貧乏神
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第六章
「あんじょう奇麗にせんとな」
「神様のところやしな」
二人でこんなことを話しながら掃除をしていった、乾拭きではあるが隅まで丁寧に拭き奇麗にした。そしてようやく埃もゴミも蜘蛛の巣や虫の死骸もなくなると。
不意にだ、廟からだ。
貧しい、それこそ江戸時代の物乞いの様な姿をして古い杖を持った嫌な変に鋭い感じの目に形の悪い口髭を生やして髪の毛を短くした美咲の親指程の大きさの小さな者が廟からだ。
逃げる様にして出て行って線路沿いに何処かへと去って行った。その小さな者を見てだった。
萌絵は眉を顰めさせてだ、こう言った。
「あれ何や」
「貧乏神ちゃうか?」
美咲はその小さな者の姿、そして卑しそうな顔立ちからこう連想した。
「何か時々テレビで観る奴に顔そっくりやったけど」
「ああ、久しいとか米とかいう」
「ミスタースポックの出来損ないみたいなな」
「あのおっさんにそっくりやったな」
「何でも昔番組一つだけで五億貰ってたっていう」
「めっちゃぼろい仕事してたらしいな」
マスコミには金があったのだ、不況の中でも。
「そのおっさんそっくりやな」
「何でも毎日毎日テレビじゃ不況って言うてたらしいけどな」
「自分は年五億貰ってたんか」
「ごっつうええ仕事や」
「こっちはほんま不景気やってのに」
不況を毎日言う者が年五億の収入があり新聞社が親会社の全世界の正義を愛する者の共通の敵巨人は金満補強だった、当時の不況とは何だったのか。マスコミだけが栄え庶民は首を吊る不況であるのならそれは何であろうか。
「ぼろい仕事しててんな」
「詐欺みたいな仕事やな」
「で、その貧乏神みたいなの出て行ったけど」
「あれ何や」
「何やっちゅうねん」
「そなた達の言った通りじゃ」
ここで廟から声がした、二人はまだ線路の方を見ていたがその声で廟に顔を向けると。
廟のところに福の神がいた、大福さんである。大きさはこちらも美咲の親指程であるが紛れもなく大福さんだった。
大福さんは笑顔でだ、二人に言った。
「あれはまさしく貧乏神じゃ」
「ああ、やっぱりな」
「見たまんまやしな」
「そうちゃうかって思ったけど」
「ほんまやってんな」
「そうじゃ、廟も汚くしているとな」
大福さんは二人にさらに話した。
「ああした存在が居着くのじゃ」
「大福さんみたいな神様が出て行って」
「それでかいな」
「うむ、そうじゃ」
まさにというのだ。
「わしもずっとここにおったがのう」
「それが誰も掃除せんようになって」
「汚くなってか」
「出て行って」
「代わりに貧乏神が入ったんかいな」
「わし等普通の神は奇麗なところにおってじゃ」
そしてというのだ。
「貧乏神や疫病神は汚い場所におるのじゃ」
「そんで貧乏をもたらす」
「そういうこっちゃな」
「この商店街が近頃寂しいのもな」
このこともというのだ。
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