英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第105話
~クロスベル市郊外~
「女神が遣わした聖獣……?」
ツァイトから自分の正体の説明を聞いたロイドは信じられない表情で尋ねた。
「うむ、そのような存在と考えてもらうのが早いだろう。かつて女神から人に贈られた、大いなる”七の至宝(セプト=テリオン)”………それらの行く末を見守るために在り続けているのが我らだ。」
「”我ら”ってことは……ひょっとしてリベールの異変で現れたっていう”竜”も……?」
ツァイトの説明を聞いたロイドは考え込んだ後尋ねた。
「フム、さすがに聡いな。かの竜レグナートも確かに私の同胞だ。”空の至宝”を見守るためリベールの地に残っていたが……”使命”から解かれた今はどこに消えたか私にもわからぬ。」
「な、何がなんだか…………ん?ちょ、ちょっと待ってくれ!だったらどうして女神の末裔であるエステルはツァイトの事を全く知らないんだ?」
話を聞いたロイドは混乱した後ある事を思い出して尋ねた。
「女神は自分の子孫には”我ら”の存在は明かしていないどころか、自分が”女神”である事も明かしておらぬ。女神は子孫達には普通の”人”としての人生を過ごす事を望んでいたからな。かく言う私もエイドスの末裔と共にいる炎を纏いし異界の狐に教えてもらわなければわからなかったぐらいだ。」
「そうだったのか……………でもそれじゃあ、ツァイトも大昔からクロスベルの地に……?」
「うむ、1200年前の”大崩壊”の前からになるな。かつて”幻の至宝”がどうして消えてしまったか……その後、至宝を再現するためどのような事が行われたか………ある程度の事は識っている。」
「……正直、調べようにも調べきれない部分だったんだ。女神の至宝……それを受け継いだクロイス家………どうして至宝は失われ、キーアがあんな役割を背負わされる事になったのか……―――頼む。どうか教えて欲しい。1200年前の出来事を。そして500年前、キーアに何が起こったのかを。」
ツァイトの話を聞いたロイドは考え込んだ後真剣な表情で言った。
「―――よかろう。まあ、そのために私はおぬしの前に現れたのでな。」
ロイドの言葉を聞いたツァイトは返事をした後語りだした。
「この地に伝わった女神の至宝………それは”幻”を司る”虚ろなる神”と呼ばれた。
”幻”は知覚と認識を司り、更には”因果”をも制する属性だ。その力を秘めた至宝に、当時のクロイス家を中心とした人間の一派が望んだこと……それは女神の代わり………地上の”神”としての役割だった。
人を識り、地上の全てを識り、因果を御することで人間を導く………それは一見、人の欲望を無制限に叶えてしまった”空の至宝”にも通じるところがあっただろう。だが、”幻の至宝”は……高位の人格を与えられることで同じ過ちを起こさずに済んだ。
あくまで人を堕落させず、正しく導ける叡智と判断力………それをもって、人という存在を正しく導けるはずだったのだ。―――至宝そのものの”心”が限界に達しさえしなければ。
あらゆる人の性と業、あらゆる世界の不条理―――それを理解し導けるということは人と同じ”情”を持つという事だ。そして”幻の至宝”の”心”は次第に壊れ、病んでいった。このままだといずれ暴走し、守るべき人々を傷つけてしまう……そう悟った至宝は―――”悩んだ”末に一つの決断をした。
”自分”という存在の因果を解き、”この世から消滅させる”という道を。」
(お、おいおい………今の話を聞いた感じ、我輩やお前達がこの世界に転移してきた原因はまさかとは思うが……………)
(………………………恐らくそういう事でしょうね。(やっとわかったわ………”D∴G教団”の”D”の意味が……………つまり教団は”D((虚ろなる神)デミウルゴス)”の”G(グノーシス)(叡智))”を得ようとしていたのね…………………)
ツァイトの話を聞いていたギレゼルは信じられない表情をし、ルファディエルは重々しい様子を纏って黙り込んだ後呟き、そして目を細めて考え込み
「………そんな事が……でも、それじゃあ後に残された人々は………」
ロイドは溜息を吐いた後真剣な表情でツァイトに尋ねた。
「うむ―――至宝の消滅にひたすら惑い、嘆き、恐れた。そして、何故そうなったのか、至宝が何を思ってそうしたのかを省みることなく………失われた至宝と同等の存在を生み出すことに取り憑かれたのだ。
―――もちろん最初はただの手さぐりだっただろう。しかし700年に渡り、彼らは様々な知識を集めながら独自の技術を編み出していった。すなわち無から有を生み出すという”錬金術”という魔導技術を。
そして彼らは、この地で途方もなく遠大な計画を立てた。”教団”という傀儡を用意し、新たな至宝の”核”となる存在を委ねて育てさせること………そして『錬成』という概念を極限まで応用した巨大な”式”をこの地に用意すること………それが数百年前―――クロイス家の錬金術師達が始めた計画だったのだ。
それを資金的に可能にするため。彼らは『銀行家』という表の仮面を被りはじめることとなり………一方、”教団”の方は信仰対象として与えられた”核”を目覚めさせるべく轟き始めた。
そして500年の時が過ぎ――――今の状況へと至ったという訳だ。」
「………途方もない話だな。でもやっと……事件の全貌が見え始めてた気がする。―――ツァイト。マリアベルさんはキーアを”零の至宝”と言っていた。それはどういう意味だ?失われた”幻の至宝”とはまた違うものなのか?」
話を聞き終えたロイドは溜息を吐いた後真剣な表情で尋ね
「残念ながら………私もそれについてはわからない。恐らくクロイス家は1200年に渡る妄執の果てに”何か”を掴んだのだろう。それによって”幻の至宝”と同等の存在を再現するだけではなく………それを超える力を持った”零の至宝”を完成させたようだ。―――あの白き人形の力。あれは人形そのもの力ではなく、”至宝”の力とみるべきだろう。そして。”幻の至宝”にはあれだけの事を随時にやれるほどの力までは備わっていなかった。空間を消滅させる力はどちらかというと”空”の属性に由来するものだからな。あれが全てでないとすると……どれだけの潜在能力を持つのか私にも想像がつかないくらいだ。」
「…………そうか…………………―――もう一つ教えてくれ。今までの話を聞いた限り、あの子は………キーアは普通の人間じゃないんだな?」
ツァイトの説明を聞いたロイドは考え込んだ後尋ねた。
「………うむ。人にして人あらざるもの。”至宝”を再現するための”核”として創られた存在――――恐らく錬金術の奥義をもって錬成された”人造生命”だろう。」
(やはり……………)
ツァイトの答えを聞いたルファディエルは目を細め
「…………………(多分………しばらく前から知っていたんだな……………なのに俺達の前ではあんな風に笑って………キーア……………)」
ロイドは今までのキーアの様子を思い出して複雑そうな表情をした。
~タングラム丘陵~
タングラム丘陵に到着したツァイトは立ち止まり、ロイドはツァイトから飛び降りて周囲を見回した。
「ここは………共和国方面の国境か。」
「ここならば国防軍とやらも手を延ばしては来ないだろう。まずは一息つくがいい。」
「ありがとう、ツァイト。………本当に助かったよ。え――――あれは……!?」
ツァイトの言葉に頷いたロイドは結界に包まれているクロスベル市を見て驚いて声を上げた。
「クロスベル市を包み込むように出現した”結界”のようなものだ。”許された存在”については自由に出入りできるようだが…………そうでない存在は決して通すことがないらしい。人にしても、乗り物にしても。」
(厄介な結界ね……………恐らくこれほどの結界、”何か”を使って展開しているのだと思うのだけど………)
ツァイトの説明を聞いたルファディエルは考え込み
「……そんなものが………」
ロイドは厳しい表情でクロスベル市を見つめ続けていた。
「既に”プレロマ草”もクロスベル全土に咲き乱れている。今やクロスベルそのものが”至宝”と一体化してしまったと言っても過言ではないだろう。」
「”プレロマ草”というのは結局なんなんだ?地下に流れる七耀脈に関係するとは聞いたけど………」
「かつての”幻の至宝”が人と地上を識るために咲かせた眼にして依代とでも言うべきか。”至宝”と霊的に結びつくことで周囲の空間を歪ませたりもする。本来、この次元には現れない”幻獣”などが出現しているのもそのあたりが原因だろう。」
「なるほど………かつて”D∴G教団”がやってきた非道な儀式の数々………あれにプレロマ草を原料とした”グノーシス”が使われた事にも理由があったんだな?」
ツァイトの話を聞いていたロイドは厳しい表情で尋ねた。
「うむ、恐らく犠牲となった数多の被験者の知識や人格………それらの膨大な情報が”太陽の砦”に眠る”彼女”に送り届けられていたのだろう。それらの情報は自己組織化され、より高位の人格を生み出すための苗床となり……そして500年の時を経て、”至宝”の”核”は目覚めた。」
「…………………………………」
そしてツァイトの説明を聞いたロイドは疲れた表情で黙り込んだ。
「―――私がおぬしに伝えられるのはこのくらいだ。”彼ら”は周到に計画を練り上げこの状況を作りだした。その意味で、おぬしの取れる選択肢は余りにも少ないだろう。このままほとぼりが冷めるまで異国に逃れていたらどうだ?」
「はは、そうだな………カルバードだったら叔父さんの家もあるし、悪くないかもしれない。」
ツァイトに尋ねられたロイドは苦笑しながら答えた後クロスベル市を見つめ
「―――でも、止めておくよ。一番知りたい真実をまだ確かめていないからな。」
口元に笑みを浮かべて答えた。
「なに……?」
「それを確かめるためにも……俺にはみんなの力が必要だ。エリィ、ティオ、ランディ。それ以外にも大勢の力が………そのためにも俺は……”あちら側”に戻るよ。せっかくここまで送ってくれて悪いんだけどさ。」
「………………………確かめたい真実とは、何だ?」
ロイドの話を聞いたツァイトは黙り込んだ後尋ねた。
「―――決まっている。力や生い立ちに関係なく………あの子が―――キーアが”本当はどうしたいのか”って事さ。多分、あの子を取り戻さない限り、本心は教えてくれないだろうからな。」
「……………………」
「それに、かつての”至宝”が耐えられなかったほどの重圧に晒されてるかもしれないなんて………そんな環境に、うちのキーアを置いておけるわけがないだろう?大統領やアリオスさんを殴り飛ばしても――――いや、例え大統領達を殺してでも絶対に連れ戻す!」
(あら……………)
(くかかかかかかっ!さすがはロイドだ!男らしい熱い台詞だったぜ!!)
決意の表情で叫んだロイドの言葉を聞いたルファディエルは目を丸くし、ギレゼルは陽気に笑った後親指を立て
「フフ……」
ツァイトは微笑んでいた。
「アハハ、ホント親バカだなぁ。」
するとその時聞き覚えのある少年の声が聞こえてきた………!
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