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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第85話

ウルスラ病院に到着したロイド達は受付でヨアヒムに会えるようにアポイントを取ってから、ヨアヒムがいる部屋に向かって入った。



~ウルスラ病院・研究棟~



「―――失礼します。」

「はは……ようこそ。よく訪ねてきてくれたね。」

自分に近づいてきたロイド達を見たヨアヒムは残念そうな表情で言った。

「えっと………突然お邪魔してすみません。」

「何だかご趣味の邪魔をしてしまったようで………」

「いや~、午後のこの時間はノーブルカルプを釣り上げる絶好の時間帯なんだけど………でも、来客ならば仕方ない。君達を逆恨みする気なんてこれっぽっちもないさ、うん。」

(なんだが思いっきり恨まれてるような気が………)

(筋金入りの釣りバカみてぇだな………)

ロイドとエリィの言葉に答えたヨアヒムの言葉を聞いたティオとランディは呆れていた。

「まあ、軽いイヤミはこのくらいにして………今日は一体どうしたんだい?てっきりキーア君を連れて相談に来たと思ったんだが。」

「いえ、実は別件なんです。その………相変わらずキーアの記憶は戻っていないんですけど。」

「ふむ、そうか………個人的には一度、検査入院をしてもらった方がいいと思うが。」

「その、本人にもそれとなく勧めているんですが、その気になれないみたいで………すみません。問題を先送りにしていますね。」

「まあ焦らずにゆっくりと考えるといい。それで、別件というのは?僕の専門に関わる話かい?」

「ええ、まさにそうなんです。―――こちらの薬をご覧になっていただけますか?」

ヨアヒムに尋ねられたロイドは頷いた後、蒼い錠剤を見せた。

「ほう………?………これは………なんだこの蒼色は………着色料にしては様子が………」

錠剤を見たヨアヒムは眉を顰めた後、真剣な表情で考え込んでいた。

「この錠剤は、とある人物が持っていた物なんですが………俺達は、違法性のある薬物ではないかと睨んでいます。」

「……なるほど。詳しい話を聞かせてもらおうじゃないか。」

そしてロイド達はヨアヒムに進められてソファーに座ってヨアヒムと対面して事情を話した。



「なるほど………そんな事になっているのか。……………………」

「それで、ヨアヒム先生。この蒼い錠剤について何かご存知ではありませんか?どこかで開発された新薬とか………」

「………残念ながら見た事のないタイプの薬だ。僕は専門柄、各国の製薬会社と付き合いがあってね。開発された新薬のサンプルは大抵回してもらっているんだが………こんな色の錠剤は見た事がない。」

「そ、そうですか……」

ヨハヒムの話を聞いたロイドは残念そうな表情で頷いた。

「しかも聞く限りにおいて効能についても尋常ではない。筋力、集中力、反射神経、そして判断力と直感力……それら全てを高めるというのは………」

「その、まだマフィアたちがこの薬を服用していたかどうかは確かではないんですが……」

「実際、確認できてんのはあの鉱員だけだしなぁ。」

「…………イアン先生から聞いた話もまだ噂の域を出ていませんね。」

「ふむ、いずれにせよ、得体の知れない薬物であるのは確かのようだな。―――分かった。3錠ほどあずからせてもらうよ。早速、成分調査をしてみよう。」

「ありがとうございます。その………成分を突き止めるのにどのくらいかかりそうですか?」

「薬の現物もあるし、症状などの手掛かりもある。今日中には、主成分くらいは突き止められるとは思うが……逆にそれで突き止められなければ結構、長引くかもしれないな。」

「そうですか………」

ヨアヒムの説明を聞いたロイドは疲れた表情で頷いた。

「まあ、明日の午後くらいに通信で連絡させてもらうよ。それで構わないかな?」

「それで結構です。どうかよろしくお願いします。」

「ふふ、これで一安心ね。そういえば、副作用や中毒症状の可能性はどうなんでしょうか?」

「ふむ、それも調べてみないと何とも言えないんだが………念のため、その鉱員の関係者には何かあったらこちらに相談するよう伝えておいてもらえるかな?他の服用者が見つかったら同じ手配をしておいて欲しい。」

「承知しました。」

「やれやれ………どれだけ出回ってる事やら。街てそれっぽい噂もチラホラ聞いたくらいだし。」

「さすがにルバーチェに連絡するのは無理そうですが………本当に構成員が服用していたら副作用などが心配ですね。」

「うーん、確かに………セティ達が創り始めている解毒薬が早く完成できればいいんだけど……」

ティオの言葉にロイドは頷いた後、考え込み

「解毒薬?一体それはどういう事だい?」

ロイドの言葉を聞いたヨアヒムは不思議そうな表情をして尋ね

「あ、はい。実は―――」

尋ねられたロイドはセティ達が蒼い錠剤の解毒薬を創りはじめている事を説明した。

「へ~……異世界にはそんな凄い薬もあるのか。う~ん、”神”や”天使”がいたりと、異世界は色々凄いな~。」

「ハハ、それは俺達も同じ思いです。それとさっき話した通りセティ達が解毒薬を開発したら、そちらにも回しますので量産化をお願いしてもいいですか?」

「ああ、構わないよ。……………………………」

ロイドの話にヨアヒムは頷いた後考え込み

(………!今、怒りの感情を感じたわね………という事はこの男が今回の事件に関して関わっている事は判明したわね………)

ヨアヒムを見つめていたルファディエルは表情を厳しくした。

「………先生?」

「もしかして何か問題がありましたか?」

一方ヨハヒムの様子を見たロイドは不思議そうな表情をし、エリィは尋ねた。



「ああ、いや………そうじゃないんだ。ふと、前に聞いた噂を思い出してしまってね………」

「前に聞いた噂………」

「どんな噂ッスか?」

「ハハ、参ったな。改めて説明するほどの話でもないと思うんだが………―――数年前、製薬業界の方面で奇妙な噂が流れた事があったんだ。とある狂信的な宗教団体が不思議な薬を造りだしたとね。」

「きょ、狂信的な宗教団体………?(なんだ………?どこかで聞いた話だな………?)」

「七耀教会やアーライナ教会の異端的な一派……ということでしょうか?」

ヨアヒムの話を聞いたロイドとエリィは不思議そうな表情をして尋ねた。

「いやいや、そんな生易しい連中じゃなかったらしいよ。何でも女神(エイドス)の存在を否定し、悪魔を崇拝する……そんな教団だったらしい。」

「あ、悪魔を崇拝………!?(”教団”……まさか!?)」

「なんかいきなり胡散臭い話になったな………」

「…………………………………」

ヨアヒムの説明を聞いたロイドは驚き、ランディは目を細め、ティオは呆けて黙り込んでいた。

「はは、確かに僕も突拍子もない話だと思ったが。ただ、その薬の効能というのがちょっと気になってね………―――何でも悪魔の力を借りる事で人間の潜在能力を開花させ、運すら呼び込むものだったらしい。」

「そ、それって………!」

「今回の薬物の症状と同じ………」

「オイオイオイ………!マジでルファディエル姐さんの推測通りじゃねえか………!さすがに薬で悪魔になるなんて、まだ信じ切れなかったが………」

(フン、薬で強くなるなんて、つまんないやりかただねぇ。)

(くかかかっ!俺達悪魔を崇拝するなんて、変わった教団だぜ!)

ヨアヒムの話を聞いたエリィとロイド、ランディは驚き、エルンストはつまらなさそうな表情をし、ギレゼルは陽気に笑い

「あの………ヨアヒム先生………その薬の名前は………何か聞いていませんか……?」

ティオは辛そうな表情になった後、表情を真剣に変えて尋ね

「ああ、何だったかな……そうそう、思い出した。”真なる叡智(グノーシス)”――――そんな風に噂されていたかな。」

「……………っ……………」

ヨアヒムの答えを聞いて表情を青褪めさせ

(フン………悪魔の力を借りて”真なる叡智”とは笑わせてくれる………!)

(ティオ!?一体どうした………!)

メヒーシャは不愉快そうな表情をし、ティオの様子に気付いたラグタスは驚いた後、念話をティオに送った。

「”真なる叡智(グノーシス)”………」

「な、何だかとても思わせぶりな名前ですね………」

「まあ、余りに荒唐無稽だからすぐに消えた噂話だったけどね。ただ、去年リベールの異変で奇妙な組織が暗躍していたという噂話もあっただろう?今更ながら気になってね。」

(エステル達が言っていた”結社”のことか………)

(悪魔崇拝の教団………これってエステルさんの話にあったレンちゃんが巻き込まれたっていう”D∴G教団”事件の話と似ているけど………もしかして同じ教団なのかしら?)

「―――いずれにせよ、蒼い錠剤の正体を突き止めるため、同業者には当たってみるつもりだ。ついでに、その噂についても何か続報がないか確かめてみるよ。」

「お、お願いします。」

「悪魔の力を借りる薬ねぇ………」

「……………………」

そしてヨアヒムの言葉を聞いたロイドは軽く頭を下げ、ランディは目を細め、ティオは表情を青褪めさせて黙り込んでいた。その後ヨアヒムの部屋を退出したロイド達はクロスベル市に戻る為に病院の前にあるバス停に向かった。



~夕方・ウルスラ病院~



「さてと、もう夕方だしバスでとっとと帰るとすっか。」

「そうだな………」

「ふふ、こういう時にやっぱりバスは有難いわね。」

「……………………」

バス停の近くまで来たランディの提案にロイドとエリィが頷いている一方、ティオは黙り込んでいた。

「ティオ………?」

「なんだティオすけ。さっきから妙に静かだな?」

「………別にそんな事は。」

ロイドとランディの疑問にティオが答えたその時

「ティオちゃん………!?夕陽でわかりにくいけど………あなた、顔が真っ青よ!?」

表情を青褪めさせているティオの状態に気付いたエリィが血相を変えて言った。

「えっ!?」

「……問題ありません。少し気分が優れないだけで………」

「おいおい。問題ないじゃねーだろ。とにかくどこか休めるところでも―――」

そしてランディが目を細めて呟いたその時

「……あ………」

ティオは声をあげた後、地面に崩れ落ちた。

「ティオ!」

「た、大変………!」

「……………………」

ティオの状態を見たロイドとエリィが声をかけたその時、なんと気絶したティオの背中から一対の漆黒の翼が現れた!

「なっ!?」

「つ、翼………!?」

「オイオイオイ………!一体何がどうなってんだよっ!?」

(ん?へ~………大分前から感じていて、何でだと思っていたけど、あたいらと同類みたいじゃないか。クク………よく天使のラグタスがあの人間?と契約したねぇ………)

(なるほど………会った時から時折彼女からも”魔”の気配が感じていて、理解できなかったけど………そういう事だったのね。)

(悪魔の力を宿した人間か……………!ラグタス将軍………何故あの人間と契約しているのですか………?)

ティオの背中に現れた翼を見たロイド達は信じられない表情をし、エルンストは眉を顰めた後興味深そうな表情になり、ルファディエルは真剣な表情でティオを見つめ、メヒーシャは厳しい表情でティオを見つめた後考え込み

(くかかかっ!ここからどんな展開になるか楽しみだぜぇ!)

(……………ついにわかってしまったか…………)

ギレゼルは陽気に笑い、ラグタスは重々しい様子を纏った。

「………とにかく、医者か看護師を呼んでくれ!」

「ああ………わかった!」

そしてロイドの指示にランディは頷いた後、病院に向かって走り出した…………………


 
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