英雄伝説~菫の軌跡~(閃篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第38話
7月26日、夏至祭当日――――
夏至祭当日、リィン達は巡回をしてサラ教官に報告し、サラ教官の指示によってアルフィン皇女達が向かうマーテル公園に向かい始めた頃にはアルフィン皇女、セドリック皇太子、オリヴァルト皇子をそれぞれ乗せたリムジンが王宮から出発し、それぞれの目的地に向かっていた。
~車内~
「ふふっ、たまにこうして皆の前に出るのもいいわね。どうせだったらエリゼも着飾って一緒にデビューできたらいいのに。」
エリゼと共にリムジン車内の席に座っているアルフィン皇女はエリゼに微笑んだ。
「ふう……無茶を言わないで下さい。親しくしてくださっているとはいえ、所詮は男爵位の家格……様と並んで波風を立てるなどあってはならぬ事かと思います。」
アルフィン皇女の言葉に疲れた表情で溜息を吐いたエリゼは指摘した。
「古いわね~、政府や帝都庁に平民出身のトップがいる時代に。あ、ひょっとしてお兄さんを踊りのパートナーに誘った事、まだ怒っているとか?ふふっ、来年本当にダンスの相手をお願いしちゃおうかしら?」
「も、もう……姫様、しつこいです!」
本気で考え込む動作をしているアルフィン皇女の様子を見たエリゼは怒気を纏ってアルフィン皇女から視線を逸らした。
「うそうそ、許してエリゼ。ふふっ……でも良かったじゃない?リィンさん、あの様子だとまだ恋人はいなさそうだし。」
エリゼの様子を見たアルフィン皇女は慌てて言い訳をした後ウインクをし
「………………(まあ、私と兄様が結婚する事は”決定事項”なんですけどね。)」
ウインクをされたエリゼはリィンと結ばれた夜を思い出し、頬を赤らめて自然と静かな笑みを浮かべた。
「ふふ、周りが素敵な方ばかりだから油断してると危ないと思うけど。」
「…………そうですね。でも…………兄様の性格なら……私の………を奉げられた……に……責任……るでしょうし、その心配は……用……けどね。」
「エリゼ……?」
自分の言葉に頷いた後嬉しそうな表情で小声で呟いたエリゼの様子を不思議に思ったアルフィン皇女は尋ねたが
「フフ、何でもありません。ほら姫様、市民の方々がご挨拶を期待されていますよ。」
エリゼは笑顔を浮かべて答えを誤魔化した。その後皇族を乗せたリムジンはそれぞれの目的地に到着し、アルフィン皇女はエリゼと共に”クリスタルガーデン”に向かい、レーグニッツ知事の案内によってクリスタルガーデンの中へと入って行った。
~マーテル公園~
「エリゼ……皇女殿下のお付きとして来ていたのか。」
遠目でアルフィン皇女達がクリスタルガーデンに入って行く様子を見守っていたリィンは口元に笑みを浮かべた。
「ふふっ、よっぽど姫様から信頼されてるんだね。」
「うふふ、さすがリィンお兄さん自慢のエリゼお姉さんね。」
「……しかし皇女様、さすがのオーラかも。」
「うん、さすが皇族の象徴たる”紅”の衣装がお似合いだな。」
「むむ、パトリックのヤツがちょっと羨ましくなってきたぞ。」
フィーの意見にラウラは頷き、マキアスは若干悔しそうな表情をした。
「よし―――ここは大丈夫だ。手早くランチを取って各街区の巡回を再開しよう。」
「ん。」
「うーん、このまま何事もなく終わるといいんだけど……」
その後昼食を取ったリィン達は再び巡回を再開したが特に何も起こらず、一端通行規制されていたドライケルス広場に向かって再び巡回すると意外な人物達を見つけた。
~ガルニエ地区・ドライケルス広場~
「トワ会長……!アンゼリカ先輩も……」
リィンは驚きの表情でトワとアンゼリカに近づいた。
「あ~っ、リィン君たちだ!」
「おっと……これは奇遇じゃないか。」
「ハーシェル生徒会長……」
「アンゼリカ先輩も……珍しい場所でお会いする。」
「フッ、これも女神の巡り合わせというものだね。ラウラ君、フィー君とレン君もよかったら私と一緒に―――」
アンゼリカはラウラ達女性陣を誘おうとしたが
「いえ、実習中の身ですので。」
「そゆこと。」
「うふふ、空気を読んでから誘うようにしてね、アンゼリカお姉さん♪」
「ガックシ……」
女性陣達から断りの答えを聞くと残念そうな表情で肩を落とした。
(先輩も懲りないな……)
(あはは……噂どおりの人みたいだね。)
アンゼリカの様子を見たリィンは呆れ、エリオットは苦笑していた。
「そういえば、導力バイクでトリスタから来たんですか?」
その時リィンは二人の背後にある導力バイクに気付いて尋ねた。
「あはは、アンちゃんの運転、激しいから大変だったけど。は~、でもお祭りはいいよね~。これでテロリストの心配がなければ言うことはないんだろうけど……」
「ど、どうしてそれを―――」
トワがテロリストの存在を知っている事にマキアスは驚いてトワたちを見つめた。
「そうだったんですか……」
「何やら見えないところでお世話になっているようですね。」
「感謝。」
「えへへ、別に大したことはやってないんだけど……」
リィン達に尊敬の眼差しで見つめられたトワは恥ずかしそうな表情で答えた。
「おや、細かい手続きや書類作成も手伝っているんじゃなかったかい?サボリがちなサラ教官に代わって各方面への連絡もしているそうだし。」
「そ、そうなんですか!?」
「教官……ちょっとは見直したと思ったんだが……」
「うーん、さすがにちょっとサボリすぎかもね。」
「うふふ、まさぶ”給料泥棒”ね♪」
トワの話を聞いたリィンは驚き、マキアスは呆れ、エリオットは苦笑し、レンはからかいの表情で呟いた。
「ま、まあまあ。教官達だって忙しいんだし。それにしても、リィン君たち、皇女様と会ったんだよね~?いいなぁ、わたしも一目でいいから見たかったんだけど……」
「はは……俺達も驚きましたけど。」
「たしかに噂どおり”天使みたい”だったかも。」
「は~、いいないいなぁ。」
「フッ、皇女殿下の愛らしさは帝国の至宝といってもいいが……リィン君の妹さんも素晴らしい素質を持っていたね。エリゼ君だったか……またお目にかかりたいものだよ。」
「ああ、エリゼだったらちょうど殿下の付き人として園遊会に出席している所ですね。」
「ほ、本当かい!?むむ、皇女殿下にエリゼ君フィー君、それにレン君を加えたら……究極15s(フィフティーンズ)の出来上がりじゃないかっ!」
リィンの話を聞いたアンゼリカは血相を変えて大声で叫んだ!
「なんか参加させられてるよ?」
「悪い気はしないかも。」
「クスクス、それぞれジャンルが違うから人気が出る事間違いなしでしょうね♪」
エリオットに指摘されたフィーは口元に笑みを浮かべ、レンは小悪魔な笑みを浮かべた。
「くっ、こんなことなら父上の言いつけに従って園遊会に出席しておけば……いや、さすがに麗人たる私がドレスを着るわけには……しまった、それならタキシードを着て行けばよかったじゃないかっ!」
一方アンゼリカは真剣な表情で悩みぬいた後ある結論を出して心底悔しそうな表情で拳を打ち付けた。
「アンちゃん、どうどう。」
そしてその様子を見たトワに諌められている様子をリィン達は冷や汗をかいて見守っていた。
「なんだなんだ、揃い踏みかよ~?」
「クロウ先輩………」
「あれ~、クロウ君?」
「なんだ、君も来てたのか。」
するとその時クロウがリィン達に近づいてきた。
「フン、まーな。」
「そう言えば”夏至賞”に行くとか言ってましたけど。」
「メインレースの結果はどうだったんですか?」
「聞いてくれるな……まさかあそこでブラックプリンスが来るなんて誰が予想できんだよ……しかもランバーブリッツが2番手に差し込んでくるなんて大番狂わせもいいとこだぜ……」
エリオットとマキアスに尋ねられたクロウは悔しそうな表情で答えた。
「ああ、4-5で当たりか。わざわざ懸賞ハガキを出した甲斐があったみたいだな。」
「あら、アンゼリカお姉さんも4-5だったんだ。うふふ、レン共々大当たりね♪」
「って、しれっと特賞を当ててんじゃねーよっ!?もうヤダこのオンナ共……」
そして何事もないかのように答えたアンゼリカとレンの話を聞いたクロウは信じられない表情で声を上げた後肩を落とした。
「フッ、これも日頃の行いの差というものだろう。」
「あはは、アンちゃんは前からわかっていたけどレンちゃんもクジ運は中々強いねぇ。」
肩を落としたクロウの様子をアンゼリカは静かな笑みを浮かべて見つめ、トワは苦笑し、リィン達が冷や汗をかいて見守っていると鐘の音が聞こえて来た。
「3時の鐘だね。」
「そろそろ各地の行事も終わるくらいの時間かな?」
ちょうど15時になるとドライケルス広場で異変が起こり始めた。
同日、15:00―――
~ガルニエ地区・ドライケルス広場~
巡回していた近衛兵が慌てた様子で噴水に近づき
「……っ!?」
「「…………………」」
その様子を見ていたリィンとフィー、レンは厳しい表情になり
「あれ、どうしたの?」
エリオットは不思議そうな表情で首を傾げた。すると噴水の水がどんどん広がり、地面に流れ始めた!
「……これは……」
「ふむ、何かの圧力が高まっているような……」
「ああ、こいつは……」
そして噴水の様子を見たラウラやアンゼリカ、クロウが警戒したその時、噴水から水が思い切り吹き上がった!
「!?」
「こ、これって……」
「夏至祭の余興……!?」
「いや―――――」
更に少しすると地面が揺れ、マンホールがある部分から次々と水が吹き上がった!
「くっ……!」
「テロリストの仕掛け―――!」
「うん、そうみたいだねっ。アンちゃん、クロウ君!みんなの避難誘導を手伝って!憲兵さんたちも混乱してるみたいだから!」
「ああ!」
「合点承知だぜ!」
状況を判断したトワの号令に力強く頷いたアンゼリカとクロウは分散して避難誘導を開始した!
「会長、俺達も……!」
「ここはわたしたちに任せてリィン君達は動いて!君達にしか出来ない事がきっとあるはずだよ!」
「俺達にしかできないこと……」
「それって……」
トワに言われたリィンは瞬時にクリスタルガーデンにいるはずのアルフィン皇女とエリゼを思い出した。
「……!」
「マーテル公園……!」
「まさか……陽動か!?」
「間違いなさそう。」
「ま、状況を考えたらどう考えてもアルフィン皇女でしょうね。……エリゼお姉さんはそのついででしょうけど。」
そしてリィン達が”敵”の狙いに気付いてクリスタルガーデンに急行していたその頃、クリスタルガーデン内には大穴が空き、レーグニッツ知事は負傷して地面に膝をつき、アルフィン皇女とエリゼは魔獣に囲まれ、テロリスト達に銃をつきつけられていた。
~クリスタルガーデン~
「う、あ……」
突然の出来事にパトリックはどうすればいいのかわからず、ただ恐怖の表情で周囲を見回し
「フフ……御機嫌よう、知事閣下。招待されぬ身での訪問、どうか許していただきたい。」
ギデオンは不敵な笑みを浮かべてレーグニッツ知事を見下ろしていた。
「クッ……君達は……」
「正直、貴方にそこまでの恨みは無いのだが……”あの男”に協力している時点で同罪と思っていただこう。」
「やはりそれが狙いか……――――殿下は関係ないだろう!二人を解放したまえ!」
ギデオンの説明を聞いたレーグニッツ知事は唇を噛みしめた後ギデオンを睨んで叫んだ。
「知事閣下……」
「……………………」
レーグニッツ知事をアルフィン皇女は心配そうな表情で見つめ、エリゼは目を伏せて黙り込んでいた。
「クク、残念だがそれは応じられぬ相談だ。こちらのお二方には君達の陣営の致命的な失点になっていただく……命まで奪うつもりはないがね。」
「…………っ…………」
「………………」
ギデオンの言葉を聞いたアルフィン皇女とエリゼがギデオンを睨んだその時!
「エリゼ―――――ッ!!」
リィン達が駆け付けて来た!
「兄様……!?」
「リィンさんたち……!」
「き、君達は……!」
「来てくれたのか……!」
リィン達の登場にエリゼとアルフィン皇女は明るい表情をし、パトリックは驚き、レーグニッツ知事は安堵の表情をした。
「父さん、大丈夫か……!?」
「トールズ士官学院……ノルドでの仕込みに続いてまたもや現れたか。だが、今回ばかりは邪魔されるわけにはいかん……!」
そしてギデオンが懐から取り出した笛を吹くと魔獣達がリィン達に近づいてきた!
「……!」
「魔獣を……操っているのか!?」
「そ、それで外の魔獣も……」
「なるほどね……大方古代遺物の類でしょうね。」
その様子を見たフィーとラウラは厳しい表情をし、エリオットは真剣な表情でギデオンを睨み、レンは真剣な表情でギデオンが持つ笛を睨んでいた。
「兄様っ……!」
「皆さん……!」
テロリスト達はエリゼとアルフィン皇女に銃をつきつけてどこかへと連れて行き
「エリゼ、皇女殿下……!」
「貴様ら……!」
「フフ、それでは我々は一足先に失礼させてもらおう。―――お前達!ここにいる全員を喰い殺せ!」
ギデオンは魔獣達に指示をした後テロリスト達の後を追って行った。
「くっ……負けないよっ!」
「―――大型魔獣2体。戦闘パターンは分析済み。」
「Ⅶ組A班、全力で撃破する!」
「おおっ!」
そしてリィン達は戦闘を開始し、協力して魔獣達を撃破し、そしてギデオン達が向かった大穴に急行して調べた。
「くっ……!」
「時間が惜しい……!追いかけるとしよう!」
テロリスト達が既に遠くへと去った事にリィンは悔しがり、ラウラは真剣な表情で言い
「父さん!血が出てるじゃないか!」
「掠り傷だ……問題ない。それより……お前も殿下達を……!」
「くっ……わかった……!」
レーグニッツ知事の言葉にマキアスが唇を噛みしめて頷いたその時パトリックがかけつけてきた。
「ま、待ちたまえ……!僕も助太刀させてもらうぞ!」
「パトリック……いや、あんたにはできればここを守って欲しい。」
「まだ外には大型魔獣や人形兵器もいるし、知事さんも怪我してるからね。」
「だ、だが……」
リィンとエリオットの頼みにパトリックは判断に迷ったが
「僕からも頼む……!君の腕だったら安心だ!」
「くっ……引き受ければいいんだろう!」
マキアスの言葉を聞き、悔しそうな表情で頷いた。
「決まりだね。」
「よし……行くぞ!」
「ええ……!」
「知事閣下、鉄道憲兵隊への連絡をお願いします……!」
「ああ……任せたまえ……!」
そしてリィン達は大穴の中に飛び込み、テロリスト達が残した足跡を追い始めた!
~ヘイムダル・装甲車内~
リィン達が行動を開始したその頃、装甲車を運転しているクレア大尉はサラ教官を助手席に乗せてマーテル公園に急行していた。
「……後10分で到着します。それまで彼らにはできるだけ先行してもらうしかありません。」
「ええ、不本意ながらね。――――でも、さすがは鉄道憲兵隊(T・M・F)と言うべきかしらね。競馬場の襲撃には完璧に対処できたみたいだし。」
「……あちらは近衛隊が出動していませんでしたから。大聖堂の方はB班の皆さんが手伝ってくれたおかげですね。」
サラ教官の指摘にクレア大尉は静かな表情で答えた。
「ま、それは認めてもいいけどね。――――で、園遊会が本命ってのはどの程度予想していたわけ?導力演算器並みの頭脳をお持ちの”氷の乙女”さんとしては?」
「――――概算ですが40%程度かと。パフォーマンスとしては打ってつけの標的でしょうから。目的は革新派の面目の失墜――――その意味で殿下の身は安全でしょう。……お連れの娘さんについてはその限りではないかもしれませんが。」
「フン……だからアンタたちは好きになれないのよ。」
クレア大尉の答えを聞いたサラ教官が不愉快そうな表情で呟いた――――
ページ上へ戻る