ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第75話それでもキミは引き金を引けるか
オレはさっきまでボロマントの男と一緒にいた。あいつの正体は間違いなくSAOに確かに存在した殺人ギルドーーー《笑う棺桶》のメンバーだ。あいつの右腕に刻まれていた不気味な笑みを浮かべた棺桶の烙印がそれを決定付かせる。その《笑う棺桶》ーーー通称ラフコフの元メンバーが言っていた『お前、本物か?』という問いに対してオレはーーー
『質問の意味が分からないんだけど、本物って何だ?』
全く知らないふりをして、あいつが去っていくのを見逃した。あいつのーーー
【ならいい。でも・・・名前を騙った偽者か、もしくは、本物なら・・・いつか、殺す】
恐ろしい捨て台詞を聞いても尚、あいつを見逃した。
オレは第一回戦の直前まで座っていた席に座って、全ての始まりから最終的にどうなったかまでを思い出す。
全ての始まりは2023年8月2日、あの日は《リトルギガント》全員でレベリングをした帰りの夜、ラフコフの襲撃を受けてオレと未来以外の全員がPKされた。厳密には龍星が発明した回路を《ナーヴギア》に仕込まれてログアウトした訳だけど、当時のオレにはそれを知る術はなかった。その日からオレは復讐の炎を心に宿し、《隻腕のドラゴン》ーーーもしくは《隻竜》と呼ばれる狂戦士になった。
その日から一年後の8月2日、攻略組ギルドやソロプレイヤーたちがラフコフのアジトに出向き、大がかりな討伐隊を結成した。それが俗に言う《ラフコフ討伐戦》という出来事だ。その中にはオレも含まれていた。だが作戦の情報がラフコフ側に漏れ、逆に奇襲を受けた状態で戦いが始まった。オレと未来はその戦場で他の討伐隊の奴らとはぐれてしまったが、討伐戦自体はオレたち攻略組が勝利して、ラフコフのほとんどのメンバーを監獄送りにした。そう、ほとんどのメンバーを。あの戦いはまさに地みどろの地獄と言える戦況になり、討伐戦もラフコフ側も多大な戦死者を出した。最終的にあの戦いに勝つまでに、オレたちは10人以上の犠牲者を出してしまった。ラフコフの内に投降せず消滅した者は20人以上。その内の三人を消滅させたのはーーー
『《八又の大蛇・深紅》!!』
『ぐぁぁぁぁぁぁああ!!』
オレの右の拳だった。それだけじゃなく、キリトが殺されそうになった時にオレはクラディールの心臓をーーー
『お前の甘さに感謝するぜ《隻竜》ゥーーーーーー!』
『いい加減にしろよこのクズ野郎ォーーーーーー!!』
手刀で貫いた。ラフコフによって、多くのプレイヤーが殺された。でも、殺人を犯したのは奴らだけじゃない。オレだってーーー
『この、人殺し野郎が・・・』
『お前に言われちゃ終わりだ・・・腐れ外道』
オレだってあの世界で、四人を殺した。いや、オレは復讐のために奴らを殺したんだ。オレは翼たちの仇をーーー
「・・・仇?」
仇って何だ?翼たちのか?あいつらは生きてたじゃないか。だったら何なんだ?オレは何のためにあの四人を殺したんだ?あいつらは翼たちを殺してない。だとしたら、オレはクラディールの言う通りーーー
『この、人殺し野郎が・・・』
ただの人殺しじゃねぇか。いや、復讐だとしても結果は変わらない。オレはどちらにしろーーー
『人殺し』
やめろーーー
『人殺し』
分かってるんだーーー
『人殺し』
分かってるからーーー
『人殺し』
やめてくれーーー
『人殺し』
誰か、助けてくれーーー
「何て顔してるのよ」
「!!」
突然肩を叩かれて声をかけられ、オレはその方向を見た。そこにはオレと同じく、BoB予選に出場している水色の髪の少女ーーーシノンがいた。
「そんなにギリギリの試合だったの?その割には、随分早く戻ってきたみたいだけど?」
違うんだ。オレが恐れてるのはBoBの猛者たちじゃない。オレが恐れてるのは、オレの過去とは全く関係のないキミには言えないーーー忌まわしい記憶なんだ。
「たかが一回戦でそんな有り様じゃ、決勝なんて夢のまた夢よ。しっかりしなさいよね。あなたには貸しがあるんだから・・・』
そう言って再び肩を叩いて去ろうとするシノンの手をオレはーーー握って歩みを止めさせる。
「ちょっと・・・ん?」
我ながら情けない。大の男であるオレがーーー過去に怯えて、全く関係のない女の子の手を握って、どうにもならない恐怖心を少しでも軽くしようとするなんてーーー
「・・・どうしたの?何か・・・」
オレはシノンの声を聞いて手を離す。そしてその瞬間にまだ終わってない予選の次の試合会場に自動転送される。
BoB予選第二回戦バトルフィールド
自動転送が終わった瞬間、目の前に広がったのは古代文明の遺跡のような場所だった。厳密にはどこなのかは知らない。対戦相手の名前も知らない。何も知らない。それどころじゃないんだ。あのボロマントの男の声ーーー
【俺とこの銃の名は・・・死銃だ!!!】
あいつの声と死銃の声は同じだった。あの剣の世界にいた元《笑う棺桶》の男は、この銃の世界で死銃となり、何らかの方法で再び殺人プレイヤーになろうとしてるんだ。そいつは必ず本選に進んでくるはずだ。だからオレは本選に進みそいつを倒すために、止めるためにーーー
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
オレは再び狂戦士になり、向かい来る猛者たちを次々と倒していく。その時のことなんて、全く覚えてない。周りを見ても、最後には何も覚えていないくらいに暴走していた。放たれた銃弾を弾き、銃を乱射しながら接近して、至近距離で斬り倒す。そうして気付けば決勝戦。こんなになるまで記憶が残らなかったことを考えると、オレは本当にーーー
『オレの邪魔するんなら、オレは迷わずに誰だろうとぶっ殺すぞ!!!!!』
あの敵味方関係なく剣を向けようとしていた時の、狂いきった隻腕の剣士に戻ってしまったようだ。
三人称side
BoB予選決勝バトルフィールド
この仮想の世界はまさに、荒廃し文明が滅んだ地球そのもの。この世界で生き抜くために人々が持つ武器は策を練るための知恵と、文明が滅んだ瞬間に唯一生き残っていたーーー銃器。そしてその銃器を操る物の中で、最強を決める祭典が存在する。人々はその祭典を《バレット・オブ・バレッツ》ーーー縮めてBoBと呼ぶ。その祭典も三度目の開催を迎え、数多くの参加者の中から強者を絞り込む予選がこの決勝戦でーーー最終戦で決定する。この決勝に登り詰めた時点で本大会に出場することは決定しているがーーーそれでもこの予選で最も強い戦士を決めるまでは、予選は終わらない。
戦いの舞台は破損した乗り物が散乱し、外壁や足場が崩れた大陸を結ぶ高速道路。そしてこの舞台に勝ち抜いた戦士が一人、光を纏い現れた。
水色の髪の前髪を二本の白いヘアピンで、両サイドを三つの穴が開いた黒いヘアピンで抑え、胸部や腹部を露出した黒いラインの入った白い服の上に、白いマフラーと前を開いた黄緑色のジャケットを着こんだ少女ーーーシノン。その両手に抱える武器は強大な破壊力を誇り、照準に納めた標的を原形も残さないレベルで破壊する狙撃銃。《冥界の女神》の名を持つその兵器の名はーーー《ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》。
シノンは周囲を見回し、対戦相手である女性ーーーとなった少年を捜す。だが目に見える範囲にはその少年の姿はなく、自分が戦場の端にいることを確認した。
(あいつは物陰を移動しながら接近してくるはず。チャンスはこちらの位置を特定出来ていない最初の一発のみ・・・当てる。必ず!!)
シノンは近くに停車している二階建てバスのフロントに移動し、《ヘカートⅡ》を構える。狙撃手は最初の狙撃に限定して、敵に自分の位置を把握されていない。その特性を活かすために、自分の姿を視認しにくい特等席に着いた。
(何で私は、こんなにあいつに勝ちたいと思うんだろう・・・)
彼女には一つの悩みがあった。自分では分からないけれど、あの少年に勝ちたい。勝負の末路は勝つか負けるかの二つのみ、人が目指す物は勝利の二文字。だがそれ以上に自分を動かそうとする感情の正体が分からない。それを考えている時ーーー数十分前に恐怖に身を震わせていた彼を思い出した。そしてそれと同時にーーー
(あいつが私に似ているから・・・?)
怯えた彼を見た瞬間に、現実の自分が重なって見えたことを思い出した。彼女にも恐れる物がない訳ではない。そしてそれは、彼とよく似ているのだろう。
彼女はこの戦いとは無関係だと判断した思考を振り払い、前を見た。その視界に広がった光景は、狙撃手の彼女にとって驚愕する物だった。彼女は《ヘカートⅡ》のスコープを調節して、対戦相手である彼をーーー腰に光の刀を吊るす女性になった少年、ライリュウの姿を見つける。だがその彼は、転倒した車体などの物陰に隠れるような行動を見せずにーーー堂々と歩いて来ていた。
(私の狙撃なんかいつでもかわせるってこと・・・!?)
彼は彼女の戦闘スタイルを知らない訳ではない。ずっと、ずっとモニター越しで見ていたのだから。だとしたら自分の狙撃など簡単に回避が可能だと、自分を見下しているのだと彼女は思い込んでしまう。だがそれは大きな間違いだと気付く。何故なら彼は、彼女の狙撃をーーー
(かわす気がない・・・!?)
回避もせずに、正面から狙撃を受けるつもりでいる。彼はある程度近付いたところで、立ち止まる。彼のその行動が彼女の逆鱗に触れた。彼女の目に見える、銃撃を当てるこの世界の力、《着弾予測円》が怒りによって強まった心臓の鼓動によって拡大と縮小を繰り返す。引き金にに触れる指に力が込められ、ついに彼女の、シノンの怒りがーーー頂点に達した。
「ふざけないでよ!!!」
シノンが怒号と共に発した銃弾が彼女の身を隠すバスのフロントガラスを破壊しーーーライリュウの後ろに転倒している乗用車に着弾して、大爆発を起こす。それでもライリュウは微動だにせず、平然とした顔で立っている。シノンはまだまだ冷静になることなど出来ずに、狙撃では見ることなど出来ない程に乱射する。一発はライリュウの足下から少し後ろに、もう一発はその反対側に。さらに三回引き金を引くが、全てが彼の顔の横を通りすぎる。冷静さを取り戻さない限り、彼女の放った銃弾は当たらない。
シノンはとうとう狙撃ポイントから離れ、彼の前に立ち止まる。
「何でよ?私との勝負なんてどうでもいいって言うの!?」
「・・・オレの目的は、明日の本選に出ることだ。これ以上戦う理由がない」
「ならその銃で自分を撃てばいいじゃない!弾代が惜しかったの!?それとも、わざと撃たれればそれで私が満足するとでも思ったの!?」
二人は面と向かって口論し始めた。ライリュウの目的は、今決勝に出場している時点で達成された。だったら彼が左腰に携えた拳銃で頭を撃ち抜けばいい。そうしないということは、ライリュウはシノンに撃たれれば満足してもらえるとでも考えているのだろうか。どちらにしろ、それがシノンには気に食わない。
「たかがバーチャルゲームの、たかが1マッチ。あんたがそう思うのは勝手よ!!でも・・・その価値観に私まで巻き込まないでよ!!!」
「ッ!!」
彼女は怒りのあまりに、涙を撒き散らしていた。その姿を見たライリュウは心を痛め、予選が始まる前に彼女と交わした会話を思い出す。彼は彼女とーーー
『でも、もし決勝で当たったら予選だからって・・・手は抜かないけどね』
『・・・当然そのつもりですよ。当たったら全力で戦いましょう』
約束したというのに。約束は必ず守る、それが自分のモットーだから。彼はその約束を破ろうとした。
「・・・ごめん、オレが間違ってた。たかがゲーム、たかが一勝負。でも、だからこそ全力を尽くさなきゃならない・・・そうでなければ、この世界で生きる意味も資格もない。オレはそれを知っていたはずなのに、それをずっと心に掲げてたはずなのに・・・」
ライリュウは自分のモットー、そして心に掲げていた物を知らぬ間に捨てようとしていた。それは自分という人間が死んだのと、さほど変わらない。だから彼はーーー
「シノン・・・オレに償う機会をくれないか?今からオレと勝負してくれ」
「今からって言っても・・・」
彼女との約束を守るために、自分という人間が信念のない生きた屍にならないために償う。今から勝負という言葉にシノンはあまり良い反応は見せなかった。そして彼女の目にはーーー彼女が彼に勧めたハンドガン、《FN FiveSeven》を左の腰に装着しているホルスターから抜き取るライリュウが見えた。シノンはすぐさま《ヘカートⅡ》の銃口を向けるが、ライリュウは右掌を向けて止める。彼は《FN FiveSeven》の薬莢に付いたままの銃弾を出して手に取り、再びホルスターに《FN FiveSeven》を納める。
「そっちもまだ弾丸は残ってるよな?」
「・・・ええ、一発だけ」
「なら決闘スタイルでいこう」
決闘スタイルーーー西部劇にある、ある程度離れた所から互いに銃を向けて、先に相手を撃った方の勝ちというスタイルのことだ。
ライリュウが持ち出したルールはいたって単純な物だった。10m離れて、ライリュウが持つ弾丸を投げて、地面に落ちたらゲームスタート。シノンはライフルを、ライリュウは刀を構える。
「あのね・・・たった10mからなら予測線のアシストも全く役に立たないし、この《ヘカートⅡ》の弾なら絶対に当たる。システム的に必中距離なのよ」
「・・・やってみなきゃ分からねぇさ」
システムの力が絶対という概念をライリュウは否定する。何故なら彼はーーーイレギュラーの塊なのだから。
ライリュウは手に持つ銃弾を口にくわえ、右の腰に吊るしてあるビーム刀《FJBXー04A》を構えてビームの刀身を発生させる。そしてその刀身でーーー自分の左腕を斬り落とす。
「あんた・・・本気で来るんじゃなかったの?」
「本気でいくさ。本気でいくのに・・・左腕が邪魔なだけだ」
彼女が知らなくても無理はないのだろう。ライリュウの本気はーーー隻腕でなければ真の本気は出せないのだから。
(何か考えがあるというの?左腕を斬り落として攻撃手段を制限するのが本気だというの?もしそうなら、その何かが一体何なのか・・・見たい。どうしても)
シノンに彼の作戦に対する興味が沸き上がってきた。真の本気を出したライリュウを見るのは、この銃の世界ーーー《ガンゲイル・オンライン》のプレイヤーの中では彼女が初めてだろう。隻腕の彼の挑戦への返答はーーー
「・・・いいわ。それで決着をつけてあげる」
受けてたつ、という覚悟が籠った言葉だった。ライリュウは後ろに歩き、シノンから10m程離れた位置に止まり、彼女に向き直る。シノンはライフルを構えて、スコープの中にライリュウの顔を納める。そしてライリュウは《FJBXー04A》を地面に突き刺し、口にくわえていた銃弾を右手に持つ。そして不適な笑みを浮かべたライリュウはーーー指で銃弾を弾き投げる。そしてすぐさま《FJBXー04A》を地面から抜き、肩に刀の背をのせ、右足を後ろに下げて腰を低く落とす。シノンのチャンスは残り一発。その標的はライリュウのーーー右膝。そして投げた銃弾が地面に落ち、小さな金属音を鳴らした瞬間に《ヘカートⅡ》の銃弾が飛び出しーーー《FJBXー04A》が斬り払った。
(そんな・・・ありえない!!)
この光景を信じることが出来ない。でも現に銃弾を斬られた。シノンは右足を後ろに下げ、左の腰に納められたサブウェポンのロングマシンガン《グロック18》を抜くが、ライリュウの接近に怯んでバランスを崩して後ろにーーー倒れ混む前にライリュウが右腕を背中に回して受け止められる。そして右首筋にビームの刀身がスレスレに突きつけられていて、動くことが出来なくなってしまった。
「右足を狙ったのに・・・どうして、私の照準が予測出来たの?」
「スコープレンズ越しでも、キミの目が見えた。まあ流石に狙いが狙いだったから、ちょっと《オーバーロード》を・・・」
「オーバー・・・?」
「何でもない、こっちの話だ」
ライリュウがシノンの照準を予測出来た理由ーーーそれはスコープレンズの中に見えるシノンの視線を見て、どこを狙うかを予測したのだ。《弾道予測線》を超えた先を読む力、そして脳に負担をかけて神の速さを得る活性化能力、彼の力はバーチャルゲームの枠を遥かに超えていた。
「それほどの強さがあって、あなたは何に怯えるの?」
「・・・こんなのは強さじゃない。長い時間剣を振り回したらこうなっちまっただけの、ただの技術だ」
「嘘、嘘よ。テクニックだけで、《ヘカートⅡ》の弾を斬れるはずがない。あなたは知っているはず・・・どうすれば、その強さを身に付けられるの?私は、それを知るために・・・」
ただの技術、それだけでは女神を退けることなど出来るはずがない。ライリュウにはシノンに自分の強さをーーー過去の体験を教えることなど出来ないだろう。代わりにライリュウが教えられることはーーー
「もし・・・もしその銃の弾丸が、現実世界のプレイヤーをも本当に殺せるとしたら・・・そして殺さなければ自分が、あるいは誰か大切な人が殺されるとしたら・・・その状況で、それでもキミは引き金を引けるか?」
「ッ!?」
仮想世界の銃撃が現実世界の人間を殺せる力を持っていて、そしてその力を持つ存在が自分や大切な誰かを脅かすとしたらーーーその力を発揮することが出来るか、ということだった。
(この人は知っているの?私の過去を、あの出来事を・・・ううん、違う。もしかしたら、この人も・・・)
シノンはきっと、ライリュウと似た出来事を体験したのだろうか。ライリュウはシノンの身体を自分の身体に密着させて顔を近付け、《FJBXー04A》のビームの刀身を消す。
「オレにはもう出来ないよ。だからオレは強くなんかない。オレはあの時斬った三人・・・いや、四人の本当の名前も知らない。ただ目を瞑り、耳を塞いで、何もかも忘れようとしてきた。必死に傷痕を隠していただけの、ただの臆病者だ・・・」
ライリュウは誰かのために人を殺すことは出来ない。強くなんかない、ただ強がっていただけの臆病者だと言った。彼は能力的には強いだろうが、心はすぐに折れてしまいそうな程に弱かった。その彼の顔を見て、言葉を聞いたシノンは《グロック18》を地面に落としてしまった。そして左手をライリュウの顔に運ぼうとするが、ライリュウが首を横に振ってやめさせる。
「さて、それじゃあ決闘はオレの勝ちでいいよな?」
「え?あ、えーと・・・」
「なら降参してくれ。オレ、女を斬る趣味はないんだ・・・」
ライリュウの声かけでシノンはようやく我に返り、今自分が置かれている状況にやっと気付いた。現在自分の身体はライリュウと密着していて、彼と自分の腹部が完全にくっついていることに。彼は身体は完全に女性になってしまってるが、ライリュウは男だ。つまりーーー自分は男とくっついている。彼女にも当然羞恥心という物があり、赤面してライリュウを突き放す。
「次は・・・絶対負けない!明日の本大会、私と遭遇するまで生き残りなさい!!」
シノンはそう怒鳴り後ろを向いて、システムに降参を通知した。これによって、この戦いの勝者が決定した。
第三回《バレット・オブ・バレッツ》予選Fブロック決勝戦、勝者は無名の《光刀》使いーーー【Rairyu】。
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