NARUTO~サイドストーリー~
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SIDE:A
第五話
前書き
まさかのランキング一位w ありがとうございます。
もっと伸びろお気に入り数ぅぅぅ!(`・ω・´)
夕飯も済ませた俺は自室で椅子に体重を預けながら小説を呼んでいた。最近話題になっているフィクション小説で友人から勧められたものである。
ペラペラとページを捲る静かな音。クーちゃんはベッドでおねむ。リラックスできる安らかなひと時だ。ちなみにクーちゃんの普段着はいつもの色打掛ではなくTシャツにズボンという格好だ。あの服はここぞという時に着るものらしい。正装のようなものだろうか?
パジャマ姿ですぴすぴ眠るクーちゃんを見ながらそんなことを考えていた時だった。
「……!」
唐突に脳内へ送られてくる情報。定期的に送っていた影分身からついに連絡が来たのだった。
(ついに来たか。相手は三人ね……。クーちゃんなしでもいけるかな)
気持ち良さそうに眠る使い魔のお姉さんを起こすのは忍びない。
忍具が収納されているホルスターとポーチを素早く装備し、いつもの黒地に赤いラインが入ったお気に入りのフード付きコートを羽織れば準備万端。
印を組んで飛雷神の術を発動させた。
そして、闇が支配する森の中、大木の枝の上に転移した俺は影分身からの情報を元に虚空の向こうを注視した。
「――あれか」
視線の先には闇に紛れるようにして黒い忍装束を着た人影が、まるで鼠のようにこそこそと駆けていた。
人影のうち一人は肩に子供を担ぎ上げている。
(原作通りか……)
担がれているのは恐らく日向ヒナタちゃん。白い着物をきた小柄な少女だ。古くから続く名家、日向一族の宗主の娘である。そして誘拐犯たちは恐らく雲隠れの里の忍だ。三大瞳術の一つである【白眼】を目当てに攫ったと見ていいだろう。
今日は長年、木の葉と争っていた雲の国の忍頭が同盟条約の締結のため来日した日である。そのセレモニーが昼にあったのだ。忍は全員出席してるなか、日向家だけが欠席している。だって今日がヒナタの四歳の誕生日だからな。原作ではヒナタの誕生日に誘拐される。そのため万一を考えてヒナタの誕生日の一週間前から定期的に影分身を送り込み、警戒に当たらせていたのだ。
この森を突き抜ければ里の外縁部に出る。すなわち森を出れば、足取りを追うのは困難ということだ。
原作ヒロインの中でも一番好きだったヒナタちゃんを誘拐するとは許すまじ。今の俺に面識はないけど!
しかし見過ごすわけにはいかない。俺は人影たちの行く手を塞ぐように木の上から飛び降りた。
「――っ! 追ってか。……いや、子供?」
「なんでガキがこんなところにいるか知らねぇが、見られちまったらしょうがねぇ。大人しく死ね」
「時間は掛けられん。さっさと始末しろよ」
相手は男のようだ。現れたのが年端もいかない子供だと分かり油断しきっている。
俺自身は特に反応を示さず、ヒナタちゃんと相手の情報を分析した。
(ヒナタは微動だにしない。気を失ってる? なにか薬でも盛ったか。男たちは……チャクラ量は全員レベルCといったところ。中忍、一人は上忍クラスと暫定する)
分析完了。
コンディション――問題なし。
心の準備――初の実戦だが、すでに覚悟は決めている。
すべて問題なし! 口の悪い男を残し、ヒナタちゃんを担いだ男たちが先に進もうとするが――。
「通行止めだぜお兄さん」
瞬身の術で回り込む。
肉体活性による加速はまさに一陣の風。加速で勢いをつけた上で、さらに雷遁に性質変化させたチャクラを手に纏わせるダメだしの形態変化。雷遁のチャクラを纏うことで手刀に高周波震動を発生させる。
まるでチャクラ刀のように鉄をも寸断できるこの手刀は、あのクーちゃんから「当たれば痛い」とのお墨付きを頂いている一撃だ。
子供だと侮っていた男たちはまったく反応できずにいた。無防備な横腹に超痛い手刀を叩き込んだ。
(まずはヒナタちゃんを連れている男から排除する!)
五指をピンと伸ばした肉の刀は男の横腹を軽々と貫く。まるで豆腐のような脆さだ。
筋肉を穿ち、骨を砕いた感触が伝わってきた。
「ガァ……っ!」
空気を搾り出したかのような声にならない悲鳴を漏らし、絶命する男。
素早くヒナタちゃんを片手で抱えて瞬身の術で距離を取る。血濡れた手で触れるのは流石に可哀想だしな。
「……なに?」
「んだとっ!?」
ようやく状況を把握したのか目を瞠る男たち。
しかし、俺はそんな男たちに付き合うつもりなどさらさらなかった。
「て、てめ――」
「囀るな。大人しく死んでおけ」
ヒナタちゃんを地面に降ろしたら、再び瞬身の術で力強く大地を蹴る。
ズパンッ、と地に足跡を残して口の悪い忍の正面に移動した俺は、男がこちらの動きを目で追いきれていないことに気が付いた。
(中忍クラスと断定!)
肉体強化をしただけのただの拳を腹に叩き込む。
くの字に折れて嗚咽する男。無防備に晒している首筋目掛け、無慈悲に手刀を振り下ろした。
骨が砕ける鈍い音が響く。これであと一人。
崩れ落ちる男を一瞥することなく、振り向きざまにホルスターからクナイを取り出した。
――キィンッ!
金属同士の甲高い音が鳴り響く。首を狙っていた忍刀をクナイで防いだ音だ。
一瞬の拮抗。唾競り合いを制したのは俺だった。
「ふっ!」
体格差をものともせずに振り切り、男を弾き飛ばす。
空中で体制を整えた男は危なげなく着地した。
男の口元はマスクで覆われているためその表情を窺い知ることは出来ないが、別段動揺しているようには見えない。仲間が二人殺されても平常心でいることから、男は相当の手練のようだ。
油断なく忍刀を構えながら、男が平坦な口調で呟く。
「末恐ろしいな。その歳でこれほどの実力を持つ子供がいるとは。少年、何者だ?」
「ただの子供だよ」
「ふん。もしその言葉が本当なら木の葉の里は化け物の巣窟になるな」
「なら逃げ帰るかい? いいぜ、別に尻尾を巻いて逃げても」
「そうはいかない。受けた任務は必ず遂行するのが我らの矜持」
俺の安い挑発を鼻で笑う男。心理戦の駆け引きもできるようだ。
男を注意深く観察しながらも周囲の気配を探っていると、男の後方――すなわち里の方角から人の気配が近づいてきているのがわかった。恐らくヒナタちゃんの関係者だろう。
男も気配を察知したのか、忌々しげに舌打ちをした。
「ちっ、このままでは追いつかれるか。致し方ない、強行突破を――」
「隙あり」
「なにっ……! ぐおおぉぉぉぉぉうぅっ!?」
チラッと後方を見たのが運のツキ。僅かな隙をついて瞬身の術で接近した俺はお馬鹿な男の股間を蹴り上げた。男の急所は世界共通。
肉体活性した蹴撃に悶絶する男は白目を剥きながら崩れ落ちた。
「ヒナタちゃんは無事だし、上々の出来だな」
初の実戦という面でも。
前世も含めて始めて人の命を手に掛けたが、思っていたほど衝撃はなかった。事前に覚悟を完了していたというのもあるが、殺らなければ殺られるを地でいく世界だし。
元日本人としての感覚が大分擦れてきている現状に嘆けばいいのか判断に迷う。
(まあこの場合はよかったとするかな)
とりあえず、里の人が来るのを待ちますかね。
鼻歌を歌いながら気絶している男を鎖で縛り上げる俺であった。
「――ヒナタっ!!」
木々の間を縫いながら血相を変えた男性が一人飛び込んできた。
ヒナタちゃんと同じような着物を着ており、腰まで伸びる長い黒髪。そして、日向一族の特徴である白目。
ヒナタちゃんを追ってきた男性は誘拐犯たちが地面に倒れているのを確認すると、傍に立っている俺を見て唖然とした。まあこんな子供が他里の忍を倒したのだから無理もないか。
「こんばんは」
「あ、ああ。こんばんは。君がこの男たちを?」
「うん。偶然この子が攫われてるのを見ちゃってね。助けられてよかったよ」
そう言って木に寄りかかるようにして眠っているヒナタに目を配る。ヒナタちゃんに異常がないことを確認した男性は安堵の吐息を漏らすと、小さく頭を下げてきた。
「……ありがとう。君のお陰で娘が連れ攫われずに済んだよ。よければ君の名前を聞かせてくれるかな?」
「うずまきハルトです」
「……! そうか、君がハルトくんか。君のことは火影様からよく聞いているよ。私は日向ヒアシ。この子、ヒナタの父親だ」
ペコッと頭を下げて自己紹介すると、男性は僅かに目を見開いた。
少しだけ目尻が下がると、ちょっとだけ雰囲気が和らいだような気がした。
(やっぱりヒアシさんだったか)
原作で知った顔と同じだったからそうではないかなと思ったけれど、双子の弟であるヒザシさんも瓜二つの顔をしているから判断に迷ったんだよね。
しかし、父さんの名前が出るとは思わなかった。火影様って言ったら四代目である父ミナトを差すから。
「父さんを知ってるんですか?」
「ああ、よく知ってるよ。彼と私は親友だからね。おっと、あまり長居はしていられないな。すまないが、私たちはこれで失礼するよ。後日改めてお礼をさせてくれ」
娘を起こさないようにそっと抱き上げる。原作では実力がないヒナタを冷遇していたような気がしたけれど、俺の記憶違いか? なにぶん、もう十年以上前の知識だからかなり記憶が風化してきてるしな。
とはいえ、これしきのことでお礼を言われるまでもない。
「当然のことをしたまでですので礼なんていいですよ。それよりヒナタちゃんをお家に帰してあげてください。家の方も心配しているでしょうし」
「……そうだな。今日は本当にありがとう、ハルトくん。ああ、彼らはこちらで処分するから気にしないでいいよ」
「そうですか。それではよろしくお願いします。」
さようならー、バイバイと手を振って跳躍し、木々の枝を渡って帰宅する。流石に家族以外に飛雷神の術を見せるわけにはいかないからな。
なにはともあれ、ミッション成功だ。そうだ、確かこの近くに川があるはずだから、そこで腕の返り血を落とそう。
気分上々な俺はテンションに任せて鼻歌を歌いながら川へ向かった。
† † †
颯爽と闇に紛れる小さな背中を見送ったヒアシはヒナタを背負い、自宅へ向かっている最中だった。
「彼がハルトくんか……」
母親譲りの燃えるような赤い髪に理知的な群青色の目。六歳とは思えない受け答え。そして、上忍を含めた忍を三人も撃退する実力。
(噂には聞いていたが、とんでもない子供になったものだな。ミナト)
ミナトとは四代目火影に就任する前から交流があった。彼とは今もたまに飲みの席をともにすることがあり、よく息子娘の自慢話を聞かされている。
やれ息子はすごいだの、やれ娘は可愛いだの、やれ息子は賢いだの、やれ娘は可愛いだの、やれ息子は強いだの――。
酒の勢いもあり変なテンションで盛り上がっていた二人は互いの息子、娘の自慢話に花を咲かせ、いつしかこのような約束事を交わしていた。
『そうだ! 僕たちの子が大人になったら結婚させようじゃないか! ヒアシの娘ならうちのハルトもちょっとは大人しくなるでしょ!』
『うむ、それはいい考えだ! お前の息子ならヒナタを守り、ひいては日向に相応しい立派な大人になるだろう!』
『そうだろーそうだろー! うちのハルトはまだ六歳なのにもう僕に迫るくらい実力があるんだから万事任せとけー! あっはっはっはっはー!』
『うちの娘もまだ二歳なのにもう白眼を開眼したのだぞ! これで日向一族は安泰だな! ふはははははははっ!』
『あっはっはっはっはっはっはっ――――!!』
『ふははははははははっ――――!!』
あの時交わした約束は酒の影響もあり判断が鈍っていた。酔いが醒めても当事の約束事を覚えていたヒアシたちは話し合いの末に、本人たちが納得して了承するならとの結論に達した。
ヒアシ自身はどこの馬の骨ともしらない男に愛する娘をやるのなら、気心の知れているミナトの息子のほうがまだいい程度の認識だった。ミナトとクシナの二人なら息子を曲がった人間に育てないだろうとの信頼からの判断だ。
それにあの九尾を従者にするほどの力を持っているのだから、日向の婿として相応しい実力は有しているに違いない。そう思っていた。
だが、実際にハルトと対面し、短い間ではあったが彼と会話を交わしたことで、ヒアシの認識に若干の変化が生じた。
「ヒナタの夫は彼しかいないかもしれんな……」
もちろんヒナタの意思を尊重してだが。
スヤスヤと寝息を立てているヒナタを背負い直し、娘の未来について悩む父であった。
† † †
「あっ、そうだ。言い忘れてたんだけどハルト、婚約者いるからね」
「……は?」
ヒナタちゃんを救出した翌日。家族五人で食卓を囲みにぎやかな朝食を楽しんでいた時だった。
しれっとした顔でうちの天然親父がそんなことを言いやがった。
それまでの和やかな空気が一瞬で凍結し、まるで極寒の地にいるような寒気を感じるようになった。
主に冷気を発しているのは両サイド。うちのママンとクーさんです。
「……ミナト? 私その話初耳なんだけど?」
「主よ。まさかとは思うが、妾の知らぬうちにその女子を手篭めにしたのではなかろうな?」
あの、クーさん? なんで僕に言うんですか?
ジトッとした目を父さんと俺に送ってくる女性たち。
父さんは冷や汗を流しながら引き攣った笑みを浮かべ、俺は素知らぬ顔でトーストにジャムを塗った。だって俺悪くないし。
「いや俺も初耳なんだけど。だからクーちゃん、そんなに睨むなよ」
イチゴジャムを乗せたトーストを差し出すと、ふんっと鼻を鳴らし不貞腐れながら被りついた。
「……? お兄ちゃん、こんにゃくしゃってなに?」
「汐音はまだ知らなくていいんだよ」
口元についてるジャムを拭いてあげる。無垢な妹よ、どうかそのまま健やかに成長してください。
「それで? 一体どういうことなのかしら」
俺も気になります。婚約とか俺には無縁だと思ってたし。
コーヒーで喉を潤した父さんはのほほんとした能天気な顔で語った。
「随分前に日向の当主と飲みの席で語ったんだけどね、その……つい酔っ払っちゃってハルトと日向の姫様を婚約させちゃおうって約束しちゃったんだ。もちろん当人同士の意思が第一だから無理強いはしないけどね」
「日向?」
思いがけない名前が飛び出てきて、つい反応してしまった。
父さんはニヤニヤと変な笑みを浮かべている。
「聞いたよハルト。昨日活躍したそうじゃないか。昨夜、日向の当主がやってきてね、攫われた日向の姫様をハルトが助けてくれたって聞いたよ」
「あらまあ。すごいじゃないのハルト!」
「なんじゃと? 聞いておらんぞ主よ。なぜ妾を連れて行かなかったのじゃ!」
母さんはともかくクーちゃんは寝てたじゃないか。
「まあそれでね、お相手はヒナタちゃんっていって汐音と同い年の娘なんだけど、淑やかな娘だって聞いてるよ。まだヒナタちゃんは幼いから、六歳になったら一度お見合いしたいって先方から要望があったんだ。ハルトにとっても悪い話じゃないから、一応そのつもりでいてくれないかな?」
「六歳ってことは、あと二年後か。わかったよ。」
二年後ということは俺は八歳だな。まあ、ぶっちゃけヒナタちゃんならお見合いは前向きに考えますよ、ええ。もちろんヒナタちゃんの気持ちを優先するけどね。
「ヒナタちゃんなら大丈夫ね。ハルト、頑張るのよ!」
「気が早いよ母さん。まだお互い正式に顔合わせしてないんだから」
予想通りというか、結構婚約に対して前向きな母さん。
ぶすっと不貞腐れたクーちゃんは俺から顔を背けてお茶を啜っていた。俺は悪くないのに……。
今は話しかけないほうがいいかも。
トースト二枚でお腹一杯になったのか、こっくりこっくりと船を漕いでいる汐音を見て、ふと思い出した。
いい機会だし、いま言ったほうが良いだろう。婚約の件で父さんも断り辛いのではという淡い期待も兼ねてね。
「……ああ、そうだ。俺からも父さんにお願いがあったんだ」
「ん、なんだい?」
「ほら、俺も今年からアカデミーに通う予定でしょ。それさ、ちょっと先延ばしにしてくれないかな」
「あら、それまたどうして?」
珍しい俺からのお願いに不思議そうな顔をする両親。前世の記憶がある分、この歳になっても未だ両親に何かを強請ったのは片手で数える程度しかないのだ。
忍者を目指す子供が通う学校。通称アカデミー。入学できる年齢は五、六歳からで、俺も規定の年齢に達したため今年から通うことになっている。しかし、ある考えから、入学を二年遅らせて八歳になるまで待ってもらおうと考えていた。
理由を言おうとすると、それを制するように父さんが口を開いた。ニヤニヤした顔で。
「ああ、ヒナタちゃんと一緒に入学したいんでしょ。婚約の話をしたから意識しっちゃったかな?」
「まあ♪」
「なんじゃと!?」
「ちげーよ!」
ニヤニヤと憎たらしい笑みでからかう父。なぜか嬉しそうにする母と、ぐるんと振り向きキッと睥睨してくるクーちゃん。
もうやだこの家族……。賑やかなのはいいし退屈しないんだけど、時たますごいウザイ。
こほんと咳払いを一つして空気を入れ替えると、真剣な顔で真意を口にした。
「昨日の一件で思ったんだ。うちの里にはうちは一族や日向一族、さらには秘伝の忍術を扱う一族も大勢いる。ぶっちゃけ木の葉の里は他国からすれば宝石箱なんだよ。今回はヒナタちゃんが狙われて、偶然俺が居合わせたから事なきを得たけど、今後はそうもいかないかもしれない」
「うん、続けて」
内容が内容なだけに流石におちゃらけないで真剣に聞く両親。
「しかも戦闘力が低い子供を狙うのは常套手段だ。汐音と同年代の子たちの中にはそういった名家や旧家の子たちが大勢入学するから、当然狙われやすくなる」
「なるほど。そこでハルトも汐音たちと同じ時期にアカデミーに入ることで、密かに護衛をしようというわけだね。確かにハルトの実力は現時点で上忍並みだし、それを知っているのは僕たちの他に三代目しかいない。それに同級生なら近くで護衛できるということか」
「そういうこと。まあ考えすぎかもしれないけど用心に越したことはないでしょ。んで、どうかな?」
そう言って二人を見る。結構いい理由だと思うけど、いけるか?
不安げな心が表情に出てしまったようで母さんに頭を撫でられた。むぅ、ポーカーフェイスの修行が足りないな……。
ちなみに俺が汐音と同じ時期に入学したいと言った理由は先ほど語った内容もそうだが、それ以上に可愛い妹がちゃんと学校生活を送れるか心配だからだったりする。友達はいるらしいけど、アカデミーに入って孤立しないかとか、虐められないかとか、不安材料は一杯あるのだ。
兄である俺が近くで見守らなければならない。そう、これは兄としての勤めなのだ。
ドキドキ、と早まる鼓動を自覚しながら審判を待っていると。
「いいんじゃないかな。確かにハルトが言った話はもっともだし、現に昨日ヒナタちゃんが攫われたのだから、人知れず護衛する必要はあるね。その分ハルトなら歳も近いから怪しまれないし、実力は申し分ないから適役だと思うよ」
「そうね。しっかり者のハルトなら滅多なことは起きないでしょうし。確かハルトの同年代には名家や旧家の子はいないはずだから、汐音と一緒に入学させたほうがいいかもしれないわね」
よかった、通った……。
安堵で少し脱力した俺は背筋を伸ばし、父さんと母さんに礼を言った。
「ありがとう、父さん母さん」
「いやいや、礼を言うのはこっちのほうだよ。正直そこまで気が回っていなかったから、改めてリスクについて見直す必要性があるね」
「さすがハルトね。いい子いい子してあげる!」
「ちょっ、流石に恥ずかしいよ!」
俺を席から立たせると自分の膝の上に乗せて頭を撫でてきた。
幼子にするかのような行為に流石の俺も羞恥心が沸いてくる。ただ、やはり相手が母親だからなのか、全身を包むような安心感にも見舞われてくるわけで、ぐでんと力が抜けて脱力してしまった。
親父よ、そのニヤニヤした顔はやめろ。こっち見んな!
クーちゃんよ、なぜそんな悔しそうな顔をするんだ?
「むぅぅっ! クシナよ、主の世話は使い魔である妾が任されよう! ほれ主、頭を撫でてほしいのなら妾がしてやる。ありがたく撫でられるのだな!」
軽々と俺を抱き上げたクーちゃんはソファーに移動するとそこに座り、母さんと同じように膝の上に乗せた。
片手をお腹に回して頭を撫でてくる。背中に伝わる柔らかな感触や芳香な香りが鼻腔を擽り、否応なく女性を意識させた。まだ七歳だし精通も迎えていないから性欲を感じることはないが、異性として意識しちゃっているのが高鳴る鼓動で自覚してしまう。母さん? 母さんは肉親だよ。
わしわしと強めに髪を撫でてくる。やはり包容力のある異性に包まれると安心感を覚えるようでまたもや、ぐでんと脱力してしまう。
「ふっふふふ。あの主が妾の腕の中でこうまで無防備な姿を見せるとは……。愛いのう愛いのう」
にまにました笑みを浮かべて撫で続けるクーちゃん。反論したいけど精神が肉体に引っ張られてしまっているのか、非常に強い眠気に襲われてそれどころではない。
「歳相応な姿を見せるのって中々ないからね。ハルトが見る例の夢の影響で精神的に成熟しちゃっているから、普通の子供のように僕たちに頼ってくることもあまりないし」
「そうね。それがちょっと寂しいわね……。でもこの顔を見ると、ハルトもまだまだ子供のようで安心したわ」
もう無理、意識が落ちる。
クーちゃんの温もりを感じながら俺の意識は徐々にまどろみ、夢の世界へ旅立った。
† † †
ちなみにだが。父さんから聞いた話だと、ヒナタを誘拐した忍は抜け忍だったらしい。なんでも日向一族に個人的恨みを持っていた可能性が高く、それゆえの犯行だったという線が濃厚だとか。
抜け忍はその国の追い忍が始末するのが原則だ。今回の一件を雲の国に報告すると、当然ながら謝罪とともに手間が省けたということで感謝されたらしい。白々しいと父が顔を歪めてました。うん、十中八九、国のバックアップがあったよね。抜け忍三人が木の葉に忍び込んで誘拐なんて、普通成功しないもの。恐らくあわよくばという思惑からか、国のバックアップがあったとみられる。
――まあでも、無事解決してよかったよかった。
原作では誘拐した忍を殺すと、それを理由に雲の国が戦争を吹っかけてきたからな。それを回避するための条件として宗家当主であるヒアシさんの死体を要求してくる。もちろん応じるわけが無く、ヒアシさんの身代わりとして双子の弟であるヒザシの遺体を送り、これが日向の分家と宗家の溝の深さを物語っていた。
まあ、この世界では四代目火影である父さんが存命だし、そもそもクーちゃんによる被害もないから里の力も衰えていない。原作で無茶な要求を呑まざるを得ない背景として、四代目火影の死と九尾襲撃による国の疲弊もあり、戦争が起こると大きな被害が被るからだった。
そういった事実がないため、誘拐犯を殺してもこっちには正当防衛という大義名分があるから向こうは反論できないし。そのためヒナタ誘拐事件の一連では、ヒアシさんの遺体を要求されることもなく、逆に感謝の言葉を送られたというわけだ。
知らないところでフラグが一つ折れてよかったよかった。
後書き
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