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BCO(ブラック・カンパニー・オンライン)

作者:reyRe
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転身、そして邂逅
  Act2.NNO(ニュービー・ナンパ・オンライン)

 
前書き
会社の過酷な激務を終え、ねんがんの休暇をてにいれたぞ!ということで遂にSAOにログインした蓮。
しかしネトゲにあまり縁のない彼は浮かれたテンションのまま迷走し…… 

 
 サービス開始時間に一秒たりとも遅れるまいと声を張り上げた結果…少々意気込み過ぎて声が裏返ってしまった。
しかし幸いなことに俺のシステム起句はギアに感知されたようで、濃紺のヘッドギアからは起動音が発せられ、視界は闇に閉ざされる。
そして次に空調とごうごうと言った音声も遠ざかり、周囲は静寂に包まれる。
そして最後に触角の喪失。背中に感じていたベッドのスプリングの軋みは消え、垂直に立たされるかのような感覚を覚える。

 続いて奥から手前へとステレオで電子音が駆け抜けていく、ナーヴギアが五感が十全に機能するか俺の全身の神経をノックして回り始める。
この経験は初めてではなかった。購入時にすぐに行う初期セットアップも同一のモノだからだ。
 やがて数分間に及ぶ初期セットアップステージを終えると、俺は真っ暗闇の中に一人立っていた。目の前にはパネルと簡素なホロキーボード。
これはSAOの初回起動時にのみ行うアバター作成画面だ。アバターの容姿については大体の当たりをつけていたので、ガイダンスに従ってサクサクと作成を進めていく。

――20分後、
大体思った通りの仮想体が出来上がり、そこからは逸る気持ちを抑えきれずにSTRATボタンを勢いよくプッシュする。
 次の瞬間、暗闇だったキャラ作成ルームは滲み出るような光と共にホワイトアウトし、、、
それと代わるようにフェードインしてきたのは抜けるような雲一つない青空だった。
どうやら俺は今宙に浮かんでいるということを足元の感覚がないことで意識する。
そして、恐る恐る足元を見れば そこに広がっていたのは…

 「これが……始まりの街か…」
PVやパンフでこれでもかと言うほどこの街を見た俺ではあったが、"実物"を目の前にすると驚嘆も露わに吐息を漏らすことしかできなかった。
遙か高みから見下ろしてもこれが仮想世界とは到底思えないスケール、そして精緻さ。
そうこうしている間にも俺のアバターはゆるゆると高度を下げ…そして中央の広場の石段にふわりと降り立った。

 既に広場は俺と同じように一秒たりとも遅れずログインしたのであろう連中が大勢闊歩していた。
色とりどりの眉目秀麗なアバター達、そして弦楽団の奏でる音色が聴覚を刺激し始めた時…
俺のテンションはかつてない程ハイパーMAXだった。
「…うおぉぉぉ、来たぞーーーアインクラッド!!」
周囲の数人もそうしていたように、このSAOの舞台たる鋼鉄の浮遊城の名を叫ぶと共に拳を突き上げる。
正直あり得ない程ワクワクしている、心の片隅では脳波異常でログアウトにならないかハラハラしつつもひとまず辺りを散策しようと足を踏み出す。

 「来たのはいいんだけどなぁ…」
五分程街を彷徨った後、俺は頭をぼりぼりと掻きつつそう零した。
実は勇んでここまで駆けて来たのはいいが…俺はネトゲはドベの素人なのだ。
そんな俺はチュートリアルのメッセージにも気づかず、えっ何コレ何すればいいの?状態。
「……なんでみんなあんな迷いなく動いてるんだ?」
半ば途方に暮れつつショップ通りを歩いていると俺と同じように右往左往してるヤツがいた。
それは見たところ少女のようなアバターだったが、どう見ても初期設定から外見ステータス弄ってないだろコレ!って言う程地味な(もちろん現実にいたら滅茶苦茶美人さんな)アバターだった。
これは俺と同じド素人に違いないと俺の感覚が告げ、心細さと親近感が相まって声をかけてみることにした。
 「あのーすみませーん」
平坦な呼びかけをしてみると、その少女(のアバターというだけで中身は野郎かもしれないが今は女性だと思って接することにする)はこちらを振り向き
「私に話しかけてるの…?」
と澄んだ可愛らしい声音(まぁボイスフィルターで声も自由に弄れるけど)で返事を返してきた。
「あぁ、実はネトゲ始めてでどうしたらいいか分からなくて…うろうろしてたら同じような様子の人がいたから。君もそうなのかなーって。」
なんだかナンパをしてるようなむず痒さを覚えつつも相手の様子を伺うと
「そうなの……私も同じだけど」
どうやら俺の勘はビンゴだったらしい。ちょっと愛想がないように思えるが、まぁこんなことされたら少し警戒しているのが自然だろう。
「……そう、で…それでさ」
徐々に気まずくなってきたので若干後悔しつつ視線を端に寄せると、"装備を整えよう"というチュートリアルメッセージと武器屋を示す矢印がようやく目に入る。
「今から武器屋行くんだけど!一緒にどうかなって!?」
完全に苦し紛れで行った後、これじゃ余計ナンパ野郎って思われるじゃん!と脳内で絶叫していると
「解った…よろしくお願いします。」
少女はそう言うと礼儀正しくお辞儀をする。
「…あっうん。よろしくねー」
少しテンパりつつも持ち直した俺は、営業の癖で深くお辞儀を返すと名刺を渡そうとしてそれがない事に気付き苦笑する。

そして俺は、結局結果としては上手く行ったのかな?と首を傾げつつ少女と二人武器屋に向かうのであった。 
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