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GATE 株式会社特地電工 ~彼の地にて 斯く戦えり~

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第一部
  事務所が無い?!その1

 
前書き
(大村は出向先となる「株式会社特地電工」に挨拶に行くことになった) 

 
 私は地方のしがないサラリーマン。

 名前は大村貴之、役職は主任、38歳、独身。


 現在、新幹線で移動中。

 車窓の景色は見えてはいるが、見てはいない。ほとんど頭に入ってこない。


 なぜなら今朝、上司に関連会社への出向を言いつかったばかり。
 
 いまはその関連会社へ、ご挨拶に伺う途上。



 いや、関連会社かどうかさえもわからない。

 ・・・だって、聞いたことのない会社名だったぞ?。



 特地電工?



 うちにそんな関連会社あったっけ?

 しかも、たしか気になることを上司が言っていたぞ?

 「(新しい)勤務地は東京銀座のちょっと向こうの異世界だ」だって?



 山手線から皇居側ではないのは、この際、我慢するとして・・・



 ・・・あれ?

 東京か? ・・・転勤・・・引っ越し。




 ひょっとして、悪くないんじゃないか?




 ・・・今朝の上司や総務の段取りについては気にくわなかったが。


 出向を同僚の前で軽く切り出され、しかもその直前に白紙の「社宅退去届」が届く始末。


 この扱いは、どうだろう?!



 藤村ディレクターに無茶振りされたばかりの大泉洋みたく、ここで怒らなければ!
と わなわな してたけど・・・

 大泉洋のように、ゴネてボヤいて、挙げ句の果てに上司に「ばぁか!」と言って
みたかったんだけど・・・



 しかし、よく考えてみれば、新しい勤務先のGATEから秋葉原までは3駅ちょっと。

 中央通りを3kmほどだ。営業車で行っても良い。会社にバレたら怒られるけど。

 会社帰りに、毎週でも零時売りに並べちゃうのでは?



 あれ、新しい住まいはどこだ?

 GATEの向こうは自衛隊以外、民間人は入っていっちゃいけなかったのでは?

 危険だから・・・異世界?ファンタジー??いやいや、この際、望むところだ。


 多少の危険があるとはいえ、ドラゴンとか見てみたいし。

 自衛隊と違って武器はないけど、うまいこと仮設で引っ張った高圧電流とか流したら死ぬんじゃないか?


 それとも、あちらでは民間人にも武器を貸してくれるんじゃないか?

 パンツアァーファウスト(携帯式対戦車擲弾発射器)、あれは撃ってみたい。

 ドラゴン、空飛ぶからな、だったならスティンガー(携帯式防空ミサイル)か?




 
 出張で新幹線の移動とは、どうしてこう、とりとめのないことばかりに考えが巡るのだろう?就業時間中なのにヒマな上、することがない、というのはとても居心地がよい。サラリーマンのほとんどは出張が大好きだ。手当もちょっとは出る。帰りにビールとチーくわ、大衆や春秋を買っちゃってもおつりが来ちゃう。買わないけど。もしこれが飛行機ならマイレージまでついちゃう。最高だ。


 今朝からの一連の不幸、普通の一般的な社会人なら「危険だ!こ、これは危険手当もらうよ!」って騒ぐところだが、私をそこいらのパンピーと一緒にしてもらっては困る。

 下手にITリテラシーが高いせいで、周囲のIT音痴どもから重宝がられ、気がつけばこの器用貧乏。みんながちょっと褒めてくれるもんだから、調子に乗って人の手助けばかりしていたら、なぜか出世コースに乗り遅れ。未だに平社員。いちおうこれでも本業をおろそかにした覚えはない。

 だが、ITに強い人間の大半には、特殊な傾向がある。

 ゲームが好きだ。

 漫画やアニメが好きだ。

 そしてラノベが大好きだ!

 メディアミックスとやらにまんまと引っかかり、手を変え品を変え、ちょっとお化粧直ししただけのマンネリ気味のストーリーで大喜び、様々な媒体で提供され続けるあざとい娯楽が大好物で、それを片っ端からみんな買ってしまう。重症化すると、観賞用・保存用・布教用と3つ買う。

 いや、買った覚えはない。amazonでポチったら届いただけだ。支払いはカードだから、現金が介在したことはない。分割払いは怖くて試したことがなく、必ず一括払い、手数料は無料。カードは入会費・年会費が無料。amazonでは本は配送料無料。

 無料 無料 無料 ・・・なんて甘美な響き。

 給与口座の記帳はご無沙汰、おろそかにしがちだからよくは知らないが、とにもかくにも引かれものが「ない」というのは最高だ!


 そう、ITに強いということは、無料で得られるものに敏感だ!新しいものにすぐに飛びつく!ネトゲをはじめITのサービスというものは、新しい売り出し中のものは「お試し価格」でたいていが無料だ!飽きたらすぐに引退すればいい。

 そして、ITに強いヤツは自身への危険については鈍感だ!会員登録とかアンケートとか、無料だ、特典だ、と、目の前にニンジンをぶらさげられれば、本名も住所もメールアドレスも本当のことをホイホイ入力してしまう。個人情報はすっかりボロボロ、ダダ漏れだ。郵便受けやメール受信箱なんかは二度と見たくもない。セキュリティ?なにそれ美味しいの?



 要するに、私はパンピーと違っていわゆるオタクだ。それもちょっと重症で駄目なヤツだ。

 学生時代は、サラリーマンでオタクの人生がこうも過酷なものとは知らなかった。教科書にはそんなこと書いてなかったし、先生も教えちゃくれなかった。大事なことなのに。

 だから会社では、一般人を装って生きてきた。カミングアウトした覚えはない。バレちゃいないはずだ!たぶん。



 そんな人間だから、「異世界へ出向だ」と言われたとき、不覚にも少しワクワクしてしまったんだ。

 ときめいちゃったもの。ラノベみたい!



 新幹線車内にアナウンスが流れた。もうすぐ東京駅に着く。



 見たことのない新しい世界へ、ドキドキが止まらない。

 聞いたこともないファンタジーな出向先で、何が起きるのか?そんなところで私のする業務は何なのか?


 何もわからない、しかし不安はない!


 出向=サラリーマン出世街道から脱落、イチヌケタ、周りからイタイヤツ扱いでも良いじゃないか。だってなんだかんだ言っても、来月も給与は出るんだもん。出向手当とかで増えるかもしれん。そんなちっぽけな自分の人生とか生活とか、危険とか身の安全なんかどうでもよくなっちゃって、


 「異世界」とはどんなところなのだろうか? 面白そう、見てみたい!
 
 そう思っちゃったんだもの。世間の「えっ?そっち?」っていうツッコミが目に浮かぶようだ。




 そんな単純で子供っぽい感情をスーツに包み、ぱっと見はサラリーマンを装って、これから異世界の出向先に、お土産を持って着任挨拶に伺うのである。



 いま、たぶん、油断すると顔が半笑いで緩みっぱなしだ。いかんいかん、バレないようにしないと。




 
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