ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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日常編1
第63話竜と雪乃
竜side
2025年5月24日土曜日、神鳴家
オレは今、現実世界の自宅にいる。《ザ・シード》で新生ALOに《浮游城アインクラッド》が実装されてから早一週間。ALOでソードスキルが使えるようになったり、飛行の高度制限が解除されたり新しい楽しみが色々増えた。オレは今日留守番を任されてるからログインすると空き巣やらが入ってくるかもしれないからALOには行けないが、今日くらいはまだ大丈夫かな。
ちなみに未来は今日は弾とデートに行っていて、父さんと母さんも二人でデートにーーーもう結構いい年なんだから、あんまり外でイチャイチャしないでくれよ?龍星も学校の仕事か総務省にいるかもだし、今日は完全にオレ一人ーーーって訳でもないか。
「おはよう、竜くん」
「・・・おはようございます、雪乃さん」
来月にお腹の子を出産する龍星の奥さんでオレの義姉、雪乃さんがいる。来月出産ってだけあって、お腹も大分大きくなった。一応龍星と雪乃さんの家は別にあるんだけどーーー産まれるまで家にいたいそうだ。
「やっぱりまだ『義姉さん』って呼んでくれないの?」
「すいません。まだ、ちょっと慣れなくて・・・」
「いいのいいの!そう呼びたくなったらでいいの!」
正直言うと、まだ義姉が出来た事に戸惑ってる。もう雪乃さんと出会ってから四ヶ月は経ったのにも関わらず。もしかしたらーーーいや、オレたちがSAOにいる間に新しい家族が現れた事で、自分の知っていた環境が変わったのかもしれない。家族が増えるのは悪い事じゃないのに、嬉しい事のはずなのにーーー
「・・・ケンブリッジにいた頃から、あなたの事をよく話してたわ。リューセー」
「え?」
あいつ、雪乃さんにオレの話を聞かせてたのか?あんまり覚えてないけど、そこまで良い思い出なかったけどなーーー
「確か・・・『ボクが小4で竜が小1の時に、竜が自分のスペック高いのに調子に乗ってたから泣かしたろーって勝負挑んだら返り討ちにされた』って」
「ああ・・・」
なんかあったな、そんな事。龍星も兄としてプライドが許さないのか、その後も何回か勝負挑んできたな。20回超えた辺りで数えるのすらめんどくさくなったから厳密には覚えてないけどーーー
「確か他にも色々勝負挑んで負けたって言ってた。そっくりそのまんま言うと・・・『じゃんけん725敗、しりとり31敗、将棋59敗、オセロ51敗、チェス10敗、U○O含むトランプゲームは累計279敗、テレビゲームは累計189敗、他にも双六8敗、麻雀4敗、遊○王カード52敗、マジカルバナナ18敗、まだまだあるけどそれら全部含めてボクは弟に何回負けたと思う?』・・・って言ってたかな。私は何回負けたのか恐る恐る聞いてみたの」
「全部覚えてやがるのか・・・」
アイツーーー
「そしたら・・・『通算0勝4254敗だし』って」
マジキモイんですけど。つーか雪乃さんは何でそんなの覚えてんだよ。というか雪乃さん分かってるのか?そんな4254敗も勝負挑む奴だ。龍星ーーーアイツ相当なドMだぞ?
「その時、龍星が相当なドMだって分かったわ」
ちゃんと分かってたみたいだな、アイツがドMだって。流石にドン引きだっただろーーー
「それで私、こう思ったわ・・・『カワイイ♪』ってね。それからハートに火が点いたわ」
あ、この人ドSだ。
「お腹のこの子の時も私が主導だったし。あっ、でも後半戦逆転されちゃったな~・・・/////」
「あの、思春期の高校生男子にそういう事言うのやめてください」
というかそれ以前に『~隻腕の大剣使い~』が削除されるんでやめてください。とにかく話を反らさないとーーーそうだ。ケンブリッジの頃の龍星を知ってるって事はーーー
「雪乃さんも、ケンブリッジにいたんですか?」
「ええ・・・最初は少し生意気な年下の男の子だと思ったわ」
まあ実の父親ですら小馬鹿に出来た奴だ、そこまで他人に興味を示さなかったのかもなーーーあれ?だったら何で雪乃さんと結婚したんだ?
「・・・聞きたい?」
「え?」
「私とリューセーの馴れ初め♪」
馴れ初めーーー確かにこんな美人さんとはいえ、あの他人を猿と同列にまで見下してた龍星が雪乃さんに惚れたのか気にならなくもない。恥ずかしいエピソードだったら今後アイツを弄るネタになりそうだし、そうだなーーー
「・・・聞かせてください」
「う~ん。そうねー・・・出会ったのはケンブリッジの入学式の時ね」
オレと雪乃さんはリビングの向き合うように設置してあるソファーに座って、雪乃さんと龍星が出会って、今こうして夫婦になるまでの馴れ初め話を始める。
「当時の私は16歳。イギリスの高校を飛び級・首席で卒業して、ケンブリッジに入学したの。そこで新入生の中に一人、私と同じ日本人の男子がいたわ」
「それが龍星?」
「ええ」
そうか、雪乃さんと龍星は大学の同級生だったのか。しかも雪乃さんは入学当時16歳って、雪乃さんも天才少女だったって事か。
「当時リューセーは15歳、中学を卒業してイギリスの高校に留学・・・それどころか、入学から3ヶ月で飛び級を重ね卒業したの」
身内からしてもメチャクチャだなーーー
「今でこそ言えるけど、その時私は少しひねくれてたの。『何であんな子がこの一流大学に入れたのか』、『何で私があんな奴に劣るんだ』って。リューセーは私よりもずっとスペックが高かった。恋愛感情どころか、最初はライバル意識しかなかったわ」
今の雪乃さんからじゃ想像出来ないな。そりゃあ成績とかで龍星に劣等感を感じる人はいるだろうけどーーー雪乃さんはそんな事ないと思ってた。
「じゃあ何で龍星と?」
「う~ん・・・理由の一つは、私の両親かな」
「雪乃さんの?」
そういえば雪乃さんのご両親はどうして龍星との結婚を認めたんだ?去年の秋、9月下旬に式を挙げた時は雪乃さんは20~21歳なはずだ。法律的には可能だろうけどーーー流石に早すぎる気もする。
「私、17歳の時に両親と死別したの」
「・・・え?」
「他に兄弟も親戚も、大学にも親しい友達もいなかったから完全に独りになったわ」
両親と死別ーーーオレと同じだ。ただ違う所があるとすれば、オレには和人という生き別れの双子の弟がいて、雪乃さんには他に血縁者がいないこと。他のケンブリッジの院生は成績を競うような関係だったらしいし、彼女は本当にーーー天涯孤独なんだ。
「そんな時、リューセーが力になってくれた」
でも、独りじゃなかったのかもしれない。今の言葉でそう思えた。
「リューセーは小さい頃父方の祖父母を亡くしていて、幼い頃から才を見出だしていた分、物分かりが良すぎたのかとても泣いていたそうよ。当たり前ではあるんだけど・・・リューセーは当時6歳、その年頃の子はあまりそういうのが分からないでしょ?私はこう思ったわ・・・天才が理解出来る事は全てが喜怒哀楽なんだって。それこそ幼い頃からそうなんだから、なおさらそう思ったわ」
そうだ。龍星が6歳でオレが3歳の時、未来が2歳の時に祖父母は他界した。父さんは一人息子だったし、その分たくさん愛してもらったから涙を堪えるのに必死と言ってもよかった。その時オレは本当にチビで何が何だかよく分からなかった。でもーーー確かに龍星は泣いていた気がする。その年頃で葬式に出席してもあまり見ないようなーーー大粒の涙で。
龍星は赤ん坊の頃から天才だった。2歳で小学校低学年で習う漢字の読み書きを全てマスターして、両親ですらクリア出来ない知恵の輪を20秒でクリアしてしまう程のーーー言ってしまえば、突然変異の超天才児だった。その分理解力が良すぎて大人でもそう簡単に受け入れられない現実を受け止めてしまった。天才が知ることは全てが喜怒哀楽、確かにその通りだと思う。
「それから私はリューセーと少しずつ距離を縮めていったわ。薄型のパワードスーツを開発したり・・・」
いきなりとんでもねぇモン開発してる。
「竜くんの左腕の話を聞いて、リューセーが部位欠損再生の新薬を開発しようとしたから私も手伝ったわ」
あの薬、雪乃さんも一緒に作ってくれてたのか。そっか、雪乃さんも恩人だったんだな。
「そういえば偶然すっごく危ない兵器が完成したこともあったなぁ~。ちょっと笑っちゃった」
笑えねぇよ。茅場や須郷以上の危険人物が身内にいたよ。お巡りさん、こっちです。
「その他にも色々共同開発している内に、それまで見たことがなかったリューセーの一面を見れたわ。リューセーって、こんな子供みたいに楽しい顔するんだ・・・ってね」
確かに龍星は中学卒業してすぐにイギリスに行ってオレたちと離れて一人で暮らしてたから、精神年齢に関しては案外子供っぽかったんだな。雪乃さんの言う龍星の顔が目に浮かぶぜ。まるでオモチャを買ってもらった子供みたいな顔してたんだろうなーーー
「その顔を見ている内に、私の中でリューセーに対する気持ちが変わっていったわ。もっと彼を知りたい、彼の全てを見たい・・・ずっと彼の側にいたい」
オレたちが知らない龍星との時間で雪乃さんはーーー
「私はリューセーに・・・神鳴龍星に恋をした。龍星は私の初恋の相手だった」
龍星に恋をして、今ではオレたちの家族になった。
「それから私はリューセーと恋人になり、去年の9月下旬に結婚した。竜くんや未来ちゃんの事を考えたら、タイミングとしては最悪だったかもしれないけど・・・」
雪乃さんは分かってくれてたんだ。オレたちの事は龍星から聞いてたし、総務省仮想課のSAO事件対策本部にいたんだ。オレたちがいつ帰ってくるか、いつ死ぬか分からないような状況だと理解してたんだ。そんな中で結婚ーーーオレはそれを龍星から聞いて快くは思ってなかったけど、何でだか雪乃さんに言われたら許せる気がする。
「私は今、神鳴家に嫁いだ事が幸せなの。幸せに理由を求めるのはおかしい事だけど、理由があるとすれば・・・リューセーと夫婦になった事と、彼との子供が出来た事。あんなに家族を愛してくれるお義父様とお義母様が出来た事、そして・・・」
雪乃さんはそう会話に間を空けて雪乃さんはソファーから立ち上がり、オレの後ろで止まってーーー背後からオレを抱き締めた。オレはそれに驚いて振りほどこうとしたが、母親になる雪乃さんの包容力からか、全く抵抗出来なくなった。
「兄弟のいない私に、竜くんと未来ちゃんっていう・・・可愛い義弟と義妹が出来たからだと思う。それ以外に、この幸せの意味はありえない」
「ッ!!!」
ーーーそうか。オレは自分の気持ちに、素直になればよかったんだ。オレの知ってる環境は変わってなんていない、家族が増えただけでしっかりと残ってる。オレは素直に、雪乃さんに会えてーーー
「オレも嬉しいです・・・義姉さん」
義姉さんに会えて嬉しいって、素直になればよかったんだ。
「もう敬語じゃなくていいよ、竜くん」
「・・・うん、義姉さん」
龍星ーーーオレ、たくさん兄弟がいるな。龍星、未来、雪乃義姉さん、それに和人っていう弟をいて。あとはーーー直葉ちゃんとはどうすればいいのかな。彼女は従妹だし、せっかく出会えたんだから仲良くなりたいーーー
「ユッキー、ただいま~・・・って竜もいたのか」
「悪いかよクソ兄貴」
義姉さんがオレを放してくれた時、龍星が憎まれを叩きながら帰ってきた。何か色々買ってきてるけどーーー全部赤ん坊のオモチャだな。龍星も父親になる自覚あったんだなーーー
「あれ?二人とも何かあった?随分仲良くなっちゃって・・・」
そう龍星が首を傾げて聞いてきて、オレは義姉さんと向き合ってーーー小さく笑った。
「べっつに~♪」
「姉弟が仲良くしちゃ悪いのかよ?」
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