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ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~

作者:akamine0806
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第11章 フェザーンへ 中編

宇宙歴 793年8月30日
私は駐在武官付情報将校としてフェザーンへ赴任した
しかし、任務が任務であったため
ここでは身分を偽るために同盟国土交通局宇宙管制センター職員として着任していることになっていた
この身分であれば同盟政府施設へ出入りしていても何ら不思議ではない上に、その表向きな職務も責任も明らかに低位なものであった

入国管理手続き窓口で身分証明IDをかざす
そこには自分でも笑えるほどよくできた経歴が入っている
私の偽装身分は…
氏名はアンドリュー・シュムーデ。年齢は27歳
出身は惑星シャンプール第1中枢都市ヘンチェン
ハイネセン自治大学公共政策学部次席卒業後
宇宙歴786年国土交通局入局
宇宙管制官の資格取得後惑星シャンプール管制センター勤務後、
宇宙歴788年同盟軍予備役技術伍長として第4方面軍(イゼルローン方面総軍よりハイネセン側に位置する西部方面総軍の一部。主に治安維持・後方支援が主任務)第911宇宙管制隊勤務。
宇宙歴791年技術士官養成課程を経て予備役技術少尉任官後国土交通局へ復職。
その後、フェザーン方面航路局勤務となって2等管制官としてフェザーン赴任となった。
ということである
彼に軍歴があるのは私に左腕がないからである
宇宙歴791年に第4方面軍で起きた実際の宇宙艦船の衝突事故でという裏づけを取るためであったのは言うまでもない
また、陸戦部隊兵士であるからには当然体つきは筋肉質であるのは当然であったのでそれをごまかすためでもあった。
ちなみに、アンドリュー・シュムーデ予備役技術少尉は経歴の上では海賊対処行動・治安維持作戦における戦功でブロンズスター勲章、第1・2級殊勲勲章、名誉負傷勲章を授与されていることになっている
私はフェザーン赴任3日前にレナ予備役中佐に彼についての資料を渡され彼の今までの経歴は当然のこと、とんでもないヘビースモーカであり、やたらと酒に詳しいなどの情報を頭にぶち込み、彼の癖も頭に入れた。

大気圏内シャトルから降りて荷物を持ち、無人タクシーで高等弁務官事務所にむかう
タクシーに乗り込み、行き先を入力し、タクシーは動き出した
外の風景を眺めていた
行き交う人々は男女問わず着飾った人たちにが街を満たしておりこの策略に満ちた惑星と全く裏腹の世界であった
2時間ほどすると弁務官事務所が見えてきた
無機質な建物で表に立つのはフェザーン唯一の武装組織である国家警備隊に隊員たちであった
彼らにIDを見せて荷物を持つと中にむかう
弁務官事務所自体は同盟であればどこにでもありそうな普通の公共施設と同じ無機質な玄関に無機質な部屋をたくさん持っていた
私は4階にあったフェザーン方面航路局 管制部 総務課長室へ出頭した
そこに入ると課長と思われる男が座っていた
その名はマレン・シュタイン
しかし、奴の顔色をもう少し良くして髪をもう少し付け加え、メガネを外すと
バクダッシュ中佐であることは十分承知であった
私は思わず敬礼しそうになるが、とりあえずお辞儀をする
するとマレン局長は事務的に赴任を承諾して書類を手渡した
それでおしまいだった
わたしはその足でトイレに駆け込んで、その書類をひっくり返した
中身は赴任証明書類と仕事内容であったが明らかなタイプミスがあった
わたしはそれに丸をつけてその内容を解読した
おそらく、盗聴器を怪しんでのことだったろう
その内容は国土交通局派遣職員宿舎から少し離れたところにあるバーに来いとのことであった

1900時
その古びたバーに入る
店に入るなり右奥にいたバクダッシュ中佐が手招きする
中佐の周りには2人の女性職員と1人の男性職員が座ってアルコールを楽しんでいた
当然この私を含めた5名は同盟軍の情報将校である
その場では職場の新入りの歓迎という名目で集まった。当然、その場で語られた内容はそれに即したことだった
バクダッシュ中佐が
「そういえば、お前のところのおばさんどうした?」
と隣にいた若い男性職員と聞く。すると男性職員は
「あー。ウェリントン地区の6丁目のおばさんですか?それとも5丁目のほうですか?どっちも病気もちでして」
中佐は
「どっちもだ。」
と答える。男性職員は
「そうですねーどっちも昨晩なくなりましてね…」
と言葉を濁す
これをまともに翻訳すると
中佐‐昨日の暗殺計画の進行状況は?
男性職員‐第5チームのほうですか?第6チームのほうですか?
中佐‐どっちもだ
男性職員‐どちらも任務完遂しました
ということなのである。
同盟政府施設内ではどこでだれが聞いているかわからないので基本文書か、こういった密会場で報告や命令は行われる
この男性職員の名はマチャード・ロビン1等事務官
本名はネルソン・シュミット少佐
もともとは第22方面軍司令部勤務情報参謀であったがバクダッシュ中佐に引き抜かれた
残りの女性職員のうち若い女性は私と士官学校同期のヘレン・メイヤー中尉。カレン・ピット3等事務官と偽装しているが、この女性士官は同期の中でも最も美貌かつ最高の策略家で知れた人だった。士官学校卒業後から同盟軍中央情報局勤務であった。
もう一人の30代の女性職員はメリー・ウォーレン大尉。偽名はアンナ・ロビン。つまり役の上ではマチャード・ロビンとアンナ・ロビンは夫婦という設定であった。
その後、バクダッシュ中佐は私に航路関係書類が入っているという封筒を手渡してその会はお開きとなった。
私は宿舎に帰るなり、すぐに書類を確認した
なるほど、確かにフェザーン周辺の第6航路詳細図を中心とした書類だった。
今度は封筒をよくよく見てみる
その封筒の背面が紙1枚分分厚かった
私は封筒上部を切り取るなりその作戦命令書に目を通した
そこにはフェザーン政府高官の追尾任務についての作戦命令書だった
作戦開始は3日後
その背面には手書きであったが一通の通達内容が書かれていた
それは、「大尉」への昇進辞令であった
ついこの間はく奪されたばっかであったのにもう戻ってきてしまった
まあありがたくもらっておけばよいと考え、すぐにその書類はライターで燃やしてしまった
もし、この場で踏み込まれたら元子もないからだ。
当然、封筒も同時に処分した
ニコールにメールを入れる
電話は金がかかるうえにいろいろと設備が必要だったし、情報将校であるという立場もあるのでメールでの交信に緊急時以外は限られる。
返信はすぐに帰ってきた
その後世間話や仕事場での話をした
ニコールの声を聴きたいと思ったことはこの時ほどなかった
情報将校故に声すらも聞けなかった
当然、ニコールには自分が情報将校としてフェザーンにいることなんて口が裂けても言えなかった。フェザーンにいることをニコールは知っていても、彼女には第19方面軍の訓練のためフェザーンを中心に動いているという大嘘を言わざるを得なかった。
第19方面軍はフェザーン方面の防衛・警備を担う西部方面総軍の一方面軍のことである。
情報将校すなわち工作員またはスパイは自分の身内すらも欺くことを要請される。
この時ほどつらいと思ったことはなかった。

その日から2日後
同盟政府の派遣施設であった同盟宇宙航路局第19派遣航路局に行った
ここは通常職員も利用しているが、利用している半分以上の職員が情報将校やその関係下士官・兵であった。
私はそこで開かれた直前作戦確認会議に出ていた
出席者は5名の情報将校と6名の下士官であった。
この時の追尾対象者は「マースト・フルシチョフ」という男であった
彼は当時のフェザーン国家警備隊・フェザーン保安警備部などの武力組織・実力組織を指揮下に持つ内務局の政務担当補佐官であった。
彼の通信傍受記録から帝国への接触が見られたことが事の始まりだった
前々から監視対象であった彼は帝国へ明らかに何かをけしかけていた。
幾度にもわたる帝国軍情報将校や帝国軍駐在武官との面会
これに対し、同盟軍中央情報局は彼の真意の確認と必要とあれば強制退場を命じた。
そのために編成されたチームであった
私は訓練中の中央情報局での内部告発における行動を認められて真っ先に実戦部隊に投入となった
チームリーダーは中央情報局破壊工作課出身のアレックス・シン少佐
サブ・リーダーは中央情報局通信傍受課出身のマック・リンカーン大尉
私は追尾班のリーダーで下には第22方面軍直轄特殊作戦部隊出身のアドラー・ハインケル少尉とグレン・マインズ軍曹この2人は遠距離からの監視と狙撃銃を用いた暗殺を主任務とする。彼らのほかにもケン・マシューズ曹長とマイク・マディソン軍曹がついた。
残りのチームは通信傍受班であった
リーダーは先述のヘレン・メイヤー中尉
そのほか、3名の女性下士官がついた。
何が起こるかは定かではなかったが、戦場にいるときと同じ高揚感が自分の中で漂う。
ヘレン中尉が目を合わせるたびに目配せをしてくるので気になったが特に気づかなかったふりをして会議室を出る。
その日から任務解除までこの施設が私の仕事場となった
このような情報将校が使える施設はフェザーン内には10か所あった。
その名目上の用途は先述のように宇宙航路局のものもあれば、貿易関係商社のものもあった。
それらは当然帝国軍の目をかわすためであり、何よりも派遣情報将校の正体を見破られないためでもあった。
情報将校は命を懸けて自分の身内、同僚を欺き敵を欺き任務を達成してくる。
その彼らの身元を見破られては彼らの身が危険すぎた。
実際に、私が赴任した年にすでに50名近い情報将校がフェザーンで命を落としている。
しかし、彼らのほとんどは実際の身元を明かされないままフェザーン保安警備部が報告したとおりに事故死や病死とされて本国へ送還され軍人ではなく民間人としてその生涯を終える。
当然生前彼らの遺族には何も話はなく、自分の身内がフェザーン周辺で軍の任務に就いているとしか知らされていない。
しかし、死後になってから自分の夫が妻が息子が娘が情報将校としてこの陰謀と策略にまみれた惑星で壮絶な情報戦に身を投じていたと知る。
同盟軍は一切の情報を公開せず、フェザーンでの戦死者数は定かではない。

今思えばそんなことを思えるが当時、純粋な若者として一同盟軍大尉として精一杯のことをしようとしか私は考えれていなかった。
そんななかで私は
宇宙歴793年8月33日フェザーンでの情報戦に身を投じたのであった。 
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