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ナマハゲ

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第一章

                 ナマハゲ
 牧瀬羽久は妻の牧瀬由貴に夜こんなことを聞いた。
「次の休み何処に行く?」
「家でお昼寝でいいじゃない」
 由貴は夫の問いに即座にこう答えた。
「お休みだったら」
「おい、家族で何処かに行かないかって言ったんだぞ」
 羽久は細面の痩せた顔を呆れさせて妻に問い返した。目は小さく唇は薄い。中背だが痩せていて撫で肩だ。黒髪の毛をセンターに分けている。
 由貴は大きな目で睫毛が長い。目の色は黒だが髪は地で金髪であり癖っ毛である。その髪の毛を胸の先まで伸ばしている。背は一六〇程で胸は普通だが脚はすらりとしている。肌は白い。大阪生まれだが父親がオーストラリア人なのでその血を引いているのだ。かつての姓はアルテミュラーといったが今は夫の姓になっている。白のポロシャツに黒のスラックスの夫に対して由貴の服は青と白の縞模様の浮気と半ズボンに白の靴下である。
 その妻にだ、夫は彼女が抱いている黒髪の赤子、二人の子供である小雪を見つつ言ったのだった。
「俺は」
「だからね」
「家で寝ようかっていうのか」
「だってお外に出てもお金使うだけだし」
「だから寝るのがいいっていうのか」
「寝るのって最高じゃない」
 由貴は平然と夫に言った。
「気持ちいいし身体も休めるしお金も使わないし」
「あのな、そう言って一日何時間寝てるんだ?」
「六時に起きて羽久君起こして十二時まで家事やお買い物してお昼食べて六時半まで小雪ちゃんと一緒にお昼寝して」
「六時間は寝てるな」
「小雪ちゃんが泣いたらおむつ替えたりお乳あげてるわよ」
 今度は抱いている娘をいとしげに見ながら言った。
「これでも母親だから」
「そこから晩御飯作ってか」
「あなたが帰ってきたら食べて小雪ちゃんとお風呂入ってね」
 風呂は夫と交代で娘を入れているが実際は由貴が一緒に入る方が多い。
「家事の残りやって十二時には寝てるわね」
「合わせて十二時間睡眠か」
「小雪ちゃんの面倒は見てるわよ」
「あのな、一日十二時間ってどれだけ寝てるんだよ」
「いいじゃない、お金使わないから」
 寝ていると、というのだ。
「こんないい趣味他にないわよ」
「寝過ぎだろ、休日もそうなんてな」
「寝るのが極楽っていうじゃない」
「たまには外出しろ、あと昼寝もし過ぎだろ」
 六時間はというのだ。
「どれだけ寝るんだ」
「寝て悪いの?」
「小雪に絵本読んであげたりな、一緒にずっと寝ていてどうするんだ」
「だって私寝るの好きだから。ずっと一緒にいるわよ」
「そういう問題じゃない、午後も家事をするなり娘を身守るなりしてな」
「要するに働けってことね」
「そりゃ御前は家事は得意だがな」
 料理は色々と味よく作られて洗濯も掃除も奇麗にしている、家族で住んでいる社宅の部屋はトイレも風呂場もいつも奇麗だ。
「しかしな」
「寝過ぎっていうのね」
「それだけ寝てるとナマハゲ来るぞ」
 羽久は自分の生まれ故郷秋田の妖怪を出した。
「昼寝ばかりしてたら怠けるなって怒ってな」
「起きて何かしろっていうのね」
「そうだよ、一日十二時間寝てるとかないからな」
「寝るのがいいのに」
「せめて起きて何かしろ、休日も一緒に何処に行くぞ」
 昼寝ばかりでなくというのだ。
「本当に寝てばかりだとナマハゲになるぞ」
「そんなこと言ったら」
 口を尖らせてだ、由貴は羽久に言い返した。
「ここ大阪じゃない、あなた秋田生まれで私横浜生まれだけれど」
「お互い大学は関西で就職こっちだったからな」
「八条運送大阪支社ね」
 本社は大阪にある。 
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