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百人一首

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84部分:第八十四首


第八十四首

              第八十四首  藤原清輔朝臣
 生きていればこそ。そう、生きているからこそ。
 ありとあらゆることが変わってくれることがわかるもの。
 それはその時はわからない。後になってやっとわかるもの。
 あの時は辛く。とても耐えることができず。
 その中で死んでしまいたい、この世から去ってしまいたい、そう思った。
 しかも一度や二度ではなくて。何度も思った。
 何度も死にたいと思った。そこまで辛く苦しかった。
 けれどその辛く苦しかった昔が。今では懐かしく思える。
 今ではそういったことが思い出になっていて。振り返ってそれを見るだけ。
 生きているからこそそうなってくれる。時が思い出に変えてくれる。そうしてくれるのだ。
 それがわかるようになるのも今になってから。時が経ってから。それがわかった今こそこの気持ちを詠うことができる。あの時の苦しかった想いを胸に。

ながらへば またこの頃や しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき

 詠ってみてもあの時のことは思い出に過ぎない。時が経てそうなってくれた。死にたいとさえ思った辛いことも今では振り返って懐かしむことができるようになった。時というものの有り難さを感じる。それを歌に詠うことさえできるようにしてくれるのだから。これ程有り難いことはない。


第八十四首   完


                 2009・3・30
 
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