英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第112話
~古戦場~
「フフ、久しぶりね。」
「皆様……ご無事で……何よりです……」
猟兵が去るとエルファティシアが微笑みながらロイド達に近づき、エリザベッタはロイド達に会釈をし
「セリカから拘置所から脱出できたと聞いてはいたが……どうやら早速数人と合流できたようだな。」
「しかしまさかクロスベルに”守護騎士”が紛れていたとは夢にも思いませんでしたね。」
ヴァイスは口元に笑みを浮かべてロイド達を見回し、アルは真剣な表情でワジを見つめた。
「あ~!ロイドさん、ティオちゃん!」
その時建物の奥からフランが現れてロイド達に近づき
「フラン……!」
「やっぱり局長達と一緒にいたようだね。」
「ご無事で何よりです。」
フランを見たロイドは明るい表情をし、ワジは口元に笑みを浮かべ、ティオは静かな表情で頷いた。
「ヴァイスさん達からロイドさんが脱走した事は聞いていましたけど、本当に無事で何よりです……」
「ハハ、心配してくれてありがとう。」
安堵の溜息を吐いたフランを見たロイドは苦笑し
「ん?そちらのイーリュンの女性の方は何者だ?容姿が随分とキーアに似ているようだが……まさか人造生命体のキーアに母か姉がいるのか?」
キーアに気付いたヴァイスは不思議そうな表情でロイド達に尋ね
「キーアはキーアだよー、キョクチョー。」
キーアは無邪気な笑顔を浮かべて言った。
「何!?」
「ハアッ!?」
「ふえええええええええ~!?ほ、本当にキーアちゃんなの!?」
「一体どういう事でしょうか……?以前と比べるとあまりにも成長しすぎていますし……」
キーアの言葉を聞いたヴァイスとエルファティシアは驚き、フランは信じられない表情で声を上げ、アルは戸惑っていた。そしてロイド達はヴァイス達にキーアの事情を説明した。
「なるほど……な。まさか未来のキーアが来るとはさすがの俺も想定外だ。」
「それにしても未来の者が過去に来て、過去の者達と共に戦いを挑む歴史って………普通に考えてありえないわよ……」
事情を聞き終えたヴァイスは苦笑し、エルファティシアは真剣な表情でキーアを見つめた後溜息を吐いた。
「そういえば……リセルさんやカーリアンさん、それに他の人達が数人見当たりませんが……一体どこにいるんですか?」
「カーリアンやこの場にいない俺の仲間達についてはマインツで潜伏しているエルミナ達と共にいる。リセルはオルファン様達と共にある重要行動をしている。」
「今ここに潜伏しているのは私達の考えに賛同してくれた警官とラギール商会の”店員”達のみですよ。」
ティオの疑問を聞いたヴァイスとアルは答え
「……………いきなり姿を消したのも………いや、キーアの正体やクロイス家の野望を知っていながら、今まで見逃し………そして貴方達”六銃士”が市民達や警官、警備隊員達に慕われるように動いていたのは全てクーデターを起こし、クロスベルを奪い取る為だったのですか?」
ロイドは複雑そうな表情で黙り込んだ後真剣な表情で尋ね
「フッ、察しがいいな。――――その通りだ。”教団”の事件解決後全ての事情をリウイ達から聞き、今までこの時を待って準備をしてきた。――――クロスベルを治める”王”となる為に。」
尋ねられたヴァイスは不敵な笑みを浮かべて答えた。
「やれやれ…………まさかクロイス家の野望やキーアの正体を知った上で、動いていたとは……さすがにこれは予想外だよ……」
「クロイス家の者達もまさか自分達が掌の上だとは夢にも思わなかっただろうな……」
ヴァイスの答えを聞いたワジは溜息を吐き、ツァイトは重々しい様子を纏って呟き
「というか何でレンさん……いえ、メンフィルはディーター大統領達の野望やキーアの正体をそんな早い時期に掴めたのですか?」
ティオは真剣な表情で尋ねた。
「何でも”星見の塔”にある膨大な書物を全て書き写して、解読したからわかったそうよ。」
「”星見の塔”……!」
「そういえばあの塔にあった膨大な書物が全てなくなっていましたよね……」
「………あの塔にはクロイス家の者達が遺した書物が収められてある。恐らくそれらを解読してクロイス家の野望を知ったのだろう……」
「兵を揃えれば膨大な量の書物を写す事も簡単よね。」
「なるほど?復興のどさくさに紛れてそんな事をしていたってワケだ。」
エルファティシアの話を聞いたロイドは驚き、ティオは考え込みながら呟き、ツァイトとエオリアは真剣な表情で呟き、ワジは口元に笑みを浮かべ
「………………………」
キーアは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「なんで………なんで全てこうなるとわかっていながら黙って見過ごしていたんだ!?もし最初から知っていたなら、クロイス家の野望、マインツやクロスベル市襲撃も止められた!それに何より…………キーアにあんな悲しそうな表情や決意をさせる事もなかった!!」
その時ロイドは身体を震わせた後怒りの表情でヴァイスを睨んで叫び
「ロイド………」
「「ロイドさん……」」
キーアは心配そうな表情でロイドを見つめ、ティオとフランは複雑そうな表情でロイドを見つめた。
「――――確かに黙って見過ごしていた俺達にもある程度の責任はあるだろう。……だが、俺達が通商会議の件で二大国からの干渉を大幅に弱くしたにも関わらず、クロイス家の者達は今回の騒ぎを実行した。――――違うか?」
ロイドに睨まれたヴァイスは静かな口調で答えた後全身に覇気を纏って真剣な表情でロイドに尋ね
「―――!!」
ヴァイスの言葉を聞いたロイドは目を見開き
「……あの件は貴方達なりにディーター大統領達の野望を思いとどまらせる意味も込められていたのね………」
エオリアは重々しい様子を纏って呟いた。
「それに俺達とてまさか自国の民や兵達を犠牲にする外道な策を使ってくるとはさすがに予想していなかった。それは俺の……いや、俺達”六銃士”の誇りにかけて嘘ではない事を誓う。そして…………だからこそ俺達はディーター……いや、クロイス家の者達を根絶やしにし、クロスベルを豊かな国に築き上げる。それが犠牲になった者達にできる俺達のせめてもの手向けだ。」
そしてヴァイスはすざましい覇気を纏って決意の表情でロイド達を見つめて言い
「ヴァイスさん…………」
ヴァイスの決意を聞いたティオは複雑そうな表情をし
「……………民の屍を越え、民の為に己の”覇道”を歩み続ける………まさに”覇王”の考えだな………」
ツァイトは重々しい様子を纏って呟いた。
「…………………局長。一つ……いえ、二つだけ約束してください。その約束を守ってくれるのなら、貴方達がクロイス家の者達を滅ぼそうが、クロスベルを支配しようが、その後どんな行動をしようと構いませんし、俺達もクロスベルの為にできるだけ協力します。」
「ほう?てっきり俺達の考えを否定すると思っていたのだがな?」
真剣な表情で自分を見つめて言ったロイドの言葉を聞いたヴァイスは目を丸くし
「………悔しいですけど、ディーター大統領がいなくなり、大混乱に陥っているゼムリア大陸の状況で今のクロスベルを導けるとしたらもはや貴方達しかいない状況です。メンフィル帝国と同等の付き合いをしている貴方達ならメンフィル帝国の言いなりにはならないでしょうし……何より野心があり、今でも市民達の”希望”である貴方達はそんな事は絶対にしない。」
ロイドは疲れた表情で答えた後複雑そうな表情でヴァイスを見つめて言った。
「マクダエル議長に再び市長として返り咲いてもらう事は考えなかったのか?」
ロイドの話を聞いたヴァイスはロイドに尋ね
「…………………マクダエル議長やエリィには本当に申し訳ないですけど………市民の支持もほとんど局長達に集中している今……………マクダエル議長では今のクロスベルを導く事は荷が重すぎるでしょうし………第一ディーター大統領を失脚させた後、市民のほとんどが局長達がクロスベルを導かない事に疑問を抱くと思います………」
「ロイドさん………」
「………………………」
「まあ確かに言い方は悪くなるけど、今まで現状維持しかできなかったマクダエル議長では荷が重すぎるね。」
「ええ………ディーター大統領を失脚させれば、次はエレボニアとカルバードの侵攻が待っているでしょうしね……もはや交渉でどうにかできるレベルではないわ。」
ヴァイスの疑問にロイドは複雑そうな表情で答え、ティオは心配そうな表情をし、フランは複雑そうな表情で黙り込み、ワジは疲れた表情で言い、エオリアは目を伏せて言った。
「――――なるほど。今後クロスベルがどうなるかも理解しているようだな。………かつては支援課の一員としてお前達に世話になった礼として、お前達がしてほしいという約束を可能ならば守ってやる。―――言ってみろ。」
ロイド達の言葉を聞いたヴァイスは口元に笑みを浮かべた後ロイドに続きを促した。
「……一つはクロスベルの民達を虐げない事です。…………その中には貴方達が戦争を仕掛け、支配した地域の人々も含まれます。」
「お前達に言われなくても俺達は最初からそのつもりだ。国を豊かにし、”民”達を幸せに導くのが誇り高き”王者”の”義務”であると同時に”使命”だ。」
ロイドの言葉にヴァイスは頷き
「そしてもう一つは……キーアを…………俺達の大切な娘を貴方達の野望に絶対に利用しない事だっ!!」
ロイドは決意の表情でヴァイスを睨んで叫んだ!
「そうですね………いくらヴァイスさん達といえど、キーアに手を出す事は絶対に許しません……!」
ロイドの叫びに続くようにティオは真剣な表情でヴァイスを睨み
「ロイド………ティオ………」
二人の言葉を聞いたキーアは涙を流して二人を見つめ
「フッ………」
「フフ、親バカ、極まれり……だね。」
「とても愛されていますね、キーアちゃん………」
「それはそうよ!キーアちゃんはとっても可愛いのだから!」
ツァイトとワジは静かな笑みを浮かべ、リタは微笑み、リタの言葉を聞いたエオリアは真剣な表情で言い
「ほう………”覇気”や”王者”の風格を纏ったヴァイスハイトに物怖じせず、自分の意見をはっきりと言えるとは………中々見所のある若造だ。」
「確かに。これほど気骨がある男、中々いないでしょう。」
ガルムスは感心し、ベルは静かな笑みを浮かべて頷いた。
「――――いいだろう。この場にはいないギュランドロス達を含め……俺達”六銃士”はロイド・バニングス……いや、”特務支援課”との約束事を必ず守り続けると。お前達がキーアを取り戻したら、俺達はキーアを民の一人として守り、どのような成長を遂げるのか見守らせてもらおう。元メルキア皇帝ヴァイスハイト・フィズ・メルキアーナの名に賭けて、貴殿等との約束を必ず守る事をここで宣言する!」
ヴァイスは全身に覇気を纏って決意の表情で大剣を空へと掲げて宣言し
「―――無論、ラギール商会……いえメンフィル帝国もキーア様には一切手を出しません………ご主人様達も……キーア様の事は……被害者だと思っています……………」
ヴァイスに続くようにチキも答えた。
「………あ、あのっ、ヴァイスさん!わたし、ロイドさん達についていってもいいでしょうか!?」
するとその時考え込んでいたフランは決意の表情でヴァイスを見つめ
「フラン……?」
「理由を聞いてもいいか?」
フランの言葉を聞いたロイドは不思議そうな表情をし、ヴァイスは目を丸くして尋ねた。
「わ、わたしは皆さんみたいに戦えませんし……このままヴァイスさん達と一緒にいても肝心な時にはお役に立てませんし……だったらロイドさん達のお手伝いをした方が皆さんのお役に立てると思うんです!」
「あ、あの……”戦”は何も戦闘が全てではありませんよ?」
「ええ……後方支援も立派な役割です。」
「フランの料理、とってもうまいぞ!」
「うむ。お前がいるお蔭で私達も色々と楽ができている。」
フランの話を聞いたマルギレッタはフランを見つめて言い、マルギレッタの言葉にリ・アネスは頷いてフランを見つめ、二人に続くようにネネカとアルフィミアが言った。
「勿論、それもわかっています!で、でもわたしだって今までロイドさん達を手伝っていましたし……オペレーターならそこそこできて、そちらの方がわたしの能力を活かせると思うんですっ!何でもワジさんの飛行艇で移動しているそうですし……ヴァイスさん達と連絡を取り合う役割もできますし……どうか……!どうか、ロイドさん達に協力させてくださいっ!」
フランは必死の表情でヴァイスを見つめて言った。
「フラン……」
フランの決意を聞いたロイドは真剣な表情をし
「フム………確かにロイド達と連絡を取り合う者がいるのは助かるな……」
「それにフランの能力を考えれば、そちらの方が効率がいいでしょうし……」
ヴァイスとアルは考え込み
「うーん、確かに”メルカバ”も人手不足だから助かるんだけど。こればっかりはロイドに決めてもらわないとね。」
ワジは考え込んだ後ロイドに視線を向けた。
「………そうだな。………フラン―――君のお姉さんは現在、国防軍で働いている。俺達についてくるということは彼女と対立すること……それはわかっているのか?」
視線を向けられたロイドは考え込んだ後真剣な表情でフランを見つめ
「……は、はい……!もちろんお姉ちゃんと争いたくなんてないですけど……それでも……わたしだってクロスベル警察の警察官です!ヴァイスさん達と一緒に国防軍と対立する事を決めた時から覚悟できています!」
見つめられたフランは頷いた後決意の表情で言った。
「そうか……―――わかった。よろしく協力を頼むよ。」
「あ、ありがとうございますっ!」
ロイドの返事を聞いたフランは嬉しそうな表情で声を上げ
「フランさん、よかったですね。」
「わーい、今度はフランとも一緒だね♪」
ティオは静かな笑みを浮かべ、キーアは嬉しそうな表情をし
「フフ、アッバスの仕事も少しは楽になりそうかな。」
ワジは口元に笑みを浮かべて言った。
「話がまとまったようね……だったら、フラン。今の内に荷物をとりにいったら?着替えくらいは必要でしょう?」
「い、急いで荷物を取ってこなくちゃ!ちょ、ちょっとだけ待っててくださいね!」
そしてエルファティシアに促されたフランは驚いた後慌てた様子で遺跡内に走って行った。
「はは……」
「フム、なかなか賑やかになりそうだな。」
その様子を見ていたロイドは苦笑し、ツァイトは呟き
「メルカバの中も少しは華やぎそうだね。」
ワジは口元に笑みを浮かべて言った。
「―――そうだ、チキさん。リーシャはどこにいるんですか?」
その時ある事を思い出したロイドはチキに尋ね
「そういえばさっきから全然姿を見かけませんよね……?」
ロイドの疑問を聞いたティオは周囲を見回して不思議そうな表情をした。
「……銀様は……………ベルガード門で工作活動をする為に3日前にこちらを離れ………その後……『ベルガード門制圧作戦』に参加する予定となっておりまして………現在は……ガレリア要塞跡まで進軍し終えたご主人様達――――メンフィル帝国軍に合流し終えたと昨日の定時報告にありました………」
「なっ!?」
「まさか……メンフィル帝国軍……いや、『ゼムリア同盟軍』がついに本格的なクロスベル侵攻を始めるのかい?」
チキの話を聞いたロイドは驚き、ワジは真剣な表情で尋ねた。
「いや、今回進軍してきているのはメンフィル帝国軍とギュランドロス達率いる警備隊の混合軍だ。」
「とは言ってもメンフィル帝国軍は正規軍1個師団に加えて機工軍団が1個師団、さらに”英雄王”リウイ皇帝、”聖皇妃”イリーナ皇妃、”闇の聖女”ペテレーネ神官長、”空の覇者”ファーミシルス大将軍、”破壊の女神”シェラ元帥、”聖魔皇女”リフィア皇女、”殲滅天使”レン皇女、”ルリエンの娘”シルフィエッタ皇妃、”紅の殲滅姫(クリムゾン・ルインプリンセス)”セオビット大尉が出撃し、そこに”癒しの聖女”ティア神官長やユイドラ領主の娘達やセシルが同行している形となっています。」
「そんな……まさかリウイ陛下どころかファーミシルス大将軍やシェラ元帥まで直々に来るなんて………」
ヴァイスとアルの説明を聞いたティオは表情を青褪めさせ
「そこに加えてギュランドロス司令達率いる警備隊だろ?こりゃ、国防軍に勝ち目は一切ないどころか蹂躙か殲滅されるのが目に見えてくるよ。ただでさせ”英雄王”がいるだけでも最悪なのに、そこにメンフィル帝国軍の両翼を担う将軍もいるから、完全に”詰み”だね、こりゃ。」
「しかもセティ達やセシル姉まで同行しているなんて……!」
(一体何を考えているのかしら……?)
ワジは疲れた表情で溜息を吐き、ロイドは唇を噛みしめ、ルファディエルは考え込み
「けど、あの人形兵器に関してはどうするつもりかしら?二大国の軍も次々とあの人形兵器達によって壊滅させられたのに……」
エオリアは真剣な表情で考え込んだ。
「―――だからこそ、リウイ達は万全の陣営で挑むんだ。―――”至宝”の力に対抗できるとしたら”神”の力ぐらいだしな。」
「……なるほど。”魔神”と”姫神”の力を宿すメンフィルの王様とリフィアさん、”姫神”の継承者であるエクリアちゃん、”混沌の女神”や”妖精母神”を召喚できるペテレーネちゃんとシルフィエッタさんであの人形兵器に対抗するつもりなんですね……」
そしてヴァイスの答えを聞いたリタは納得した様子で呟き
「………確かにリウイ陛下達は”本物の神”の力を宿していますし、ペテレーネさんとシルフィエッタ姫に至っては”神”を召喚できますから、恐らく”至宝”の力でも敵わないでしょうね……」
ティオは複雑そうな表情で考え込みながら言った。
「……………リフィア殿下まで出撃しているという事は………リィンもリフィア殿下と共に出撃しているんだろうな……」
「………そういえばリィンさん、支援課の件が終わったら、リフィア殿下の親衛隊に所属するという話をしていましたね……」
「ノエルとリィンたちが戦う事になってほしくないねー……」
複雑そうな表情で言ったロイドの言葉を聞いたティオとキーアは不安そうな表情で言った。
「…………………チキさん。リーシャ………いや、”銀”には何としても戻ってもらう場所があり、”彼女”を待っている人達がいます。」
「……………察するに………ロイド様達は……銀様をアルカンシェルに戻らせろ……と……仰りたいのですね………」
そして複雑そうな表情で考え込んだ後厳しい表情で自分を見つめて言ったロイドの言葉を聞いたチキは静かな表情で呟き
「はい。」
ロイドは頷いた後真剣な表情でチキを見続けた。
「……………銀様がそちらをご希望されるのなら………別に……構いません……」
「本当ですか!?」
「驚く程あっさりと了承してくれましたね………」
「銀ほどの戦力、そんなにあっさり手放してもそっちはいいのかい?」
チキの答えを聞いたロイドは明るい表情をし、ティオは驚き、ワジは不思議そうな表情で尋ねた。
「……確かに……銀様の能力を考えると手放すのは惜しいですが………無理矢理繋ぎ止めた所では……いつか裏切られるだけでしょうし……それに……私達も………また……観てみたいですから………―――――アルカンシェルで”彼女”が輝く姿を。」
尋ねられたチキは静かな口調で答えた後微笑んだ。
「あ……………」
「チキさん……」
チキの微笑みを見たロイドとティオは明るい表情をし
「フッ、それは俺達も同感だな。」
「ええ……初めて見た時は私も彼女達の演技に惹きこまれたわ。」
「あれほどの演技、両世界を探しても観れるかどうか怪しいぐらいですものね。」
ヴァイスやエルファティシア、アルは静かな笑みを浮かべ
「フフ、裏組織に所属している割には黒月やルバーチェと違って、寛容ね。」
「まあ、ラギール商会の本来の役目は商売人ですし。」
エオリアとリタは微笑んだ。
「………ただ……”彼女”を説得できるかどうかは………貴方達次第です………彼女の憎しみや……決意は……そんな簡単には……揺るぎませんよ………?」
「―――それでも俺達は”彼女”を必ず”彼女”が待つ人達の元へ帰してみせます。」
そして真剣な表情で言ったチキの言葉にロイドは決意の表情で答え
「…………………」
キーアは優しげな微笑みを浮かべてロイドを見つめ続けていた。
「あ、みなさ~ん。」
その時、警察官の制服を身に纏ったフランが荷物を持ってロイド達に近づいてきた。
「ああ、フラン……荷物はまとめ終わったのか?」
「ええ、この通りです!」
ロイドの言葉に頷いたフランはその場で一回りした。
「フランさんの制服姿も久しぶりですね。」
「ふふ、わたしもだよ~。」
ティオの言葉にフランは嬉しそうな表情で微笑み
「さてと……そろそろ行こうか。」
「ああ。」
ワジの言葉にロイドは頷いた。
こうしてヴァイス達との協力を結んだロイド達は新たに見つかった”力場”の”隙間”――――マインツ山道に向かった。
~同時刻・ガレリア要塞跡~
「――――リウイ様。全軍、いつでも進軍できます。」
「―――こちらも準備が整いました、ギュランドロス様。」
一方その頃、ガレリア要塞跡に多くのメンフィル兵や警備隊員、さらにはメンフィル帝国の超大型戦艦――――”モルテニア”や飛行艇、メンフィル帝国に出向しているエイフェリア達が魔導兵器開発部に教えた技術によって創られた超大型魔導戦艦――――”ヴァリアント”と”フォーミダブル”が一機ずつ、2機の周囲には小型の魔導戦艦――――”ルナ=ゼバル”が約20機、さらにメンフィル帝国に出向しているオルファン達が魔術研究部に教えた合成儀式によって創られた”竜”――――”歪竜”―――”ペルソアティス”が一体、さらにペルソアティスの周囲には一回り身体の大きさが小さい”歪竜”―――”ゼラウラス”が数体空に集結している中、ファーミシルスとルイーネはベルガード門を睨んでいるリウイとギュランドロスに報告し
「そうか………」
「おう。」
二人の報告にリウイとギュランドロスはそれぞれ頷いた。
「打ち合わせ通り、俺達が例の人形兵器――――”神機”を破壊後、お前達が先陣を切り、お前達の旗色が悪くならない限り、俺達は参戦しない。それでいいな?」
「ああ。あれさえブッ壊せば、後は俺達だけで十分だ。装甲車も”銀”の工作でほとんど使えなくしてくれたから、俺達得意の白兵戦で挑めるって訳よ。」
リウイに尋ねられたギュランドロスは頷いた後不敵な笑みを浮かべてリーシャに視線を向け
「………………………」
視線を向けられたリーシャは目を伏せて黙り込んでいた。
「―――銀。お前はベルガード門に俺達より先に先行して潜入、警備隊が国防軍との戦闘を開始したらベルガード門の砦内で攪乱戦をして砦内にいる兵士達を混乱させ、ギュランドロス達の援護をしろ。」
「はい。それとリウイ陛下。本当にメンフィルと”六銃士”の混合軍がクロスベル市を制圧すればイリアさんを治療してくれるんですよね……?」
そしてリウイに指示をされたリーシャは頷いた後、真剣な表情でリウイに尋ね
「……実際その為にペテレーネとティアを連れて来た。それでも信用できないか?」
「……いえ、実際に御二方がいるのも確認させて頂きましたし、十分です。それでは手筈通り、侵入後ファーミシルス大将軍のエニグマに連絡させて頂きます。――――失礼します。」
リウイに尋ね返され、目を伏せて会釈をした後リウイ達に背を向け、跳躍して近くの木の枝に飛び移り、そこから次々と木の枝から木の枝へと飛び移って去って行った。
「………あの、ギュランドロス殿。くれぐれも国防軍の兵士達の命は……」
その時、黙り込んでいたイリーナは心配そうな表情でギュランドロスを見つめ
「大丈夫だ、全員生かしてはおくぜ。奴等はただ”神機”の”力”に目が眩んで、ディーターに従っているだけだろうしな。」
「それに彼らには後に私達の兵士として働いてもらうのですから手加減はしておきます。ですのでご安心ください、イリーナ皇妃。」
見つめられたギュランドロスは口元に笑みを浮かべて答え、ギュランドロスに続くようにルイーネが微笑み
「……銀にもそこの所も言い含めてある。だから心配するな。」
「……はい。」
さらにリウイにも言われたイリーナは静かな表情で頷いた。
「―――こちら、ファーミシルス……そう、潜入を終えたのね。ならば手筈通り時が来れば、砦内を混乱させなさい。後はそうね………混乱させる手始めに司令を無力化しておきなさい。―――――リウイ様、銀がベルガード門への潜入を終えたようです」
「そうか。―――始めるか。」
そしてリーシャが去って半刻後、エニグマでリーシャとの通信を終えたファーミシルスの報告に頷いたリウイはギュランドロスに視線を向け
「おう!」
ギュランドロスは頷いた後、リウイと共にそれぞれ用意されてある漆黒の馬にまたがり
「「――――全軍、注目!!」」
二人の行動を見たファーミシルスとルイーネは集結しているメンフィル兵と警備隊の混合軍に視線を向けて叫んだ。すると混合軍の兵士や警備隊員達はそれぞれ姿勢をただして、馬にまたがり自分達を見つめるリウイとギュランドロスに注目した。
「―――これより『ベルガード門制圧作戦』を始めるっ!!我らメンフィル……いや、誇り高き”闇夜の眷属”を侮辱すればどうなるか、暗君ディーターや国防軍に思い知らせてやれっ!!」
「全員、気合いを入れろっ!ここからが俺達『クロスベル帝国』の”覇道”の第一歩目だっ!!」
リウイとギュランドロスはそれぞれ全身に膨大な覇気を纏い、武器を空へと掲げて号令をかけ
「オオオオオオオオォォォォォォォオオオォォォオオオオ――――――――――――――ッ!!」
二人の叱咤激励に応じるかのように、混合軍に所属している兵達はそれぞれの武器を空へと掲げて辺りを轟かせる勇ましい雄たけびを上げ
「「全軍、進軍開始ッ!!」
そしてベルガード門に向けてそれぞれの武器を向けた二人の”覇王”の大号令によって、混合軍の兵士達はベルガード門に向かって進軍を開始した!
こうして二人の”覇王”率いるメンフィル帝国軍とクロスベル警備隊の混合軍による『ベルガード門制圧作戦』が始まった……………!
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