とある科学の捻くれ者
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8話
「ハァ.....ハァ」
初春は瓦礫が散乱し、穴ぼこになっている高速道路の上を走っていた。右手に木山から受け取った幻想御手のアンインストールプログラムを持ちながら。
(私だって風紀委員なんだから!!!)
自分は風紀委員。学園都市の治安を守る者。ここで自分がやらなければ誰がやるのだ!!と、初春は恐怖で立ち止まりそうになる自分を叱咤する。これは初春の意地だ。
(あと...少しで....っ!!)
あと少し、あと少し歩めば、あと少し走れば、目的の場所につく。あと少しで、私の役目を果たせる。
無慈悲にもそれは放たれた。
絶叫の直後、轟音。幻想猛獣から初春に向けての攻撃である。野生の本能というものなのか、初春のもつデータに危機を感じたのかは定かではない。
ただ、いえることは、道路が半壊するような威力の攻撃を生身の人間が受けて助かる道理はない。初春は一瞬思考が硬直し、自身の置かれた状況を理解する。
あぁ、結局だめだったのか、と。目を瞑り、自身の最後となるであろう攻撃を受けようとする。普通ならこれで終わっていただろう。そう、普通なら。
「大丈夫か?初春」
目の腐った男がその人外の一撃を防いだ。
「比、比企谷さん!生きてたんですね!!」
「人を勝手に殺すな。それよりも、何故こんなところにいる?」
「木山さんから貰ったこの幻想御手のアンインストールプログラムを使えば幻想猛獣を止められるかもしれないんです!!!そのためにはこの音源を放送しないと...」
「なるほど、なら警備員に頼んであそこの車を使わせてもらえ。」
「比、比企谷さんは...?」
「奴の狙いはおそらく俺だ。一瞬お前に行ったがまた俺に切り替わった。目がこっち向いてるしな。だから、俺はやつの相手をしなくちゃならない。」
「御坂さんに任せてればすぐ終わるんじゃ...」
初春の言い分はもっともだ。確かに、何の能力かもわからない。もしくは無能力者かもしれない八幡にまかせるより、超能力者の御坂に任せた方が確実だろう。だが、八幡はそれに首を振る。
「これに関しては俺もやらなくちゃならないからな...と、いうわけで行ってこい。」
そう言って、八幡は初春の前から去った。
自分の頬を叩く。
そのあと、初春が曲を放送するのに、時間はかからなかった。
***
周りの人物を安全な所へ運び終えてからしばらく怪物の相手をしているが、未だに進軍は止まる様子はない。
幻想猛獣の攻撃を避けながら、御坂は心の中で愚痴をこぼす。
(何だってまだ原子力施設なんかに向かってんのよ。怪物映画かっつぅの!!)
そんな間でも幻想猛獣は攻撃の手を緩めない。着地した御坂の足を幻想猛獣の触手が掴んだ。
(しまっ!!)
だが、御坂は考えた。あれ?これ逆にチャンスじゃね?と。そう考えた御坂の行動は早かった。バチィ という音とともに、紫電が走った。相手はそれを防ぐため先の木山のような戦法を取っているのだろう。だが、相手が怪物ということで御坂が手加減する道理はない。
「消しとばしてあげるわ!!!」
ここで、御坂は超能力者としての力を十全に発揮した。再生しないことから、初春が成功したのだろう。
「電気抵抗の熱だけで相手を焦がしているのか...」
木山はつくづく自分との戦いが本気でなかったことを思い知らされた。
そして、御坂が電撃を浴びせ終わったあとに残っていたのは黒く焦げ付いた幻想猛獣であった。誰もが終わったと思うだろう。だが、相手はこの世のもではない。常識など簡単に覆す。
「気をぬくな!!!まだ終わってない!!!」
木山の発言で御坂が幻想猛獣に振り向くよりも先に、幻想猛獣の一撃が放たれた。その一撃は電磁波で感知してから回避するにはあまりに時間が少なすぎた。
「ガッ!!!」
その触手による打撃を受けた御坂は数十メートル転がってやっと動きを止める。それは、御坂の意識を刈り取るのに、十分すぎる一撃だった。
「そ、そん...な」
絶望。絶望。絶望。希望の光たる超能力者が脱落したのだ。その事実だけが絶望として広がっていった。
「キィィィィィィヤアァアアアアァアアアアァアアア!!!!!!」
対して、幻想猛獣は勝ったと言わんばかりに、憎悪を増長させるように、絶叫する。幻想猛獣を止めるためには核を破壊しなくてはならない。その核の破壊も生半可な火力で達成できるものではない。今現在その火力を叩き出せる者はいないのだ。
「最終局面だな」
そう、一人の男を除いては。
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