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百人一首

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73部分:第七十三首


第七十三首

               第七十三首  権中納言匡房
 春も終わりになってから。まだそこだけは春を知らなかったと見えて。
 あの山の峰に今桜が咲いている。それが遠くから見えているのだ。
 これまで冬の中にいたのか。桜が咲くことはなかった。どの場所も咲き誇っていたと言うのにあの山の峰だけは桜が咲いてはいなかった。
 最後に桜が咲いた場所。春も終わりに近付いての桜。もう全ての桜は散ってしまったというのにあの山の峰にだけは桜が咲いている。今やっと咲いた。
 だから。だからこそ心から願うのだけれど。
 霞が起こらないで欲しい。それで桜を隠さないで欲しい。
 そう心に願うばかりだ。
 桜がやっと咲いたのだから。他の桜は全て散ってしまってそれでその桜だけが残っているのだから。
 だから霞に願う。あの桜だけは隠さないで欲しい。どうかそのままでいさせて欲しい。桜を見せ続けていて欲しい。心から願うばかりだ。
 その願いを今歌にしてみた。歌に託してそのうえで願いを届ける。

高砂の 尾上の桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ
 
 この気持ちを歌に託す。それで霞が桜にかからないように願いをかける。どうか霞よ最後の桜だけは隠せないでくれ。最後まで見せてくれと。そう願いながら今歌を詠う。これで桜が残って欲しい。心からの願いはそのまま歌になる。そうして今ここに書き留めるのだった。


第七十三首   完


                 2009・3・11
 
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