Three Roses
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第七話 子をもうけぬままその五
「もうな」
「左様ですか」
「何年も前からだ」
既にというのだ。
「もうな」
「では」
「それではですね」
「大公からはですか」
「お子は」
「無理だ」
また答えた大公だった。
「出来はしない」
「ではどうするか」
「王だけが頼りですね」
「しかし王に何かあれば」
「その時はですね」
「マリー様が北の王国から王子を迎えられる」
養子としてだ。
「その方がおられる」
「王子が継がれ」
「そしてですね」
「王子が成長されて子をもうけられる」
「そのことに期待しますか」
「そうしよう、男子がいない王家はな」
それはともだ、大公は話した。
「これ程辛いものはないな」
「全くです」
「それだけでかなり苦しいものがあります」
「王家は女子でもいいですが」
「女王も確かに存在しています」
この国の過去にも他の国にもだ。
「ですから女王も存在していいですが」
「しかし男子が優先です」
「やはりそうなってしまいます」
「だからですね」
「我が国にしましても」
「男子が必要だ」
大公は強い声で言った。
「どうしてもな」
「では、ですね」
「ここは何としてもですね」
「王にお子をもうけてもらう」
「絶対に」
「そうしてもらいたい、だが」
理想の後は現実をだ、大公は話した。
「それが適わないとな」
「大公はもう出来ませんし」
「それならばですね」
「北の王国から迎える王子」
「あの方次第ですね」
「そうだ、あの方次第だ」
まさにというのだ。
「そうしたい、さもないとな」
「ロートリンゲン家ですね」
「あの家にこの国を奪われますね」
「縁戚を理由に」
「そうなりますね」
「あの太子が王になるか」
大公はマイラの夫である彼女の名前を出した。
「若しくはな」
「太子とマイラ様のお子ですね」
「その方がなられますね」
「この国の王に」
「そうなりますか」
「あの家は多産だ」
ロートリンゲン家のその特質もだ、大公は知っていた。そしてそのうえで側近達に対して語るのだった。それも確かな声で。
「代々多くの子が産まれるな」
「はい、男性の方も女性の方も」
「多くの子をもうけられます」
「中には十六人という方もおられました」
「実に多産の家系です」
「太子も然りだ」
その彼にしてもというのだ。
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