英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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外伝~”アルバレア”の誇り~
~トールズ士官学院・会議室~
「―――さてと。お前達”Ⅶ組”この場に同席する事を許したのは一言で言うと、オリビエ――――オリヴァルト皇子への”義理”を果たす為だ。」
「オリヴァルト皇子への”義理”…………?」
気を取り直した後アリサ達を見回して呟いたヴァイスの言葉を聞いたマキアスは不思議そうな表情をし
「―――お前達特科クラス”Ⅶ組”の事は通商会議の時に出会ったオリヴァルト皇子から聞いている。何でも”貴族派”と”革命派”の対立によるエレボニア各地の問題を自分達なりに動いて解決してきたそうだな?」
「それは…………」
「確かにそうだけど……何でオリヴァルト皇子は貴方にそこまでの事を話したの?」
ヴァイスの言葉を聞いたエマはヴァイスから視線を外し、フィーは静かな表情で尋ねた。
「まあ、あいつと俺は訳あってある場所で出会って親友になったからな。そのぐらいの事も教えてもらった。」
(一体どんな場所で出会ったのかしら……?)
(オリヴァルト皇子は皇族なのだから、相応の場所で出会ったとしか考えられないが……)
ヴァイスの説明を聞いたアリサとガイウスは不思議そうな表情をしていた。
「―――まあ、エレボニアの平和の為に動いていたあいつへのせめてもの”義理”を果たす為だ。――――奴の意志を継ぐお前達にこの学院やエレボニアが今後どうなるかを教える事でな。」
「フム……………………」
「フン…………そのような殊勝な態度を取るとはな。これなら貴様に殺された兄も少しは浮かばれるな…………」
「ちょっと、ユーシス……」
ヴァイスの話を聞いたラウラは頷いた後考え込み、ユーシスは鼻を鳴らし、ユーシスの言葉を聞いたエリオットは焦った様子でユーシスを見つめた。
「ユーシス……―――ならばお前がルーファス・アルバレアの弟か。」
エリオットの言葉を聞いて目を丸くしたヴァイスはユーシスを見つめ
「そうだ。俺が貴様に討ち取られた兄の弟――――ユーシス・アルバレアだ。」
見つめられたユーシスは真剣な表情でヴァイスを見つめた。
「……意外だな?兄が討ち取られた仇が目の前にいるというのに剣を抜いてかかってくる所か、罵声すらも浴びせんとは。」
ユーシスの様子を見たヴァイスを目を丸くして尋ね
「フン、この俺をそこらの平民共や短絡な思考を持つ貴族共と一緒にするな。―――俺は誇り高き”アルバレア”の血を引く者。今俺がやるべき事は仇を取る事でも罵声を浴びせる事でもない…………―――貴様らに従い、貴様らに侵略されて立場の弱くなったエレボニアの平民達を導き、平民達の生活を少しでも豊かにするのが”貴族の義務”だ。それに兄上はバリアハートを護る為に命を賭けてでも戦うという”貴族の覚悟”を見せた。兄の覚悟は誰にも穢すことは許さん。―――それが例え家族であろうとも。」
「ユーシス…………」
「君は…………」
高貴な雰囲気を纏って答えたユーシスの言葉を聞いたエリオットとマキアスは驚きの表情でユーシスを見つめ
「……その年でそこまで考えているとは見事だ。」
「……そのような考えを持つ貴族の方達ばかりでしたら、今回のような結果にならなかったかもしれませんし、私達―――”革命派”も生まれなかったかもしれませんね…………」
ヴィクターは口元に笑みを浮かべてユーシスを見つめ、クレアは複雑そうな表情で呟き
「―――なるほど。あの男も真の意味で誇り高き貴族だったが……お前もまたその一人か。だからこそあの男はお前に対してあんな遺言を残したのかもしれんな……」
ヴァイスは静かな笑みを浮かべて頷いて呟き
「……兄の遺言だと?」
ヴァイスの言葉を聞いたユーシスは眉を顰めた。
「『どんな立場になろうと貴族の義務(ノブレス・オブリージュ)を忘れるな』―――それがルーファス・アルバレアのお前に伝えて欲しいと頼まれた遺言だ。」
「…………彼らしい遺言だな…………」
ヴァイスの話を聞き、その場に静寂が訪れ、そしてヴィクターは目を伏せて呟き
「…………………………」
ユーシスは目を伏せて黙り込み
「―――兄の遺言をわざわざ貴方自らが俺に届けに来てくれた上、敵である兄を手厚く葬ってくれた事……感謝する。」
そしてヴァイスを見つめて呟いた後会釈をした。
「フッ、礼を言う必要はない。―――エレボニアの民達を導き、守りたいのなら戦争が終結したその時、いつでも俺達の元に来い。俺達クロスベル帝国は出身を問わず、有能な者なら採用する方針だ。お前の能力次第ではバリアハートを始めとした”クロイツェン州”の領主に任命する事だってありえるぞ?」
「ええっ!?」
「し、信じられん…………!」
「…………器の大きい方ですね。”皇”を名乗るだけはあるという事ですか…………」
「何かそこの所はオジサンとそっくりだね~。」
口元に笑みを浮かべて答えたヴァイスの言葉を聞いたアリサは驚き、ナイトハルト少佐は信じられない表情でヴァイスを見つめ、ベアトリクス教官は真剣な表情でヴァイスを見つめ、ミリアムは静かな口調で呟き
「…………フン、そんな事をしてもいいのか?”アルバレア公爵家”を取り潰され、家族を殺され、貴様に恨みを持つ反乱の芽と言ってもおかしくない存在にそのような大役を命じるような愚かな真似をして。」
一瞬呆けていたユーシスは鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべてヴァイスを見つめ
「ちょ、ちょっと、ユーシス!」
「いい加減にしておきなさいよ……!」
「今の状況だと旗色は圧倒的に君が悪いんだぞ……!?」
ユーシスの言葉を聞いたエリオット、アリサ、マキアスは焦った。
「――――逆だな。そんなお前を従えてこそ俺の”王の器”の大きさが民達に知られるというものだ。」
一方ヴァイスは静かな笑みを浮かべてユーシスを見つめ
「何……?」
ヴァイスの言葉を聞いたユーシスは眉を顰めてヴァイスを睨んだ。
「反乱の芽を潰す為に反乱因子となる可能性がある者を消す事は国として……”王”として間違ってはいない判断だろう。――――だが、俺はそのような短絡的な判断はしない。反乱の芽をあえて生かす事で俺の”王の器”を知り、従順にさせる事や恭順させる事こそが”真の王”だと俺は思っている。裏切られ、反乱を起こされたら俺の王としての器は所詮その程度だったという話か…………――――あるいはお前の”貴族としての器”が小さかった。そのどちらかだ。」
「…………………………」
「…………まさか反乱を起こした者がこれほどの”器”の持ち主だとはな…………」
ヴァイスの言葉を聞いたユーシスは目を細めてヴァイスを睨み、ヴァンダイク学院長は重々しい様子を纏って呟いた。
「それと確かお前は”庶子”だったな?」
「貴様、どこでそれを…………フン、バリアハートを制圧した時、”アルバレア”の縁者関係を探ったのか。」
ヴァイスに見つめられたユーシスは鼻を鳴らした後目を細めてヴァイスを睨んだ。
「そんなお前にかつて”庶子”でありながら皇帝にまで上り詰めた俺の知り合いが常々頭に入れていた言葉を教えてやろう。その言葉はお前にとっても他人事ではない意味を持つと思うぞ?」
「何だと……?」
「”庶子”である事。それがその男が常々頭に入れていた言葉だ。」
「……一体どういう意味だ。」
「その男が幼い頃、国の謀によって謀殺された大切な母に常に言い聞かされたそうだ。『半分であろうと貴方には尊い血が流れており、皇族である事に変わりはないのだと。皇族である自覚と誇りを持ち、誰よりも皇族らしくあれ』。その男はその言葉を証明する為に常に”上”を目指し、皇帝へと上り詰めた。――――それは大貴族の”庶子”であるお前も同じだと思うが?」
「ヴァイスさん…………」
「妾であるにも関わらず自らの保身の為ではなく、皇族の為にそのような教えを子供に言い聞かせるとは……」
「生前はさぞや素晴らしい女性だったのでしょうね……」
ヴァイスの言葉を聞いたプリネは驚きの表情でヴァイスを見つめ、ヴァンダイク学院長は重々しい様子を纏い、メアリー教官は静かな表情をし
「…………………………その言葉、覚えておこう。その言葉通り俺は”上”を目指し、貴様らによって奪われたクロイツェン州を取り戻し、”アルバレア”の誇りをゼムリア大陸中に知らしめてやる…………!」
目を伏せて黙って考え込んでいたユーシスは答えた後目を見開いて決意の表情でヴァイスを見つめた。
「フッ、楽しみにさせてもらおう。」
ユーシスの答えを聞いたヴァイスは静かな笑みを浮かべた………………
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