ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第72話サイバー・サムライ
ついさっきギャンブルゲームで402000クレジットを稼いだオレは武器屋に戻り、シノンに色々教えてもらいながら銃を選んでいる。のだがーーー全く分からない。難しすぎて全く分からない。
「このアサルトライフルってのは、サブマシンガンより口径が小さいのに・・・図体が大きいのは何でなんですか?」
「そんなことも知らないのに、あんなとんでもない回避技術があるなんて・・・コンバートって言ったよね?前はどんなゲームにいたの?」
どんなゲームに、かーーー《アルヴヘイム・オンライン》って言えば良いんだろうけど、別のゲームなんだから流石に名前は言う訳にはいかないかな。
「よくあるファンタジー系のヤツですけど・・・」
「ふーん・・・」
何か若干冷たい目で見られてんだけどーーー間違った解答じゃないよな?
「まあいいわ。BoBの予選に出るなら、実戦を見せてもらう機会もあるしね」
「ハハハ・・・」
そういえばBoBって、予選はともかく本選はネット中継されんだっけ。今はこの子は装備を撰んでくれている訳だけど、もしかしたら後々ライバル意識とかしてくるかもしれないんだよな。まあシノンもBoBに出場するならの話なんだけどーーー
「で、なんだっけ?アサルトライフルが小口径の理由?それはアメリカの《M16》に始まる、小径高速弾による命中精度や貫通力重視の設計思想が・・・」
教えてもらう側としては言うべきではないんだが、また訳が分からない説明が始まったーーーと思ったが、突然シノンの説明が中断された。
「・・・そんなこと、どうでもいいよね」
どうでもいいとまでは言わないけど、やっぱりそこまで詳しく説明する必要性がないと判断したのかな。まあオレは頭パンクしそうだったから助かったけどーーー
「40万も稼いだから、結構良いヤツが買えると思うけど・・・最終的にはその人の好みとこだわりだから」
こだわりかーーー確かに自分の好みやこだわりが戦闘スタイルにも影響されるし、その戦闘スタイルに合わせた武器を選択した方がいいと思うしな。でもオレの好みの武器なんて、早々見つかる訳もーーーない事もなかったな。
「あの、これは?」
オレが通ってる道の横にある、棒状の物。武器には違いないんだろうけど、グリップやトリガーがないから多分銃じゃないと思う。シノンにこれが何か質問してみたら、これ以上ないくらいにオレの好みの武器だと分かった。
「ああ、それは《光剣》よ。正式名は《光剣》だけど、みんなレーザーブレードとかビームサーベルって適当に呼んでる」
「この世界にも剣があるんですか?」
それは朗報だ。銃撃戦メインのゲームに、まさか剣があるとはなーーーしかも刀身がビームだと?それはいい、しっかりと世界観に合った素晴らしい武器じゃないか。
「でも実際に使う人なんていないよ?」
「どうして?」
「そりゃあだって超近距離じゃないと当たらないし、そこまで接近する頃には間違いなく蜂の巣に・・・」
言われてみればそうだな。銃みたいに弾丸なんか出ないし、刀身が伸びる長さにも限度があるだろうし無理があるかもな。それに見たところこの《光剣》は片手剣とほとんど変わらないな。少なくともオレの好みじゃないし、やっぱり別のーーーいや、どうやら《光剣》は片手剣だけじゃないみたいだな。この《FJBXー04A》っていう剣、赤いビームの刃が片方にしかなくて、それでいて刃渡りが広いからーーー刀か。《光剣》の刀バージョン、これこそ《光刀》だな。オレは早速《FJBXー04A》を購入するためにタッチパネルを操作するーーーお、カラーリングまで決められるのか。じゃあカラーリングは黒にして、購入ボタンをクリック。そしてどこからか店員ロボットがオレの方に走行してきた。
【いらっしゃいませー!】
そう店員ロボットが言って、タッチパネルが表示されたからオレはそれにタッチしてーーーオブジェクト化された《FJBXー04A》を手に取る。
【お買い上げ、ありがとうございましたー!】
そう言って店員ロボットはオレたちの前から走り去って行った。
「ふーん・・・まあ戦闘スタイルは好き好きだけどさ」
「売ってるって事は、それなりに使えるはずですよ。これでも」
別に全く役に立たない物を売ったりはしないはずだ。オレは《FJBXー04A》のスイッチを入れて、ビームの刀身を出す。すごいなーーー振る度に『ブゥン』ってのは、音が鳴るぜ。一度使ってみたかったんだ、こういう武器。早速試し切りとしますか。この《FJBXー04A》は刀だから、オレの得物の両手剣とは勝手が違うけどーーー
『うおらぁぁぁぁぁ!!!どうだオレ様の実力!!!』
『両手武器でも、振りの速さなら竜兄にも負けないよ!!!』
オレの近くには二人も刀使いがいたんだ。ソレニ《ドラゴンビート》も形状が刀と同じだった、全く使えない訳じゃない。
オレは少しシノンから離れて、ちょっと広い場所に移動した。そこで足を肩幅より少し大きく開き、《FJBXー04A》を胴体より後ろに構える。そこからオレはーーー《FJBXー04A》を水平に左向きに振り、すぐさま右後ろに戻し、そこから《FJBXー04A》を振り上げジャンプし、最後に右に振り払い四本の光の剣筋で四角形を作る。これは片手剣の4連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》。両手剣や刀で出来る技じゃないけど、二刀流の練習をするために片手剣スキルも上げてたんだ。そのためには当然片手剣の反応速度も上げてた。そもそもGGOにはソードスキルがないんだから、全く問題ない。
「へぇ~!ファンタジー世界の技か、案外侮れないかな」
「いえいえ、それほどでも。もっと速い奴がいるんで」
もちろんキリトの事だ。オレはほとんどステ振りを筋力値を上げるためにフリワケテタから、今も昔もキリトの方が剣のスピードが速い。まあ一番はアスナさんなんだけどーーーしかし軽いな。GGOには金属剣がないみたいだし、やっぱり機械ってだけで軽いな。まあ我慢するしかないけど。オレは《FJBXー04A》を背中の鞘に納めてーーー
「?」
「あ、やばっ・・・」
しまった、また癖がーーーVR世界で染み付いた癖は現実世界にも影響が及ぶ。前にコンビニ強盗事件があった時にスグの竹刀を使って全く同じ事をしちゃったし。SAOで二年間もフルダイブしてたんだ。全く恐ろしいモンだぜ、そんな長期間フルダイブしてた廃人ゲーマーって奴はーーーまあオレの事なんだけど。そもそもスイッチ切ればよかったんじゃねぇか。それより何かバランス悪かった気がするな。何故か胸が重かったしーーーあ、そういえば今、オレ女になってんだった。
「メインアームはそれで良いとしても、サブマシンガンかハンドガンくらいは持っておいた方がいいと思うよ。接近するための牽制も必要だろうし」
「なるほど・・・」
確かにオレの回避技術なら近付ければ敵を斬れる。でも近付くまでに至るには、まずは敵に銃弾を撃たせないために少しでも集中させないようにサブマシンガンかハンドガンくらいは装備した方がいいかもな。
「あと幾ら残ってる?」
「う~ん・・・15万くらいですね」
「えー?《光剣》って無闇に高いんだな・・・残り150Kだと、弾や防具にかかる代金を考えると・・・ハンドガンかな。光学銃だと・・・」
「ああ、もうお任せします・・・」
******
あの後シノンに色々オススメしてもらって、防具には《コンバットスーツ》を、そして対光学銃用に《防護フィールド》を買った。そして肝心のハンドガンだが、牽制目的だからパワーより命中率が高い実弾銃を買った。それが今オレが持っている《FN FiveSeven》。口径が5.7mで、サイズとしては小さめだが形状がライフル弾に近いため、命中制度と貫通性能が高いらしい。その威力は防弾チョッキを貫くレベルだそうだ。
そして今は銃の試し撃ち場に来ている。何でも店で買った銃なら自由に試せるらしい。シノンに案内されて、的当てに挑戦してみる。
「撃ち方分かる?」
「やってみます」
まずは銃のストッパーを解除して、両手で構える。強化プラスチックで出来ていて、軽いから反動もそこまでない。でも初めてだから両目で見た方がいいらしい。教えられた通り構えて、標準と的を重ねて引き金に指を据えてーーー縮小と拡大を繰り返す円を認識する。
「今、あなたの視界にサークルが表示されているはず」
「はい」
「それが攻撃的システムアシスト、《着弾予測円》よ」
GGOには銃弾を回避するための《弾道予測線》と同じように、銃弾を当てるためのシステムアシストの《着弾予測円》が存在する。弾はこの円の中にランダムで当たるらしく、命中させるにはこの円を小さくする必要があるそうだ。命中率を上げるには対象に近付く事。そして他には冷静になることなどがある。《着弾予測円》は心臓の鼓動に応じて広がってしまうから、なるべく落ち着いた方がいいらしい。
心臓の鼓動を小さくすればサークルは小さくなる。そのためにはイメージだ。心臓が止まったら、そう思えばいい。オレは死人、死んだ人間だ。心臓の鼓動なんて、ある訳がない。オレは指を引きーーー銃声を鳴らす。シノンが的を操作して、オレに近付けてくれた。その的にはーーー
「当たった・・・!」
「へぇ~・・・初めてで当てるなんて、結構筋が良いのね」
的には確かに一つの穴が空いていた。真ん中にこそ当たらなかったが、少し左にずれて周りに亀裂が入った風穴が出来ていた。これなら予選に少しは通用するかもしれないーーー
******
試し撃ちも済ませて、オレとシノンは武器屋を出た。それにしても、シノンにはすごい世話になっちまったなーーー
「どうもありがとう。すっかりお世話になっちゃって・・・」
「ううん、女の子のプレイヤーってあんまりいないから・・・」
いや、オレ男です。可哀想だからって言って連れてきたの忘れないで。
「それに予選が始まるまで、特に予定なかったし」
「え?シノンもBoBに?」
「うん。これからエントリーするんだけど・・・」
そうか。シノンもBoBに出場するのか。銃器に関してはすごく知識が豊富みたいだし、オレの装備はシノンも全部知ってる。これは強力なライバルになりそうだなーーー
「しまった!あと10分しかない・・・!」
「え!?」
今は14時50分。確かBoBのエントリー締め切り時間が15時ジャストだからーーー確かに10分しかない!!!
「すみません!!オレのせいで・・・」
「ううん、私がうっかりしてたのが悪いの。とにかく急ぎましょ!!」
誰が悪いにしろ、早く総督府に行かないと。オレとシノンは総督府に向かって走り出す。でもここから総督府まではーーー目で見る限り3kmはある。
「あの、テレポート的な移動手段はないんですか!?」
「ない。GGOでは死んで蘇生ポイントに戻る時だけ。それに、街中じゃHPは絶対に減らないからその手は使えない!!」
マズイーーーテレポートが出来ないなら今すぐここから総督府まで飛ぶ事は出来ない。装備を選ぶのを手伝ってもらって、その相手まで遅刻するかもしれない状況に立たせるなんてーーーオレだけならともかく、シノンまでエントリーに遅刻して出られませんでしたなんてシャレにならない。エントリーに5分かかるとして、あと3分で到着しないと。何か、何かないかーーー
「ッ!!あれだ・・・!!」
オレはシノンの手を握ってーーーレンタルの三輪バギーの後ろのシートに乗せる。オレは前に座ってハンドルを握って、バギーのエンジンをかける。
「しっかり掴まってて!!」
「うわぁ!?」
オレはバギーを発進させて、高速道路に入る。いつもなら乗り物酔いを発症するところだが、生憎オレが乗り物酔いを起こす条件をこのバギーは満たしてない。オレはワゴン車くらいの大きさなら平気で乗れるし、新幹線くらいのスピードじゃないと酔わない。
「何で!?このバギー、運転がメチャクチャ難しくて、まともに走れる人ほとんどいなかったのに!!」
「現実でも乗ってるんです。マニュアルバイクなんで、このバギーも勝手がよく似てるんです」
マニュアルトランスミッションの免許がこんな時に役に立つなんて、ホントに免許取ってよかったぜーーーそう思っていたら前を走行してるバスに激突しそうだったから急いで右に移動する。
「きゃあ!!」
「大丈夫?」
今の車線変更で悲鳴をあげオレの背中にシノンが顔をぶつける。その時シノンの手がオレの胸に当たってちょっと力が抜けそうになったが、なんとか持ちこたえて声をかける。でも顔をあげたシノンはーーー
「あはは・・・あはははは・・・すごい!気持ちいい!!」
どうやらご満悦のようで、楽しそうな笑みを浮かべている。
「ねぇ、もっと・・・もっととばして!!」
「OK・・・振り落とされないでくれよ!!」
かなり急ぎだけど、このツーリングを楽しみながら総督府へバギーを走らせていく。BoB出場のために。オレはそれに加えてーーー死銃という謎のプレイヤーに会うために。
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