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呪いの指輪

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4部分:第四章


第四章

「大丈夫かしら」
「折角欧州は立ち直ったのに」
 ヒルダもこのことは素直に喜んでいた。しかしだ。
 暗殺の危険を聞いて不安にならずにいられなかった。そのうえでまたジンツァーを見た。その左手には指輪がある。その赤が入った金色のものが。
 その指輪を見てだ。また言うのだった。
「何もなかったらいいけれど。まさか」
「まさか?」
「だから。お母さんが話してくれたあの指輪tってあらゆる願いが適うのよね」
「そうよ。権力もお金もね」
 手に入るというのだ。好きなだけだ。
「どれだけでもね」
「じゃあまさか」
「大統領もその指輪を手に入れたんじゃないかしら」
 どうしてもだ。ヒルダはその疑念を拭えなかったのだ。そしてだ。
 そのジンツァーの経歴からだ。彼女も話した。
「だって。普通に高校を出て組合活動をやってた位よね」
「そう。それも小さな組合だったのよ」
「そこで普通の組合員だった人が連邦選挙に出たの」
 ドイツは連邦国家だ。各州ごとが国家の様なものなのだ。
 ジンツァーは国家の政治を行う連邦政府の選挙に出たのだ。その一介の組合員がだ。
「何の後ろ盾もないのによね」
「そう。組合も本当に小さくて政党の推薦もなかったのよ」
「それでトップ当選して」
「そうよ。そこからは言うまでもないわね」
「あっという間にEUの国家元首になったって」
「ヒトラーより凄いから」
 だからこそだ。指輪の力があったのではないかというのだ。
「本当にまさかと思うけれど」
「そんな筈がないと思うけれど」
 母は娘の話を信じられなかった。あの話はただの御伽話だと思っていたのだ。だがヒルダはとてもそうは思えなかった。ジンツァーを見ていると。
 欧州は発展し続け新興の太平洋共同体、日米中を中心としたその組織さえ凌駕しようとしていた。全てはジンツァーの優れた指導力と政治力故だった。
 誰もがジンツァーに注目していた。そしてだ。
 彼へのインタヴューも多かった。そのあるインタヴューの場でだ。
 彼にだ。美棒のキャスターが問うていた。そのインタヴューはテレビでだ。ヒルダも観ていた。彼女にしても彼に心酔していたのだ。カリスマに魅せられてだ。
 そのキャスターは彼にだ。こう問うたのだった。
「ところでこの前気付いたのですが」
「気付いたとは?」
「はい。指輪ですが」
 その左手を見ながらだ。キャスターはジンツァーに問うたのである。
「いつも二つされていますね」
「ああ、これですね」
 ここでジンツァーは左手を出した。彼のだ。
「この二つの指輪ですね」
「薬指のものは結婚指輪ですね」
「はい、そうです」
 その通りだとだ。ジンツァーはキャスターに微笑んで答える。
「こちらは」
「では中指のものは」
「それよ」
 キャスターの話を聞きながらだ。ヒルダはテレビの前でだ。
 固唾を飲んだ。そのうえでインタヴューを観るのだった。
 ジンツァーがどう答えるのか。そのことに注目したのである。
「まさかと思うけれど本当に」
「随分と変わった指輪ですね」
 キャスターはヒルダが固唾を飲んで観ていることを知る筈がない。テレビの向こうの一介の視聴者のことまではだ。とても知る筈のないことである。
 そのキャスターはだ。さらに問うたのだった。
「赤がかった金色ですか」
「そうですね。私もそう思います」
「その指輪は何処で手に入れられたのですか?」
 ヒルダが思っていた問いをだ。そのまま問うたキャスターだった。
 
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