FGOで学園恋愛ゲーム
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十五話:遊園地
時計の針を十秒ごとに見つめる。
まだ約束の時間になっていないというのに来てくれないのではという不安が脳裏に過る。
その度にジャンヌは約束を破る人間ではないと思い出し首を振る。
そんな挙動不審な行動を何度繰り返したのか分からなくなったところで待ち人の姿が見える。
「お待たせしました」
『おはよう、ジャンヌ』
こちらが待っている姿を見て小走りで来てくれるジャンヌ。
ちゃんと来てくれた想い人の姿にホッと胸をなでおろしながらぐだ男は彼女の服装を見る。
胸が強調されるノースリーブの白のシャツにスラリとした白い腕が眩しく輝く。
胸元には紺色のネクタイを止め、同じ色のホットパンツを履いている。
そして肉付きの良い脚はニーソックスで覆われ、僅かに覗く太ももが独特の色気を放っていた。
『似合っているよ、それ』
「ありがとうございます。それと、待たせしてしまいませんでしたか?」
『ちょっと待ったけど、今日が待ちきれなかっただけだから気にしないで』
「そうですか……実は私も今日を楽しみにしてたんです。今日は一緒に楽しみましょう」
どこからどう見てもカップルにしか見えない二人は楽しそうに笑いながら入場口に入っていく。
遊園地『わくわくらんど』。同じ系列の『わくわくざぶーん』と共に人気を博しているレジャースポットだ。
そんな人気施設に今日は不審人物が紛れ込んでいる。
「あの匹夫めが…ッ。私ですらもう何年もジャンヌ達とこのような場所に来ていないというのに……キィイイッ!」
近くの茂みに隠れ悔しそうにハンカチを噛むジル。
今日は何としてでも二人の仲を瓦解させようとお忍びで来ているのである。
「まあ、いいですとも。直に私と我が盟友プレラーティの合作のトラップがあなたを恐怖のどん底に突き落とすのですから」
悔しがるのを止めて狂気に満ちた笑みを浮かべるジル。
因みにこの顔を家でやると速攻でジャンヌの目潰しが飛んでくるらしい。
「どうぞ、それまで残された余生を楽しみ……いえ、やはりジャンヌと楽しむなど、キィイイッ!」
「ねえ、お母さん。あの人何してるの? 解体してもいい?」
「ダメよ、ジャック。きっとお腹を壊しちゃうわ。それよりも一緒にお菓子を食べましょう」
「うん、分かった!」
ジャンヌとぐだ男がデートしている姿を想像し再び叫び声をあげるジル。
そんな彼を一組の母娘が見つめていたがどちらの意味でも事案にならずに済んだのだった。
「まずは、何から回りましょうか」
『一先ず、空いているのから乗っていこうか』
「そうですね。では、あれなんてどうでしょうか?」
そう言ってジャンヌが指差したものはコーヒーカップであった。
ちょうど開いていたので二人して意気揚々と乗り込む。
「回すのはぐだ男君にお願いします」
『任せて、回すのは得意だから』
「あの…死んだ目になっていますが大丈夫ですか?」
ハンドルを手に取り何かを思い出したのか死んだ目になるぐだ男。
しかし、気にしても仕方がないので回し始める。
「あ、回り始めました」
『…………』
「……ぐだ男君、少し速くありませんか?」
初めは楽しそうな顔をしていたジャンヌだったが段々と速くなる速度に冷や汗を流し始める。
しかし、回しているぐだ男の方は何も語らずに黙々と回すのみである。
「ぐだ男君、大丈夫ですか?」
『無心で回せ、回転数こそが全てだ!』
「何があったんですか!?」
どこまでも透き通った、否、伽藍洞の瞳には何も映らない。
ただ、ひたすらに回し続ける男の姿がそこにはあった。
『外敵など必要はない。想像するのは常に星5の自分だ』
「正気に戻ってください、ぐだ男君!」
『まわすのぉおおおっ!!』
「すみません! これもぐだ男君のためです、えい!」
謎の狂化状態に陥ったぐだ男をどこからか取り出した旗で殴って鎮静化させるジャンヌ。
打撲の衝撃でぐだ男は正気を取り戻すが精神的ダメージを受けたように項垂れる。
『夢を見ていたんだ……何度回してもジャンヌが来てくれない夢を』
「ゆ、夢ですか?」
『うん。魔法のカードを使ったのに出てくるのは黒鍵…黒鍵…黒鍵! うわぁあああ!』
「もう一度すみません!」
今度は加減などせずに記憶を消し飛ばすつもりで叩くジャンヌ。
酷いように見えるかもしれないがこれ以上幻覚を見せるよりはマシだ。
流石のぐだ男も堪えたように肩で息をしながら顔を上げる。
『ありがとう。これ以上は爆死するところだった』
「ぐだ男君……既にそれは俗に言う爆死というものです」
どこまでも慈悲深い眼差しでぐだ男を諭すジャンヌ。
ぐだ男はその優しさにより爆死という辛い思い出から立ち直る。
しかし、彼の心に与えたダメージは計り知れない。
そもそも、何故ぐだ男がこのような暴走に至ったのかと言えばだ。
「どうやら、幻覚が相当に答えたようですね、いい気味です。それに今の暴走でジャンヌの好感度も落ちるはず。流石はプレラーティ。素晴らしいアイディア」
ジルの嫌がらせが原因である。
一部の人間にとっては非常に心を抉る攻撃という非常に悪辣な趣味。
これでジャンヌはぐだ男に失望するはず、そう確信していた。しかしながら。
「大丈夫ですよ。よく分かりませんが私はあなたの傍に居ますから」
『ジャンヌ……』
「さあ、まだまだ時間はあるので一緒に楽しみましょう」
『うん。そうだね』
その程度で人を嫌いになるようなジャンヌではない。
優しく包み込むような微笑みでぐだ男を完全復活させる。
二人は結局仲が割れるどころかさらに良い雰囲気となって歩き出していく。
当然ジルにとっては面白くない。
「ぐぬぬぬ…ッ。ここはジャンヌの優しさに救われましたね。しかし、次は私の海魔達の出番。今のうちに神に祈っていなさい!」
捨て台詞を吐きながらジルは次の仕掛けの準備に入っていくのだった。
『“ペルシャウォーズ”……なんだろ、これ』
「乗り物に乗りながら物語を体験していくタイプのアトラクションみたいですね」
『せっかくだし、見ていく?』
「そうですね。行きましょう」
名前が気になり中に入るぐだ男とジャンヌ。
説明を受けてからバギーに乗り込むとバギーが砂漠の中を動き始める。
勿論、セットであるがその臨場感は本物にも劣らない。
「凄くリアリティがありますね」
『うん。砂とか風とか海魔とか……海魔?』
明らかに砂漠には似合わない生物の姿に言葉を失うぐだ男。
心なしか海魔の方もダレているような空気を漂わせている。
しかし、命令には逆らえないのかバギーに向かって襲い掛かってくる。
『何か武器はない?』
「そう言われても……待ってください。誰かが来ます」
演出だとは思っても取り敢えず戦おうとする二人。
だが、そこに示し合わせたように何者かが現れ矢を放つ。
次々と海魔の体に突き刺さっていく矢の雨。
まるで本物のように断末魔の叫びをあげて消えていく海魔を見ながらその人物は現れる。
「大丈夫か、あんた達」
『あなたは?』
「俺か? 俺は東方の大英雄アーラシュだ!」
ニカッと笑い名乗りを上げる男性、アーラシュ。
ジャンヌの近所に住む文系大学生ではあるがここでは大英雄である。
夏休みのアルバイトで働いているのだが、今は誰が何と言おうとも大英雄である。
「俺は光の神アフラ・マズダーの命を受けて封印された大魔王アンリ・マユの復活を阻止するために戦ってるんだ」
『さっきの敵はアンリ・マユの支配下?』
「そのはずなんだが……初めて見る奴だったな」
『まさか、アンリ・マユの力が強まって…!』
「ああ、可能性はあるな」
劇だと分かっているからかノリノリで世界観に入り込んでいくぐだ男。
そんな彼に話を合わせながらアーラシュは打ち合わせと展開が違うことに内心で首を捻る。
しかし、深く詮索はせずに物語を進めることにする。
何かあれば自分がどうにかすると決めながら。
「とにかく、ここは危険だ。戻った方がいいぜ」
「ですが、そのようなことを放っておくわけにはいきません」
『俺達も手伝わせて、アーラシュ』
「たく……よし、それならついてきな。なに、大抵のことからは守ってやるよ」
色々と空気を読んだジャンヌも本腰で加わり物語は急速に進み始める。
そんな様子を隠れた場所から見ながらジルは不敵な笑みを浮かべる。
「どうぞ、存分に足掻きなさい。最高のクールをお見せしましょう」
自信満々に呟くジルであったがそう簡単に行く程世間は甘くない。
アーラシュ先導の下、三人は次々と困難を乗り越えていく。
「お前は、十回刺さないと死なないアジ・ダハーカ…ッ。いくぞォオオオ!」
【さあ来い、アーラシュ! オレは実は一回刺されただけで死ぬぞ!】
「手に持った矢を突き刺すぜぇえええっ!!」
【グァアアア!? ザ・フジミと呼ばれたこのアジ・ダハーカが…バカなぁァアア!!】
三人は悪竜アジ・ダハーカをなんやかんや倒し。
【アジ・ダハーカがやられたか……】
【くくく、奴は我ら悪神四天王の中でも最弱】
【人間如きにやられるとは神々の面汚しよ……】
「敵が多いから空を矢で埋め尽くすぜ!」
【グワァアアア!?】
四天王の残りアエーシュマ、ジャヒー、タローマティを矢ダルマにしてなんやかんや討ち取る。
『これで後は大魔王アンリ・マユを倒すだけ…』
「ああ、だがその前にもういっちょ倒さねえといけない奴がいるな」
「あれは大海魔…!? そんな、どうしてここに!」
そしてアンリ・マユとの決戦だという時にジルの大海魔が現れる
既に三人の力は尽きかけている。もはや残されたものは絶望しかない。
しかしながら、アーラシュにはとっておきを残していた。
「お前さん達は先に行きな。ここは俺が受け持つ」
『そんな、無理だよ! もうアーラシュには戦う力なんて……』
「いや、とっておきがあるのさ」
『とっておき?』
短く頷きアーラシュは大海魔を鋭く睨み付ける。
「―――俺自身がステラになることだ」
そう、アーラシュは自らの命と引き換えにぐだ男とジャンヌを先に進ませようというのだ。
「我が行い、我が最期、我が成しうる聖なる献身を見よ───流星一条!!」
大海魔と共に自らも爆発四散していくアーラシュ。ついでに中に入っていたジルも爆発する。
『アーラシュゥウウッ!!』
「アーラシュさん……。ぐだ男君、必ずアンリ・マユを倒しましょう!」
二人はアーラシュの雄姿を目に焼き付けなんやかんやで復活したアンリ・マユを倒しに行く。
「よお、戦う前に一つ言っておくけど、俺最弱なんで手加減してくれよ?」
『俺も一つ言っておくことがある。お前のせいで失ったフレポの分だけ殴るのをやめない!』
「おいおい、理不尽な扱いには慣れてるけど、お前程身勝手なのは初めてなんですけど」
「ぐだ男君、必ず帰ってきてください…!」
刺青だらけの青年の姿をしたアンリ・マユに向かいぐだ男は駆け出していく。
そう、いつの日にかぐだ男の勇気が世界を救うと信じて……。
そんなダイジェスト気味なアトラクション“ペルシャウォーズ”も終わり昼時になる。
何だかんだで楽しんだ二人のお腹もちょうど空いてきたところである。
『お腹空いたし、何か食べない?』
「あ、それでしたら……その」
おずおずと恥ずかしそうにバックの中からバスケットを取り出すジャンヌ。
「サンドイッチを作ってきたのですが……よろしければ食べてくれませんか?」
『本当!? ありがとう、ジャンヌ!』
「た、大したものではないのでそんなに期待しないでください」
自信なさ気に差し出すジャンヌにぐだ男は飛び上がらんばかりに喜んでみせる。
そのあまりのはしゃぎように顔を赤らめながらも少し嬉しそうに笑うジャンヌ。
二人は休憩場所の空いている席を陣取り、手作りサンドイッチを開帳する。
『美味しそう。ジャンヌって料理上手なの?』
「ほ、褒められるほどのものではないと思いますが、家では料理もしますので、一応」
手放しでの称賛に恥ずかしがりながらはにかむジャンヌ。
ついで、やはり出来が気になるのか、ぐだ男に食べるように視線で促す。
『それじゃあ、いただきます』
彩緑の具材にそれを生かす白いパン。
取り敢えず、ハムとレタスとトマトが入った物を取り一口口にする。
緊張した面持ちでジャンヌが自分を見つめているのを感じながらゆっくりと咀嚼する。
『……うん。美味しいよ!』
「そうですか。お口に合ったようで何よりです」
『ジャンヌは良いお嫁さんになれるよ』
「も、もう……恥ずかしいのでやめてください」
ぐだ男の言葉に首筋が熱くなるのを隠すようにジャンヌは自分もサンドイッチに齧りつく。
それでもなお体の火照りは消えずにどうしようもなく目の前の彼のことを意識してしまうのだった。
後書き
次回も遊園地です。
確定アトラクションは「鏡の国のアリス」「観覧車」ですかね。
地味にシリアスに書きます。
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