「なるほど」と言って顎に手をやる。
 そして少し上体を前に出した。

「今日、お前を呼んだのは余が直々に協力を頼むためだ。それでも気持ちは変わらぬか?」

 いきなり突っ込んできた。
 隣の勇者がチラッ、チラッとこちらを見てくるが……。
 いや、協力はしないからね?

「変わりません」
「……そうか。その心意気は見事だ。見かけによらず意外と肝が据わっておるようだな。魔族の輩がお前を面白がるのもわからんでもない」
「はあ」
「余の前に来ると途端につまらぬことしか言わなくなる者は多いからな。なかなか新鮮だ」
「そうですか」

 そんなことは知らないので「そうですか」としか言いようがない。

「しかし悪しき前例を作ってしまうわけにはいかぬな。同じような人間が現れるのは避けなければならぬ。
 あくまで改心せぬ場合、やはり処刑せねばならない。それでもなお意地を張るか?」
「まあ、そうですね。協力はできないです」

 国王は足と腕を組んだ。

「ふむ……。しかしそこまで魔族に義理立てする価値はあるのか?
 滅びゆくものにも忠節を尽くすという思い自体は立派だろう。特にカムナビあたりでは称賛される考え方だ。
 だが、今回の場合はそもそも相手が人間ではないのだぞ。ある生物が別の生物に滅ぼされる、それは決してこの世の理から外れるものではない。
 この世の理通りに滅ぶ生物。そこに人間であるお前が混じり、そして運命を共にすることにどれほどの意味があろうか」

 そろそろ「もういい、処刑だ」と言われるのかと思いきや、いきなり演説。
 もちろん、ぼくにとっては響くものではない。
 むしろ「相手は人間ではないのだ」という言い方をされると、さらなる反抗心が湧き起こってくる。

 やはりここはぶちまけてみるしかない。

「逆に申し上げたいです。いいんですか? 人間の先にある生物を滅ぼしても」
「ほう? どういうことかな」

「魔族は人間の進化形……でしょう?」

 隣にいた勇者の首が勢い良くこちらに回ったことがはっきりとわかった。 
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