蒼き夢の果てに
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第6章 流されて異界
第147話 温泉にて
前書き
第147話を更新します。
次回更新は、
8月10日。『蒼き夢の果てに』第148話。
タイトルは、『召喚の理由』です。
平地から比べると少し標高の高いこの旅館。
石鹸と、温泉独特の香り。そして、豊富な湯量に裏打ちされた源泉かけ流しの湯船から立ち昇る湯気が、周囲を白くけぶらせている。
まぁ、流石は現在進行形の日本式温泉旅館と言う感じであろうか。ここに華美と言う装飾がある訳でもなければ、さりとて安っぽい訳でもない。
しかし――
小さいながらも白砂と石だけで水の流れを表現する枯れ山水。
外からの視線を遮断する高い竹製の壁とその手前に植えられた植物。そして、その向こう側から至極自然な雰囲気で枝を伸ばして来る背の高い松。
この東北への道行きの天候に関しては少し雲に覆われる事もあったが、それでも本格的に崩れるなどと言う事もなく……。
その張り出した枝の上……。遙か頭上には今宵も降るような星空に、蒼の女神がその花の顔を覗かせていた。
「日常の中の非日常……と言うのは本来こう言う物であって、異世界の生命体を相手に跳んだり、跳ねたりする物じゃねぇよな」
ましてや、ひとつしかない命のやり取りをする事でもない。
露天風呂に降り注ぐ銀の光輝と、氷空を覆う溢れんばかりの星の煌めき。俺の日常と非日常の境界線にはあまりにも落差があり過ぎて、世間一般の感覚とはかけ離れているのだが……。
まぁ、偶にはこんな夜も良い。そう感じさせるに相応しい夜ではあった。
十二月二十四日。牛種の神が選び、その神によって結局は殺されて仕舞う救世主が産まれた……とされる夜。誕生日は翌日の二十五日。もっとも、実際はその年の五、六年ほど前に神の子は生誕し給われていたらしいのですが。
おそらく最初は冬至を祝った祭りを異教の祭りとして排除する為にデッチあげたテキトーでいい加減な物なのでしょう。あいつ等の得意技ですから、そう言うのは。
深いようで実は浅い知識で、汝姦淫する事なかれ、……と言う教えに真っ向から否定するしか無いような状態となっているこの国を憂う訳でもなく、ただ皮肉にそう考える俺。
あの熾烈を極めた二十一日から既に三夜。月は立待月から居待月、そして寝待月へと移行。今宵の月の出……ふたつある内の紅の方。本来、地球の唯一の衛星である方の月は、今から一時間半ほど後となる予定。
「しかし――」
十分に泡立てられたタオルを握り締めながら、自らの右手をじっと見つめる俺。
其処には、彼の夜に失ったはずの右腕……。動きは当然のように、聖なる傷痕として刻まれた紫色の痣すらも完全に再現された右腕が存在している。
もっとも、聖痕に関しては肉体に刻まれたと言うよりは魂魄に刻まれた傷痕。おそらく、今回の人生が終了するまでは、ずっと身体のアチコチに刻まれたままで生きて行くしかない。……と思う。
まぁ、肌に少々の傷が着いたトコロで、見た目が大きく損なわれる訳でもない。それに、如何にも訳有り気な傷ならば、ぱっと見、歴戦の勇士に見えるかも知れないので、大きな問題もない……んじゃないかな。
そう考えながら、湯気で曇った鏡にお湯を掛ける俺。その向こう側の世界には、左右逆となった俺が、少々不景気な面をして此方を覗き込んでいた。
少し強い視線を放つ蒼紅ふたつの瞳。もしかすると多くの女性からさえも羨望の目で見つめられているかも知れない、自然にカールした長いまつ毛。現代日本人に多く見られる、線が細い……と言われる頬から顎に掛けてのライン。すっと通った日本人としては高い鼻と、かなり濃い眉。引き締まった口元。
かなり太くて見るからに硬そうな蒼の髪の毛は、現在、洗い終わった直後でたっぷりと水分を含み、普段よりもかなりボリュームダウンをした感じか。
所謂、くっきりとした顔立ち。凹凸がはっきりとしていて、各パーツが大きめ。これで背が低ければ妙に顔がデカいライオンのような印象を相手に与えるのでしょうが、幸いにして身長も平均的な日本人からすると高目なので違和感はない。日本人の特徴として好かれやすいのっぺりとした面長でしかも小顔や、サラサラヘアーとは一線を画した雰囲気か。こう言う部分で言うのなら、俺よりも自称リチャードくんや自称ランディくんの方が余程現代日本人に近い顔立ちをしている、と言えるだろう。
表情に関しては多少問題があるけど、何時も通りの……メガネを掛けて居なくとも問題のない俺の顔が存在している。
つまり、細部まではっきり見えている。そう言う事。
結局、あの夜に負った傷の回復に二晩費やす事となったが、それでも逆に考えると、完全に失くして終ったはずの両腕と光を、たった二晩で取り返す事が出来たと言う事なので……。
ここは素直に感謝すべきなのでしょうね。科学ではない術と言う世界に対して。
何にしても、何時までも石鹸まみれのタオルを握り締めて居ても始まらない。そう考えながら鼻歌混じりに身体を洗い始める俺。耳に馴染んだシャンソンのメロディに、日本語の歌詞。本来の狂おしいまでに情熱的な内容に比べ、その訳詩の内容は……如何にも日本的な内容の歌詞。
但し、原文が芸術的に優れている、などと俺は思わないが。何にしてもむき出しの感情を見せられて引くのは、見た目は若干、違和感はあるが、精神に関しては如何にも俺が日本人だと言う事の証なのでしょうが。
俺の意見を言わせて貰うのなら、たった一人。おそらく、生涯にただ一人の相手にだけ聞いて欲しい内容を、歌にして大勢に聞かせても……。
「それにしても涼宮さん、私たちの旅費も全部弓月さん持ちで良かったのですか?」
所詮は縦のモノを横に翻訳しようとしない、ものぐさで横着な連中が芸術だと戯言をぬかしている程度の代物。……などと誉めて居るのだか、貶しているのだか分からない思考の元、気分もノリもゼッコウチョーな俺の耳に、その時、少し舌足らずの少女の声を冬の風が運んできた。
尚、戦いが終わって、俺たち全員が沈没していたあの二十二日の日曜日。一人元気だったハルヒが何をしていたのかと言うと……。
その日の朝。俺が戻るよりも前の段階で朝比奈さんや朝倉さんに、すべての厄介事が終了したから日曜日の内にこの高坂へとやって来るように、との連絡を入れて居たらしい。
如何にもいらちなアイツらしい性急な行動なのだが……。
ただ、口では何のかのと文句ばかり言っているハルヒなのだが、心の中では、ちゃんと俺が言った言葉を信用していた事がここからも窺えるので……。
……で、朝倉さんの元には、今となっては有名無実、彼女の従姉設定。実は水晶宮からの御目付け役の天野瑞希さんが居るので、そちらの方からも同じように高坂の事件は解決した、と言う情報が朝倉さんにはもたらされているはずなので、このハルヒからの情報が誤った情報ではない、と言う事は直ぐに理解出来たはず。
因って、翌十二月二十三日には、この高坂の地に北高校文芸部のメンバーが勢ぞろいする事となった。
まぁ、これで怪しげな事件を解決する為に、この東北の地へと旅行をする事がハルヒの目的などではなく、本当に皆で温泉旅行をする事の方が目的だったと言う可能性が高くなった……と思うので、取り敢えず、今のトコロ静観を決め込んでいる組織が彼女を危険な存在だと断定して、性急に事を起こす可能性はこれで更に低くなったでしょう。
彼女が望むように、何時までも俺が彼女の味方でいられる保障はない。俺には俺が決めた目的があり、それに逸脱しない限りは彼女の味方であり続ける事も出来る。
ただ……。
……などと少々深刻な内容の思考を纏めながらも、何故かハルケギニアを思い出すシャンソンのメロディを口ずさむのを止め、声の流れて来た方向……外界と、この露天風呂を仕切る壁が竹製の風情を感じさせる壁ならば、露天風呂同士を仕切る壁は枯れ山水の向こう側に立つ総ヒノキ製。そのヒノキの壁へと視線を移す俺。
そう言えば、その壁の向こう側。女湯の方は、現在閉館中のこの温泉宿に宿泊中のすべての女性陣が、ただいま絶賛入浴中……のはず。
確かに、別に示し合わせた訳ではないが、今宵、この高坂の地で催されるイベントは、この露天風呂から眺める事も出来る……と言う話だったので、この時間帯に入浴する、と言う流れが自然だと思いますから。
「気にしないで下さい、朝比奈さん」
しかし、何故か問い掛けられた相手のハルヒではなく、この旅行の始まりから妙に饒舌となった弓月さんの声が聞こえて来る。
涼宮ハルヒが率いる美少女集団の中のツートップ。ちゃんと胸を張って立てば彼女……弓月さんのソレは、確実にハルヒよりも大きく、朝比奈さんにも引けを取らない事を俺は知っている。
ハルヒやさつきのように見る者に対して積極的に訴え掛けるような派手さはない。有希や万結のように実在している事を疑わせるような儚さを持っている訳でもない。しかし、この高坂の地に入ってからの彼女――自らに纏わせた穏行の術を解いた彼女の本当の姿と言うのは、清楚な中にも凛とした何かを感じさせる少女。
但し、一度本当の姿を目にしたのなら、その後、何故かその姿を瞳で追って仕舞う事となるような、静かな蠱惑に満ちた容姿を持つ少女であった事も間違いない。
「今回の依頼は弓月の家が行った事ですから、全員分の旅費の面倒を見るのが筋です」
本来の彼女。北高校で表面上、そう見せて居る少しオドオドとした引っ込み思案な少女の姿などではない、凛とした立ち姿が似合う和の美少女の雰囲気で答える弓月さん。確かに巫女姿で弓を構える黒髪の少女の基本形と言えば、そう言う雰囲気になるのでしょうが……。
ただ、このままだと西宮に帰ってからのギャップに俺たち、と言うか、俺が困るのですが。今の彼女なら、おそらく朝倉さんよりも。もしかすると時々挙動不審となるさつきよりも頼りになるかも知れないのに、それが帰った途端に、以前の彼女に戻られると……。
……などと、ここでも非常に勝手な事を考え続ける俺。ただ、その間も休む事もなく、順序良く身体の各部分を洗って行く。
まぁ、それに、以前の弓月さんが必要以上に俺に関わって来なかった理由についても、今では多少の理由らしき物について思い当たる物がない訳でもない。
その理由が今回のSOS団……と言うか、俺に対する事件の解決依頼へと繋がるのなら、西宮に帰ってからの彼女は、俺の前だけでは今の彼女の姿を見せ続けてくれる事だけは間違いないはず。
何となく、俺だけが知っている本当の彼女……などと言う部分に、多少問題があるような気がするのだが……。
鏡に映る自らの顔を確かめるように覗き込む俺。しかし、其処に映るのは脂下がった締まりのない顔などではなく、かなり強い瞳をした少し強面と表現される顔。
大丈夫。現状の俺は未だ、自分の立ち位置を客観的に捉える事が出来ている。
タバサに召喚されてからコッチ、どうにも慣れない……所謂、ハーレム状態で自分を見失いかねない状況なのだが、未だ俺はこの状態が異常な状態だと認識出来ている。
おそらく、この一カ月の間、弓月さんは俺の品定めを行っていた。その流れの中で、今回の事件解決の依頼を行って来たのだと思われる。
さて、弓月桜の中で武神忍と言う偽名を名乗る少年の評価が、現状ではどの程度の物なのか定かではない。多分、そう悲観的に捉える必要はないと思うが、それでも彼女が求めて居る俺は、今の俺ではないのでしょう。そのギリギリの違和感が、彼女と俺の間で溝と成っている。
しかし、弓月や高坂の家の方での評価は想像に難くない。
今回のこの高坂の地で起きたアラハバキ召喚事件の顛末は、両家とも既に知っている。当然、その中で俺と弓月桜の果たした役割についても。
両家とも、この高坂の地に施された反魂封じの呪を過信し過ぎていた事は間違いないでしょう。その絶大な信頼を置いて居た呪が破られ、その挙句に封じられて居た蛇神が顕現したにも関わらず、見事に再封印が為されたのです。
もし、この両家がかつての……術に繋がる古い家としての復活を夢見るのなら、俺のような存在は咽喉から手が出るほど欲しいはず。其処に弓月桜の感情は一切考慮される事はない。
野良の術師と言うのは非常に珍しい。確かに俺は水晶宮に属してはいるが、親類縁者の類は、一九九九年に起きた地脈の龍事件の際にすべて失っている。
表面上は科学万能の世界……と思わせて置いて、見えない部分には未だ術や妖が蠢く世界が存在している。ここはそう言う世界。
ここに……世界の裏側には、個人の感情や意志などが入り込む隙間など存在する訳がない。
「みくるちゃん。そんな細かい事をいちいち気にしていたら負けよ」
男湯の方では、何やら難しい顔で色々と考え事をしながら身体を流していると言うのに、非常に能天気で、更に意味不明な内容の言葉が女湯の方から流れて来る。……と言うか、そもそもこの場合、何が勝ちで、何が負けなのかさっぱり分からないのだが……。
まぁ、弓月さんに関しては、これから先に彼女の方から積極的に関わって来る可能性が高くなった。そう結論付けても問題はないでしょう。
彼女の目的が俺の前世の記憶の復活ならば、積極的に関わる方が想い出せる可能性は高くなる。そして、それが家の目的と合致するのなら、そこに躊躇う理由はない。
……はず。
普通の男性。おそらく、十人の内、八人から九人までなら、俺の立ち位置はうらやましいはず。所謂、矢印みんなこっち向き、と言う状況に見えるから。
しかし、本当にすべての矢印が俺の方を向いて居るのか、それとも現在の俺を素通りして、ここには居ない誰か別の人間に向かって居るのか、それが俺には分からない。その部分が、今の俺が現在の自分の立場に感じて居る危うさ……と言う事。
その部分がはっきりと分からなければ。少なくとも、その部分を考え続けて置けば、浮かれて、我を見失い、結果、歴史上に名前を残す英雄たちと同じ末路を辿る心配だけはない……と思う。
何故ならば……。
有希は俺ではなく、今年の二月に出会った頃の俺を見ている。確かに、彼女の言葉を信じるのなら。そして、俺に蘇えった記憶が正しいのなら、俺と、その二月にこの世界に流されて来た武神忍と名乗る少年は≒で繋ぐ事が出来ると思う。
しかし――
タバサはおそらく、前世で預けられた僧院から彼女を攫った前世の俺を、今の武神忍と言う偽名を名乗る少年の中に見付け出している。そちらも当然、有希と同じ。
万結も同じ。彼女に今の名前を与えたのは現在の俺ではない、しかし、かつての俺。ハルヒも多分、似たような物。
すべての少女たちは皆、現実にここに存在している俺を瞳に映しながら、その向こう側にかつて俺であった存在の姿を映しているように感じて……。
この上、弓月さんも……。
確かに何もないトコロから科学的にはあり得ない記憶が蘇えったのなら、自らの記憶に対する信用度も多少は高くなると思う。しかし、俺の場合は外部の記憶媒体からインストールされた記憶だけに、それが絶対にかつての自分自身が経験した物だと言い切れない部分が存在している。
もしかすると魂の部分では全く違う、同じ位置に立たされただけの人間に、その経験を無理矢理にインストールしただけではないのか、……と言う疑問が常に付き纏い……。
「それにしても……」
くだらない事に拘っていないで現状を受け入れ、それなりに上手くやって行く方法がない訳ではない。普通の場合、そう言う風に居り合いを付けて行くのでしょうが……。
但し、それでは俺の漢としての矜持が許さない。
まして、英雄と呼ばれた人間が如何にして生き、そして死んでいったのかを理解出来るのなら、矢印みんなこっち向き。世界はすべて思うがまま。あのねぇちゃんも、このねぇちゃんも。みんなみんなワイのもんや! ……などと浮かれて居る奴に未来は絶対に訪れない事も知っているはず。
「……みくるちゃん。あなた、中々良い物を持って居るわね」
「涼宮さん?」
男湯の方では漢の矜持がどうの、英雄の末路がこうのと言う、かなりシリアスな思考が展開して居る最中、女湯の方ではどうにも下世話で、あまり高尚とは言えない会話が展開して居る気配。
具体的にはじゃぶじゃぶと言う水をかき分けるような音と、それに続く朝比奈さんの悲鳴のような声が……。
……と言うか、何をして居るんだ、あいつら。
手桶の八分目まで入れたお湯を被りながら、視線は正面の鏡から、再びヒノキの壁に。その時、
「良いじゃないの、どうせ減るモンじゃなし」
……と言うハルヒの声。何となく、その一言によりハルヒが何をして居るのか大体の想像が付き……。長い洗い髪をタオルで纏めたハルヒが、温泉の中をいやらしい手つきで指をワシャワシャとさせながら朝比奈さんを追い掛け回している様子が手に取るように分かる、のだが……。
取り敢えず、手と手を合わせて朝比奈さんが迷わず成仏出来る事を祈る俺。
何と言うか、今の女湯の方の騒動からだけでも、涼宮ハルヒと言う名前の少女が、お約束は外さない奴だと言う事が分かっただけでも重畳。それに、弓月さんや万結のソレも小さい訳ではないのに朝比奈さんに向かったと言う事は、朝比奈さんはそれだけ隙が多いと言う事なのでしょうし。
何にしても俺には関係ない。確かに、見ようと思えば見る方法は幾らでも有るが、本当にそんな事を行うと流石に徳が下がる。
やめなさい、涼宮さん……と言う朝倉さんの声とか、水音とか、妙に色っぽい嬌声とか、どうにも健全な男子高校生としては蛇の生殺しのような時間がしばらく続く。正直に言って、いい加減に術で無音状態にしてやろうか、と考え始めた時に、ようやくその騒動にも収拾が着いたのか、妙に大きな物音は聞こえなくなった。
……やれやれ。やっと終わったのか。
そう考えながら、手桶に汲んだお湯を豪快に頭から浴びる俺。まぁ、冷水ではないので頭を冷やす効果はないが、それでも、気分をリセットするぐらいの効果は期待出来るでしょう。
その時……。
「ねぇ、みくるちゃん。ひとつ聞いても良い?」
さて、準備は整ったし、そろそろ湯に浸かりながら今宵のイベント……真冬の花火大会が始まるのを待つか。身体に着いた石鹸を完全に洗い流し、風呂用の椅子から立ち上がろうとした俺。その俺の耳に、再び女湯の方から話し声が聞こえて来た。
「その胸の所にあるのは痣?」
ハルヒにしては珍しく歯切れの悪い問い掛け。問うても良いか、それとも止めるべきか。そんな、少し迷ったような雰囲気だとは思うのですが……。
「痣ですよ、涼宮さん」
何となく、蝶々が羽根を広げたみたいで可愛いでしょ?
しかし、聞かれた方の朝比奈さんは別に気にした風もなく、普段通りの口調と声のトーンで答えを返した。
確かに胸の部分ならばそう目立つ訳でもないので、わざわざ手術などを行って取って仕舞う必要もない……とは思う。そもそも、他人に対して積極的に見せるような部分でもない。
ただ……。
痣。それに羽根を広げた蝶々のような形。其処に引っ掛かりを感じる。いや、これは非常に厄介な事態が起きつつあるのではないか、と言う不安に近い感情と言うべきか。
アレは確か羽ばたく物。例えば鳥とか、蝶が羽ばたく姿が顕われる事が多い……と話に聞いて居たのだが……。
「朝比奈みくるが時間跳躍能力者である可能性がある事は、水晶宮の方でも既に確認済み」
後書き
弓月桜とか、相馬さつきの後ろの部分をちゃんと表現するには平安編をやるしかないのですが……。
今の処、時間がない。取り敢えず、彼女らに付いては別の機会で。今はハルケに戻ってからの聖戦と、あの世界の結末を最優先に。
完全に余談となるのですが……。当初、西宮は大坂に分類されるんじゃないかな、と考えていたんですよ。
大いなる者土に返る……の呪が使えるかな、などと考えていたのだけど、大坂には分類出来ない事が分かり、架空の地、高坂を作る事となったのでした。
……はてさて。何故、ここでこんな事を言うのでしょうかねぇ。
私は小説家などではなく、ゲームマスター。それもキャンペーンを中心に行うタイプの。この辺りから推測すると答えが見付かるかもね。
平安編には当然、有名な播磨守が……。
それでは次回タイトルは『召喚の理由』です。
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