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狐火

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第一章

                 狐火
 二人の小柄な少女が大阪市阿倍野区の晴明神社に来た、二人は神社に来るなり境内をキョロキョロと見回しだした。
 一人はショートヘアを金髪にしていてはっきりした大きな目を持っている。もう一人は茶髪を波立たせて伸ばしている。二人共発育はまだ中学生のものだが黒のスカートは短くさせていて夏服の白のブラウスとリボンの着こなしもラフだ。
 その二人がだ、晴明神社の中を見回して言うのだった。
「やっぱり雰囲気あるなあ」
「そやな、歴史感じるわ」
「ちゅうかここやったら出そうやな」
「ほんまにな」
「?あんた達どうしたんだい?」
 二人にだ、神社の境内に散歩で来た白い口髭を顎髭を伸ばしている痩せた老人が声をかけてきた。茶色の毛の柴犬と三毛猫と白猫を連れている。服は薄着で膝までのズボンとシューズが若作りだ。
 その老人がだ、二人に声をかけたのだ。
「ここにはじめて来たのかい?」
「ちょっと神戸からな」
「部活で来てん」
 二人の少女は老人にすぐに答えた。
「八条町の方から」
「そうしたんや」
「八条町って長田区やな」
 八条区と聞いてだ、老人は言った。
「そこから来たんかいな」
「電車でな」
「はるばる来たね」
「うち等八条学園中等部の二年や」
「オカルト研究会の部員は」
 二人は老人に自分達から名乗った。まずは金髪の少女そして茶髪の少女の順だった。
「金元葵や」
「村川彩菜や」
「ここに狐火出るって聞いて来たんや」
「それ観にな」
「そうなんかいな」
 老人は二人の名乗りを聞き終えてから頷いた。
 そのうえでだ、自分が連れている犬と猫達をいとしげにあやしながらまた尋ねた。犬も猫達も二人の少女を見ているが吠えたり警戒したりする様子はない。飼い主の傍にいて離れない。
「ここで狐火観に来たって言うたな」
「ここ安倍晴明さん縁の神社やろ?」
「あの人お母さんが狐やっていうし」
「そのせいか狐火が時々出るって聞いてん」
「丁度夕方から夜になる時にな」
「携帯で撮影もするで」
「現状ツイッターで実況もしてるんや」
 二人は老人に自分達が持っている携帯も見せて説明する。
「狐火が出るかどうか」
「リアルで今もやってるで」
「狐火なあ」
 老人は二人の能天気な、如何にも軽く浅く考えている様子を見てから答えた。
「ここは確かに出るで」
「この時間に」
「そやな」
 神社は今から夕刻にある闇が深くなろうとしていた、まさにそうした時間だ。
 その時間も見つつだ、葵と彩菜は老人にまた言った。
「ネットで実況するさかい」
「神社の何処に出るか教えてくれへん?」
「ここほんまに出るで」
 老人は二人に答えた。
「わしも見たことあるわ」
「話はほんまやねんな」
「来たかいあったわ」
「ほな何処に出るん?」
「よかったら教えて」
「今日は帰った方がええで」
 老人は二人にこう返した。
「今日も出るけど止めた方がええ」
「何でや?」
「狐火出るんやったら是非観てネットで中継や」
「うち等その為に来たんやし」
「そやったら止める道理ないやん」
「狐やとそんなに怖ないし」
「別にとって食わへんやろ」
 二人は老人の制止に首を傾げさせて問い返した。 
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