とある科学の捻くれ者
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7話
「で、援軍であった御坂くんはすでに倒れてしまったわけだが、君はどうするのかね?」
倒れた御坂に一瞥もくれず、八幡にそう問いかけた。
「.....」
「おや、だんまりか。なら、あまり暴れないでくれよ。君からは聞き出すことがあるのであまり手荒な真似はしたくない。」
「フッ」
八幡が突然笑ったのだ。それも楽しそうな笑みではない。不気味で、禍々しくて、底が見えないような悪魔のような笑みだった。
「何がおかしい?」
八幡が自分のことを知っていると見ている木山には、それがどうも少しばかりではあるが琴線に触れたようだ。
「いや、何...とどめを刺さないなんて、やっぱり甘いなと思っただけだ。先生」
「君がその名で呼ぶんじゃない!!!!!それに私はーーーー」
木山の発言は途中で途切れる。木山は予想だにしなかっただろう。なぜなら倒したと思っていた御坂が木山の背中に抱きついていたからだ。
「なっ!?死角だったはずだぞ!!!」
そう、確かにあれは死角からの攻撃だったはずなのだ。それも完璧なぐらいの。だが、それも超能力者である御坂には通じなかった。
「私の体からは微弱な電磁波が流れてるのよ!!つまり、私に死角はないってことよ!!!」
「いくら避雷針とか作れても、あいつってわけじゃないんだから!!さすがに!!ゼロ距離じゃ!!!防げないでしょ !!!」
直後紫電が飛び交い、轟音が辺りに鳴り響いた。
「ぐあああああああああああっっ!!!!」
もちろん手加減しているが、人間が食らって無事で済むような威力にはしていない。紫電が止まった瞬間木山は地に膝をついた。だが、どうしてだろうか、攻撃を食らった木山だけでなく、御坂までもが足取りがおかしくなるなんて。もちろん攻撃を食らったというわけではない。いや、ある種の精神攻撃のようなものだったのだろうか?
(これは、木山の過去!!?)
そこには、木山の記憶があった。先生と呼ばれ、いたずらされる過去。たくさんの生徒に取り囲まれ楽しそうに笑う過去。そして、研究によって血だらけになる生徒達を見て、放心する過去。それらを走馬灯のような感覚で、御坂は一気に見たのだ。
御坂の様子がおかしいことは、木山にも感じられた。手加減されていたのだろう。まだ思考はまわる。何が起こった?そう考えて、1つの結論に至った。それは、一万の脳を共有する幻想御手と御坂美琴という能力者があってこそのものであった。
「まさか...見られたのか...!?」
「これって...」
「ククッ...本当に見られたみたいだな.....あまり人に見られたくないものだったのだが、それも仕方ない。」
落ち着きを取り戻したが木山はまだダメージが残っているのか立ち上がれない。
「あの実験の正体は『暴走能力の法則解析用誘爆実験』能力者のAIM拡散力場を刺激して暴走の条件を探るものだったんだ。」
「あの子達を使い捨てのモルモットにしてね...」
まるで呪詛を吐き出すかのように木山はその言葉を言った。
「そんな...」
対して、御坂は絶句だ。一瞬考えてしまったのだ。これなら木山がこんな手段に出ても仕方ない、と。だが、御坂はその考えを振り払う。いくら、過去に何があってもこんなことをして許される道理はない。
「だ、だったらそれこそ警備員に...」
「23回」
「あの子達の恢復手段を探るため、そして事故の原因を究明するシミュレーションを行うために、樹形図の設計者の使用を申請して却下された回数だ!!」
ヨロヨロとふらつきながらも木山は立つ。譲れないものがあるから、しなくてはならないことがあるから。その意地を貫き通すように木山は立った。
「統括理事会がグルなんだ警備員が動く訳がないッ」
それに御坂はひるんだ。木山の意思のかたさを知ったからだ。
「でもそれじゃ...あんたのやってる事も同じに.....」
「君に何がわかる!!!!」
「あんな悲劇は二度と起こさせはしない!!!そのためなら私はなんだってする!!!」
「この町の全てを敵に回しても!!!止まるわけにはいかないんだっっ!!!!!!」
次の瞬間、その木山の意地を形にするように、ズグズグと木山を何かが蝕んだ。
「あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」
ーー目を見開く。
「ぐっがぁぁぁぁあっっ!!ネットワークの....暴走!!?」
ーー頭痛がする。
「いやっっこれは..!?虚数学区の!!!!」
ーーーそのセリフを最後に、この世のものではないものが誕生した。
○○○
「な、何よあれ...胎児?肉体変化?いや、でもこれは...」
胎児の目が開くと同時に、悲痛な絶叫がほとばしった。
「キィィィィィィヤァァァァァァァァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
耳をつんざくような叫び声に思わず御坂は両手で耳をふさぐ。
「ちょっ!!!何よこれ!!!」
御坂の後ろから比企谷八幡がやってきた。
「遊びは終わりだ。あいつが来たのなら、俺も参加する。」
「あんた!!あれが何かわかるの!?」
超能力者の自分ですら知識のない能力だ。なら、それを知っている八幡は...?ここまで考えて考えるのをやめた。何よりも今は前の生物を止めなくてはならないからだ。
「あれはAIM拡散力場の集合体、虚数学区五行機関。この世のものではないものだ。」
***
初春はその怪物の産声で目覚めた。最悪の目覚めである。目覚めてからあたり一面見渡したり、近くの警備員に声をかけたりしたが、酷い有様だった。
なら、こんな惨状で八幡は生き残っているのだろうか?その答えを探すべく、自分の先輩である八幡を探した。
だからこそ必然だったのだ。初春が怪物を目にするのは
「な、何...アレ」
絶句である。
***
怪物の攻撃を避けながら、御坂は過去に佐天らと話していた都市伝説の話を思い出しながら、こぼす。
「虚数学区五行機関って都市伝説じゃなかったの!!?」
「巷に流れてる噂とは実態が全く違うが、虚数学区五行機関はAIM拡散力場の集合体だ。ネットワークによって構築された一万人のAIM拡散力場が同じ現象を引き起こしたんだろうな。そして、あいつは核である木山の感情に影響され暴走したってところか」
「ちょっと!!んな悠長に解析してる場合じゃッ!!」
そして、怪物が絶叫すると、轟音が走り、あたりが爆ぜた。
「なんつう威力よ!!!あんなのくらったらシャレにならないわ!!!」
ただでさえ強力な相手で、それに加え相手は周りの被害を全く考えない怪物だ。それにたいして、自分たちは周りの被害も考慮して戦わなければならない。どちらが有利かは明白だった。
「チッおい御坂俺がこいつをできるだけ引きつけておくからお前は周りの倒れてる奴ら回収して安全なところに運んでこい!!!」
「あんたよりも私が残ったほうがいいでしょ!!?」
御坂の指摘はごもっともだ。超能力者である自分の方が怪物を足止めできると考えたのだろう。
「奴の狙いは俺だ!!いいから行け!!!」
たしかに、何故だかわからないが怪物は八幡を見ている。
「あぁっもう分かったわよ!!!死ぬんじゃないわよ!!!」
そう言って御坂はそれまでの疑問をすべて飲み込み、周りの人達を助けるために、離脱した。
「俺が相手だタコ野郎。」
八幡に相対するように、怪物は絶叫した。だが、それは飛んできた銃弾によって遮られた。
「撃てええええええ!!!!」
警備員による一斉射撃である。
「風紀委員の君!!!大丈夫か!!!」
「えぇまぁ。それよりも攻撃するなら面攻撃より点攻撃の方が有効です。」
「そうか、わかった。君は周りの倒れてる人たちを安全な場所に運んでくれ」
「....わかりました。引き受けましょう」
こうして、八幡は怪物撃退をやめ人命救助に向かった。
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