英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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外伝~クロスベル独立国~
オルキスタワーでは白い軍服を着た警備隊員達が警備している中、白いスーツを着たディーター市長が高い階層の屋外で演説を始めていた。
~オルキスタワー~
「―――皆さん、ごきげんよう。この度、『クロスベル独立国』の初代大統領に就任したディーター・クロイスであります。」
ディーター大統領が演説を始めると各地区に停車されていた大きな画面がある車両の画面がそれぞれディーター大統領の姿を映していた。
「―――突然の発表で驚かれた方も多いでしょう。ですが現在、クロスベルに……いえ、このゼムリア大陸に未曾有の危機が迫っています。正義を踏みにじり、我々の尊厳を奪い取ろうとする邪悪な意志が迫っているのです。その意志は、つい先日も、このクロスベルを恐怖と哀しみのどん底に叩き落としました。
聡明な市民諸君ならば薄々、気付かれていると思いますが……私はあえて、今日この場でその勢力を名指しで弾劾しましょう。
『エレボニア帝国政府』と『カルバード共和国政府』……それがその邪悪な意志の一つです。そしてもちろんお気づきの通り邪悪の意志は一つではありません。『メンフィル帝国政府』……狡猾な犯罪組織と手を結んだ挙句マクダエル議長のご息女まで奪い取り、政治の道具として使い続ける彼らもまた、クロスベルの平和と尊厳を踏みにじろうとしているのです。
―――彼らは長年に渡り、このクロスベルを自分達の”属州”として扱ってきました。彼らがどんな犯罪を犯しても我々に追及する権利はありません。そして今もなお……豊かな税収を掠め取られる形で、我々は搾取され続けているのです。
―――ですが、それだけではありません!我々は生命の危険すら脅かされてきたのですから……!この地が、彼らの覇権を巡る争いの場であったことは皆さんもよくご存知でしょう。
あくまで昔の話?……いいえ、とんでもありません。近年、幾度となく起きていた不可解で謎めいた『事故』……それは爆発事故であったり飛行船の落下事故であったりと様々な形をとっていましたが………
―――だが!我々はどこかで気付いていた筈だ!原因不明で、泣き寝入りするしかなかったそれらの『事故』が………彼らの”暗闇”の結果であることを!そしてメンフィル帝国に異種族達!彼らと彼らに付き従う異世界の宗教こそがこのゼムリアの平和と”空の女神”を脅かす侵略者にして、我々”人間”の生活を脅かす”邪悪なる存在”である事を!
―――その意味で、我々は等しく女神の前に罪を背負っている………欺瞞と怯懦。それがその罪の名であろう。過去、犠牲になった魂に報いるためにも……!そして先日の襲撃によって傷ついた人々に報いるためにも!我々の子供達に、人間達に平和で誇り高き未来を届けるためにも!
今こそ我々は、欺瞞と怯懦を捨て、誇りと勇気をもって立ち上がらなくてはならない!」
「む、無茶苦茶だ……」
「だ、だが……確かにそう質されると……」
「そ、それよりあの”聖皇妃”どころかメンフィルを侮辱するなんて………」
「あんな事を宣言すればメンフィルが完全に敵に回るぞ……?」
ディーター大統領の演説の様子を端末で見ていた議員達は混乱し
(………ディーター君……………私の事はいくらなじってくれても構わない……だが、あの娘が……イリーナが自らの手で手に入れた幸福を否定する事だけは許せん………!そして君は………眠れる獅子よりも恐ろしく、この世で最も恐ろしい存在を敵に回してしまった………その自覚はあるのか………?)
マクダエル議長は厳しい表情で見つめた後重々しい様子を纏った。
~メンフィル大使館~
「うふふ………ついに本性を顕したようね。」
「フン、俺達がゼムリアの侵略者か。見ようによっては間違ってはいない解釈だな。」
「リウイ様とイリーナ様の仲を侮辱するなんて、絶対に許しません………!」
一方その様子を端末で見ていたレンは不敵な笑みを浮かべ、リウイは不愉快そうな表情で怒りの表情のペテレーネと共に端末に映っているディーター大統領を睨みつけ
「………………………セシルは大丈夫なのでしょうか………?」
イリーナは黙り込んだ後心配そうな表情でリウイに尋ね
「……そちらの方は心配ないだろう。先程市外に潜伏しているセリカに連絡して、念のためにセリカと共にセシルを迎えに行ったと報告が入ったからな。」
「”神殺し”と”姫将軍”………”六銃士”達が直々に育てた警備隊と違って、実戦経験もろくに無いクロスベルの軍隊じゃ束になってかかってきても大丈夫よ♪……例えその中に”風の剣聖”がいてもね♪」
「そうね………」
リウイとレンの答えを聞いて頷き、重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「―――リウイ様。既に各領にはそれぞれ兵達が集結していますが、いかがなさいますか?」
その時ファーミシルスはリウイに尋ね
「―――全軍待機だ。ただし、いつでも出撃ができるように準備をしておく事を通達しておけ。」
「ハッ。………それにしても話は変わりますが、ヴァイス殿はとんでもない取引きを我々に申し出ましたね。」
リウイに指示にファーミシルスは答えた後不敵な笑みを浮かべ
「ああ………だが、あの者達が持つ魔導技術と合成儀式の知識は俺達メンフィルの戦力を大幅に増強させる糧となり、奴等と組む事でメンフィルはこのゼムリア大陸内でさらなる国力が手に入る。それと比べればヴァイス達が出した普通なら考えられないくらいの要求も後々の事も考えれば先行投資としても安いぐらいだ。…………ヴァイス達も臣下に恵まれているな。」
「フフ………エイフェリア殿やオルファン殿達のおかげで我が軍は着々と魔導戦艦の効率的生産、今までとは比べものにならないくらいの強さの合成魔獣の量産ができていますからね。両方の力を見れるその時が今から楽しみですわ。そしてクロイス家の者達も我々やヴァイス殿達の掌で踊っているとは夢にも思わないでしょうね。」
リウイの言葉にファーミシルスは頷いた後不敵な笑みを浮かべ
「ヴァイス達が自分達の知識を教える事を交換に出してきた条件の一つ―――――遥か昔のメルキアの技術によって開発されたという”魔導戦艦”と”歪竜”、そして魔導技術と魔法技術によって生み出される軍団を俺達が作り、提供する事………それらがクロスベルに姿を現したその時こそ、ゼムリアの運命の日の始まりだな……………」
リウイは重々しい様子を纏って呟いた。
~オルキスタワー~
「―――そのために私は今日、大統領という立場に就かせていただく事になった。無論、これはあくまで迫り来る危機に対処するための暫定的な処置にすぎない。いずれ平和を取り戻した暁には選挙という形で民意に問う事をこの場でお約束させていただく。そしてもう一人……諸君も良く知るこの人物が、新生『クロスベル独立国』に協力してくれることとなった。」
一方演説を終えたディーター大統領はその場にある者に譲り
「ご紹介しよう―――先のクロスベル市襲撃においてあの”六銃士”の獅子奮迅の働きと同等の働きでオルキスタワーを死守してくれた人物………”風の剣聖”の名で知られる、遊撃士協会・クロスベル支部に所属していた元A級正遊撃士……『クロスベル国防軍』司令長官、アリオス・マクレイン君だ!」
ある者――――アリオスを笑顔で紹介した!
「―――ご紹介にあずかった、アリオス・マクレインです。いまだ若輩者ゆえ、不安に感じられる方々もいらっしゃるかもしれません。ですが、遊撃士の時以上の働きでいかなる脅威も退けることをお約束しましょう。クロスベルを守りぬく盾として………そして、正義と平和を脅かす全ての敵を打ち破る剣として……!」
紹介された白い軍服を身に纏ったアリオスは決意の表情で言った。
「実は、アリオス長官はかつては優秀な捜査官としてクロスベル警察にも所属していた。そしてギルドでは、ご存知のように国際的な案件を数多く解決してきた素晴らしい実績を持っている。その意味では、決して見当外れな人事ではないということを改めて保証させていただこう。」
「………お父さん………どうして……………」
オルキスタワーの一室で演説を聞いていたシズクは信じられない表情をしていた
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