元虐められっ子の学園生活
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夜道を歩く
「人という字は、人と人とが支え合って出来ている」
そう言ったのは誰だっただろうか。
実際にこの文字、一人でも作れてしまうのだ。なのに何故、二人の人員を用いて支え会わなくてはならないのか。
「人は一人では生きてはいけない」
これもまた、有名どころの言葉である。
確かにその通りだろう。一人で生きられるようになるのは、働くことができるようになったらだと思う。
それから先は自己責任。何をやっても責任が付きまとい、自分の道を決めていくのだろう。
が、しかし。
一人では生きていけないと言いながらも、誰かに固執するのはどうなのだろうか。
「誰かが居ることで、私は安心できる」と、そんな言葉は只のエゴでしかない。
束縛し、自由にさせない。これは人の尊厳を踏みにじる行為ではないだろうか。
もしもこの言葉が正論であり、人は一人では生きてはいけないという言葉を肯定してしまうのであれば、誰しもが『ヒモ』と言う状態に陥り、最終的には誰も働かなくなってしまう。
しかしながらそこの辺りは社会。
そうなる者とそうならない者が区別され、良悪の対応をされる。
中には、不本意でこうなってしまったと言う者も居るだろう。
だがそういった叫びは戯れ言として足蹴にされるのだ。
働かない者達への不評不満を否定する訳ではないが、私は今、この社会が正しいのか、酷く不安に思っている。
はっはっはっ、と一定のリズムで呼吸が行われる。
現在走っている俺は、比企谷たちが宿泊するホテルへと向かっているわけだが、走り出してから二時間ほど経過し、辺りは暗くなり始めていた。
「到着…」
それからもう少しの間走り続け、目標地点へと到着した訳だが…。
「君は馬鹿かね」
玄関前に仁王立ちしている平塚先生に出くわした。
「親御さんから金銭を受け取っているだろうに、何故タクシーを使わなかった?」
「ふぅ…『生徒の自主性を尊重する』という校則のもと、自分の足で張り切っただけですね」
「君は…全く。もうすぐ夕食の時間になる。
中へ入って待機していたまえ」
はーい、と返事をして玄関をくぐる。
中はそこそこに綺麗で、正にホテルと言える内装だった。
「ん?鳴滝…来ないんじゃなかったのか」
「おお、比企谷。
これはあれだ。とあるお節介と陰謀による根回しで来ざるを得なくなったんだ」
「…そうか。
明日は奉仕部で回ることになってるが、行けそうか?」
「ああ。
海老名の事も含めて一緒に行くぞ」
その後、由比ヶ浜とも合流し、夕食となったのだが、飯はそんなに旨くなかった。
小一時間ほどし、ホテル内を見回っていたら、お土産コーナーにいる比企谷と雪ノ下を見つけた。
雪ノ下に至っては雪ノ下陽乃の事もあり、顔を会わせにくいと感じてしまう。
「あら、聞いてはいたけれど、来ていたのね」
「おう」
「お前は風呂に行ったのか?」
「いや、俺は一人で入る。こんな体だからな」
「「………」」
ふむ、気を使わせたか。
しかしこう言うことも来たくない理由のひとつにあったんだよな。
「明日は…ん?」
「どうした…あれは…」
比企谷が口を開いた途端にある方向を向いたので、俺もつられてそちらをみた。
その方角には如何にも変装をしている様子の平塚先生が…。
「何やってんだよ…」
「っ…お前達…」
見つかった!とでも言いたそうな平塚先生は、暫く黙ると「ついてこい」と言って歩き出した。
俺達3人も、訝しげながら着いていくことにし、玄関前に駐車してあったタクシー乗って向かった先は―――
「ラーメンですか…」
屋台のラーメン屋に到着した。
「うむ!ここのラーメンが美味いと評判でな!」
誇らしげに胸を張る平塚先生。
そう言えばこの人夕食の時居なかったな。
「よし!では入るか!」
まるで何かに挑むように、俺達を引き連れた平塚先生は、店前の椅子に腰かけるのだった。
ホテル付近のコンビニ前。
俺、比企谷、雪ノ下の3人は、ラーメン屋からタクシーで送られ、途方にくれていた。
と言っても余りにも呆気ない時間に、余韻に浸る暇がなかったのだが。
「ラーメンなんて、初めて食べたわ…」
「あの人はラーメンにかなりの拘り持ってるからな…寧ろ初めてがハズレじゃなくて良かったと思うぞ」
確かに。あの旨味はかなりの修行を積んだとみた。
「取り合えず歩こうぜ。
さっさと帰らにゃ、部屋の誰かに捜索でもされそうだからな」
「おう…」
しかし、こうして歩くのも以外と新鮮な感じがする。
何時もの四人で其々組み合わせで歩く事は何度かあったものの、夜に出歩くと言うのも合わさり、普段ない心地よさと言うものが沸いてくる。
「……」
「?」
ふと、俺と比企谷の前を歩いていた雪ノ下が立ち止まり、信号の方か歩道の方かで視線をさ迷わせていた。
「(そういや方向音痴だっけか…)信号渡るぞ」
「そ、そう…」
俺は先導して信号を渡り、雪ノ下の前に出る。
比企谷は何故か前に出てこず、俺、雪ノ下、比企谷と言う順番で再び歩き始めた。
「…そう言えば鳴滝の妹もフラフラしてたな」
「陽菜のことか?あれはもう手を繋いでいないと危ういレベルだ」
「そうね…いつの間にかはぐれそうになっていたわ」
二人とも、恐らく由比ヶ浜の誕生日の件について言っているのだろう。
警備員に連れていかれた後、そんなことになっていたとは思わなかった。
「迷惑かけたな」
「いいえ。とても楽しかったわ」
「そうだな。二人を探すのに手間取ったしな」
「っ…誰の子とかしらね」
「さて、誰のことか」
歩きながらも、二人して楽しそうに話す。
たまに見る、入れないなと思う空気がそこにあった。
「ほれほれ、そんなに離れるとまた迷子になるぞ」
「さ、先に行ってくれて構わないわ」
「いや、別に先に行く意味も大して無いだろ。直ぐそこだし」
比企谷が指差した方向には、ホテル【平安の林】の玄関から漏れる光がちらついていた。
「あなた達はそうでも、私は困るの…」
「何が?」「ん?」
「その…こんな時間だし、一緒にいるのを見られると…その…」
「っ…!そ、そうか」「…?」
いってる意味が分からない。
修学旅行なんだから、良いわけなら「買い物にいってました」ですむんじゃないのか?
「(なぁ、何が困るんだ?」
「(は!?わかんねぇのかよ…」
「(良く分からんが、誰かに見られるのが困ると言うのはわかった。
けどそれの何が嫌なんだ?」
「(お前…」
こそこそと小声で話す俺と比企谷。
そうしているうちにホテル前までたどり着いてしまい、気づけば解散の流れになっていた。
「じゃあな」
「ええ、おやすみなさい」
「腹出しぃっ!」
俺も一声かけようと、声を発したところで比企谷につねられた。
「その、送ってくれてありがとう」
俺の痛みなど露知らず、何事もなかったように雪ノ下は部屋へと歩いていった。
「何しやがる…」
「待て、俺はお前を助けてやったんだ」
「……どう言うことだ」
「良く考えろ。
お前は恐らく『腹を出して寝るなよ』と言おうとしただろう?」
「ああ」
「そんなことをアイツに言ってみろ。
小一時間、もしくは明日にでも制裁が待っていることは想像に固くない」
「……た、助かった…!」
その後風呂に入って寝た。
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