ナマハゲ
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第二章
「そこで私達知り合ってね」
「職場結婚だったな」
それで今は大阪の西淀川区にある社宅、奇麗なマンションみたいなそこに住んでいるのだ。三人の部屋は三階にある。
「それはいいんだよ、ただな」
「休日はお外に出て」
「昼も起きてろ、何でそんなに寝るんだ」
「寝るのが好きだから」
「三年寝太郎か、読書なりゲームなりして小雪を見守っていてくれ」
ずっと一緒に母娘で寝ているのではなくだ。
「一緒に寝て何かあったら起きるって怠け者もいいところだぞ」
「小雪ちゃんずっと寝てるのに?」
「母親が一緒になるな、だからそんなに寝てたらな」
それこそとだ、また言った羽久だった。
「ナマハゲ来るからな」
「ここ大阪なのに」
「大阪でも出るんだよ」
羽久は強く言った、食後のソファーで向かい合っての家族の団欒は何時しか力説の場になってしまっている。
「あの妖怪はな」
「秋田の妖怪でしょ」
「元々漢の武帝が連れて来たんだよ」
日本の秋田までだ、そうした伝説が残っている。
「あの人が中国からな、だから秋田から大阪に来るのもな」
「有り得るっていうの」
「はるばる中国から来たんだからな」
「というかそれ嘘でしょ、漢の武帝とかって」
幾ら何でもとだ、由貴は夫に反論した。
「紀元前の人じゃない、その人がどうやって日本に来たの?しかも皇帝のお仕事放置して」
「そこまで知るか、とにかくナマハゲはな」
はるばる中国から来ただけありというのだ。
「秋田から大阪まですぐに来るからな」
「それで怠け者を怒りに来るっていうのだ」
「そうだ、そんな生活してたら本当に来るからな」
「来ないわよ」
夫の力説にだ、由貴は明るく笑って返した。
「大阪には。まあ来たらね」
「その生活あらためるか」
「その時はね、じゃあこれから食器洗うから」
娘を夫に手渡した、そのうえで立ち上がって言った。娘はよく寝ている。
「それから小雪ちゃんと一緒にお風呂に入るわね」
「今日もか」
「一緒に入って奇麗になってくるわね」
「ああ、そういえば肌のツヤいいな」
「だって一日の半分寝てるから」
「寝過ぎだ」
またこう言った夫だった、だが由貴は結局休日も寝て夫は憮然として家でゲームをしていた。由貴は小雪をいつも連れて背負いもして午前中で家事を終えて昼食後は夕食を作る時まで娘と一緒に寝ていた。そうした生活を続けていたが。
ある日の午後だった。冷房の効いたリビングのソファーで娘を向かい側のソファーに寝かした上ですやすやと眠っていると。
不意にだ、こんな声が聞こえてきた。
「泣く子はいねえか!」
「悪い子はいねえか!」
「怠け者はいねえか!」
「?テレビつけっぱなしだったのかしら」
由貴は声に目覚めて最初はこう思った、だが。
その声が何の声かわかってだ、夫の言葉を思い出した。
「これってまさか」
「ここにいたか!」
「怠け者の女房はここか!」
「寝てばかりの女房はここか!」
黒いザンバラ髪の赤鬼と青鬼だった、夏なのに蓑を着ていて手には包丁がある。誰がどう見てもという格好だった。
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