君のため(仮)
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出会い
時間が過ぎるのは、本当に早いものである。
つい先日、入学したかと思えば、もう7月に入っていた。
大学構内でも、学生の口からはにわかに「試験」を意識した会話が多くなっていた。
梅雨も明けて、うだるような暑さのキャンパス内を、鷺宮は歩いていた。
鷺宮 優 (さぎみや ゆう)
その名前は、彼の中では、もはや仮の名前に過ぎなかった。
5月に五稜郭に行ったことで、自分が誰なのかはっきりしていた。
「(あいつらは、今どうしているのだろうか)」
頭の中は、常にかつての仲間でいっぱいだった。
そこに、前期末試験の入る余地などない。
なぜ、自分がここにいるのか。
考えてみれば、非常に奇妙な現象である。
「(俺以外にも、”今”を生きているやつらがいるんじゃないか?)」
そうは思っても、探す手段もなければ、手がかりも全くなかった。
なんせ、かつての自分たちと今の自分たちは、名前すら、違うのだから。
1年用のロッカーに午前の授業で使った教科書類を置いてから、鷺宮は購買に向かった。
この大学の食堂は、学生数の割には小さいため、非常に混雑する。
そのため、鷺宮は、いつも昼食の調達をいつも購買で済ましていた。
そうは言っても、購買もなかなかの人の込み具合である。
鷺宮はいつものように、レジに一番近い棚にあるパンをつかむと、そのままレジに並んだ。
食に対する執着はほとんどないと言っていい。
食事とは、ただ単に空腹を満たし、次に動くためのエネルギーを得られればそれでよかった。
いつものように、レジも流れる。
前のやつは、どうやら男2人、友人どうしであるようだった。
「木芳~、お前またそんなお菓子ばっか食って、大丈夫なのかよ~」
「平気、平気。っていうか、僕はお菓子しか食べるつもりないし」
「よくそれで体もつよな~。太っても知らないからなー」
「大丈夫、僕、食べても太らない体質だから」
「ちぇっ、ずりいやつ~」
「藤田くん、前見なよ。おっと」
前の学生が手にしていた菓子を落とした。
だが、どうやら両手が塞がっているようで、足元の菓子を拾えずにいた。
鷺宮は、しょうがなく思いつつも、それをとって学生が両腕で抱え込んでいる菓子の上に置いてやった。
「あ~、どうもすみませ…」
相手が、お礼を言いかけて、止まる。
何事か、と思い、鷺宮はここで初めて相手の顔を見た。
その瞬間、息が止まった。
「…… 総司」
「…土方、さん」
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