百人一首
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72部分:第七十二首
第七十二首
第七十二首 祐子内親王家紀伊
もうわかっているから。わかっていたから。
どれだけ声をかけてこようとも。どれだけ優しい顔を見せてこようとも。
それで心を動かされることはない。決してそうはならないと自分に強く言い聞かせている。
高師の浜に打ち寄せてくるあの高波の様に言い寄ってきても決して情をかけたりはしない。もうそれはないと強く誓っているから。
その挙句この袖を涙で濡らすことになるとわかっているから。泣くのは、後悔するのは自分だとわかっているから。だから決してそれはない。
あの人は世間で知られている。どう知られているかというと悪いことで。そのことで知られているような人。
恋多き人で浮気者で。そんな人に情をかけたらどうなるか。それがわからない程愚かではないから。
だから心を動かすことはない。優しい笑顔にも穏やかな声にも心を動かされることはない。何度も何度も自分自身に言い聞かせる。
そして今この気持ちを歌にしたためた。あの人にその自分の決意を教えてあげる為に。それがこの歌だ。
音にきく 高師の浜の あだ波は かけじや袖の 濡れもこそすれ
高師の高波が来ようとも自分の心は変わらない。もうこの袖を涙で濡らしたくはないから。だから今はこうして一人でいることにした。寂しいのは確かだけれどそれでも。もう泣きたくはないから。だから今こうして歌を作りこれをあの人に贈る。この気持ちを伝える為に。
第七十二首 完
2009・3・10
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