ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第62話今度こそ!!
前書き
フェアリィ・ダンス編、完結
2025年5月16日金曜日
オレが今いるのはデスゲーム開始当時、高校生未満だったSAO生還者が通うために政府が開校してくれた学校。言うなれば、『SAO生還者支援学校』ってところかな。支援と言えば聞こえは良いが、実際は二年間をデスゲームで過ごしたオレたちを監視、及びカウンセリングするための施設なんだろう。だけどオレは別にそれでも構わないと思ってる。
オレが左腕を失ったあの通り魔事件、あれから数ヵ月後にオレは家に引きこもった。そしてデスゲームという名のSAO正式サービス開始、オレは現実に帰ってきたらまず『学校に行きたい』って思った。ここには一緒にデスゲームを生き抜いたキリトを始めとした友達がいる。それに途中離脱とはいえ現実に帰還し、オレたちを待っていた翼たちもいる。亜利沙はアメリカに留学して今はいないけど、オレはこれだけで十分幸せだ。戦いの果てに掴んだ生活を噛み締めて、前に進もうと思う。ただ、一つだけ不満は事と言えばーーー
「みんな、おっはよー。今朝のホームルーム始めちゃうよ~ん♪」
『おはようございます、龍星先生』
「おはよーございまーすリューセーせんせー」
オレの兄、神鳴龍星がオレのクラスの担任だって事だ。クラスに教師と生徒で神鳴が二人いるから龍星が『龍星先生』って呼ばれてる。
忘れがちだろうが、龍星の本職は総務省仮想空間管理課の役人だ。おまけにケンブリッジ大学に在学していた頃に修士号・博士号を取得、その他に様々な発明の特許やライセンス料で80億はくだらない程の巨万の富を築いている。何でそんな奴が学校の教師もやっているのかというと龍星曰く、『本当は違う先生が担任になるはずだったんだけど、その人が懐妊したから臨時教師としてしばらく担任になる』って事らしい。これだけは言えるなーーーその先生、絶対雪乃さんだろ。
******
所変わって食堂now。昼休みに翼やかんなと、ついでに最初から食堂にいた里香さんと桂子とランチタイムだ。ちなみに弾は未来と二人っきりで別の場所でランチーーーなんだけど、未来の作った弁当だから弾が無事でいられるか心配だな。オレは弾の無事を祈り、食堂の窓際から見えるベンチでイチャイチャしてる桐ヶ谷夫婦を景色に自分の弁当を食らう。
「もうリズ・・・里香さん、もうちょっと静かに飲んでくださいよ」
「仮にも女がそんな音立てて飲むなよ。仮にも女が」
「『仮にも』を強調しないでくれる!?」
SAOと同じくツインテールの桂子がかけた言葉に逆立った金髪じゃなく、黒のストーレートヘアー翼が続くが、SAOの時のピンク髪とは違い、茶髪の里香さんの怒鳴り声に怯む。里香さんは今現在イチャイチャしてる桐ヶ谷夫婦を凝視し、パックのイチゴジュースのストローをヂューヂュー音を立てて飲んでいる。里香さんがキリトーーー和人の事を好きだとは聞いてはいたが、まさかここまでとはな。
「キリトの奴あんなにくっついて、けしからんな学校であんな・・・!」
「せやせや!ウチも認められへんで!和人そこ代われや!ウチも明日奈さんとイチャイチャしたい!!」
「趣味悪いですよー、覗きなんて」
「片方趣味悪いなんてレベルじゃない奴がいるけどな」
確かに学校で、それも結構人目に付きやすい場所でイチャイチャする事に怒りを覚えるのは分かる。オレは両親の冷める事をしらないイチャイチャで耐性が付いてるけど。それよりもこの変態百合大阪人は誰も気にしてないのか?
「ALO事件でも大変だったんだから、これくらい我慢しろよ」
「そういえば《レクト》って解散したんだよな?」
「《レクトプログレス》の方はな。本社も深手を負ったらしい」
あの雪の夜、オレが病院の駐車場で須郷を倒した後に龍星が須郷を警察に連行した。まあ当然逮捕直後は罪を否定し、全てを茅場晶彦に背負わせようとしていたが、総務省から潜入調査で須郷の部下になっていた雪乃さんが証人となり、須郷は呆気なく全てを自白した。幸いなのは、300人の未帰還者に人体実験中の記憶がなかった事だ。脳や精神に異常をきたした人はおらず、全員が社会復帰可能だとされている。しかし、バーチャルMMOというジャンルはこの事件で回復不可能な打撃を被った。最終的に《レクトプログレス》は解散、《レクト》本社もかなりのダメージを負った。もちろんALOの運営も中止に追い込まれ、その他に展開されていた5~6タイトルのバーチャルMMOも中止は免れ得ないだろうと言われていた。
「そういえばキリトさんが『ALOで茅場晶彦に会った』って言ってましたけど、実際どうなったんですか?」
桂子の声に反応したオレは、みんなの視線を浴びて和人にーーー弟に教えてもらった事をそのまま伝える。茅場晶彦はーーー
「死んでたよ。自殺だそうだ」
SAO世界の崩壊と同時に、自分の脳に大出力のスキャニングを行ったらしい。簡単に言えば、自分の意識をネットにコピーしたって事だ。でも口で言えば簡単だけど、成功する確立は1/1000もないそうだ。にわかには信じられないけど、和人ーーーキリトが最終決戦で使用したIDが事実である事を決定付かせる。
「でもALOの運営はなんとかなったんでしょ?」
「せやな?運営会社が変わったんやから」
「ああ。確か・・・《ザ・シード》」
キリトがALO内で茅場から託された謎のデータ。世界の種子、《ザ・シード》。その正体は、茅場の開発したフルダイブVRMMO環境を生み出すプログラムパッケージだと分かった。要はそこそこ回線の太いサーバーを用意して《ザ・シード》をダウンロードすれば、誰でもネット上に異世界を造り出す事が出来るんだ。キリトはそれをエギルに頼み、世界中のサーバーにアップロードしてもらった。その結果、消滅するはずだったVRMMOは再び蘇った。《アルヴヘイム・オンライン》も新しい運営会社にデータが完全に引き継がれ運営されている。ALOだけでなく、中小企業や個人まで数百者に昇る運営者が名乗りを挙げ、次々とバーチャルゲームサーバーが稼働した。それらは相互に接続されるようになり、今では一つのバーチャルゲームで作ったキャラクターを他のゲーム世界にコンバート出来る仕組みさえ整いつつある。
「そういやあんたたち、今日のオフ会行くの?」
当然行くさ。今日はエギルが御徒町に構える『ダイシー・カフェ』でSAOクリアの祝勝会ーーーオフ会が開かれる。みんなで一緒にどんちゃん騒ぎ、そして次の二次会ではーーー
******
オレは隣を歩く未来は連れて、『ダイシー・カフェ』に向かってる。もう松葉杖なしで歩けるし、ゆっくりだったら走れるくらいには回復した。弾は先に行ったらしいし、気にする事はないかなーーー
「おーい!」
「あっ!竜兄、あそこ!」
「お」
『ダイシー・カフェ』の看板が見えてきたところで、オレたちに向かって手を振る三人組が見えた。オレと同じ制服の紺色のブレザーの前を開けた黒髪の男、桐ヶ谷和人。未来と同じ女子の制服を着た栗色のロングヘアーの女性、結城明日奈。もう一人はーーー知らない女の子だな。上下が赤い他校の制服を着た黒髪ショートヘアーの女の子。どことなく和人にーーーそうか。
「キミが・・・リーファ?」
「はい、桐ヶ谷直葉です・・・ライリュウくん、ですよね?」
「ああ。本名は・・・知ってるかな」
「神鳴竜くんですよね。去年の8月、お母さんと一緒に会いに行きました」
この子がキリトの妹、リーファこと桐ヶ谷直葉ちゃん。つまりーーーオレの従妹という事になる。もうオレとキリトーーー和人が生き別れの兄弟だって事は周知の事実となった。一応未来も知ってる。
とりあえず話はオフ会でという事になり、オレが『ダイシー・カフェ』のドアを開けたらーーーすでにみんな集合していたという状況にあった。
「おいおい、俺たち遅刻はしてないぞ・・・」
「だよな?ちゃんと時間通りに来たよな?」
「ヘッヘヘ~ン。主役は最後に登場するモンですからね~♪あんたたちにはちょっと遅い時間を伝えたのよ」
何このビックリドッキリな展開。みんな知ってたの?未来も明日奈さんも知ってたの?オレと和人だけ何も知らなかったの?
オレたちが驚きの余韻に浸ってる内に里香さんがオレと和人の手を引っ張り、二つに並べた木箱の上にオレたちを立たせる。そして里香さんはマイクを手に持ちーーー
【えぇー、それではみなさん、ご唱和ください。せーのっ!!】
『キリト!ライリュウ!SAOクリア、おめでとー!!』
そのかけ声とともにパーティグッズのクラッカーから放たれた紙吹雪を浴びて、オレたちは呆気に取られながら片手にジュースを持たされた。
「カンパーイ!!」
『カンパーイ!!』
『か・・・乾杯・・・』
何でだろう。この光景に既視感を感じるーーー
******
オレはあの後、何故か女子たちに誘われて質問責めにされていた。ヨルコさんや、シンカーさんと入籍したユリエールさんには《オーバーロード》の事だったり、明日奈さんには茅場との最終決戦で使用した《ドラゴンビート・巨人の信念》のイレギュラーな性能の事だったり。
実を言うと、《ドラゴンビート》の事は龍星がデータを解析した事で解明された。どうやら《ドラゴンビート》に、その前に愛用していた《ドラゴンスレイヤー》に使っていた鉱石、《破滅の龍角》は特殊な鉱石だったらしい。どうやら強固なプロテクトが施されていたらしく、例え武器が破壊されても消滅しないように設定されていた。そして《破滅の龍角》の最大の力ーーーそれは《破滅の龍角》で造られた武器に違う種類の武器を強化素材として使用すると、その武器の能力・ソードスキルを発動することが出来るという事。つまりオレはずっとチート武器を使用していたという事になるが、恐らくこれは茅場が《二刀流》以外に自分を倒す力を手に入れるために造った鉱石なのかもしれない。
オレはなんとかオレを質問責めにしていた女子たちから逃げてーーー店の隅に座っている直葉ちゃんの隣に座る。
「直葉ちゃん、楽しめてる?」
「は、はい。楽しいですよ。みんな、気の良い人たちばっかりだし・・・」
「そっか・・・」
なんとなく、距離を置いてる気がしてたんだよな。今もそれを感じてるけどーーー今まで話した事のない従兄と一緒だからか?それ実際オレの事だけどーーー
「・・・ライトくんたちも、SAOにいたんですよね」
「・・・ああ。極めてイレギュラーな出来事らしいけど」
翼たちが現実世界に突然帰還したのって、確か龍星が作った回路だって言ってたよな。そういえばあの夕空の上で、茅場はこう言ってたっけーーー
『例外はあったようだがな』
もしかしたら茅場は、それが分かってたのかもなーーー
「・・・竜くん、で良いですか?」
「好きに呼んでくれ」
「じゃあ・・・竜くんって、兄妹が愛し合ったら・・・おかしいと思いますか?」
「?」
直葉ちゃんが、急にそんな事を聞いてきた。兄妹が愛し合ったら、かーーー
「・・・どういう意味かにもよるかな」
家族愛という形だったら、おかしくはないと思う。いや、むしろ良いと思う。オレだって、未来にはいつでも笑っててほしいし。でも、直葉ちゃんの意味は違う気がする。何だかまるでーーー
「あたし、あたし・・・」
いや、彼女は本当にーーー
「あたし・・・お兄ちゃんが好きなんです」
兄の和人に恋をしている。和人と直葉ちゃんはーーーついでに言うとオレは従兄妹だ。従兄妹だったら、まだ恋愛は可能と言われている。それなら彼女の気持ちが和人に届けば、和人の返答次第では恋人にもなれる。だがSAOで、和人には恋人が出来た。その間に彼女が割り込む事はーーーそう考えると、残酷なのは仮想世界だけじゃないと思えてくる。でもーーー
「直葉ちゃん。オレ口下手でさ、キミに気の利いた事なんて言えないと思う。だから・・・和人の言葉を借りようと思う」
「え?」
本当なら、和人が言うべきなんだろう。でも、今彼女の心を少しでも救えるのならオレが言う。和人はーーー
『スグにはずっと寂しい思いをさせてたから、今まで離れていた分、少しでもスグとの心の距離を縮めたいと思ってる』
確かにこう言った。
「お兄ちゃん・・・そんな風に思ってくれてたんだ」
「あとはキミ次第だ」
これは本来、桐ヶ谷兄妹の問題だ。オレがこれ以上口を出す訳にはいかない。でもオレの声で、言葉で救えるのなら、オレは許される限り力になりたいーーー
三人称side
アルヴヘイム・ケットシー領、首都フリーリア上空
この妖精の世界も現実世界も、今現在完全な真夜中。雲を突き破る程に高く伸び、この世界のどこからでも目に映る大樹ーーー《世界樹》。その樹よりもさらに上空の満月の逆光を浴びて、鐘の音を響かせながら空を飛ぶ巨大な建造物が姿を現す。
「まさか本当にこんな事が出来ちまったとはな・・・」
「ホンマやで」
「もう二度と見る事はないと思ってたからな」
「でもこうして、あたしたちの前に再び現れた」
この空の光景を見て目を疑う者たちが翔んでいた。背中に半透明な羽を携えたこの世界の住人ーーー妖精。
緑色の羽を携えた風の妖精族、シルフの少年ーーーライト。
赤色の羽を携えた火の妖精族、サラマンダーの少女ーーーキャンディ。
黒い羽を携えた影の妖精族、スプリガンの少年ーーーミスト。
黄緑色の羽を携えた音楽の妖精族、プーカの少女ーーーミラ。
彼らの目に映った物は、かつて純粋な悪の頭脳を持つ一人の男が想像した物だった。そしてその巨大飛行物体が空中で停止し、金色の光を発した。その巨大飛行物体の正体、それはかつて4000人以上の死者を出した、空に浮かぶ異形の城ーーー
「《浮游城アインクラッド》・・・」
《浮游城アインクラッド》ーーーその城は妖精たちの冒険の地、遊び場となって復活した。
「いいかお前ら。これからオレたちはもう一度あの鉄の城に足を踏み入れ、今度こそ完全に征服する」
アインクラッドに目を奪われていた四人の後ろから、彼らが最も信頼する少年の声が聞こえた。後ろを振り返ればーーー確かにいた。
紫色の少し長い無造作ヘアー、竜を模した剣や鎧、紫色の羽を携えた闇の妖精族、インプの少年ーーー
「みんな・・・オレに力を貸してくれ!!!」
『もちろん!!!』
ライリュウ。かつてあの城を破壊し、6000人の人間を解放した元隻腕の剣士ーーー英雄である。
(あの時、怒りを込めた叫びが・・・)
少年はあの城の最初の夜を思い出す。あの時の言葉がーーー
『待ってろよ、茅場晶彦・・・ゼッテェ全クリしてやんよ!!』
彼を戦いに駆り立てたーーー
(今では胸を張って叫べるぜ・・・)
彼は息を大きく吸い込み、両腕を空高くに突き出す。
「待ってろよ、茅場晶彦・・・
今度こそ!!ゼッテェ全クリしてやんよ!!!」
ライリュウのその叫びを筆頭に、妖精たちは空を駆け出した。
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