真田十勇士
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巻ノ五十 島津家の領地その八
「火山は迷惑じゃが」
「はい、あの山は見事ですな」
「実に見事ですな」
「よい山です」
「勇壮ですな」
「島津家に相応しい」
その桜島を見ての言葉だ。
「まさにな」
「ですな、あの山は」
「まさに島津家ですな」
「そして島津の兵」
「そのものですな」
「大きい、あの山を見られたことも」
まさにというのだ。
「よいことじゃ」
「ではあの山を観つつ」
「そうしてですな」
「薩摩にもですな」
「行きますな」
「うむ」
こうした話をしつつだ、主従は大隅を観て回った。
そして次は薩摩に向かうつもりだった、彼等の隠密行動は慎重でありしかも的確で見破られるものではなかった。
しかしだ、幸村は言うのだった。
今彼等は山の中で狩った猪を鍋にして食している、その鍋は。
穴をくり抜きそこで石を焼き水を入れ石の熱で湯にしてそれで肉を煮ている。その猪の肉を食べつつ言うのだった。
「まだな」
「軽率ですか」
「そうしたものがありますか」
「我等の動きには」
「拙者もな」
幸村もというのだ。
「まだな」
「しかしです」
「見付かっていませんが」
「ばれていませぬ」
「我等が隠密とはです」
「見破られていませぬが」
「確かにな」
その通りとだ、幸村も答える。
「見破られていたならな」
「すぐにですな」
「その場で刀を抜かれていますな」
「島津家の流儀では」
「そうなっていますな」
「間違いなくな、しかしそれはない」
今のところはというのだ。
「それは確かじゃ、しかしな」
「それでもですか」
「我等はまだ軽率ですか」
「そして殿ご自身も」
「そう言われますか」
「若しここに人が多く」
即ち兵がというのだ。
「主な将帥、特に四兄弟がいれば」
「見破られていた」
「そうなっていましたか」
「我等は」
「そうなっていますか」
「おそらくな、そう考えるとな」
どうしてもというのだ。
「危うい」
「左様ですか」
「では薩摩に入るとですな」
「これまで以上にですな」
「慎重に」
「そうすべきですな」
「うむ」
その通りという返事だった。
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