NARUTO~サイドストーリー~
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SIDE:A
第六話
ヒナタちゃん誘拐事件から一ヶ月が経過した。
今、俺は新術のお披露目のため、山奥にあるいつもの模擬戦場にやってきていた。アドバイザーとしてクーちゃんと父さん、それと母さんにも来てもらっている。
俺自身、切り札になりうる強力な術が完成したと思うが、現役の忍に評価してもらったほうが確実だし。
「じゃあ始めるよ。父さん、的になるものを出してくれない? それも結構強度があって大きいやつで」
「ん、わかったよ。……土遁 土流城壁の術!」
印を組むと地面が垂直に隆起し、目の前に絶壁が出来上がった。
「おおっ、これはいいね!」
土の壁を登り頂上から確認してみると、優に幅は十メートル近くはある。高さはざっと二十メートルといったところか。
まるでダムのように分厚い障害物だ。今から試す新術の的には丁度いい。
「これでいいかな?」
「うん、バッチリだ。結構派手な術だから一応離れていて」
三人が瞬身の術で距離を取ったのを確認した俺は絶壁から降りて少し離れる。
懐から取り出す形で【創造忍術ノート】を引き出す。転生特典の一つであるこのノートは俺が考えた設定を忍術という形で発現させることができるというチートアイテムだ。
ペラペラとノートを捲り新術の欄へ。そこに書かれている設定をもう一度読み直してイメージを固める。
(……よし、イメージはバッチリだ)
「んじゃあ、行くぜ!」
ババッと複雑な印を結ぶ。そして両手を軽く開き、掌にチャクラを集中させた。
右手には赤いチャクラが、左手には蒼いチャクラが集まる。それらは掌に収まるサイズまで収束していくと、やがて光り輝く球体へと変化していった。
右手に炎の球状チャクラ。左手に水の球状チャクラ。相容れずに反発する二つの球状チャクラを同時に投げる!
「創造忍術、偽 双腕・零次収束!」
弧を描きながら飛来する二つの球体は的となる絶壁に衝突する直前に球体同士がぶつかり合い特大のエネルギーを生む。
赤と蒼のコントラクトを彩った閃光が辺り一面を飲み込み、次の瞬間には轟音を響かせながら大爆発を起こした。
衝撃波が離れた位置にいる俺まで届いたことから、イメージ通りの威力を発揮してくれたということだ。
その証拠に絶壁があった場所を見れば、そこには土埃と土の破片しかない。木っ端微塵だ。
「どう、この術。すごいっしょ!」
どや~っと胸を張って離れた場所に退避していた父さんたちを見ると。
「…………」
「ハルト、君ってやつは……」
「これまた、すごい術を考え付いたものじゃな~」
母さんは開いた口が塞がらないといった体で唖然としており、父さんは頭痛がするのか頭を押さえていた。
クーちゃんだけだよ、素直に賞賛してくれたの。
なにか求めていた反応とちょっと違うことに釈然としない思いを感じながら、父さんたちから感想を頂いた。
「話には聞いていたけど……。ハルト、あんたどこまで強くなるつもりなのよ……」
ここまでとは正直思わなかったってばね、と呆れた顔の母さん。
まあ最低自分の身を守れてかつ大切な人も守り通せるくらいには。つまり、どこまでもです。
「ハルト、これ明らかに禁術指定になるから。滅多なことじゃ使っちゃいけないよ」
最低でも習得難易度Sランクだね、と疲れた顔の父さん。
大丈夫、相手をよく見て使うから。どっかのオカマ野郎とかね。
「いいんじゃないかのう。これなら大抵の者は一掃できよう。まあ発動までに時間が掛かり過ぎるのが弱点かの」
主が強ければ強いほど使い魔の妾も鼻が高いぞ、と何故か得意げなクーちゃん。
発動までタイムロスがあるのは仕方ないのよ。この元ネタ――というか拝借した技がそういうものなんだから。
まあ禁術指定というお墨付きはもらったからよしとしよう。これで切り札が一枚増えたな。
「んじゃあ次いくね。今度はそこまで派手じゃないからそこにいていいよ」
絶壁があった場所に印を組み新たな的を作る。
「土遁 土流壁!」
土の壁をコの字になるように三枚作り出し、さらに隙間を開けてから内側にもう三枚作って準備完了。二重のコの字になる形だ。
父さんたちも少し離れた場所に移動し、今度は何をするのだろうとハラハラした目で見ていた。ただ一人、クーちゃんだけはわくわくした表情を浮かべているが。
「んじゃあ行くね! はっ」
右太もものホルスターから特性手裏剣を三枚取り出すと、性質変化した雷遁のチャクラを一気に注ぎ込む。いつぞやヒナタちゃんを攫った男に使った雷遁の手刀。それの手裏剣バージョンだ。
一枚は正面へ、もう一枚は右へ、最後の一枚は左へ左右に弧を描くように投擲する。
ちょうど的の壁それぞれに当たるように調整して投げた俺は、間を置かずに印を結ぶ。
「手裏剣影分身の術」
それぞれの手裏剣が分裂をし始める。瞬く間に数十枚という数に達した大量の手裏剣は雷遁のチャクラによって土の壁を突き抜けた。しかし、二重構造にしたお陰で内側の壁までは貫けなかったようだ。
そして――。
「爆っ」
人差し指と中指を立てた片手印の『未』を作り、手裏剣にチャクラを送ると。
数十枚の手裏剣の側面に仕込んだ起爆札が反応し連鎖爆発を起こした。
一瞬の閃光とともに土の壁は爆音とともに内側から吹き飛ぶその光景に、ドヤァっと再度胸を張った。
「うん、今度はちゃんと控えめだね」
「この術は実戦でも有効ね」
「むぅ、ちと地味じゃないかの?」
父さんは先の術と比べて大人しめだったためホッとしている様子だった。
そしてクーちゃん。一人だけ不満そうなあんたはやっぱ派手好きなんやね。
「それで? この手裏剣影分身の術 壱式・手裏剣爆撃陣は難易度だとどのくらいになるの?」
「う~ん、そもそも手裏剣影分身が習得難易度Aランクだからねぇ。使えるのは僕と開発者の三代目だけだと思うし。それにプラスして雷遁の形質変化も加えるとなると、A+といったところかな? 起爆札は折りたたんであるのかい?」
「うん。六つ折りにして側面に貼り付けてあるよ。いやーこの手裏剣影分身の術って便利だよね。手裏剣そのものじゃなくて、付随してるものも一緒になって分身になるんだもの」
「そうだね。だからこその難易度Aなんだけどね。禁術指定のはぶっちゃけ螺旋丸だし……。しかも異なる属性を使い分けるとか僕でも出来ないんだけど? 螺旋丸って教えてないはずだよねまだ」
なんでそんな簡単に習得できちゃうのかなぁ、と頭を抱える父さん。ごめんね、【創造忍術ノート】ってイメージと設定さえしっかりしていれば結構融通が利くチートアイテムなんですわ。
某ゲームのキャラが使う奥義『双腕・零次収束』は陰と陽みたいなエネルギーを片手に溜めてそれを投げ放ち、反発する力で敵を爆砕する。みたいな技だと俺は解釈している。実際は違うかもしれないが。
それを再現しようと四苦八苦した結果生まれた設定が。
イメージ → 元ネタのままだが術者は宙に浮かない。反発する属性のチャクラを利用し、着弾時はそのチャクラの色を合わせた光が包むと同時に大爆発が発生する。
有効範囲 → 着弾場所から半径百メートル。
である。他にも印など細かな設定があるが、大きな意味を持つのは上記の二つだ。ちなみに消費するチャクラ量はどの創造忍術でも同じであるようで、大体体感的には影分身の二倍の消費量といったところ。他の人が使えば即ガス欠間違いなし。ちなみにあの球体チャクラは螺旋丸のようで違う何かです。螺旋丸使えないもの。
それと【努力するほど成長する才能】のお陰で修行が楽しいのも理由の一つだろう。日に日に実力が身についていくのが実感できるから修行に身が入るのだ。
父の背中が煤けて見えるね。
† † †
「こほん。今のハルトなら使えるだろうから僕のとっておきの術を教えちゃおうかな」
「じゃあ私も教えてあげるわ!」
まさかの展開にビックリする俺。今回は俺が開発した術を見てもらうだけのつもりだったのに嬉しい誤算だ!
「おおっ、マジで!? 教えて教えて!」
「いつも歳の割りに落ち着いているハルトだけど、こういう時は子供っぽいね」
お目目を輝かせてテンションが上がる俺に苦笑する両親。現金な子でごめんね!
「僕が教えるのは形態変化の究極形である技、螺旋丸だよ」
そう言って父さんが掌を上に向けると、その上に蒼いチャクラの球体が出現した。先ほど俺が使った『偽 双腕・零次収束』のようなそれではなく、球体の内部のチャクラは渦を巻いて乱回転しているのが分かる。父さんの十八番である螺旋丸だ。
確かに形態変化を習得している今の俺なら多少苦労するかもしれないけど、覚えるのは不可能じゃないかも。
「金剛封鎖は教えたから、私が教えるのは封印術の天動象門陣よ!」
うずまき一族は封印術を得意としているから必然的に教わるのは封印系の術になる。封印術の使い手はそんなにいないから母さんから教わる封印術は貴重な体験だ。
まずは父さんの螺旋丸から教わることになった。
「じゃあまずはこれだね」
そういって父さんが渡してきたのは何の変哲もない水風船。屋台で見かけるものそのものだ。
「この螺旋丸は僕が三年かけて開発したものでね、習得するのは非常に難しいんだ。まあハルトなら案外すぐに覚えられるかもしれないけどね。なにせ才能が半端ないから」
父さんも同じく水風船を取り出した。
「すでに分かっているかもしれないけど、螺旋丸はチャクラを掌上で乱回転させて圧縮し相手にぶつける技だ。そのため、まずは最初の段階としてチャクラを球状にするところから始める。まずはこの水風船を割ることから始めようか」
――パンッ!
一瞬、水風船がぐにゃっと歪な形にゆがむと、破裂した。中の水が落ちて地面を濡らす。
むむっ、理論は分かるしイメージも付くけど、上手くいくかな? 俺の忍術のほとんどは【創造忍術ノート】で作った奴ばかりだからなぁ。もちろん火影邸の巻物などで自力で覚えたものもあるけど。形態変化も一応自力で覚えたものだし。
「まあ続きは後でも出来るから、先に母さんから術を教わりなさい」
「ん、それもそうだな」
いそいそと水風船をポーチに入れる。このポーチ、何気に結構容量あるんだよね。
「んじゃあ早速、術を教えるわね。印は『子・丑・寅・卯・辰・卯・辰・亥・戌』よ。九喇嘛ー、ちょっと協力してちょうだい」
「む? なんじゃ」
離れた場所で木にもたれていたクーちゃんが顔を上げた。
「ちょっと封印術使いたいから九尾の姿になってくれないかしら」
「九尾の姿……。まあ言いたいことは分かるからいいんじゃが、なにか釈然としないのぅ」
憮然としながらも期待に応えてくれるクーちゃん。
この三年ですっかり家族の一員になったクーちゃんは俺の他に汐音や両親にも気を許してくれた。その証拠として真名である九喇嘛の名を呼ぶことを許している。クーちゃん呼びは相変わらず俺だけにしか許していないけど。
このようにちょっとした頼みも聞いてくれるし、案外クーちゃんって身内には優しいのよね。
巨大な狐の姿に戻るため距離を取ったクーちゃんはラフなTシャツ姿から彼女の自称正装である色打掛姿に戻ると、その体から濃密なチャクラが立ち昇った。
そして――。
『これでいいかの?』
美しい金色の毛並みを持つ巨大な狐がお座りの姿勢で俺たちを見下ろしていた。
クーちゃんの狐姿を目にするのは契約時以来だが、あの時と比べると九つの尻尾は緩やかに揺れており、理知的な目は優しい光を放っている。
あの頃はクーちゃん激怒してたからなぁ。
「やっぱクーちゃんのその姿いいねぇ。輝いてるよ!」
今度その姿で尻尾をもふらせてもらおう!
『そ、そうかの? 照れるのぅ』
テレテレと照れるクーちゃんマジ可愛い! 尻尾も嬉しそうに揺れてるし!
「じゃあハルト、よーく見てるのよ。九喇嘛もちょっと窮屈だと思うけど我慢してね」
『うむ。ほどほどにお願いするのじゃ』
「それは難しいわ。なにせ加減が利く類のものじゃないからね。……封印術・天動象門陣!」
印を結び胸の前で掌を合わせると、クーちゃんの頭上から小さな鳥居が降ってきた。
それらはクーちゃんの首、胴体、腕、脚、尻尾の計十箇所の場所に落下すると、鳥居の中央スペースにすっぽり収まってしまった。
強制的にうつ伏せの状態を強いられる形となったクーちゃんは当然ながら苦しげな声を上げた。結構ガツンッと鳥居に嵌ったから痛いんじゃないかな。
『むぅ……! こりゃクシナ! ちと苦しいぞっ』
「そりゃ封印術なんだからちょっとは我慢しなさい。それでこんな感じの術なんだけど、分かった?」
「ん、大体はイメージできた」
「よし、あとは練習あるのみね」
印も覚えたから後は反復練習だな。
術を解き役目を終えた鳥居が消えていくなか、解放されたクーちゃんはジロッと俺を睥睨してきた。
『主よ。練習するのは良いが、妾で練習するでないぞ? 何度もあんな窮屈な思いはしたくないのじゃ』
「あー、うーん……ま、それもそうだな。まあクーちゃんでなくても何とかなるでしょ」
たぶん。
さて、今後は螺旋丸と天動象門陣を中心に修行だな。影分身のレベリング方法なら遅くても一月以内には習得できるだろう。
チートスペックにものをいわせる気満々な俺だった。
† † †
「お兄ちゃんお兄ちゃん! 汐音にしゅぎょーつけてほしいってばさ!」
「おっけー。でもどうしたんだ急に?」
なんとなく庭でクナイを使ったジャグリングに挑戦していると、急にそんなことを言って我が妹が突撃してきた。
二本のツインテールを躍らせて頬を膨らませながらぷりぷりと怒っている。
ジャグリングを中止してホルスターに仕舞うと、俺の腰に飛びついてきた汐音は捲くし立てるように喋り出した。
「あんねあんね、今日みんなとしゅりけんできそって遊んだんだけどね、汐音だけがへたっぴだったの。キバくんなんか下手くそってバカにしたんだよ! だから、うんとしゅぎょーしてみんなより上手くなって、今度は汐音がキバくんを下手くそって言ってやるんだってばさ!」
なんだと! あの犬っころ、うちの汐音ちゃんを苛めるとはいい度胸じゃねぇか。
よし、この俺が下忍顔負けの手裏剣術を仕込んでやるぜ。
「よし、んじゃあ兄ちゃんが汐音を鍛えてやる。兄ちゃんが鍛えるからには一番を目指すからな」
「うん! 頑張るってばさ!」
「おっし。クーちゃーん! ちょっと汐音と出かけてくるけどどうする~?」
二階の自室に向かって呼びかけると、窓を開け放ち軽やかな動作で飛び降りてきた。
今日のクーちゃんはTシャツにタンクトップ姿で、長い艶やかな金髪を一つに括っている。健康的な引き締まった色白のふとももが眩しい。
「もちろん行くぞ。して、なにをするんじゃ?」
「汐音に手裏剣術の手解きをね」
「ほう。もう主が人に何かを指導する立場になったか。時が経つのは早いのぅ」
「クーちゃんと出会ってまだ三年しか経ってないけどね」
「くすくす、そういえばそうじゃの。もう何年も前からこうして時を過ごしてきたように感じるのは、なんとも不思議なものじゃな」
穏やかな表情で目を細めて空を見上げる。その目には一体何が映っているのか、遠い過去を振り返っているのか、俺程度ではその胸中を察することはできなかった。
「……さて。汐音、手裏剣とか取ってきな。兄ちゃんがいつも使ってる場所で練習するから」
「わかった!」
しんみりした空気を入れ替えるように手裏剣やクナイを取ってくるように指示を出す。
マイ手裏剣とクナイなどを持って来させると、飛雷神の術でいつもの模擬戦場に移動した。
一瞬で景色が変わったことにビックリしている汐音は俺の裾を掴むと、強く揺さ振ってきた。そういえば汐音は初めての経験だったな。
「お兄ちゃんお兄ちゃん! 今のなに、どうやったの!?」
「あー、今のは父さんから教わった忍術でね、汐音にはまだ早いかな。もうちょっと大きくなったら教えてあげるよ」
さて、俺も投擲術の練習は久しぶりだな。そこまで腕は鈍っていないと思うけど。
的とする木を決めたらそれを最適な大きさと形に成形する! 雷遁のチャクラを両手足に流すと跳躍し、木を二つに分断すると霞む勢いで手刀を繰り出した!
「ほあたたたたたたたたぁっ!」
――ズガガガガガッ!
素手で木々を毟り、削っていく!
あっという間に素朴な木が人型へと姿を変えていき、上半身が完成した。今回はこれでいいかな。
今後は投擲術用の藁人形とかも整備しないといけないかも。一応頭の片隅に入れておこう。
「お兄ちゃんすごーい!」
騒ぐ汐音を宥めて彼女を的の正面に立たせる。
「んじゃあ、まずは汐音の腕を見たいからやってみ」
「うん! よーし……えいっ!」
元気な掛け声とともに投げた手裏剣は一直線に的へ向かい、中心のやや外側に刺さった。
自分ではいい結果なのか、ガッツポーズを取って喜んでいる。
「少しコントロールが甘いか。んじゃあ次は二枚同時に投げてみよう」
「えー、二つは無理だよー」
「ありゃ。んじゃあ手本を見せるな」
ホルスターから手裏剣を二枚取り出し、指に挟む。
そして横薙ぎに払いながら投擲した。
弧を描きながら手裏剣は寸分の狂いなく的の急所――首と側頭部に突き刺さった。
「おー! お兄ちゃんお兄ちゃんどうやるの?」
お目目を輝かせる妹。小さな優越感に浸る兄。
とりあえず手裏剣の握り方から教えたのだった。
後書き
双腕・零次収束:Fate/Grand orderより天草四郎から拝借。
天動象門陣:原作で九喇嘛を牽制した鳥居。正式名称が分からないので術名はオリジナル。
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