FGOで学園恋愛ゲーム
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十六話:遊園地2
昼食を食べ終わり再び園内を回り始めるぐだ男とジャンヌ。
初めは少し距離感のあった二人も今では自然に近くに寄っている。
しかし、それを快く思わない者はまだいる。
「ま…まだ諦めたわけではありませんぞ! ここで希望を断つわけにはいかないのです!」
アーラシュのステラの影響で全身に傷を負いながらも執念で立ち続けるジル。
娘のために老骨に鞭を打つといえば聞こえはいいが、単に迷惑なだけである。
「使いたくはなかったですが、次のアトラクションでジャンヌのことを綺麗に忘れてもらいましょう」
最後に何とか悪役らしい笑みを浮かべて歩き去っていくがその後ろ姿はあまりにも情けないものだった。
「なんだか聞き覚えのある声がしたような……」
『人が多いし声が似ている人もいるんじゃない?』
「それもそうですね。あ、今度はあれなんてどうですか?」
何となくジルの存在に気づきそうになりながらもやはり気づかない二人。
そんなやり取りの後に二人が入っていったのは“鏡の国のアリス”。
粒子ダイブによって空想の世界に入り遊ぶというものだ。
『あれ? あそこにいるのは……』
アリスの世界に入ったところで見覚えのあるオレンジ色の髪を見つける。
そして隣にいるのは同じ色の髪のツインテールの女の子。
『もしかしてラーマ?』
「ん? おお、ぐだ男にジャンヌ・ダルクではないか!」
「ご友人でしょうか、ラーマ様?」
振り返った二人は予想通りの人物であった。
ラーマに恐らくは彼の彼女であるシータ。
どうやらデートの最中に出くわしたようだ。
「ああ、シータは初対面なのだな。この者達は中々に面白い人物でな。余の友人だ」
「そうですか、ラーマ様がお世話になっています。シータです、どうかよろしくお願いします」
『ぐだ男です、よろしく』
「ジャンヌです。こちらこそよろしくお願いします」
礼儀正しく礼をするシータに二人も挨拶を返す。
シータはぐだ男の顔を見た後にジャンヌの顔を見て不安そうな顔を見せる。
何か粗相をしてしまったのかと不安がるジャンヌを置いて彼女はラーマに視線を向ける。
「ラーマ様……彼女とは…?」
「シータ、邪推するでない。余が愛する女性は過去にも未来にもそなた一人だけだ」
「もう、ラーマ様ったら…」
シータはどうやらジャンヌとの関係を疑ったようだが特大の惚気ですぐに疑うのをやめる。
ぐだ男とジャンヌがそんな桃色空間を作り出す二人を何とも言えない目で見ているとラーマの方がふと思い出したように声をかけてくる。
「しかし、共に居るということは余の助言が役に立ったようだな」
「はい…助言?」
「実はだな。ぐだ男はそなたに―――」
『ストッープ!』
ぐだ男のアプローチが成功したのだと早合点し愉快そうに語りだすラーマ。
ぐだ男は慌ててそんなラーマの口を塞ぐ。
心なしかシータからの視線がきつくなったのを感じながらラーマに耳打ちをする。
『まだ告白はしていないから黙っていて』
「なんだ、まだだったのか。ならば仕方あるまい」
早く告白してしまえという視線を向けながらもぐだ男の意思を汲み取ってくれるラーマ。
「あの、それで?」
「いや、何でもない。いつか本人から言う日が来るので気にするな」
「はぁ……分かりました」
明らかに何かあると疑いながらもジャンヌは渋々と頷く。
そこへ、とてとてと可愛らしい少女が走ってくる。
「ねえねえ、あたしと一緒に遊びましょう」
「あなたは?」
「あたしはあたし。鏡の国の中で一緒に遊びましょう」
フリフリのドレスを着こんだ少女、ナーサリー・ライムは案内人。
四人を魅惑の世界に連れていく存在だ。
『じゃあ、一緒に遊ぼうか』
「うれしいわ! あなたが優しい人でよかった。みんなで一緒にお茶会をしましょう」
『わかった』
ニコニコと笑いながらぐだ男の手を取り鏡の中に飛び込んでいくナーサリー・ライム。
残された三人は一瞬どうしたものかと顔を見合わせるがすぐにその後ろに続いていく。
「ぐだ男君はもしかして……小さな子が好きなのでしょうか?」
「誤解を招くような言い方はやめてやらぬか」
密かにぐだ男の名誉がかかった会話を行いながら。
鏡の世界に向かったぐだ男達はそこでチェスの駒の姿と力を得る。
ぐだ男はビショップ、ラーマはナイト、ジャンヌはルーク、シータはポーン。
服装も全員がそれにあった服装へと変わりコスプレのようになる。
四人はナーサリーライムに導かれながら鏡の国を進んでいく。
「キマイラとバイコーンが争っていますね」
「ブラフマーストラがよく効きそうだな」
『撃たないでね。流石に可哀想』
「でも、そんなラーマ様も素敵です」
アルトリア・リリィにモフられる権利をめぐって町中で争っている2匹の獣。
そんなどこか気持ちの分かる争いを横目にしながらさらに一行は進む。
『白の騎士……良い人なんだけど』
「何故、振る舞う料理がすべてマッシュポテトなのだ?」
「日中は三倍マッシュです、とか……」
「……雑でした」
途中、モードレッドに襲われたところをガウェインに助けられる。
さらに食事まで振る舞ってもらったのだが全てマッシュポテトであり四人を震撼させた。
「赤の女王め……キャラが被るなどと…余にどうしろというのだ」
「赤の女王……流石は名高い暴君です」
「ラーマ様はオンリーワンです。それをよくも……義弟を呼んで全面戦争をしかけましょう」
『やめて。世界が数回滅びるとかいうダイナミックな表現のインドはNG』
ネロの無茶ぶりに怒り心頭のシータを宥めながらさらに奥に進む。
因みにラクシュマナは国と兄をかけて迷わず兄を取る程のお兄ちゃんっ子である。
最近は兄と義姉のイチャラブを見ることに新たなる幸せを見出したらしい。
「たのしいわ! たのしいわ! この森を抜けたらみんなでお茶会よ!」
『結構長かったけど、後もう少しか』
「でも、気を付けてね。この森にはこわーい怪物が住んでいるの」
「怪物? 問題はない、すべてに余に任せるがいい」
「ラーマ様……かっこいいです」
ナーサリーライムが警告を出すがラーマは自身に任せろと胸を叩く。
その頼もしい姿にシータがメロメロになっているのを見ながらぐだ男は自分も何かを言うべきだろうかとジャンヌを見つめる。
『ジャンヌ……この森を抜けたら君に伝えたいことがあるんだ』
「ぐだ男君……それはフラグです」
冗談のような本気のような言葉を交わし四人は注意深く森に踏み入る。
しかし、彼らは気づいていなかった。
警戒するべきものは怪物だけでなく―――“名無しの森”そのものも含まれるのだと。
『怪物ってどんな怪物なの?』
「あの子はね、おっきくて、とっても力持ちなのよ」
『あの子?』
化け物という割にはやけにフレンドリーな呼び方に首を傾げるぐだ男。
それもそうだろう。怪物は。
「そうよ。だって“ジャバウォック”は―――あたしの友達だもの」
彼女の夢の住人なのだから。
「森の中で鬼ごっこをして遊びましょう。あの子が鬼でみんなが逃げるの。もし捕まったらカエルみたいにペチャンコよ」
ゆっくりと木の陰から表した姿は一言で言えば、化物。
人間に似た赤黒く巨大な身体は獣じみた筋肉を纏い、竜を思わせるデザインを持つ。
身体には薄気味の悪い紋様が刻み込まれ、それ自体が息をしているかのように脈打つ。
体長は三メートルを優に超え、緩慢な動作と朧気な瞳で周囲を見渡す。
だが、それは可愛らしいものではなく肉を喰らうべき獲物の物色。
まぎれもない怪物、人が抱く恐怖そのものである。
「まったく、子供の悪戯というものは時にとんでもないものだな、■だ男?」
『そうだね、ラ■■?』
互いの名前を口にしようとして違和感に気づく。
名前が出てこない。否、記憶が―――奪われている。
「なん…だ? 余は誰だ…それに余が愛するのは■■■」
『俺は…それに…君達は…誰だ…?』
「思い出せない。私の……名前は■■■■」
「忘れたくないのに…記憶が……■■■様…」
“名無しの森”は文字通り人の名前を奪い取る。
そして、それを皮切りに全ての記憶を奪っていき最後には存在を消滅させる。
四人は自身の存在すら思い出すことができずに立ち尽くす。
しかし、記憶がなくとも意思はある。
『早くこの森を抜けだすんだ!』
ぐだ男はもはや誰かも思い出せなくなった者達に逃げるように叫ぶ。
記憶なくとも分かることはある。目の前の存在から逃げなければならないという本能だ。
これはナーサリーライムの言う通りに鬼ごっこなのだ。
森を抜け切る前に捕まればアウト、捕まる前に森を抜ければセーフ。
ルールは単純だ。ただ、決して逃げられないことを考えなければだが。
「さあ、鬼ごっこの始まりよ」
真っすぐに出口へと駆け出していく四人。
だが、直線的な道のりで人間が化物よりも速く動けるはずがない。
大地を震わせる咆哮を上げながら怪物は四人へと襲い掛かってくる。
「キャッ!? 足が木の根に…!」
「ッ! 早く私の手を取ってください!」
後少しで出口というところでシータが木の根で足をくじき倒れる。
人の手で手入れされていない森は歩くだけでも一苦労だ。
それを歩いてきた経験を失った状態で駆け抜けるなど土台無理な話だ。
慌てて隣を走っていたジャンヌが助け起こそうとするが間に合わない。
寧ろ、自身までもがジャバウォックの牙が届く範囲に取り残されてしまう。
ジャバウォックは何の戸惑いもなく身動きの取れない二人に向かい底の見えない口を開く。
しかし―――
「させるかぁぁッ! ■■■!!」
『逃げて、■■■■!!』
間一髪のところでラーマが手にした剣でジャバウォックを斬りつけ、ぐだ男がガンドを放つ。
ジャバウォックは僅かに仰け反るがダメージを受けた様子には見えない。
しかし、それでも彼女達を生かすには十分であった。
「あれは我らが食い止める! その間にそなたらは森を抜けるのだ!」
「そんな…どうして? 何も思い出せないのに、私はあなたが誰かも分からないのに…」
背を向け逃げるように促すラーマにシータは戸惑う。
彼女の記憶は森に奪われた。目の前の彼が誰かなど思い出せない。
それどころか自分が誰かも覚えていない。
それはラーマも同じであった。
「実のところ、余も分からん。そなたが誰かも、自分が誰かも、分からん。だがな―――」
存在が薄れていく苦しみもものともせずにラーマは静かに目を瞑り刃を握る。
そして、再び瞳が開かれた時、彼の瞳には記憶を全て失った人間とは思えない、強い輝きが灯っていた。
「―――僕が君を愛していることだけは分かる」
彼女の名前は覚えていない。肌の感触も、声も、顔も全て消えた。
だとしても、一人の女性を愛しているという事実だけは決して忘れない。
己の存在をも消失させる“名無しの森”。
名前を奪い、記憶を奪い取るその力も―――彼の愛を奪い取るには不十分であった。
「余は君を守りたい。戦う理由などそれだけで十分だ」
「……■■■…様」
自然とシータの頬を涙が伝う。しかし、そのまま惚けているわけにはいかない。
彼の想いを無駄にしないように立ち上がり背を向けて挫いた足を引きずりながらも歩き出す。
『君も早く!』
「しかし…私は……」
ぐだ男はジャンヌも続くように促す。
だが、記憶を無くそうとも彼女の心は聖者のそれであった。
自身のために他人を犠牲にすることなどとてもではないができない。
そんな彼女に同じように記憶を失いながらぐだ男は声をかける。
『ここは男に任せて』
「私も手伝います。■■■■達を残していくわけにはいきません」
『あの子を助けてあげて。足を挫いているから長くは歩けない』
「ですが―――」
頑固な性格は変わらないジャンヌはなおも食い下がろうとするが手で口を塞がれる。
驚くジャンヌをよそにぐだ男はニッコリと笑ってみせる。
『俺も男だからさ―――好きな女の子の前ではカッコつけたいんだ』
「……え?」
『ほら、いいからもう行って』
記憶がないからこそ素直に出た好きという言葉にジャンヌは意表を突かれる。
ぐだ男はチャンスとばかりにジャンヌを押して出口に強制的に向かわせる。
そして、ジャバウォックとギリギリの戦いを繰り広げているラーマの下に援護に向かう。
「…! 彼女を安全な場所まで運んだら戻ってきますからね!」
『頑固だなぁ』
なおも自分達を助けることを諦めないジャンヌに苦笑いしながらぐだ男はラーマにサポートを行う。
『倒せそう?』
「……大技を叩き込めれば何とかなるやもしれん。普通の攻撃では傷一つつかん」
『威力が上がるようにサポートするよ』
「フ、そなたも誰やも分からんが何故だか信用できる気がするな」
ラーマの傷を癒しながら作戦を立てる。
時間が経てば経つほどに自身の存在が薄れていく。
本能でそれを理解したために二人は言葉を交わすこともなく短期決戦を決める。
「チャンスは一回だけだ」
『全てを賭けるよ』
「良い心意気だ。行くぞ、名も分からぬ友よ」
短く最後の言葉を交わし襲い掛かってくるジャバウォックへ立ち向かっていく。
ラーマが近接戦で暴力の嵐をさばいていき、ぐだ男が遠距離からガンドなどで援護する。
そして、遂にジャバウォックの動きが止まる一瞬を作り出すことに成功する。
『今だ!』
「任せろッ!」
ぐだ男の合図によりラーマは手に持つ剣を頭上に掲げる。
それは記憶による剣術ではない。生まれた時から持つゆえに本能が覚えている技。
魔性の存在を相手に絶大な威力を誇る、本来は矢として放つ奥義。
「ブラフマーストラッ!!」
光の輪と化した刃がジャバウォックを切り裂かんと襲い掛かる。
「つッ、やはり硬いな…!」
しかし、夢の住人であるジャバウォックはそう簡単には死んでくれない。
この身に死など訪れはしないとでも言うように不滅の刃を押し返し始める。
ラーマの額から嫌な汗が流れ落ちる。それは死への恐怖からではない。
ここで負けてしまえば名前も忘れた愛する人を守れないかもしれないという恐怖からだ。
だが、現実は常に残酷だ。ジャバウォックの力が徐々に上回り始める。
―――もうダメか。思わずそう考えてしまう。しかしながら、彼は一人ではなかった。
『令呪をもって命ずる―――打ち勝て!!』
「礼を言うぞ―――友よ!」
ぐだ男からの令呪のブーストを受けて更に凄まじい力を得る不滅の刃。
流石のジャバウォックもこれには太刀打ちすることができずに徐々に押し切られていく。
そして―――
「ハァアアアッ!!」
―――遂にジャバウォックの体を切り裂く。
呻き声をあげる怪物に止めと言わんばかりに炎と雷を伴った爆発を巻き起こす。
爆炎の中に消えていったジャバウォックに背を向けラーマは戻ってきた剣をキャッチする。
「この戦い、我々の勝利だ」
『早く、ここから抜け出そう』
「ああ、そうだな」
これで終わったと安堵し二人は急ぐように森の出口へと向かっていく。
―――だが、しかし。
【■■■■■■■!!】
怒り狂う咆哮により二人の足は地面に縫い付けられることとなる。
「馬鹿…な…?」
『まだ……生きている…!』
振り返り、絶望する。
ジャバウォックの姿は一目で重傷と分かるほどに傷ついていた。
身体中から血を流す姿は人間であれば身動きできない程だ。
しかしながら、敵は獣、否―――化物である。
動けない道理はない。
「来るぞ! 避けろ!!」
ただひたすら単純に突進を繰り出してくるジャバウォック。
単純な技であるが手負いの化物が繰り出すそれは一つの災害も同然。
逃げる間も与えず、受け流すことも許さない猛威。
そのあまりの破壊力の前に為す術なく二人は吹き飛ばされる。
『ぐっ…!』
「がはっ!?」
大木に叩き付けられ呼吸をすることができなくなりながらも瞳は敵に向ける二人。
しかし、そんな最後の抵抗など何の意味もない。
存在が薄れていくということは力も失われていくということだ。
限界に達した体は動いてはくれず、ただ怪物の胃の中に入るのを待つばかりである。
「余は…死ぬわけにはいかんのだ! まだ、■■■の無事を…!」
『くそ……■■■■…ッ』
必死に声をあげながら立ち上がろうとするラーマにぐだ男。
だが、ジャバウォックにはそんなことは関係ない。
ニタリとまるで笑うかのように口を開き巨大な腕を振り上げ狙いを定める。
そして、二人の命を完全に絶つべく、双腕を―――振り下ろす。
「主の御業をここに―――我が神はここにありて!!」
しかし、その剛腕は一本の旗により完璧に防がれることとなる。
呆気にとられるぐだ男に向かい彼女は振り返り微笑みかける。
「戻ってきましたよ、ぐだ男君」
『ぐ■男…ぐだ男…ッ! ■ャンヌ…ジャンヌ!』
「はい。記憶が戻ったのですね」
自身の名前を口にしたことで記憶を取り戻すぐだ男。
ジャンヌはその様子に胸を撫で下ろし息を吐く。
『どうしてこの森で記憶が?』
「一度外に出て思い出した後にメモに自分の名前を書いて忘れないようにしたんです」
『そんな方法が…ッ。そうだ、シータは大丈夫だったの?』
「はい。無理を押してラーマ君の下に」
事情を一通り説明してもらいラーマの方を見るぐだ男。
ジャンヌはその間にもジャバウォックから全員を守り続けている。
「ラーマ様! ラーマ様!」
「シータ…か。ああ、やっと君の名前が思い出せた」
シータの登場に心底安堵したような声を出しながらラーマは立ち上がる。
失った記憶と共に力も取り戻したのだ。
「さて、後はあれを倒すだけだな。シータ、弓はあるか?」
「はい。ここに」
『矢はどうするの?』
「矢ならば、ここにあるではないか。見せてやろう、不滅の刃の真の力を」
シータが持っていた弓を受け取り自らの剣をつがえるラーマ。
だが、弓とは全身の力を使って放つもの。
やはり衝突を受けた痛みが残っているのかふらついてしまう。
「ラーマ様、私があなたを支えます」
「シータ……すまないな。ジャンヌ・ダルク、防御を解いてよいぞ」
「分かりました。では、五秒後に解きます」
『残りの令呪全てで命ずる、ジャバウォックを倒すんだ』
シータに支えられながらラーマは弦を引き絞る。
ジャンヌは矢が放たれるタイミングまで暴れ続けるジャバウォックを旗でいなし続ける。
ぐだ男は最後の令呪2つでラーマとシータを強化する。
そして―――五秒が経つ。
「今です!」
「行くぞ、シータ!」
「はい、ラーマ様!」
旗による防御が無くなったことで暴れ狂うジャバウォックが襲い掛かってくる。
しかし、それを見ても四人は誰一人として動じない。
全てを一本の矢に賭けているがゆえに。
「受けてみよ!」
「羅刹王すら屠った一撃!!」
「「―――羅刹を穿つ不滅ッ!!」」
音を超え、二人の弓から光の矢が放たれる。
ジャバウォックは先程のように防ごうとするが全て無意味であった。
気づいた時にはその体には―――ぽっかりと巨大な穴が開いていたのだから。
【■■■■■■■!?】
一瞬の空白の後に訪れた激痛にジャバウォックは断末魔の悲鳴を上げる。
体の中から焼き尽くされる、あり得ない痛み。
血液が沸騰し蒸発することで体の皮膚が引き裂けていく。
そして、最後には―――跡形もなく破裂して消えていくのだった。
『勝った……』
「はい。ラーマ様の勝利です」
「そうだな。そなたらのおかげだ」
「とにかく、ここから出ましょう。流石に疲れました」
ジャバウォックの消滅を見届け息を吐く四人。
そんな四人の下に戦闘開始直後から消えていたナーサリー・ライムが姿を現す。
「すごいわ! すごいわ! バッドエンドをハッピーエンドに変えちゃうなんて!」
『バッドエンド…?』
「そうよ。この物語はバッドエンドって決まってたの。それをハッピーエンドに変えたんだもの。私には無いものを作ったのよ、本当にすごいわ!」
四人の勝利に本当に嬉しそうに飛び跳ねるナーサリー・ライム。
その姿に怒ろうにも怒れずに何とも言えない表情を浮かべる四人。
今回の過剰なまでの演出はジルとプレラーティにより仕組まれたのが理由だ。
ぐだ男の記憶を完全に奪ってしまおうと目論んでいたが結局失敗に終わった。
もっとも、奪ったところでジャンヌへの想いは変わらなかったのだが。
「でも、そろそろ夢から覚めないといけないわ。アリスの夢はこれで終わり。次はちゃんとお茶会をしましょう」
ナーサリー・ライムの言葉と共に四人に眠気が襲ってくる。
現実世界に戻るのだ。それを理解しぐだ男は瞼を閉じるのだった。
ぐだ男達が“鏡の国のアリス”から出た頃には日が傾いており赤々とした空が広がっていた。
もうそろそろ最後にしようとどちらが言うこともなく決まり、ぐだ男とジャンヌは観覧車に乗った。
「景色が綺麗ですね……」
『うん。本当に綺麗だ』
二人で観覧車の中から外の風景を眺める。
しかし、二人ともどこか心ここにあらずといった様子でお互いを盗み見ていた。
そして瞳が合う度に目を逸らし再び目を合わせるというのを繰り返す。
「あのぐだ男君……一つ聞きたいことがあるんですが」
『うん、何かな』
お互いに何が話したいのかはわかっている。
だが、その話題に触るにはやはり勇気がいる。
初めに勇気を絞ったのはジャンヌの方であった。
「ぐだ男君はあの時、私に、その……好き…と言いましたよね?」
『……うん。言ったね』
お互いの頬が真っ赤に染まる。
続けて尋ねるまでもないが、それでもジャンヌは問う。
「あの…その……それはどういう意味で…?」
人間として好きなのか、それとも異性として好きなのか。
ジャンヌは勇気を精一杯に振り絞って尋ねる。
ぐだ男は問いかけに対してゆっくりと息を吸い込み口を開く。
ここまで言わせてしまった以上誤魔化すというのは相手に失礼だと考えながら。
『初めて会った時から―――1人の女性としてあなたのことが好きでした』
覚悟を決め真っすぐにジャンヌを見つめて宣言する。
言われたジャンヌの方は驚いているような納得したような器用な顔をする。
だが、そこまで観察する余裕などぐだ男にあるはずもなく彼は一気に言い切る。
『ジャンヌ―――俺と付き合ってください!』
ハッキリとした声で思いの丈を打ち明ける。
ジャンヌは彼の言葉に瞳を潤わせ頬を朱に染める。
そして、何かを戸惑うように口を開く。
「私も……ぐだ男君のことが好きです」
ジャンヌの声にパッと顔を明るくするぐだ男。
しかし、それはぬか喜びであった。
「でも、それが―――特別なものかどうか分からないんです……」
何かを苦悩するように思いを吐き出すジャンヌ。
その顔には何とも言えぬ暗さが漂っていた。
「ぐだ男君のことは大好きです。それは間違いないです。でも、個人に向ける感情かと言われると……どうしても分からなくて」
『うん……』
「それにぐだ男君は記憶がなくても私を好きだと言ってくれました。今の私はきっとその想いに応えられない……いえ、相応しくないんです。特別な感情を向けられて、同じぐらいの特別な感情を返せるか自信がないんです……」
ぼそぼそと普段の彼女からは考えられないようなか細い声で話すジャンヌ。
それは彼女が心の底から悩んでいる証拠。
必死に考えて何とか答えを探そうとしながらも見つけられないもどかしさ。
常に正しく、公平である聖女故に見つけられない答え。
「すみません。こんなことを言うのは失礼だと思いますが……待ってくれませんか?」
『分かった』
「私がちゃんとした返事を出せるまで待って欲しいんです…て、え?」
必死な表情で懇願するジャンヌにぐだ男は即答する。
あまりに速い返事に頼んだ側であるジャンヌの方が驚いてしまう程だ。
しかし、彼も何も言わないわけではない。
『でも、一つだけ約束してほしい』
「なんでしょうか…。あ、その、私に失望したのであれば別に他の方を好きになっても……」
『どれだけ時間をかけてもいいからジャンヌが一番幸せになれる答えを出して』
元気のないジャンヌの声を否定するようにハッキリと告げる。
『俺のことを気遣う必要なんてないから。君が俺を選ばなくても、他の人を選んでも君が幸せならそれでいい。……ちょっと悔しいけどね』
苦笑いを浮かべながら告げるぐだ男にジャンヌは訳が分からなくなる。
悪いのは優柔不断な自分なのにどうして彼はそこまでしてくれるのかと。
そんな疑問を抱いていることに気付いたのか、ぐだ男は続けて口を開く。
『好きだから。ずっと笑っていて欲しいから、幸せになって欲しいから、それだけだよ』
満面の笑みを浮かべて言われた言葉にジャンヌの心はどうしようもなく荒れ狂う。
まるで彼の想いが濁流となって押し寄せてきたのかのように。
彼女の心を大きく揺さぶっていく。
「……いいんですか?」
『無理して決めても仕方ないでしょ?』
「それは……そうですが」
少し納得がいかないが相手が了承してくれた以上、掘り返すのは逆に失礼にあたる。
そう自分を納得させて不規則に速い鼓動を繰り返す心臓を落ち着かせる。
「分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」
『どんどん甘えて』
「は、はあ……」
すぐにいつも調子に戻ったぐだ男を見ながら彼女は考える。
特別な愛とはどういったものなのかと。
後書き
「受けてみよ!」
「羅刹王すら屠った一撃!!」
「「―――バルスッ!!」」
途中の戦闘パートはこのネタのため(真顔)
というか、今回はラーマ・シータのラブラブ羅刹を穿つ不滅を書きたかったのでちょっと真面目にしたんです。
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