英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第113話
~マインツ山道~
「さてと、山道方面にいる他の”六銃士”の勢力やランディだけど……まずは鉱山町を目指した方がいいのかな?」
地上に降り立ち、法陣を固定したワジはロイドに尋ねた。
「そうだな、マインツの様子も気になるところだし……ただ………」
尋ねられたロイドは頷いた後人形工房へと続く山道を見つめた。
「なるほど……確かにそちらも気になるね。」
「”結社”の”十三工房”の一つ、”ローゼンベルク工房”ですか。確か以前、機会があったら話を聞かせてくれるかもしれないとの事でしたね。」
「そんな事を約束できたの………」
「敵陣営である私達に話を聞かせてくれるなんて、変わった方ですね?」
ティオの話を聞いたエオリアは驚き、リタは首を傾げた。
「ふむ、ヨルグか。しばらく顔を合わせていないが相変わらず壮健そうだな。」
「ほえ??」
「へ……?」
ツァイトが呟いた言葉を聞いたキーアは首を傾げ、ロイドは驚き
「ツァイトはあのお爺さんと面識があるんですか?」
ティオは不思議そうな表情で尋ねた。
「うむ、互いの事情もある程度は知っている間柄だ。”蛇”の一員ではあるが呆れるくらい昔気質な職人でな。信用できる人物であるのは間違いないだろう。」
「そうか………」
「”結社”方面の情報も知りたいし訪ねてみる価値はありそうだね。」
ツァイトの話を聞いたロイドとワジは明るい表情をし
「マインツに向かう前によってみるのかしら?」
エオリアはロイドに尋ねた。
「ええ、そうしましょう。」
その後ロイド達は人形工房に向かった。
~ローゼンベルク工房~
「さてと……留守にしていないといいんだが。」
工房の門の前に来たロイドは考え込み
「この状況ですし、他の場所には出かけていないと思いますが……」
ティオは真剣な表情で言った。すると
「うむ、出かけてはおらぬ。」
門の近くからヨルグの声が聞こえ
「わっ……」
「あら……」
声を聞いたロイドは驚き、リタは目を丸くし
「なんか、そこの筒から聞こえてきているねー?」
声がした方向に気付いた後、筒のような物を見つけたキーアは不思議そうな表情をし
「……伝声管……かしら。」
エオリアは真剣な表情で言った。
「そろそろ来る頃だろうと思っていたぞ。」
そしてヨルグの声が再び聞こえた後、門が勝手に開き、メイド服を聞いた小さな人形がロイド達の目の前に現れた。
「わあ……!」
「可愛いですね。」
人形を見たキーアは表情を輝かせ、リタは微笑み
「案内役の人形さ。」
ワジが事情を知らないキーア達に説明した。
「入ってくるがいい。言うまでもないが、その子からはぐれたら身の保証はできんぞ?」
再びヨルグの声が聞こえた後人形は出入り口に向かって立ち止まり、ロイド達にお辞儀をした。
「……えっと………」
人形の行動にリタは戸惑い
「フ……相変わらずだな。」
ツァイトは口元に笑みを浮かべて呟き
「可愛いっ!後でお持ち帰りするわっ!!」
エオリアは目を輝かせて人形を見つめ
「お願いですから止めて下さい。」
ロイドは疲れた表情で指摘した。その後ロイド達は人形について行って、ヨルグがいる地下室に入って、ヨルグと顔を合わせた。
「―――ふむ。珍しい客人もあったものだ。久しいな、神狼よ。」
ロイド達の顔を見合わせたヨルグはツァイトに視線を向け
「そうだな、人の子よ。さすがのおぬしも随分と老けたようだ。相変わらず”蛇”どもに関わっているようだが。」
「フフ、しがらみというのは俗世でなくとも付きまとうもの。おぬしを縛っていた”盟約”とて同じようなものであろう?」
ツァイトの返事を聞いて口元に笑みを浮かべた後ツァイトに尋ね
「ハハ、違いない。」
尋ねられたツァイトは笑いながら答えた。二人の会話を聞いていたロイド達は冷や汗をかき
(なんだかとんでもなく遠い話をしてるような……)
(ああ、同じ世界の会話とは思えないな……)
ティオはジト目で呟き、ロイドは溜息を吐き
(二人とも仲良しだねー。)
キーアは無邪気な笑顔を浮かべ
(フフ、いつかエオリアさんも御二人のように凄い昔のお友達ができるといいですね。)
(う、うーん………ここは頑張ると言った方がいいのかしら?)
リタは微笑みながらエオリアを見つめ、見つめられたエオリアは苦笑していた。
「しかし星杯の守護騎士に遊撃士、それにイーリュンの修道女か………なかなか個性的な顔触れが集まっているではないか。」
「フフ、確かに。」
「言われてみればそうね。」
ヨルグの言葉を聞いたワジは静かな笑みを浮かべ、エオリアは頷き
「ねえねえ、今の言葉って褒められているのー?」
「うーん……どうでしょう?」
キーアは首を傾げ、リタは苦笑していた。
「―――ヨルグ・マイスター。お話した通り、俺達は今、この状況を何とかするために動いている最中です。特に”結社”の動きについて……何かご存知ではないでしょうか?」
「ふむ……―――既に知っているかもしれんが”結社”は今回、クロイス家の目的に協力しているだけの立場にすぎん。”結社”の計画―――『幻焔計画』は既に次の部隊へ移行しているようだ。すなわちエレボニアでな。」
「え……!?」
「……………」
ヨルグの話を聞いたロイドは驚き、エオリアは真剣な表情で黙り込み
「実際、他の使徒や執行者がそちらの方で動き始めていてね。騎士団がクロスベルにそこまで戦力を割けないのはその辺りが理由だったりするのさ。」
ワジは疲れた表情で説明した後真剣な表情になった。
「そうだったのか………」
「オリビエさんやミュラーさんが無事だといいですね……」
「……大陸全土で色々なことが起こりすぎているみたいですね。」
ワジの説明を聞いたロイドは複雑そうな表情をし、リタは目を伏せて呟き、ティオは不安そうな表情で言った。
「だが、非常に厄介な三名が未だクロスベルに残っている。それも結社の中でも指折りの実力者たちだ。」
「”道化師”カンパネルラ……そして”使徒”と呼ばれるノバルティスという博士とアリアンロードという女性ですね。」
ヨルグの話を聞いたロイドは真剣な表情で呟き
「……………」
エオリアは複雑そうな表情で黙り込み
「あの女性は一体何者なんですか?主について行ける動きや反応といい……とても人の業とは思えません。」
リタはヨルグに尋ねた。
「わしも詳しくは知らぬ。ただ、凄まじい槍技を使い、仁義にも篤い人物として”結社”では知られている。付き従っていた戦乙女たちは皆、彼女が何処からか見出した上で稽古を付けていたらしくてな。一人一人が”執行者”に迫るほどの実力を持っていたらしい。」
「あのレーヴェさんと同じくらい……」
「道理で強いはずよ……」
ヨルグの説明を聞いたティオは驚き、エオリアは疲れた表情で溜息を吐き
「まあ、”執行者”の能力は戦闘だけじゃないみたいだけど……それにしても”怪盗紳士”を含めて計7人も厄介な相手が協力してるわけか。参ったね、こりゃ……リベールの”異変”並みじゃないか。」
ワジは真剣な表情で考え込んだ後、溜息を吐いた。
「―――いや、先程上げた名前の三名だけだ。”怪盗紳士”と”第七柱”に付き従っていた戦乙女達はクロスベル襲撃の時に”黄金の戦王”や”蒼銀の魔剣姫”が窮地に陥った時に駆け付けた仲間達の手によって命を落としている。」
「なっ!?」
「あの”怪盗紳士”や戦乙女達が……」
ヨルグの話を聞いたロイドやエオリアは驚き
「……それどころか”第七柱”自身も”黄金の戦王”や”戦鬼”を名乗る者、そして他2名と戦って手酷い傷を負って撤退したそうだ。」
「きょ、局長達があの女性を退けたのですか……!?」
「まさかヴァイスさん達がそこまで強いなんて……」
「えへへ……警察の一番エライ人だから、凄い強いねー。」
「まあ……」
「へえ……あの”赤の戦鬼”との戦闘を見る限り、老人なのにとんでもない強さを持つ武人だと思っていたけど、まさかそこまで強いとはね……」
「………政治と武を兼ね備えているとは………それほどの”覇王”、滅多に存在しないだろうな。」
アリアンロードがヴァイス達に敗北した話を聞いたロイドとティオは信じられない表情をし、キーアは嬉しそうな表情をし、リタは目を丸くし、ワジは興味深そうな表情をし、ツァイトは重々しい様子を纏って呟いた。
「―――だけど、一番厄介な三人が残っているのは頭が痛いわね……」
その時エオリアは真剣な表情で呟き
「ええ…………あ。でも、協力しているだけという事は。場合によったら、クロスベルの今後の状況には深入りしない可能性が?」
エオリアの言葉に頷いた後ある事に気付いたロイドは尋ねた。
「ふむ、そうかもしれぬな。もっともノバルティスの若造は”至宝”の力を受けた人形どもに興味津々なようだ。いずれにせよ、わしの情報では彼らの今後の予定はわからぬ。」
「そうですか……」
「なかなか一筋縄では行かなさそうですね。」
ヨルグの話を聞いたロイドは溜息を吐き、ティオは不安そうな表情で考え込んでいた。
「しかし今の物言いや以前会った時の反応と言い、あの博士と随分仲が悪そうだね?」
「ケンカでもしているのー?」
その時ある事に気付いたワジがヨルグに尋ね、キーアは首を傾げて尋ねた。
「フン、否定はせん。元々レンが使役している”パテル=マテル”――――”ゴルディアス級”はわしの全てをかけて開発したものだ。それを途中で奪い去り、非道な接続試験までした挙句、勝手に弄繰り回して満足に動かぬようにしたこと……その試み自体は許されざる所業だ。今ではレンに奪われて生々しておるよ。あの幼子は”パテル=マテル”をただの兵器として使役せず、”パテル=マテル”と心を通わせて大切にしているようだしな。」
尋ねられたヨルグは鼻を鳴らして怒りの表情で答えた後口元に笑みを浮かべた。
「確かに………」
「……教団のした実験と大差ないかもしれません。」
ヨルグの話を聞いたロイドは考え、ティオは疲れた表情で言った。
「おまけに、至宝なしでは満足に移動することもできぬ後継機どもを勝手に開発して……それを”ゴルディアス級”の”最終型”などと臆面もなく言う厚かましさ……!この場にいたら、あの細首を締め上げてくれるところだ……!」
「そ、そうですか……」
そして身体を震わせて怒りの表情で言ったヨルグの話を聞いたロイドは苦笑し
「まあ、落ち着け。相変わらず作品の事になると冷静ではいられないようだな。」
ツァイトは呆れた後ヨルグを見つめて言った。
「コホン……まあ、それはともかく。いかに厚顔無恥とはいえ、応用・強化する技術にかけては天才的な頭脳を持つのは確かだ。わしが開発した人形兵器もあやつに改造・強化された上で量産されていると聞いている。噂では、それらの機体が”塔”や”僧院”などにも配備されているらしいぞ。」
「あの塔の前にいたヤツか……」
「……確かにやたらと強そうな人形だったけど。」
ヨルグの情報を聞いたワジやロイドは病院に行く前に寄った”星見の塔”の前にいた人形兵器を思い出し
「しかし、それらの場所に配備されているという事は……やはり例の”大鐘”を守っているのでしょうか?」
ティオは考え込んだ後真剣な表情で尋ねた。
「その可能性は高いだろう。あのアーティファクトらしき”大鐘”についてはわしも個人的に調べていてな。何かわかったらお前達にも教えてやってもよい。」
「えっ!?」
「ほ、本当ですか!?」
「予想外な申し出ですね……」
ヨルグの申し出を聞いたエオリアとロイドは驚き、リタは目を丸くし
「へえ……?さすがに気前が良すぎない?」
ワジは興味深そうな表情で尋ねた。
「フン……此度の顛末についてはわしも少々頭に来ているからな。ノバルティスの若造もそうだが……わしが協力していた”劇団”を無茶苦茶にされた事もある。」
「あ……………」
怒りの表情で言ったヨルグの話を聞いたキーアは不安そうな表情をし
「そういえば……舞台装置や自動人形も全て破壊されたみたいですね。」
ティオは静かな表情で言った。
「うむ、全て作り直しだろう。その意味で、”赤い星座”とやらもそれを雇ったクロイス家の当主も個人的には許しがたい。娘の方は、わしの人形の熱心なコレクターのようだが……それとこれとは話は別だからな。」
「フフ、なるほどね。」
「……わかりました。正直、とても助かります。”大鐘”について何かわかったら是非、ご連絡いただけると。」
その後ロイド達は人形の案内によって門の前まで戻って行った。
「話を聞ければラッキーくらいに思っていましたが……協力までしてくれたのは予想外でしたね。」
門まで戻ってきたティオは口元に笑みを浮かべ
「ああ、”結社”とは言っても色々あるみたいだな。」
「”剣帝”や”漆黒の牙”のように裏切って”結社”の敵になる人達もいるものね。」
ロイドとエオリアは明るい表情で言い
「まあ、だからこそ実態が掴めていない組織なんだけどね。でもあの老人に関しては信用しても問題なさそうだ。」
ワジは溜息を吐いた後静かな笑みを浮かべた。
「そうですね。私達に協力する理由もあるみたいですし。」
「みんな、仲良くできるといいねー。」
リタは静かな表情で頷き、キーアは無邪気な笑顔で言い
「ヨルグならいずれ、有益な情報をもたらすだろう。まあ、過度な期待はせずに連絡を待っているがいい。」
ツァイトはロイド達を見回して言った。
「まあ、僕達の傍に全部知っていそうな人はいるんだけどねえ?」
「え、えっと……キーアの事……?」
そしてワジは口元に笑みを浮かべてキーアを見つめ、見つめられたキーアは冷や汗をかいて苦笑し
「しつこいぞ、ワジ。―――さてと。そろそろ鉱山町に向かうか。ランディとも合流したいし、エルミナ大尉達とも接触しておきたいしな。」
ロイドは呆れた表情でワジを睨んだ後提案し
「フフ……それじゃあ行こうか。」
ワジは口元に笑みを浮かべた後頷いた。
そしてロイド達は人形工房を後にした…………
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