英雄伝説~光と闇の軌跡~番外編 語り継がれなかった軌跡篇
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外伝~2度目の恋~後篇
~メンフィル大使館~
「セシルと言ったか………お前は俺達の世界――――『ディル=リフィーナ』に伝わる『魂の理』を信じるか?」
ペテレーネが退出するとリウイが口を開いて静かにセシルを見つめて問いかけた。
「魂は『冥き途』という場所に向かって、新たなる生を受ける………ですよね。先程話した突如頭に入って来た記憶の中にあります。私は………一体誰なんですか………?私は『セシル・ノイエス』ではなく、『ティナ・パリエ』なんですか………?」
自分が自分でない可能性に不安や恐怖を抱くセシルは身体を震わせながら懇願するかのような表情でリウイを見つめて尋ね
「―――いや………お前は『セシル・ノイエス』だ。あくまでティナの記憶があるだけで、全くの別人だ。」
「あ………………」
どこか優しさを纏わせたリウイの苦笑いによって自然と気持ちも落ち着き、身体の震えも止まった。
「あの……ありがとうございます………」
「礼を言う必要はない。俺は当然の事を言ったまでだ。………しかし、まさかそれを聞く為だけにここまで来るとはな………行動力がある所はティナと一緒だな……」
「フフ、もしかしたらティナという方に影響しているのかもしれませんね。……あ、すみません。もしかして私、失礼な物言いでしたか?皇族の方に失礼と思う口調で話していた気がしますし……」
リウイと共に苦笑いをしていたセシルはリウイとの会話を思い出して目を丸くした。
「今頃気付いたのか?……まあ、気にする必要はない。俺は堅苦しいのは好まないしな……」
「フフ………そう言えばよく城を出て街の人達と触れ合ったりしていましたものね………リウイさんみたいな優しい方が創った国は今でもきっと素晴らしい国なのでしょうね……」
「優しい?俺がか??ティナの記憶を持っているなら、知っているはずだぞ。―――当時、旧メンフィル王政に対して反乱を起こした俺の事を。その時のティナの記憶は決して良い物ではない……いや、むしろ思い出したくもない忌まわしい出来事のはずだが。」
優しげな微笑みを浮かべるセシルの話を聞いたリウイは目を丸くした後遥か昔人間族に対して復讐を誓っていた自分と重ね合わせてセシルに問いかけた。
「―――はい、リウイさんとティナが初めて会い、その後に起こった事ですね?勿論、知っています。―――ですがティナは望まぬ形とはいえ、貴女に抱かれてよかったと思っていますし、私も当時のリウイさんに対するティナの想いが報われ、そしてリウイさんに幸せにしてもらえて良かったと思います。」
「ティナの想いだと?」
セシルの口から出た予想もしていなかった言葉にリウイは目を丸くした。
「―――当時、人間に対して復讐心を抱いていたリウイさんに”人の優しさ”を自分の身体を使って教える事ができた事です。だからリウイさんはメンフィル王国の兵士ではない村の人々を解放したのでしょう?」
「………あの時はただの気まぐれだ…………」
一瞬かつて愛した妻の一人であるティナと相対している事を錯覚したリウイは重々しい様子を纏って答えた。
「それでもいいんです。リウイさんはちゃんと、村の人々を解放し………国中の人々に慕われる立派な王様になって……国を守る為に自ら先頭に立って戦って………多くの人々の生活を守りましたから。それに………イリーナさんを失って悲しみにくれていたにも関わらず、ティナの事も気遣ってくれ……心から愛してくれたのですから。」
「……………………………………何故、そんな事が断言できる。」
優しげな微笑みを浮かべたセシルとティナの優しげな微笑みが重なった事に内心驚いているリウイは静かに問いかけた。
「ティナの妊娠が分かった時、位もないただの神官であり………平民であるティナを正式な側室として迎えて、リウイさん自らがティナに頼んでティナに貴族の位を与えて皇族の一員として迎えましたよね?私は身分の違いに関してあまり詳しくないですが………それでも唯の神官であり、平民であるティナを正式な皇族にする際、周りの人達から反対の声があったはずなのに、その声を押し切ってティナを大切にした事はわかります。」
「……………元々ティナは”幻燐戦争”で多くの兵達や民達の傷や心を癒した事で国内でも慕われていたからな。俺の周りからは反対の声はなかったな。………まあ、俺達マーシルン家に対して恨みや妬みを持つ貴族共は影でティナの罵倒を言い合っていたらしいが……そいつらも他の重罪などの関係で全員処罰したからな。それ程苦労はしなかったさ。それに………産まれて来る子供に俺のような苦労はさせたくなかったからな。」
「ほら、優しいじゃないですか。ちゃんと産まれて来る赤ちゃんの未来も考えていますよね?」
「………………フッ…………これは一本取られたな………」
笑顔で指摘したセシルの言葉を聞いたリウイは固まった後やがて苦笑いをしながらセシルを見つめていた。前世の縁を持つセシルとセシルの前世を知るリウイとの会話は初対面であるにも関わらず、不思議と話がはずみ、ペテレーネも交えて共に夕食を取りながら様々な話をしているとあっという間に時間は過ぎた。
~数時間後~
「もうこんな時間か………そろそろホテルに戻らなくていいのか?」
ふと時計の時間に視線を向けたリウイはセシルを見つめて尋ねた。
「その……実はまだ部屋の予約もしていないんです……勢いで来てしまったので……」
「そうか……だったら今夜はこの大使館に泊まっていくか?部屋なら余っている。」
「え?……………………」
リウイの申し出を聞いたセシルは目を丸くした後リウイを見つめて考え込み
「………はい、お願いします。」
「―――ペテレーネ、客室の用意を。」
「かしこまりました。」
そしてペテレーネが部屋を出るとその場は二人っきりになった。
「あ……そう言えば今日は本当にごめんなさい。私との面会のせいで仕事を中断させてしまって……」
「気にする必要はない。いつでも終わらせられる仕事だ。」
「そうですか………それならよかったです。」
「お前の方こそいいのか?付き合っている男性に事情を説明しておかないと、後で面倒な事になるぞ。」
「今はいません。ガイさん以外とは誰とも付き合った事もありませんし、ガイさん以外の男性に対してそんな気持ちになったこともないんです。」
「………すまん。失言だったな………」
セシルの口から殉職したセシルの恋人の話を出してしまったリウイは目を伏せて謝罪した。
「いえ………気にしないで下さい。もうあれから3年も経っているのですから、私も大丈夫ですし……お母さん達からも新しい恋を見つけて欲しい事もよく言われていますし………」
「お前の容姿とその性格なら、その内新しい相手も現れるだろうから、両親の心配もその内消えるだろう。」
「……………………………」
静かな笑みを浮かべて答えたリウイをセシルはジッと見つめた。
「?どうした。」
「フフ………参ったなあ………最初はティナの影響かと思っていましたけど、私自身、本気になっちゃいました………」
「いきなりなんだ?」
セシルの口から出た訳のわからない答えにリウイが眉を顰めたその時、セシルは頬を赤らめてリウイを見つめた。
「――――好きです、リウイさん。貴方の事を男性として好きです。」
「…………………………本気なのか?俺達は今日会ったばかりだぞ?」
「恋をするのに時間は関係ありません。……どんな悲しい別れがあっても決して諦める事なく、理想に向かい続け………例え自分が傷ついても他の人達の事も大切にできるそんな優しい貴方が大好きです。私―――セシル・ノイエスの恋を今度こそ、叶えさせてください……………!」
「―――俺にはイリーナを始めとした多くの妻がいる。それでもいいのか?」
「はい。貴方に少しでも想ってもらえるだけでも、私は幸せです…………愛しています、リウイさん………」
そしてセシルはリウイに近づいてリウイを抱きしめ、セシルの想いに応えるかのようにリウイはセシルの唇に深い口付けをし、その後二人は愛し合い始めた。
~1時間後~
「フフ、まさかこんなにも早くティナの生まれ変わりの方に会えるとは思わなかったわね。」
「はい。私も正直、驚きました………」
1時間後大使館に戻ってきたイリーナはペテレーネと共にリウイの私室に向かっていった。そしてリウイの私室に近づいたその時
「あんっ!?あ……ふぁ……ああっ!?…………リウイさん……!リウイさん………!………もっと……激しくしてください………!」
部屋の中からセシルの声が聞こえ、声が聞こえてきた瞬間、その場は凍り付いた!
「こ、この声はセシルさん……!?あわわわわわわわわわっ!?ま、まさか………!?」
そして我に返ったペテレーネは部屋から何度も聞こえてくるセシルの声を聞いて顔を真っ赤にして混乱しかけたが、すぐにイリーナが傍にいる事を思い出して真っ赤にした顔を青褪めさせながら部屋とイリーナの顔を交互に見つめ
「…………………ハア…………………もう、リウイったら………”また”ですか…………いくらティナの記憶があるとはいえ、さすがに”そこまでの関係”に進むなんて幾ら何でも早すぎませんか………?」
石化したかのように固まって黙り込んでいたイリーナは大きな溜息を吐いた後膨大な威圧を纏って微笑みを浮かべた。
「イ、イリーナ様………そ、その……」
「今日は二人っきりにしてあげなさい。」
「は、はい………イリーナ様はその……大丈夫なのですか?」
イリーナの答えを聞いたペテレーネは恐る恐るイリーナを見つめて尋ねた。
「ティナ――――今はセシルだったわね。彼女がリウイの側室になる事は”影の国”の件でわかっていたから大丈夫よ。…………でも側室を一人増やしたのだから、私のお腹の中に宿っている赤ちゃんが産まれてきたら、すぐに2人目を孕ませてもらわないとね?………フフ………」
「……………………………」
そしてペテレーネは膨大な威圧を纏って微笑み続けるイリーナの余波をその身に受けて表情を青褪めさせて身体を震わせながらイリーナと共にその場を去った。
「俺の側室になり、俺達と共にメンフィルの理想を目指してくれないか、セシル。」
その後”行為”を終え、お互いに生まれたままの姿になったリウイはセシルを抱きしめながら問いかけ
「リウイさん………はい、喜んで………!愛しています、リウイさん……!ん……ちゅ……ちゅる……」
リウイの告白に一筋の涙を流して嬉しそうな表情で頷いたセシルはリウイと舌をからめる深い口付けを交わした後リウイの胸板に寄り添い
(ガイさん……私……この人と一緒に絶対に幸せになって見せます…………)
幸せそうな表情でかつて愛した男性を想いながら眠り始めた。
~数日後・カルバード共和国~
「ロイド君、少しいいかい?セシルさんから通信が来ているよ。」
「セシル姉から?わかった。」
数日後、カルバード共和国にある一軒家にて叔父夫婦に世話になっている少年――――ロイド・バニングスは通信機で通信を始めた。
「―――セシル姉?」
「あ、ロイド。元気そうね。」
「ああ。そっちこそ元気そうだね。それで今日はどうしたんだ?何か用があって電話をしてきたんだろう?」
通信相手――――セシルとの通信を始めたロイドは懐かしそうな表情をしながら通信を始めた。
「ええ。ロイドに知らせて置く事があって………」
「俺に?」
「うん…………………………その…………私、結婚を前提にした新しい恋人ができたから、ロイドにも知らせておこうっと思って。」
「………………………………………………………」
恥ずかしそうな口調で説明したセシルの話を聞いたロイドは石化したかのように固まり
「ええええええええええええええええええええええっ!?」
やがて我に返ると大声を上げて驚いた!
「ちょ、ちょっと待ってくれ、セシル姉!い、一体いつから付き合い始めたんだ!?今まで何度か連絡を取り合ったけど、気になっている男性の話すらも出て来なかったよな!?」
(くかかかかかかっ!面白いぐらい狼狽えているじゃねえか!?なんだ~?もしかして初恋の女だったのか?くかかかかかかっ!)
(嘘でしょう………!?あの娘に………新しい恋人ができたなんて………!?)
青天の霹靂同然のセシルの言葉に狼狽えているロイドの様子を見たロイドと契約している異種族―――悪魔ギレゼルは陽気に笑い、天使ルファディエルは信じられない表情をした。
「フフ、運命的な出会い……と言った方がいいのかしら?出会ったのは最近なんだけど………不思議とその人を支えたいと思って思い切って告白したら、受け入れてもらえて……その後その日に結ばれて、その日からその人と付き合い始めたの……」
「……………………………」
衝撃の出来事の連続にロイドは口をパクパクして固まっていた。
「ガイさんと婚約していたのに、新しい人と付き合いだした事はやっぱり嫌かな?ロイドは。」
「そ、そんな事ないよ!ようやくセシル姉が新しい幸せを手に入れる事ができて安心したよ…………――――おめでとう、セシル姉。」
「ありがとう、ロイド。」
「それで?どんな人か教えてもらってもいいかな?」
「ええ、いいわよ。あの人はね――――」
その後ロイドはセシルから惚気話同然の説明を聞いた。
「ハハ……………と、とにかく幸せそうで何よりだよ。」
セシルの惚気話同然の説明を聞き終えたロイドは大量の冷や汗をかきながら苦笑して答えた。
「フフ、ロイドも早くいい人を見つけるのよ?ロイドの”お姉ちゃん”として、ロイドが結婚して幸せになる所は絶対に見届けたいんだから♪」
「あのなあ………相手もいないのに気が早すぎだよ、セシル姉。」
「ふふっ、確かにそうね。――――それで、後数ヵ月でクロスベルに帰ってくるのよね?」
「ああ。その時はセシル姉の新しい恋人がどんな人か、見てみたいから機会があったら紹介してもらってもいいかな?」
「ええ。―――またね、ロイド。」
「ああ、また。………………………」
セシルとの通信を終えたロイドはその場で複雑そうな表情で考え込み
「ハア……………俺の知らない所でセシル姉に何があったのが非常に気になって来た…………普通に考えて出会ったばかりで肉体関係にまで発展するなんて、ありえなくないか………?」
(くかかかかかかっ!人生、何があるかわからないぜぇっ!?)
(フフ………)
疲れた表情で溜息を吐いたロイドの様子をギレゼルは陽気に笑いながら見つめ、ルファディエルは微笑ましそうに見つめていた。
こうして………セシルは”2度目の恋”をし………数年後、リウイとの間にできた子供を産み、その子供の名前にはかつて愛した男性の名前を付け、リウイ達と共に幸せな家庭を築き上げた………………
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