ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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無駄話
その週の木曜日
キリトに例の件の準備ができたとのことで詩乃をダイシーカフェに連れてこいとのこと
というわけでわざわざ詩乃の学校の前にバイクではり込んでるわけだが
「いつになったら出てくるんだ?」
こちらから見えるということは向こうからも見えるということで、ものすごく見られている。見られるのは慣れてるからいいんだけどこそこそ数人で話すのはやめて欲しい。気になる
詩乃……はやく出てきてくれないかな
「あの……」
「ん?」
少々、いやかなり気を揉みながら待っていると一人の少女が声をかけてきた
「誰か待っているんですか?」
「まあ……」
「誰ですか?」
……ちょっとデリカシーがないんじゃないか?
別に誰でもいいだろ?と答えたくなるがここは抑えて……
「朝田詩乃を待っているんだけど……」
「ちょっと、燐!」
「よう、詩乃」
「よう……じゃないって! なんで学校前にいるの?」
「いや……事前に言ってあっただろ?」
ちゃんと連絡をしたから知ってると思ったんだけど
「そうだけど校門前で待つことはないじゃない!」
「バイクを停められる場所がなかったんだよ。キリトにバイクを借りたのが間違いだった」
わざわざ免許とったのにな
かなり時間がかかるが電車でくればよかったと今さらながら後悔している
「……はぁ……まあ、いいや。とりあえず早くここから離れよ?そろそろ視線が痛くなってきたから」
「そうだな。ほら、詩乃」
手に持っていた予備のヘルメットを詩乃に投げ渡す
弧を描いて飛んで行ったヘルメットが詩乃の手に収まるのを確認すると俺はバイクに跨った
「朝田さんの彼氏ですか!?」
見れば先ほど俺に話しかけて、その後フリーズしていた少女が再起動し、詩乃に突っ掛かっていた
詩乃の顔が赤くなったのがここからでもわかる
「まだ彼氏じゃない!」
「まだ(・・・)ねぇ……」
「ッ……!」
玩具を見つけたようないい笑顔
盛大に自爆した詩乃を庇う気はないのでキリトにメールを
ちょっと遅れますっと
「顔を赤らめちゃって……ねぇ、キスとかしちゃったの?」
「うぁ……」
「きゃー、しちゃったんだ!」
「……」
こうなると氷の狙撃手様も型なしだな
こうもあっさりと打ち解けるとは、女子ってのは勢いがすごい
……詩乃の明日が大変そうだ。おそらくクラス中からの質問責めだろう
社交性が低いから心配である
「ねぇねぇ、未来の彼氏さん」
「なんか用か?」
「初めてはちゃんとゴ……」
「なにを言ってるの!?」
全力の下ネタでした。途中で顔を真っ赤に湯であがらせた詩乃に邪魔をされたが、内容はわかった。いや、わかってしまったと言うべきか
「了解した。今日の帰りに薬局でも……」
「燐も乗らないで!!」
その少女を手招きすると詩乃に聞こえないように声のボリュームを下げる
「……もしかして詩乃ってそっち系の耐性はないのか?」
「私が友達になったのは極最近だけど……ここまで耐性がないとは思わなかった。彼氏さんは知らなかったの?」
「ちょっと事実があって二年ぐらい会わなくてな。二年前はそっち系のネタなんて思いつかなかった」
「ふーん……」
「あまりいじめてやるなよ?」
「彼氏さんだっていじめてたじゃん」
「あれは愛情表現だ。……そろそろ時間が危ないから行くよ」
別にいつもの連中を待たせる分にはかまわないのだが、今回はそうは言ってられない。もうすでに遅刻なのだが、さすがにこれ以上はマズい
「……まだ色々聞きたいことがあるけどな。まあ、明日朝田さんから直接聞けばいっか」
「ほどほどにしてやってな。詩乃、そろそろ行くぞ」
詩乃はというとヘルメットをつけるのに手間取っていた
ジーと見ているとごそごそやった後、顔を赤くして言った
「燐、お願い」
「了解……苦しくないか?」
「うん、平気」
詩乃が俺にしっかり抱きついたのを確認するとエンジンを起動させる
小気味のいい音と共に俺のテンションも上がっていく
性格が変わる程ではないが、バイクに乗って風を切るのは楽しい
今回は後ろに詩乃が乗っているというのも相まってちょっと危ない
性格は変わらないがキャラ崩壊の危機。今さらか
「どこに行くの?」
「ダイシーカフェっていうところだ。ソードアート・オンライン時代の知り合いの紹介と……あとは行ってからのお楽しみだな」
あの件は今言うべきではない。前情報なんかあったら実際に会ったときの感情の起伏が少なくなるだろうし連れていくのも難しくなる
「ふうん……それってキリトも?」
「キリトとアスナとリズだったか?まあ、順次紹介するから楽しみにしてな」
エギル?そういえばいたな。そんなやつも
スキンヘッドで色がちょっと黒い恐面の男がサムズアップしている情景が浮かんできたので、頭を振ってイメージを追い出す
……蝶ネクタイは似合わないと思うのは俺だけだろうか?
道筋については割愛する。そもそもうちの人(蕾姫)は東京の道に関する知識がない
「ここ?」
「ああ、ここがダイシーカフェだ」
元SAOプレイヤー、エギルがやっている店である
そんなこんなで縁があり、俺たちが集まるときは大抵この店というのがお決まりとなっていた
現実世界に帰ってきたときキリトから聞いた番号で電話をかけたのだが、その時出たのが女性だったので一旦電話を切り、番号を確かめたのはいい思い出だ
……まさか既婚者だったなんて思いもしなかったから
なかなかの美人でクラインがすごく悔しがっていたのは言うまでもない
「まさにヤのつく自由業の人みたいな顔をしてるから驚かないように気をつけろよ」
「そんなもの、GGOで見慣れてるから大丈夫」
「それもそうか」
GGOには小物臭がするヤのつく自由業の方の顔が多い。そんな世界に身を置いていた詩乃に恐がれっていう方が無茶か
「あれ……でもCLOSEっていう看板が出てるけど……」
「大丈夫だ」
CLOSEの書かれた板のかかった扉を押し開けると、中にいたスキンヘッドと目が合った
「いらっしゃ……」
扉を閉める
「どうしたの?」
「今さらだが、凄まじい威圧感だった……」
SAO攻略組の壁戦士は伊達ではない
見慣れてるはずなんだがなぁ……
「仮にもBoB優勝者でしょ?なにをビビって……」
「いらっしゃ……」
扉が閉まる
「確かに凄まじい威圧感ね」
「だろ?」
エギルの第一印象を詩乃と話し合っていると三度扉が開く
中から顔を出したのは黒髪でショートヘアーの少女。どこか勝ち気そうなその少女は俺たちを見ると呆れの混じった声で言った
「早く入りなさいよ、燐……」
「よう、リズ。これはダイシーカフェに初めて入る人のお決まりだろ?」
「アンタは初めてじゃないでしょ!」
「なかなか新鮮味があってよかっただろ?」
「アンタねぇ……」
額に青筋を浮かべるリズベットこと篠崎里香
ソードアート・オンラインでは俺をはじめとする多くの攻略組メンバーの御用達である鍛冶屋の店主だ
当然何度も通うこととなるので自然とお互いの性格を熟知していくことになる
なにを隠そう俺の中でのリズは弄りやすいランキングの上位にいる存在なのである
もちろんクラインとキリトも上位ランカーだ
閑話休題
いきなり始まった俺とリズの漫才を呆然と見ている詩乃に悪いからそろそろ中に入らないとな
中のメンバーもミイラ取りのミイラとなったリズと俺たちを待っていると思うし
「リズ、時間が無駄だから中に入らないか?詩乃が呆然としているぞ」
「誰のせいよ、誰の!……えっと……」
俺の言葉に噛み付いた後、リズは詩乃に向き直ると口籠もった
「自己紹介は後で。全員一度にやった方がいいだろ」
「それもそうね。じゃ、行くわよ」
そう言って扉を開けて……閉めるリズ
「どうした?」
「……開けてみればわかる」
「ん~?」
いつも元気なリズベットが萎縮してる?
中になんかいたのか?
扉を開ける
泣きそうなエギルの顔がそこにはあった
「……なにやってんだ、エギル?」
「二連続で扉を開けて閉められる。いじめか?いじめなのか!?」
意外とセンチメンタルなんだな、エギル
スキンヘッドの泣き顔というのはかなりくる(精神的なダメージ)
「……とりあえず中に入れてくれ。入り口で立ったまま自己紹介しあうのなら別だが」
「そうだな……入ってくれ。そちらのお嬢さんもな」
エギルは鼻を軽くすするとダイシーカフェの中に引っ込んだ
俺たちは顔を見合わせて小さく笑いダイシーカフェの中に入って行った
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