英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第72話
~ローゼンベルク工房~
「あれは……」
「運搬車……?」
仲間達と共に工房に到着したロイドとティオは出入口付近に停まっている運搬車を見て不思議そうな表情をした。
「マイスター、本当に助かりました!何とか明後日の公演に、間に合わせられそうです!」
「まったく……お前達の劇団ときたら毎度毎度、要求が高すぎる。自動人形(オ^トマタ)の調整ならまだしも新たな舞台装置の発注まで……わしとてヒマではないのだぞ?」
「あはは……本当に申し訳ありません。何せイリアさんと劇団長からの要求が高くて……つい、あのような仕掛けまで追加発注させていただきました。」
ヨルグに睨まれた青年は苦笑しながら答えた。
「フン、まあいいだろう。……我が工房の技術、お前達の舞台に活かす方が女神の意志には適うだろうからな。」
「は、はあ……?―――それはそうと、マイスター。前々からお誘いしている通り、是非ともアルカンシェルの公演をご覧になって頂きたいんですが……いつも素晴らしい人形と舞台装置を提供して頂いているわけですし……」
「相応のミラは受け取っている。……わしは忙しいのだ。好意だけ貰っておくとしよう。」
青年の言葉に答えたヨルグは屋敷の敷地内へと入った後屋敷内に入り
「あ……はぁ。やっぱり応じてくれないか。せっかくの舞台装置、どのように使われているのか一度見て欲しいんだけど……」
ヨルグが去ると青年は呆けた後残念そうな表情で溜息を吐いた。
「……あの………」
そこにロイド達が声をかけて近づいてきた。
「おや……たしか特務支援課の?」
「あ、はい。」
「アルカンシェルの技師をされている方ですよね?」
「ええ、舞台装置を担当しているハインツです。珍しい場所で会いますね。マイスターに御用ですか?」
「え、ええ、ちょっと相談に乗ってもらいたい事がありまして。」
「そちらは舞台用の装置を受け取りに……?」
「ええ、自動人形の調整と新しい舞台装置の制作をお願いしておりまして。リニューアル公演に合わせた無茶なスケジュールでしたが何とか仕上げていただきました。いや~、劇団員一同、マイスターには足を向けて寝られませんよ。」
「なるほど……」
「そういやアルカンシェルのリニューアル舞台の初公演はいよいよ明後日なんだよなー。」
「……この間の休みに観たけど、凄かったよな……そこにさらに付け加えられるなんて、一体どんな舞台になるんだ?」
青年の話を聞いたノエルは頷き、ランディは嬉しそうな表情で言い、リィンは口元に笑みを浮かべて言った。
「ええ、イリアさんを始め、団員全員がかつてないほど気合いが入っていまして……舞台装置担当としても身が引き締まる思いですよ。」
「そうですか……」
「フフ、さぞかし凄い舞台になりそうだねぇ。」
青年の話を聞いたロイドは頷き、ワジは口元に笑みを浮かべた。
「おっと、こうしちゃいられない。早く帰ってセットしないと……――――皆さん、私はこれで!また劇場にいらしてください。」
「はい、それでは。」
「どうかお気をつけて。」
そして青年は運搬車に乗り込み、運転してロイド達から去って行った。
「しかしアルカンシェルの舞台装置を手掛けてるってのは聞いていたが……ああいう所を見ちまうと怪しげな結社に関係している工房とは思えなくなるな。」
「そうね……」
「それに結社の敵であるはずのレンさんのパテル=マテルに何の細工もせずに、直したという事ですし……一体何を考えてそんな事をしたんでしょう?」
青年が去るとランディは真剣な表情で呟き、ランディの言葉にエリィは頷き、ティオは考え込んでいた。
「……とりあえず留守じゃなくて助かった。”結社”の動きについて話をしてもらえるかどうか……とにかく聞くだけ聞いてみよう。」
「はい……!」
「フフ……虎穴に入らずんばって所かな?」
(………リウイ陛下達に報告できるような何かいい話が聞けるといいのだが………)
ロイドの提案にノエルとワジは頷き、リィンは真剣な表情で屋敷を見つめていた。そしてロイドは扉に付いていた鉄製のノッカーを鳴らした。
「―――すみません!クロスベル警察、特務支援課の者です!マイスター・ローゼンベルク!いらっしゃいますか!?」
ロイドが屋敷を見つめて大声を出すと
「……そう大声を上げずとも聞こえておる。」
ヨルグの声が聞こえてきた。
「どうやら聞きたい事があって訪ねてきたようだな。あまり時間は取れぬが……少しの間であれば話を聞いてやらんでもない。」
すると目の前に扉は開き、さらにロイド達の目の前に小さな侍女の姿をした機械人形が現れた。
「え……」
「か、可愛いっ……!」
「ローゼンベルクドール……!?」
「……自動人形のようですが……」
人形を見たロイドは呆け、ノエルは嬉しそうな表情をし、エリィは驚き、ティオは人形を見つめていた。
「その子に案内させるから中に入ってくるがいい。くれぐれも余計な場所に入るでないぞ?」
ヨルグの忠告を聞いたロイド達は黙り込み
「………………………」
人形も黙り込んでいた。
「さ、さすがに喋れないみたいだな……?」
その様子を見たロイドは苦笑し
「しっかしまあ機械仕掛けとは思えねぇぜ。」
「ああ……半機械人間であるシェラ様でさえ、人間を元として作られているという話なのに……」
ランディは溜息を吐き、リィンは驚きの表情で言った。
「へ……」
「”破壊の女神”シェラ将軍が半機械人間ってどういう事かしら?」
リィンの言葉を聞いたロイドは呆け、エリィは驚きの表情で尋ねた。
「シェラ様は若い女性の肉体を生贄にして、誕生したディル・リフィーナの先代兵器が合成された機工種族――――半機械人間なんだ。」
「なっ!?」
「い、生贄っ!?」
「…………………………………」
リィンの話を聞いたロイドとノエルは厳しい表情で声を上げ、ティオは辛そうな表情で黙り込み
「ああ……というかメンフィル機工軍団の一部はシェラ様のように人間の肉体を生贄にして生み出された半機械人間が存在すると聞いた事がある。勿論、生み出された機工種族達は主――――メンフィル帝国に絶対服従だから絶対に裏切らない。ちなみにシェラ様に直接指揮権があるのは主であるリウイ陛下か、その指揮権をリウイ陛下の後を継いだ事によって、指揮権も委託されているシルヴァン陛下だ。……恐らくリフィア殿下や後にリフィア殿下の後を継ぐメンフィルの皇帝達も将来即位した時、シェラ様の指揮権を委託されると思う。」
「そ、そんな……………」
「……その生贄になった人間って人は一体どういう人なんだい?」
真剣な表情で語ったリィンの情報を聞いたエリィは表情を青褪めさせ、ワジは真剣な表情で尋ねた。
「…………敵軍のスパイや大罪を犯し、”処刑”の判決が出た犯罪者を生贄にしていると聞いた事がある。」
「……………敵や犯罪者に対して容赦はしねえことで有名なメンフィルだが、まさかそんな事もしていたとはな……………処刑する手間を省く所か、絶対服従の戦力にする………まさに一石二鳥な方法だな………」
「で、でも……だからってそんな人権を無視した非道な事をするなんて……………」
「……”D∴G教団”が私やレンさん、幼い子供達にしていた”儀式”の対象者が犯罪者に変わったようなものですよね……」
「……………………………まさかとは思うけど、他にも”教団”の”儀式”に似たような事をしているのか?メンフィルは。」
リィンの話を聞いたランディは重々しい様子を纏い、ノエルは信じられない表情をし、ティオは複雑そうな表情で呟き、ロイドは複雑そうな表情で黙り込んだ後真剣な表情で尋ねた。
「後はそうだな……………合成魔獣もメンフィル軍の主力の一つだ。」
「合成魔獣?」
「……………魔術的な儀式によって魔物や魔獣達を合成して、強い魔物を作りだすことさ。――――元は”混沌の女神”が伝えている合成儀式だそうだ。」
自分の言葉を聞いて不思議そうな表情をしているロイドにリィンは説明した。
「なっ!?アーライナ教が!?」
「そ、そんな………――――!まさかペテレーネ様も関わっているの!?」
リィンの説明を聞いたロイドは驚き、エリィは信じられない表情をした後ある事に気付いて尋ね
「ああ。……ペテレーネ様は神官長としての仕事やリウイ陛下夫妻のお世話役としての仕事もあるから、あまり頻繁に関わっていないが合成魔獣を作りだす研究部門から助言を求められる立場だと聞いた事がある。勿論、戦時には積極的に研究部門に関わって、新たな合成魔獣を生み出しているらしい。ちなみに生み出された合成魔獣は魔術的な処置によって絶対服従の魔術をかけられているから、裏切られる心配はないと聞いた事がある。」
「……………ペテレーネさんがそんな事をしていたなんて…………正直、信じられません…………」
「やれやれ………”闇の聖女”とはよく言ったものだよ………まさか裏でそんなえげつない事をしていたとはねぇ?」
驚くべきことを聞いたティオは疲れた表情をし、ワジは真剣な表情で言った後口元に笑みを浮かべた。
「……確かにやっている事は外道と言われてもおかしくない事さ。この事を知った俺やエリゼは最初は憤りや信じられない思いを抱えたけど………だけど、それでも俺達はメンフィルに仕える者達だ。それにリウイ陛下達自身は尊敬できる皇族だし………その”外道”が国を……メンフィルを……”民”を守っている。現に俺達シュバルツァー家にも強い合成魔獣が数体配置され、有事の際はその合成魔獣達が戦力として戦い、時には味方を助けてくれるし、災害が起こった時にも援助物資を運んでくれる大きな戦力となってくれている。今では俺やエリゼもその事は割り切って、メンフィル帝国に忠誠を捧げている。」
するとその時静かな表情で語ったリィンは決意の表情で言った。
「あの清楚バリバリな雰囲気を出しているエリゼちゃんが………」
「フフ、さすがは”聖魔皇女”が親しい態度や無礼な態度で接する事を認めているだけあって、只者じゃないねぇ?」
リィンの話を聞いたランディは驚き、ワジは静かな笑みを浮かべて言い
「……考えてみればそれも”正義”の一つだよな…………正直、とても認めたくないやり方だけど。」
「そうね………その”非道”によって生み出された力が光と闇…………両陣営と対抗できる事によって、メンフィルの平和を維持できるのだから……………」
「……それに処刑する犯罪者を使っているのですから、ギリギリ人としての道は踏み外していないかと。」
「……………………………」
ロイドは複雑そうな表情で言った後溜息を吐き、エリィは重々しい様子を纏って呟き、ティオは静かな表情で呟き、ノエルは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「……さてと。話が大分逸れちゃったけど………それで君、ご主人の所まで案内してくれるのかい?」
その時ワジは話を戻した後、静かな笑みを浮かべて人形を見つめて尋ねた。すると人形はお辞儀をした後屋敷の方向に向かって行き、扉の直前で止まってロイド達を見つめて待っていた。
「い、行きましょうか。」
「そ、そうね。待たせても悪いし……」
その様子を見たノエルは苦笑し、ノエルの言葉にエリィは頷き
(”身喰らう蛇”……やっぱり底知れない相手だな。それにメンフィル帝国はその”身喰らう蛇”すらも超える相手だな……)
ロイドは一人考え込んでいた。
こうして、ロイドたちは案内役の自動人形に導かれ……………迷宮のように入り組んだ地下工房の一角へと案内された……
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