英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第111話
~夜・IBC~
「……完全に気絶しているな。」
地面に倒れている警備隊員の状態を確かめたセリカは呟き
「今のは一体……」
「どうやら全く別の場所から操っていたみたいですね………しかも………かなり離れた場所かもしれません。」
倒れた警備隊員を見て呟いたロイドの疑問にティオは推測して答えた。
「もしかして……そこから警備隊員や悪魔達全員を操って!?」
「チッ………ヨアヒム本人を叩かない限り、どうしようもねぇってことかよ!?」
ティオの話を聞いたエリィの推測を聞いたランディは舌打ちをした。
「―――居場所は判明している。」
「え………」
その時静かな口調で呟いたアリオスの言葉を聞いたロイドは仲間達と共に驚いた。
「エステルとヨシュア、ミントとフェミリンスが”教団”の拠点を発見した。場所はクロスベル北東にある”アルモリカ古戦場”―――そこに行方不明者達が入った痕跡を発見したそうだ。ちょうど今、潜入経路を調べてもらっている。」
「古戦場………あんな場所に!」
「確かに何かありそうな遺跡でしたけど………」
「だったらそっちを叩けば……!」
アリオスの説明を聞いたロイドとエリィは驚き、ランディは口元に笑みを浮かべ呟いた。その時アリオス達がロイド達に近づいた。
「……そう簡単な話じゃない。どうやら東クロスベル街道にも相当な戦力が展開しているようだ。主にマフィアどもらしいがな。」
「いずれにしても……俺達が自由にできる戦力は限られている。せめて車さえあればな。生憎、警察の車両はあらかた警備隊に奪われてしまったようだ。」
ロイド達に近づいたダドリーは苦々しい表情で説明し、セルゲイは背後にいるメンフィル兵達に視線を一瞬向けた後、真剣な表情でロイド達に言った。
「くっ………」
「………徹底していますね。」
2人の話を聞いたロイドは唇を噛み、ティオは静かに呟いた。
「……お前達が望むのなら、ここにいるメンフィル兵達をマフィア共にぶつけてやってもいいぞ。―――その代わり、マフィア共の命は保障できん上、クロスベル市の守りが低下する事を覚悟しておけ。」
「それは………」
「あの悪魔共に警備隊や警官隊の装備じゃ心許ねぇな………」
「ええ………やはり魔族との戦いに慣れ、対悪魔用の装備も持つメンフィル兵達の力はクロスベル市の守りに必要ですね……」
そしてリウイの話と忠告を聞いたエリィは複雑そうな表情をし、ランディは考え込みながら呟き、エリナはランディの言葉に頷いた。
「だったら、車ではないけど、車よりも早く、襲撃を受けにくい存在を俺が用意するよ。」
するとウィルがロイド達に提案し
「へ………」
提案を聞いたロイドが呆けてウィルを見つめたその時
「―――ガプタール!!」
ウィルは召喚石を掲げて叫んだ!すると召喚石は光を放った後、ロイド達の目の前に信じられない存在が現れた!
「な、な、な………!?」
「り、”竜”………!?」
「おいおいおいおい………!一体、どうなってんだ!?」
「まさか”竜”とも知り合いだなんて……さすがとしか言いようがないですね………」
信じられない存在―――巨大な竜を見たロイドは口をパクパクし、エリィとランディは驚き、ティオは驚いた後苦笑した。
「何用だ、ウィルフレドよ。」
その時竜は声を出し
「!!」
「しゃ、しゃべった……!?」
「馬鹿な………!竜が声を出すだと!?まさか、リベールに存在していたという古代竜と同じ種族なのか……!?」
竜の声を聞いたロイドは目を見開き、エリィとダドリーは驚いた。
「ガプタール。セティ達を今回の事件を起こした首謀者がいる所まで乗せていってくれないかな?」
「…………よかろう。」
「ええっ!?」
「……よろしいのでしょうか?誇り高き竜が私達をその背に乗せてくれるなんて………」
ウィルの答えに答えた竜―――雷竜ガプタールの言葉を聞いたエリィは驚き、エリナは真剣な表情で尋ねた。
「問題ない。我とウィルフレドは竜族としてではなく、我自身としての”友”の間柄だ。友の娘やその仲間達ならば、特別に乗せてやろう。」
「ありがとうございます、ガプタール。」
ガプタールの答えを聞いたセラウィは微笑み
「ハハ、ヨアヒムの野郎もまさか空を飛んで来るなんて予想していなかっただろうな。」
「ああ……!空なら少なくともマフィアや警備隊の妨害を受けなくて済むしな……!」
ランディは口元に笑みを浮かべて呟き、ロイドは明るい表情で頷いた。
「ならば、乗り込むメンバーを選ぶ必要があるようだな。ここの守りも必要だろうし、私の他には……」
その時アリオスがある事を提案しかけたが
「……いえ。どうかここは俺達に行かせてもらえませんか?」
エリィ達と共に考え込んだロイドが提案した。
「なに……?」
「い、いきなり何を!?」
「ふむ……」
提案を聞いたアリオスとダドリーは驚き、セルゲイは考え込みながらロイド達を見つめた。
「……ヨアヒムの狙いは恐らくキーアただ一人です。キーアを奪われたらその時点で俺達の負けですが……逆に言えば、キーアを守り抜いて彼を逮捕できれば俺達の勝ちです。」
「その意味じゃ、このビルは絶対に守りきる必要がある……確実な戦力を残すべきだぜ。」
「恐らくアリオスさんやリウイお義兄様達が残れば、ここは鉄壁の守りになるはずですし、悪魔達の襲撃にも備えられるはずですし……」
「課長達と応援の警官隊の避難誘導、メンフィル兵達の守りもあれば完全に死角もなくなるかと。」
「………なるほどな。」
「り、理屈はわかるが……」
ロイド、ランディ、エリィ、ティオの説明を聞いたアリオスは頷き、ダドリーが渋い表情をしたその時
「―――駄目だな。」
セルゲイが溜息を吐いた後意外な事を言った。
「え…………」
セルゲイの言葉を聞いたロイドは驚いた後セルゲイを見つめ
「クロスベル市内でこれほどの襲撃があったんだ。―――当然、ヨアヒムが拠点としている場所でも多くの悪魔やマフィアが待ち構えている可能性が高い。その為、遺跡内に入るには何人かが囮になってマフィア共を引きつけ、その間に突入させる班を決めなければならない。特に囮班はかなりの激戦を強いられるだろう。よって、囮班はかなりの精鋭が必要だ。その為お前達が契約している異種族―――ルファディエル達は必然的に囮班になるだろう。主力はルファディエル達だとしてもサポートは数人必要になって来る上、さらにサポートする方も指揮能力を持つ者が必要となって来る。お前達の中で戦闘指揮経験がある奴は何人いる?」
「あ………」
「戦闘の指揮はロイドに頼りっきりでしたもんね………」
セルゲイの説明を聞いたロイドは声を上げ、エリィは疲れた表情で溜息を吐いた。
「課長。だったら俺が――――」
その時、ランディは申し出たが
「お前は駄目だ。支援課にとって主力のお前がぬければ、ロイド達は厳しい戦いを強いられるだろうが。それに普段いる奴がチームにいないと連携が崩れる恐れがある。」
「………………確かにそうッスね………」
セルゲイの話を聞いて納得した。
「ならば、私が―――」
それを見たダドリーは申し出たが
「いや、お前には警官隊の指揮とアリオスのサポートを頼む。ここは俺が行かせてもらおう。」
セルゲイは首を横に振って答えた後口元に笑みを浮かべて言った。
「ええっ!?」
「課長が戦闘の指揮をとるのですか………!?」
セルゲイの言葉を聞いたエリィは驚き、ティオは尋ねた。
「クク、忘れたか?こう見えても俺は最強の部署と言われたアリオスとガイの班を指揮した立場だぜ。まあ、任せておけ。」
尋ねられたセルゲイは口元に笑みを浮かべて答えた。
「ティオ。俺とハイシェラ、レシェンテ、リタはお前達に同行して、囮班の戦闘の手伝いをしよう。」
「え…………いいんですか………!?」
その時セリカが申し出、申し出を聞いたティオは驚きの表情で尋ね
「元々わらわ達はエステル達の手伝いに来たようなものじゃしな。話を聞く限りエステル達も敵の拠点にいるようじゃし、エステルやお前達を手伝う為にわらわ達も力を貸してやろう!」
ティオの疑問にレシェンテが答えた。
「………狐伯蓮。」
「わかっておる。セティ達の守りはわらわに任せておけい。」
そして真剣な表情のウィルに名前を呼ばれた狐伯蓮は頷き
「お願いしますね、狐伯蓮。」
セラウィは狐伯蓮に微笑んだ。
「…………エクリア姉様。エリィ達に同行してもらっても構いませんか?姉様の力があれば、どんな強敵が現れようと大丈夫だと思いますし……」
ウィル達が会話を終えるとイリーナが静かな表情でエクリアを見つめて尋ね
「……………貴女の頼みなら聞いてあげたい所だけど………構いませんか、リウイ様?」
尋ねられたエクリアは考え込んだ後、リウイに尋ね
「構わん。……それより2人とも。エリィの前で”姉妹”としての態度を見せてもよかったのか?」
尋ねられたリウイは頷いた後エリィに視線を向けた後、2人に言った。
「あ…………」
リウイの言葉を聞いたイリーナはエリィに視線を向け
「…………もう、お姉様が初代”イリーナ”皇妃の生まれ変わり――――カルッシャ王国第三王女にして、エクリアさんの妹である事はお姉様が私に隠していた事情を全て知っているティオちゃんから聞いて知っています。」
視線を向けられたエリィは複雑そうな表情で答えた。
「そう…………」
「お姉様。一つだけ尋ねてもよろしいでしょうか?」
「………何かしら?」
「………今のお姉様は私の姉なのでしょうか?それとも初代”イリーナ”皇妃なのでしょうか………?」
「………両方とも”私”よ。だから私は貴女の姉でもあり、初代イリーナ皇妃でもある………それが答えよ。」
「………そうですか………」
イリーナの答えを聞いたエリィは安堵の溜息を吐き
「あの、エクリアさん。」
エクリアに視線を向けた。
「?何でしょうか。」
「その………これからはエクリアさんの事、”エクリアお姉様”と呼んでも構わないでしょうか………?」
「え………」
エリィの言葉を聞いたエクリアは意外そうな表情をした。
「メンフィルに留学していた時からさまざまな事でエクリアさんにお世話になり………その時からまるで姉がもう一人増えたみたいに思っていたのです………イリーナお姉様がエクリアさんの妹なら、私も妹……という事になりますし………どうでしょうか………?」
「まあ………!私は賛成よ、エリィ。姉様もよろしいでしょう?」
エリィの話を聞いたイリーナは嬉しそうな表情をした後、エクリアを見つめ
「ええ………こんな私でよかったらよろしくね………―――エリィ。」
見つめられたエクリアはエリィに微笑み
「………はい!」
微笑まれたエリィは笑顔で答えた。
「フッ………―――さてと。こちらはこちらで少々問題があるな………」
その様子を見ていたリウイは静かな笑みを浮かべた後真剣な表情で考え込み
「何が問題なのでしょうか?」
リウイの言葉を聞いたロイドは尋ねた。
「兵達を指揮する将の数だ。クロスベル市内は区画がそれなりに分かれているからな……兵達をそれぞれの区画に宛て、各街道方面で迎撃する数は十分足りているが肝心の指揮する将が俺とプリネ、ツーヤ、レーヴェ、ウィル、チキしかいない上……ウィルにはここの防衛の指揮をしてもらおうと思っているから、実質指揮する将は5人しかいない。各街道方面に4名は必要の上、市内に侵入した者達の迎撃用に最低4、5名は必要だ。」
「え………カーリアンさんやセオビットさん、エヴリーヌさんは兵の指揮を取らないんですか?」
リウイの話を聞いたティオは意外そうな表情をして尋ね
「こいつらは”将”としての戦闘能力は高いが指揮能力は低い。カーリアン達の場合、余計な事をさせず個別で戦わせた方が良いしな。セオビットは最近自分から戦闘指揮について学び始めているが………まだ指揮をさせるには早い。」
「なによ~。私達一人一人が一般兵の部隊の人数以上の働きをしていて、どこに文句があるのよ?」
尋ねられたリウイは厳しい表情で答え、それを聞いたカーリアンはリウイを睨んだ。
「ククク………おいおい、リウイ。俺達を忘れるなよ。」
一方ギュランドロスは不敵な笑みを浮かべてリウイを見つめ
「何?」
見つめられたリウイは眉を顰めた。
「俺はかつてはユン・ガソルの王!ルイーネ達だって当然兵の指揮をした事はある上、特にエルミナは軍師として天賦の才を秘めている!加えて俺達と戦ったヴァイス達もいれば、将の不足分ぐらいすぐに足りる!」
「…………………………」
ギュランドロスの説明を聞いたリウイは考え込み
「ヴァイス。ギュランドロスの言っている事は真実か?お前に指揮能力がある事はわかるが………」
ヴァイスに視線を向けて尋ねた。
「ああ。その点は大丈夫だ。ギュランドロスも言っているようにギュランドロス達の指揮能力は高い上、中でもエルミナが軍師の能力としてかなり秀でている。かつて彼女が指揮する部隊と戦った時も彼女の指揮によって苦戦したもんだ………」
「………その私の策を破り、何度も勝利しておきながらよくもそんな事が言えますね。私に対する皮肉ですか?」
リウイに説明するヴァイスの話を聞いたエルミナは苦々しい表情でヴァイスを見つめたが
「まさか。俺は事実を言ったまでだし、エルミナは俺が知る軍師の中でも一番の軍師だと思っている。」
「なっ!?」
「あはは!よかったね、エル姉~?」
静かな笑みを浮かべて言ったヴァイスの言葉を聞いた顔を真っ赤にし、パティルナは笑った後からかいの表情でエルミナを見つめた。
「それなら私もクロスベルに残って、兵の指揮をするわ。」
その時エルファティシアも申し出
「へ!?」
「エルファティシアさん、兵を指揮した事があるんですか!?」
エルファティシアの言葉を聞いたロイドは驚き、エリィは尋ねた。
「あら。私が”エレン・ダ・メイル”の元”王”であった事を忘れたのかしら?兵達の指揮は当然した事あるし、ヴァイス達と一緒に戦った戦争でも兵達を指揮した事あるわ。」
エリィに尋ねられたエルファティシアは意外そうな表情をした後答えた。
「――――いいだろう。ヴァイス、ギュランドロス。お前達に250名の兵達を一時的に貸してやる。それぞれの部隊に分かれてクロスベル市内の区画の遊撃、並びにウルスラ間道方面の守りは任せたぞ。」
「ああ、任せておけ!」
「おうよ!エルミナ、早速お前の能力をリウイ達に見せつけてやる時が来たようだな!ガッハハハハハッ!期待しているぜ!」
「ハッ!必ずやギュランドロス様の期待以上の働きをしてみます!……ルイーネ様。ギュランドロス様が暴走して怪我を負わないようにお願いします。」
「フフ、任せて♪パティちゃんはエルちゃんの事をお願いね♪」
「うん、任せて!」
そしてリウイの言葉にヴァイス達はそれぞれ頷き
「チキ。お前は100名の兵達と共に西クロスベル街道方面で迎撃だ。カーリアン、お前はチキ達を手伝ってやれ。」
「はい………!」
「はいはい。チキにはいつも泊めてもらっているから、それぐらいはしてあげるわよ。」
「プリネとツーヤはマインツ山道方面で100名の兵達を指揮して迎撃しろ。」
「「はい!!」」
「レーヴェは50名の兵達と共に市内に侵入した悪魔の迎撃並びに操られた警備隊員達の拘束だ。………”結社”の者であったお前なら、守りより遊撃の方が得意だろう。」
「ハッ!かしこまりました………!」
リウイは次々と指示をした。
「”結社”だと………!?なっ………よく見たらお前は”結社”の”執行者”―――”剣帝”レオン=ハルトではないか……!」
「………メンフィルに身柄を預けられたとは聞いたが、まさかメンフィルの将の一人になっていたとは………」
一方リウイのある言葉を聞いたダドリーとアリオスは驚きの表情でレーヴェを見つめ
「ほう……まさか”風の剣聖”だけではなく、軍でもないクロスベル警察が”結社”の存在に気付いていたとはな。なるほど、あのガイ・バニングスや”風の剣聖”がいた部署だけあって、それなりに優秀のようだな。」
見つめられたレーヴェは不敵な笑みを浮かべてダドリーを見つめ
「何だと!?」
見つめられたダドリーは怒りの表情でレーヴェを睨んだ。
「もう、レーヴェったら……」
その様子を見ていたプリネは呆れた表情で溜息を吐いた。
「ウィル。50の兵達を預けるから、ここの防衛はお前達に任せる。」
「了解。」
「ペテレーネ、ティア、シルフィ。お前達は防衛部隊の後方からの援護を頼む。」
「「「はいっ!」」」
「エヴリーヌとセオビットは俺とイリーナ、残りの兵達と共に東クロスベル街道方面で迎え撃つぞ。恐らくそこがかなりの激戦区となる。マフィア達を殺すのは禁ずるが悪魔達は殺して構わん。2人とも存分に暴れろ。それとイリーナ。”神格者”になれたとはいえ、無茶だけはやめろ。お前はレノン達を産んだばかりの身で体力も完全に戻っていないだろう。少しでも辛くなったら俺に言え。」
「フフ………心配してくれてありがとう、あなた。お言葉に甘えて無理しない程度に戦わせてもらいます。」
「くふっ♪了解♪」
「ふふっ♪そうこなくっちゃ♪」
「さてと………後は警官隊や操られていない警備隊員、遊撃士協会だが………そちらの判断に関してはお前達に任せる。俺にはお前達の指揮権はないしな。」
全員への指示を終えたリウイはダドリーたちを見つめて言い
「……ならば、我々警察や警備隊員は操られた警備隊員の拘束、IBCの防衛、メンフィル兵達の戦いのサポートをしましょう。マクレイン。遊撃士達には各区画で迎撃するメンフィル兵達のサポートを頼んでもいいか。」
見つめられたダドリーは静かな口調で答えた後アリオスに尋ね
「ああ、任せておけ。」
尋ねられたアリオスは頷き
「それならば私もせめて、警官隊の指示を手伝わさせて下さい………!自分の身を守る事や指示ぐらいならできます………!」
さらにミレイユが申し出た。
「ん………?お前は確かベルガード門の………一体どういう事だ?ベルガード門の警備隊員達が操られているのだから、当然お前も操られていると思っていたが………」
申し出たミレイユを見たセルゲイは意外そうな表情をして呟き
「確かに操られていましたけど、セティちゃん達が創った薬を呑ませて、”グノーシス”の効果を消しましたから、ミレイユはもう操られていないッスよ。」
「何だと!?本当に効果があったとは………!」
セルゲイの疑問に答えたダドリーは驚き
「あ~!その様子だとあたし達の腕を信じてなかったんだね~?」
「シャマーラ。私達はまだ大人にもなっていないのですから仕方ありませんよ。」
ダドリーの様子を見たシャマーラは頬を膨らませ、エリナは苦笑しながらシャマーラを諌めた。
「これでそれぞれの役目は決まりましたね。それじゃあみんな、早速乗り込もうか―――」
その様子を見守っていたロイドが仲間達にガプタールに乗るよう促したその時
「ロイド―――――!」
キーアの声が聞こえ、声が聞こえた方向を見つめるとIBCの出入り口付近にディーター、マリアベル、シズクがロイド達に近づき、キーアが走ってロイドに抱き付いた。
「キーア………」
「みんな、無事でよかったよ~。」
「……ああ。心配してくれてありがとう。」
安堵の溜息を吐いているキーアにロイドは微笑み
「それにおじさまとベル、シズクちゃんまで……」
自分達に近づいてきたキーアたちを見つめたエリィは驚いた。
「ふふ………皆さん、お疲れ様ですわ。」
「外の騒ぎが収まったと聞いてね。様子を見に来たのだが………まさかここでかの”英雄王”達と邂逅できるとは思わなかったよ。ハッハッハッ!初めまして。私はディーター・クロイスと申します。」
ロイド達に近づいたマリアベルは微笑み、ディーターは説明した後リウイ達に視線を向け、声をあげて笑った後、リウイ達に会釈をした。
「………IBC総裁、ディーター・クロイスとその娘、マリアベル・クロイスか……」
「まあ。じゃあ貴女がエリィの話にあったエリィのお友達ね。フフ、いつもエリィと仲良くしてくれてありがとう。」
一方リウイは静かな様子を纏ってディーターとマリアベルに視線を向けて呟き、リウイの言葉を聞いたイリーナはマリアベルに微笑み
「………?あの………失礼ですが、イリーナ皇妃とエリィの関係は一体どういう関係なのでしょうか?」
微笑まれたマリアベルは戸惑った後尋ね
「……イリーナ皇妃は私の血の繋がった姉よ。」
イリーナの代わりにエリィが答えた。
「なっ!?」
「何……!?」
「ええっ!?エ、エリィ!その話は本当なの!?」
エリィの話を聞いたディーターとアリオスは驚き、マリアベルは驚いた後尋ね
「ええ。以前話した事があるでしょう?メンフィル大使館で働き、後にメンフィルの貴族の方に嫁いだ姉がいるって。その姉がこちらの女性――――イリーナお姉様よ。」
「た、確かにその話は聞きましたが………まさかその方がかの”聖皇妃”だったなんて………」
「フム…………という事はリウイ陛下達はエリィ達やクロスベルの危機を知り、メンフィルから駆け付けたのでしょうか?」
エリィの説明を聞いたマリアベルは戸惑った後驚きの表情でイリーナを見つめ、ディーターは考え込んだ後真剣な表情でリウイに尋ねた。
「勘違いするな。俺達がここに居あわせたのはたまたまだ。それに”教団”は我が国の領の民達を含め、大陸全土の民達を傷つけた国際的な犯罪組織だ。壊滅させたはずの組織がまだ活動していると知れば、メンフィル(俺達)だけでなく、エレボニアやカルバードも黙っていないだろう。たまたまプライベートでクロスベルを訪問していた俺達が奴等より行動が早かっただけの話。決してクロスベルとメンフィルが親密な関係であると思うな。」
ディーターの質問にリウイは静かな口調で説明し
「リウイお義兄様の言う通り、お義兄様やメンフィル帝国がおじいさまの後ろ盾ではないので、そこの所は理解の方をお願いします、ディーターおじさま。私とおじいさま――――マクダエル家とリウイお義兄様達との関係はあくまで”家族”としてです。」
「で、でもエリィ………何故メンフィル帝国の皇族と……それも皇帝夫妻や皇族達と直接的な繋がりがあるのに、その縁を頼ってクロスベルの今の状況を変えないのかしら?リウイ陛下達が介入すれば、クロスベルの今の状況をより良くすることは可能だと思いますし……」
リウイの説明に続くように話したエリィの説明を聞いたマリアベルは戸惑った表情で尋ねた。
「おじいさまが望まなかったの。お姉様達が死んだ父と母のようになってほしくなかったし、第一それをしてしまったらおじいさまを苦しめていたハルトマン議長達と同じ事をするようなものだもの。」
「なるほどな………………」
「敢えて苦難の道を選ぶとは………さすがとしか言いようがないですわね。」
「………………………………」
エリィの説明を聞いたディーターとマリアベルは重々しく頷き、アリオスは目を閉じて黙り込んでいた。
「……話は変わるがティオ。病院で再会した時から疑問に思っていたが……その翼はもう隠さなくていいのか?」
一方ある事に気付いたリウイはティオに視線を向けて尋ね
「………はい。私の事情を知った皆さんに受け入れてもらえましたので………これからはありのままの自分で生きていきます………!」
尋ねられたティオは頷いた後リウイに微笑み
「そうか………どうやらようやく自分の居場所を見つけたようだな………」
ティオの笑顔を見たリウイは静かな笑みを浮かべた。
「はい……今まで心配して下さってありがとうございました……私の居場所はここです!」
リウイの言葉に頷いたティオは笑顔で頷いた後、ロイドの右腕に抱き付き
「ちょ、ティオ!?」
「なっ!?」
「ティオちゃん!?」
「おおっ!?かかかっ!またもや面白くなりそうな予感!」
ティオの行動にロイドとラグタス、エリィは驚き、ギレゼルは驚いた後陽気に笑い
「ヒュ~、やるじゃないか、ティオすけ。」
「わあ……!結構大胆だね、ティオ♪」
ランディは感心し、シャマーラは微笑み
「なら私も……!私がロイドの一番目の恋人なんだから、ティオちゃんに負けていられないわ……!」
「ちょ、エリィ!?」
エリィは決意の表情でロイドの左腕に抱き付いて叫び、エリィの行動にロイドは驚いた。
「おお、お嬢も行ったか!……って、ん??今、お嬢、とんでもない事を言わなかったか………?」
「エリィ!?一体どういう事!?まさか貴女………!」
エリィの行動にランディが口元に笑みを浮かべた後ある事に気付き、マリアベルは驚いた後信じられない表情でエリィを見つめた。
「ええ………その……私、今日からロイドと恋人同士になったから。」
一方見つめられたエリィは頬を赤らめて嬉しそうな表情で答え
「ちょ、エリィ!今の状況で言わなくても……!」
エリィの言葉を聞いたロイドは慌てた。
「今日からだと!?お前達、一体いつそんな関係になったんだ!?」
「……さすがです、エリィさん……複数の女性と既に結婚しているリウイ陛下の正妃になったイリーナ皇妃の妹だけあって、既に正妻の位置を獲得していたとは……」
「………おい。そこで何故俺達を例えに出す?」
エリィの言葉を聞いたランディは驚き、ティオは感心した後エリィを見つめ、ティオの言葉を聞いたリウイは呆れた表情で指摘した。するとその時
「……ロイドさん?その話……詳しく聞かせてもらいましょうか………そして……覚悟はよろしいですね……?」
マリアベルは怒りの表情でロイドを睨みながら近付き
「貴様………!ティオにあれ程の事をされながら、既に他の女性と恋仲になっていたのか………!」
空にいたラグタスが急降下してロイドの近くに降り立ち、殺気を纏ってロイドを睨み
「あっははははっ!早速修羅場かい!それにしてさすが”部隊の父”と呼ばれているだけあって、一丁前に父親をやっているじゃないか、ラグタス!」
「我輩の予想以上の面白い事を予想外な場所で起こすとは……さすがだ………さすがだよ、ロイド!!くかかかかっ!」
「ハア………」
「フン、自業自得だな………」
その様子を見たエルンストとギレゼルは陽気に笑い、ルファディエルは疲れた表情で溜息を吐き、メヒーシャは鼻を鳴らし
「フフ、まさか私達の知らない内にエリィさんがロイドさんと恋仲になっていたなんて……」
「あたし達は何番目になるだろうね~?」
「………シャマーラ。」
セティとシャマーラは微笑み、シャマーラの言葉にエリナは頬を赤らめて諌め
「え”。ま、まさかセティ達も………」
「まあ………!フフ、とうとうあの娘達も恋を知ったようですね……」
セティ達の様子を見たウィルは表情を引き攣らせ、セラウィは微笑み
「あわわ……!」
ロイドは混沌とした状況に慌て
「全く、この非常事態に何をやっている………」
ダドリーは顔に青筋を立てて溜息を吐き
「わ~、これがしゅらばってばめん~?」
「キ、キーアちゃん……」
キーアは呑気そうに呟き、キーアの言葉を聞いたシズクは冷や汗をかいた。
「フッ………俺も負けていられないな。アル、エルファティシア。今回の件が終わったら3人でしないか?」
「うふっ♪相変わらず大胆ね、ヴァイスハイト。アルと一緒ならもちろんいいけど………やっぱりその前に2人っきりでしてもらうわ♪というか気になったんだけど、アルとはもうしたのかしら?」
一方ロイド達の様子を見たヴァイスは静かな笑みを浮かべた後エルファティシアとアルを抱き寄せて尋ね、尋ねられたエルファティシアは笑顔で答えた後アルに尋ね
「ええ、ヴァイスと再会したその日に抱いてもらいました…………」
「あはは、さすがね。」
自分の疑問に頬を赤らめて答えたアルの話を聞いたエルファティシアは苦笑し
「全く………生まれ変わっても女性にだらしないのは治らないのですか?」
エルミナは呆れていたが
「あらあら。もしかして妬いているのかしら、エルちゃん。」
「確かにそれはありえそうだね~。ヴァイス達と再会して一緒に旅を始めてから、ヴァイスと一緒の部屋を希望する事が結構多かったしね♪それでいつもアルと色んな勝負をしていたし。」
「~~~~!!!ルイーネ様!パティ!」
ルイーネとパティルナのからかいの言葉を聞いて顔を真っ赤にして2人を睨んだ。
「おのれ……!エルファティシアちゃんがいながら、あんな可愛い娘達ともそんなうらやましい事ができるだと……!?まさかロイドと同格のブルジョアジーがいるとは……!」
ヴァイス達の様子を見ていたランディはエルミナやアルに視線を向けた後、悔しそうな表情でヴァイスを睨んだ。
「フフ………どうやら私の助言通り、積極的に行動して好きな人の一番になれたようね、エリィ。」
「イリーナ………貴女、何てとんでもない事を教えているのよ………」
一方イリーナが微笑みながらエリィに話しかけ、イリーナの言葉を聞いたエクリアは呆れ
「はい………!ロイドの一番の恋人になれたのは結婚式の時に教えてくれたお姉様の助言のお蔭です………!」
話しかけられたエリィは嬉しそうな表情で頷き
「フフ、さすがはイリーナ様と血が繋がっているだけはあるわね♪エクリアといい、みんな複数の女性を侍らしている男性の正妻の位置になっているじゃない♪」
「………先程結婚式の時と言っていたが………一体、いつの間にそんな事を教えていたんだ………?」
「カ、カーリアン様……私がセリカ様の正妻だなんて恐れ多いですよ。セリカ様の正妻はサティア様ですよ………」
2人の会話を聞いていたカーリアンは口元に笑みを浮かべ、リウイは表情を引き攣らせながら呟き、カーリアンの言葉を聞いたエクリアは苦笑したが
「だが、俺にとって君が一番目の”使徒”である事は変わりない。君は俺にとって永遠の”第一使徒”だよ、エクリア。」
「セリカ様……」
セリカの言葉を聞き、頬を赤らめて嬉しそうな表情でセリカを見つめた。
「さて、ロイドさん………私の可愛いエリィを穢した罪を償う覚悟はできましたか……!?」
「……………………」
「マ、マリアベルさん、落ち着いて下さい!それとラグタスも!」
そして怒りの表情で睨みながら近づいて来るマリアベルと膨大な怒気を纏い、黙って拳を構えているラグタスに睨まれたロイドは慌てながら諌めようとしたその時
「お二人とも。ロイドさんにお話があるので、少しよろしいでしょうか?」
イリーナがロイドに近づいて2人に言い
「………仕方ありませんわね。この中でロイドさんを裁く権利で最優先されるのはエリィの姉君である貴女なのですから。」
「い”っ!?」
イリーナの言葉を聞いたマリアベルは溜息を吐いた後、口元に笑みを浮かべてイリーナに言い、それを聞いたロイドは表情を引き攣らせた。
「フフ、別にそんなつもりはありませんよ。……ロイドさん。私はエリィとの恋仲を応援していますよ。」
「は、はい!ありがとうございます……!」
「お姉様………ありがとうございます………」
イリーナに微笑まれたロイドは姿勢を正し、エリィは微笑んでいたが
「―――ただし。エリィを泣かせたら覚悟してもらいますからね?エリィ以外の女性達と付き合うなとは言いませんが………もし、その事によってエリィを蔑ろにして悲しませたら、リウイ達にも頼んで貴方を破滅させるつもりですので、その時が来ないようにちゃんとエリィを愛してあげて下さい。できれば私もエリィの好きな人を不幸にしたくありませんので。」
「フフ、大丈夫ですよ、お姉様。ロイドは誠実な人ですから、そんな酷い事はしないに決まっています。……そうよね、ロイド?」
「は、はい…………!」
すざましい威圧感を纏ったイリーナとエリィに微笑まれ、ロイドは突如襲ってきた恐怖感に身体を震わせながら頷き
「……………………」
リウイはロイドを哀れそうに見つめ
「課長、俺は破滅する方に賭けます!つーか、破滅しろ!課長はどっちに賭けますか!?」
「クク、そうだな………さて、どっちに賭けるか迷う所だな……」
「そんな下らない話に乗らないで下さいよ、セルゲイさん………」
ランディは真剣な表情でセルゲイに尋ね、尋ねられたセルゲイは口元に笑みを浮かべて考え込み、セルゲイの様子を見たダドリーは呆れた表情で溜息を吐いた。
「………フフ。シズク、無事で何よりだ。」
ロイド達の様子を静かな笑みを浮かべて見つめていたアリオスはシズクに話しかけ
「うん……お父さんも………!」
話しかけられたシズクは安堵の表情を見せた。
「さ、さてと。それじゃあみんな。そろそろ乗り込もうか――――」
一方気を取り直したロイドが仲間達に促したその時
「………ロイドたち、行っちゃうの………?」
キーアが心配そうな表情でロイド達を見つめた。
「ああ………でも大丈夫だ。絶対にキーアのところにみんなで戻ってくるからさ。」
「ええ……もちろんよ。戻ってきたらまた料理を手伝ってちょうだいね?」
「あ………」
ロイドとエリィの言葉を聞いたキーアは明るい表情をし
「確かにキーアが手伝ってくれたら魔法みたいに美味しくなりますし。」
「だったらいっそ、派手にパーティでもやろうぜ。知ってる連中全員、支援課に集めまくってよ。」
ティオはエリィの言葉に頷き、ランディは笑顔で提案した。
「はは………それもいいな。」
「フフ、けどそうなるとお父さんやリウイ様達も含まれますから、凄い顔触れのパーティになりますよ?」
「確かに言われてみればそうですね………」
ランディの提案を聞いたロイドは微笑み、セティとエリナは苦笑していた。そしてロイドはキーアに近づいてキーアの頭を撫でた。
「………キーア。本当は心細かったんだな。昔のことを覚えていなくて自分が誰かもわからなくて……ゴメンな、気付いてやれなくて。」
「ロイド………うん、何だかちょっとずつ、胸がモヤモヤしてきちゃって………でも………ロイドたちがいてくれてゼンゼン寂しくなかったよ………だから………だからね………!ゼッタイに無事に戻ってきて………!」
「ああ………約束だ!」
こうしてリウイ達は兵達をそれぞれ指揮をしてクロスベル市内の防衛を開始し…………ロイド達は雷竜ガプタールの背にセリカ、ハイシェラ、レシェンテ、リタ、エクリア、狐伯蓮と共に乗り込み、ヨアヒムが潜伏している”古戦場”の奥地にある遺跡に向かった……………!
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