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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第77話本戦開幕

ライリュウside

BoB本戦開始まで残り65分。そこから始まるんだ。あの《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の男との決戦とも言える戦いが。
死銃(デス・ガン)が活動を始めたのは第二回《バレット・オブ・バレッツ》の後。犯行は二回とも集塵観衆の中で行われてる。恐らくそれまでは目立たないようにキャラ強化に専念してた可能性が高い。流石に死銃(デス・ガン)の名前じゃ登録してないか。でも奴にとってBoBは最高の舞台、必ず出場してくるはずだ。死銃(デス・ガン)のアバターの名前を割り出してもう一度、奴と戦う。でも誰が今回のBoBの初出場者なのか分からない。だからそのためにーーー

「今日は負けない!!」

「こっちも負けるつもりはサラサラない」

彼女(シノン)に教えてもらおう。




******




なんて簡単にいく訳ないかーーー

「なあシノン・・・シノンさん?シノン姐さん?シノ「やめて!挨拶はさっき済んだでしょ?今更何か用なの?」い、いや、本戦開始まで結意義な情報交換なんかどうかなって・・・」

さっきから何回も声をかけて、今やっと返事をもらったところだ。というか怒鳴られたところだ。情報交換とは言っても、実際オレには得になる情報も金になる情報もない。

「お願い出来たらなって・・・」

「・・・まあいいわよ。どうせ私からレクチャーするだけなんだろうけど」

「そ、そんなつもりはな・・・くわない、けど・・・」

レクチャーするだけ、そう言われて何も反論出来なかった。まあオレが聞きたいのはBoBの出場選手の中に初めて見る名前があるかどうかだし。




******




本戦のエントリーを済ませて、オレとシノンは総督府の地下の選手待機スペースに降りた。本戦開始まで残り32分。そこでは本戦の出場選手がインタビューを受けていたり、同じスコードロンの仲間と談笑していたり、誰が優勝するか賭けをしていた。

「すっげぇ・・・」

「本戦はいつもお祭り騒ぎなの」

言われなくてもそう思えるな。このプレイヤーの極秘情報を売ってる商人の宣伝の仕方、まさしく『寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!』って感じだ。確かに祭りみたいだな。

「おい!あれライリュウちゃんだろ!?」

「《光剣(フォトン・ソード)》で敵を滅多切りだってな」

「クールビューティーなバーサーカーか。いいねぇ〜」

誰がライリュウちゃんだこの野郎。全く迷惑な奴らだ。後で男だって言ってやんなきゃなーーーと考えていたら誰かにぶつかってしまった。

「すいません。余所見してまし『す、すいませんライリュウさん!?』・・・」

あれ?先にぶつかったのオレだよな?何でこの人たちが謝んの?何で道あけてくれたの?もしかしなくても、大分ビビられてるな。どうしたもんかーーーよし、ちょっとファンサービスしとくか。
今あけてもらった道を通してもらって、今の二人、そして他のプレイヤーたちに顔を向けるーーー

「みんな・・・























応援してね♡」

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

この女体化したアバターを利用したアイドル顔負けの笑顔で。

「ライリュウちゃん頑張れよ!」

「俺、全財産賭けます!!」

「あんた、何やってんの?」

うん、自分でも何をやってるのか分からない。自分でも自分でやっておいて何か吐き気がするよ。というか吐いてもいいですか?




*****




BoB本戦開始まで残り20分。オレはシノンと一緒に昨日座っていたような席に座っている。つってもシノンが座った席に勝手に相席しただけなんだけど。

「えっと・・・つまり本戦は同じマップに30人がランダム配置されるんだよな。それで出くわす側から撃ち合って、最後まで生き残った奴が優勝ってことだよな」

「ほらやっぱり。私に色々解説させようって魂胆じゃない。大体そんなの運営が送ってきたメールを見れば全部書いてあるわよ」

「一応読んだんだけど、オレの理解が正確かどうか確認したかったんだ」

「物は言いようね」

本戦に関してシノンに色々聞こうと思ったら半ギレされた。とにかく、オレの理解は間違ってはいなかったそうだ。
本戦は30人による同一マップでの遭遇戦。プレイヤーの配置はランダムだけど、どのプレイヤーとも最低1000mは離れてる。本戦のフィールドは直径10kmの山あり谷あり森あり砂漠ありの複合ステージ。時間帯も午後の設定で始まるから、装備やステータスタイプでの一方的な有利不利はなし。フィールドの範囲は《浮遊城アインクラッド》の第1層と同じだけど、銃で撃ち合うゲームだからこれくらいの広さは必須らしい。ちなみに参加者には《サテライト・スキャン端末》が自動配布されるから、遭遇するのも問題ないらしい。
《サテライト・スキャン端末》というのサテライトーーー人工衛星が15分に一度上空を監視して、その時全員の端末にマップ内の全員のプレイヤーの位置情報が送信される。つまり一ヶ所に潜伏するのは15分が上限ということだ。

「でもそんなルールがあるなら狙撃手(スナイパー)は不利なんじゃないか?」

「一発撃って一人殺して1km移動するのに15分もあれば十分すぎるわ」

言い方が恐ェよ。ゲームだからって言っていいことと悪いことがあるぞ。ALOでも一部の好戦的なプレイヤーがそんなこと言ってるけど、女の子がそんな恐ろしいこと言うもんじゃねぇぞ。
まあ試合に関してはしっかり教えてもらったし、ここからはーーー

「最後にもう一つだけいいか?ここからが重要なんだ」

「・・・本当にこれで最後よ?」

そう、オレがシノンに一番聞きたかったことがまだ残ってる。それを聞くために、オレは今回のBoB本戦の出場選の名前が載ってるリストを出してシノンに見せる。

「BoB初参加の連中に、シノンが知らない名前はいくつある?」

「はあ?何それ?」

「教えてくれ。昔の知り合いがいるかもしれないんだ。名前が違うかもしれないけど」

前回のBoBに出場していたらしいシノンなら、今回のBoB出場選手の中に知らない名前があるはずだ。死銃(デス・ガン)は恐らく今回が初出場、つまりシノンの知らない名前があればそいつが死銃(デス・ガン)の可能性が高い。

「まあ名前だけなら別にいいけど。初めてなのは・・・どっかのムカつく侍を除くと三人だけ」

「三人!?なんて名前だ!?」

シノン曰く、どっかのムカつく侍ーーーもといオレを除くと三人。《銃士X》、《PaleRider(ペイルライダー)》、そしてーーー《Sterben(スティーブン)》?スペルミスか?まあとにかくシノンが知らない名前ってのはこの三人らしい。この中に死銃(デス・ガン)がーーー

「ねぇ、どういうつもりなの?知り合いがどうとかって言ってたけど・・・昨日の予選であんたの様子がおかしくなったのと何か関係があるの?」

「・・・ああ。全部は無理だけど、話すよ」

ここまでシノンには面倒かけたし、たくさん怒らせもした。答えられる限り話そう。

「オレは昨日、昔同じバーチャルMMOをやってた奴にいきなり声をかけられたんだ。さっきの名前のどれかが恐らく奴だ」

「友達だった・・・?」

「冗談じゃない。敵だ。オレは奴と本気で殺し合ったことがあるはずなんだ。多分名前だけは知ってるかもしれないけど・・・」

「殺し合った?敵?それはパーティで仲違いしたとか、そういう理由?」

「違う。奴は、奴の所属した集団は絶対に許されないことをしたんだ」

和解はありえない。剣で決着をつけるしかなかった。それ自体は後悔してない。でもーーー

「オレは負うべき責任から目を背け続けてきた。無理やり忘れて、友達の仇を討ったって勝手に満足して、今日まで生きてきたんだ・・・」

だけどーーー

「もう逃げることは許されない。もう逃げることは出来ない。逃げない。今度こそ正面から向き合わなきゃいけないんだ」

オレはあの男と戦って、勝って、あの空に浮かぶ鋼鉄の城の呪縛から開放しなくちゃいけないんだ。

「・・・変なこと言ってゴメン。忘れてくれ」

もしかしたらオレの素性が知られてしまうかもしれない。それだけならまだ問題ない。でもーーー

「・・・それでもキミは引き金を引けるか?」

「っ!!」

今の言葉ーーー

『もし・・・もしその銃の弾丸が、現実世界のプレイヤーをも本当に殺せるとしたら・・・そして殺さなければ自分が、あるいは誰か大切な人が殺されるとしたら・・・その状況、それでもキミは引き金を引けるか?』

オレが昨日、シノンに言ったセリフだ。

「ライリュウ。あなたはもしかして、あのゲームの中に・・・ゴメン。聞いちゃいけないことだったね」

「いや、いいんだ。それに・・・キミの考えてること、多分合ってると思う」

もう中途半端に知られてもいい。あそこまで言ったんだ、誤魔化すつもりもない。

「そろそろ待機ドームに移動しないと」

「・・・ああ」

もう本戦開始まで残り10分切ってる。装備の点検や精神集中もあるし、そろそろ待機ドームに行かなきゃーーー




******




待機ドームに向かうためにエレベーターに乗っている。ここにはオレとシノンの二人きり。普通なら浮かれるような場面なんだろうけど、オレたちはライバルだ。

「あなたにもあなたの事情があることは理解したわ」

シノンが後ろから近付いて来ながら声をかけて、見えないが指をピストルのようにして背中に突きつけているのが分かる。

「でも、私との約束は別の話よ。昨日の決勝戦の借りは必ず返すわ。だから・・・私以外の奴に撃たれたら絶対許さないから」

「・・・分かった。キミと出会うまで必ず生き残る」

オレにはオレの目的があるが、彼女との約束もある。約束は守る。絶対に守る。それがーーーオレのモットーだから。

「・・・ありがとう」

この時シノンが発した言葉を、オレは聞き逃さなかった。




三人称side

【ガンオイルと硝煙の臭いが大好きなバトルジャンキーたち、準備はいい!?】

《ガンゲイル・オンライン》最強プレイヤー決定戦、《バレット・オブ・バレッツ》。開幕までの残り時間は5分を切っていた。銃の世界の首都、グロッケンの街中にある大型モニターに映った妖精の世界の猫妖精(ケットシー)のような猫耳の女性司会者の言葉に反応し、グロッケンの男たちは選手の勝敗でギャンブルをするために締め切りまでに賭け金を商人に我先にと払っている。

【さあ!バーチャルMMOで最もハードなGGOで最強プレイヤーが今夜決定!!】

今夜のこの祭典を誰もが楽しみにしていた。この大会で優勝して最強の座を冠するため、多くの銃士(ガンナー)たちが技を磨き、己を鍛えてきた。
この大会は完全生中継。この銃の世界だけではなく、全ての仮想世界に彼らの戦いが放送される。
そして、本戦開幕のカウントダウンが始まる。

『10!9!8!7!6!5!4!』

過去の因縁に決着をつけるため。

『3!』

どんな強い相手でも撃ち倒し、過去のトラウマを克服するため。

『2!』

本当に人を殺すことの出来る強さを証明するために。

『1!』

様々な思いを胸にーーー

【《バレット・オブ・バレッツ》、スタート!!!】

《ガンゲイル・オンライン》最強プレイヤーを決める祭りの、戦いの火蓋が切って落とされた。 
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