とある科学の捻くれ者
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4話
今日も今日とて風紀委員支部に向かうため学校終わってから直行している。というかしなくてはならない。だって黄泉川先生(般若)が怖いんだもの。
「喉乾いたな...」
ん?ちょうどいいところに自販機があるじゃねぇか。なんか飲むか。
つか、相変わらずろくな飲み物がねぇな。なんだ?いちごおでんって絶対マッチしちゃいけないやつじゃん。ていうか、この自販機マッカンないのかよ使えねぇな。つか、いちごおでんつめた〜いのところにあるんですけど、と脳内で一人会話をしながら自販機に千円を入れて、回す。
.....あれ?.....でない
え?なにこれ故障ですか?と、思い 返却のレバーを回すが、出てこない。
「飲まれた....だと?」
自販機に一本してやられるとは、気にくわない。もしかしたら、たまたま飲み込んだだけかもしれないし。もう千円入れてみよう、そうしよう。よし、なら早速財布から千円をだしてーーー
「あれ?もしかして飲まれたのか?それ飲まれる自販機で有名だせ?リーダー?」
...おれに話しかける人間、尚且つリーダーなんて呼び名で呼ぶのは一人しかいない。
「はぁ...なんだバ垣根か」
こいつの名前は垣根帝督。学園都市第2位であり、未元物質というどチートな能力を持っているバカだ。
「ちょっひどくね!?顔見た瞬間ため息ってなに!?つか、バ垣根じゃねぇよ!おれには垣根帝督って名前があるっていってんじゃん!....え?いったよね?」
最後のほうで不安になんなよ。
「まぁ話戻すが、そいつ金飲みやがるから、こうするんだよ」
そういって垣根は自販機に回し蹴りをしだした。エセホストのような格好で自販機に回し蹴り、完全に不良である。」
「声でてんぞ。リーダー」
「つか、お前なにしてんの?」
先ほど自販機に放った回し蹴りを疑問に思いそう問いかけた。
「こうやるとだな。お、出てきたぞ」
不意にガタンッ と音がなり、ジュースが二本落ちてきた。
「俺クラスの猛者になると、本数まで指定できるんだなこれが」
「あ、そう」
「うわー興味なさそうだな。まぁこれやるよ」
そういって、垣根はヤシの実サイダーをこちらに手渡してきた。それを受け取り、風紀委員支部に向かうため、歩き始める。
「で、例の幻想御手の情報なんだけどさ、どうやら木原が一枚噛んでるらしいぜ。」
木原 ココでは何回も聞いてきた言葉だ。その名前を聞き、ことの重要性が大きくなってくる。
「そうか。どの木原かはわかってんのか?」
「あのクソジジイだよ。」
あのクソジジイその言葉でピンとくる人物は一人しかいない。
「なるほど.....な。」
「まぁ、気をつけろってことだよ。リーダー」
という会話をしていると、路地裏から佐天涙子が出てきた。
「....」
「ひ、比企谷さん...」
「ん?何?もしかしてリーダーの知り合い?」
三者三様の反応である。本来ならここで話すことなく別れ、俺は風紀委員支部に向かうことになるはずだったのだが、それも佐天の次の言葉により中断された。
「今...白井さんが!」
「何?」
事態は少しずつ歯車をズレ、進展しようとしていた。
「え?何?」
一人(垣根)を除いて。
***
「ククッ...まさかビルの柱を全て破壊してビルごと倒壊させようと考えるとはな。風紀委員にはこんな頭のいかれたやつもいんのかぁ」
ビルの中に二人の男女がいた。だが、それは恋人や友達と言えるようなものには見えない。なぜなら、余裕という言葉を貼り付けたように立つ無傷の男と、焦りという言葉を貼り付け、這いつくばる少女はボロボロだからである。むしろこれから強姦をされる、という方がしっくりくるだろう。
「だが」
「それもこうやって失敗したしなぁ!!まさに万事休すってやつだなぁ!」
ボロボロの少女、白井が柱を潰そうとした時、先ほど目の前の男に蹴られた肋骨の痛みが響き、演算が中止されたのだ。ただでさえ精密な演算が必要とされる空間移動を肋骨が折れ、激しい痛みが襲った時に出来るかというと、答えは否である。そうして、演算を失敗して生じた空白の時間のおかげで、目の前の男に蹴り飛ばされ、白井はこうして地べたに寝転がっているのだ。
「さてと、それじゃギッタギタにされる覚悟はできたか?あれだったら仲間呼んで、まわすのもありかもなぁ!!クククククッ」
下卑た男の目つきに、思わず身震いがはしり、恐怖によって悲鳴が出そうになるがそれを喉元でなんとか押し返す。
「あなた...救いようが...ありませんわね」
(詰み....ですわね.....)
そう考えていると、男がいる地点に何かが飛んできた。当然男は能力を使っているから、そこに居てもいないので、それが当たることはなかったが。
そして、それを放った人物が姿を現した。
「あ?誰だお前」
「....」
「おい。質問に答えろよぉ?楽しい時間が邪魔されて、今俺相当機嫌悪いからよぉ」
「.....」
「テメェ...なるほどだんまりか...なら」
目の腐った男は目の前の男に拳銃を構える。だが、目の前の男は自分の能力を手に入れたからか、それにも怯む様子はない。
「死ねぇ!!!」
目の腐った男、八幡は向かってくる男に対し、冷静に引き金を引く。
だが、それも当たることはない。男の能力は「偏光能力」自らの姿を誤認させる能力。その能力が故、いるはずの男はそこにはいない。であれば、予想外の方向から攻撃が来ることも不思議ではない。例えば全くガラ空きの背中などから攻撃が来ることも何ら不思議ではないのだ。
(もらったぜぇ!)
男はこの瞬間勝利を確信する。今も自分の虚像を見つめる目の前の男に今の自分を視認することは不可能だと。
この男は予想だにしなかったのだ。
ーーまさか、突然男が自分を見るだなんて。
迫り来る拳を八幡は冷静にかわす。
その後二発、3発と攻撃が続くが全てかわされる。避けられることに焦ったのは、さっきとは全く逆の感情を貼り付ける男だった。
(なぜだ!!なぜこいつはおれの攻撃をかわせるんだ!!)
「テメェ!なぜ俺の攻撃をかわせる!!!」
だが、その問いに八幡が答えることはない。
その返答は二発の銃弾で返された。
「ガッ!!!」
それは能力を使い姿が見えないはずの男の体を正確に射抜き、その一撃で男は地に倒れ伏した。
「お前の悪意は無防備すぎる。」
薄れゆく意識の中で男が最後に聞いた言葉であった。
***
(倒したん...ですの!?)
白井は自分が苦戦していた相手を完封した八幡に心底驚いていた。しかも能力を使わずに、だ。
「おい。白井大丈夫か?」
「何とか大丈夫ですの。それよりさっきの男は...?」
「ん?...あぁ、俺が使ってた拳銃はエアガンを改造したものだからな。実弾じゃないから殺傷性はない。」
だから大丈夫だ と八幡は言った。それをきいて白井はほっとする。
「そんなことより、俺は疲れた。早く行くぞ」
「わ、わかりまし...うっ!!」
先ほどの戦闘のいたみが響いたのだろう。白井はうめき声をあげる。
「はぁ...」
「ひ、比企谷さん?」
八幡がこちらに寄ってきて、白井のことをおぶった。
「ちょっ!!比企谷さん!?」
「黙っておぶられてろ。怪我してんだろ」
彼から珍しく心配の言葉をかけられ、白井は俯き、黙り込んでしまった。
「全く...普段はぬぼーっとしてるくせに...」
「おい、それは関係ないだろ?」
「フフッそうですわね。」
少し笑って怪我に響いた白井であった。
***
佐天涙子は先ほど比企谷八幡が入っていった廃ビルを見つめていた。
「大丈夫だったか?お嬢さん。全く無抵抗の女をやろうとするなんてこいつらなってねぇな。」
と、垣根はすでに倒れている二人の男を一瞥した。
「比企谷さんも能力者なんですか?」
突然そんなことを言い出した目の前の少女に垣根は疑問符を抱く。
「あぁ。それがどうかしたのか?」
「いえ...ただ、能力者はすごいなぁって」
「人に出来ないことを平然とやってのけて、私みたいな無能力者とは違うなぁって思いません?」
佐天は皮肉交じりに、自分を嘲笑するかのように呟いた。
「ふむ。で、お嬢さんはおれになんて言って欲しいんだ?」
「え...」
瞬間、佐天の思考が止まる。やめろ その先を言うな と訴えるように。
「何も言わないのならおれなりに返答をしてやる。」
「お嬢さんは自分が無能力者だということを卑下している。つまり、お嬢さんが抱いている感情は妬みだ。」
「そんな...こと」
「お嬢さんは嫉妬しているんだよ自分を気にかけてくれる友人に、自分を助けてくれる先輩に、自分より立派だと思っている能力者に。」
ちがう、という言葉は出すことが出来なかった。なぜならそのとおりだったからだ。
超能力者になると豪語して学園都市に移り住んだというのに、いつまでたっても能力は発現せず、才能がないことを突きつけられ、周りの能力者達に劣等感を抱く。
だからこそ、佐天は幻想御手に手を出したのだ。
黙りこくる佐天を見て垣根はフッと笑う。
「だけど、その感情は人間が誰しも抱く感情だ。あいつより上でいたい。あいつより下になりたくない。見下されたくない。敗者でいたくない思うのは人間としては当たり前のことだ。」
その言葉に佐天は目を見開く。当然だ。嫉妬を目の前の男が正当化したからだろう。
「それにおれは能力者が誰しも立派なんてこと思ったことはない。さっきの能力者もまた然りだ。」
「それでも、悪い感情には変わりないんじゃ...」
「あぁ、そうだな。妬みは悪い感情だ。だから、誰しもそう思いたくないと思って目を反らすんだ。しょうがないと思ってな。」
「おれは高位能力者だ。だが、俺は俺自身立派なんて思ったことはない。結局は同じなんだよ。能力者も無能力者も。ただそこに色付けとして、能力があるかないかだけの差だ。」
本当に何でもないように、そう言い切る。それが佐天は頭にきた。そんなことが言えるのも、結局は能力があるからだ。
「だけど、その差が大きいから!!こうやって悩んで悩んで悩んで悔やむんじゃないですか!!!!なぜ私には能力がなかったのかと!!なぜ私は彼女のようになれないのかって!!」
頭に浮かぶのは御坂美琴。
ーーそうだ、わたしは彼女のようになるためにこの学園都市に来たんだ。
「あぁ。ないものはないんだ。なら、今後の人生でどう自分を色付けしていくか悩め。お嬢さんの人生の終点は今じゃない。その差だけで自分の価値を決めるな。お嬢さんのお友達もお嬢さんを卑下するよな扱いはしないだろう?もし、する奴がいるなら、逆に見下してやれ。あいつは能力しか取り柄がないのだ、と。」
そうだ、と佐天は自分の友達を思い浮かべる。
能力がない自分に哀れみではなく本当に純粋な気持ちで接してくれる自分の一番の親友
(初春.......)
「お嬢さんはお嬢さんであって他人じゃない。他人にはなれないんだ。だから、もし私があの人みたいだったら、とか考えるだけ無駄だ。あぁ、あの人のようになりたいと思うのは大いに結構だ。だけどな、これだけは忘れるな。お嬢さんにはお嬢さんにしかないものがある。たった1つないだけで自分を下に見るな。そんな安っぽい人間になるな。」
「う...うぅ...」
「あぁ...泣け泣け。涙と一緒に悪いもんも全部出しちまえ。」
よーしよし と垣根は佐天の頭を撫でる。
「ご、ごどもあづがい...ヒック...じないで...ぐだざいぃぃ」
「あぁ、そうだな。」
初対面なのに、なぜか垣根に撫でられている時は、涙が止まらなかった。
***
数分泣きじゃくった佐天は目元を拭う。
「もう大丈夫です。佐天涙子完全にふっかぁーつ!」
「おう」
「ありがとうございました。あー、と」
「あぁ、垣根帝督だ。お嬢さん」
「私は佐天涙子です!ありがとうございました!!垣根さん!」
「いやいや、なんもしてねぇよ。俺は」
「いえ、しましたよ。そりゃあもう!」
「いやいや、お、リーダー終わったのか?」
ちょうど廃ビルから八幡が白井を担いで出てきた。
「あぁ」
「し、白井さん!!大丈夫!?」
「ええ、この男に担がれているのが少々癪ですが」
「遠慮せずにお姫様抱っこでもしてもらったらよかったのに〜」
「なっ!?どういう意味ですの!?それは!!ちょッ!違いますわよ!?そんなことこれっぽっっっちも思ってませんわ!!こんな男ごときになんて...」
「ちょっと遠回しにおれをdisんのやめてくれない?まぁおれも無理だしいいけどさ」
「あの、比企谷さん」
突然呼ばれたことに疑問符を抱く八幡。何回疑問符抱いてんだ。
「あの、これ」
そう言って佐天がポケットから取り出したものは、なんの変哲もない音楽プレイヤーだった。だが、それがどういうものなのかはわかっている。
「幻想御手か...いいのか?これを見た以上もう使わせることはできんぞ?」
「ええ、いいんですよ。もう私には必要のないものですから。それに」
「能力が使えなくても、私の全てはそれだけじゃないですから!」」
にしし と、佐天涙子は笑った。
「そうか...ほれ、白井」
「え、えぇ。捜査協力に感謝しますわ佐天さん。」
「いえいえ」
「あ、もう歩ける程度には回復しましたので、おろしてもらってもかまいませんわ」
「おう、そうか」
そう言われ八幡は白井をおろした。
「ほら、早く行きますわよ。」
「よーし。私も行きます!!」
そうして、女子二人が少し前で歩くのを見て、八幡は垣根の隣に立った。
「すまんな垣根」
「あぁ、かまわねぇよ。なんつーか昔の俺に似てたからな。」
どこか懐かしむように、遠い目で垣根は呟いた。
「あん時のお前は第1位を目の敵にしてたからな。大変だったわ。」
「その黒歴史もってくんなよ。リーダー。それに」
「本当の敵はあいつだからな...」
八幡の表情は自然と険しくなる。垣根の恨みを知っているからだ。
「....」
「なんか、しんみりしちまったわ。俺らしくねぇな。ほら、リーダーも行ってこいよ。風紀委員...なんだろ?」
「あぁ、それもそうだな。じゃあな垣根」
「おう、またな。リーダー」
そう言って二人は別れる。一人は自ら闇に向かうように、一人は自分に似合わない光に向かうように。
「これからだな。」
そのつぶやきは誰に聞かれることもなく、風に乗って消えた。
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