英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第84話
~特務支援課~
「…………………………………」
報告を聞き終えたセルゲイは目を細めて黙り込んでいた。
「あの………課長?」
「す、すみません。わかりにくい報告でしたか?」
「いや……その一連の情報だが………ひょっとしたら全部、繋がっているかもしれんぞ。」
「え………」
「マジかよ………!?」
「そ、それはどういう!?」
「……………………」
(やはりセルゲイも気付いたわね………)
セルゲイの言葉を聞いたロイド達は驚き、ティオは黙り込み、ルファディエルは納得した様子でいた。
「色々な事が起きすぎて混乱してるのかもしれんが………今日、お前らが見聞きした事を有機的に結び付けてみろや。特にロイド―――こういう時こそ捜査官の本領発揮だろうが。」
「あ、はい。今日、聞き込んだ情報は大まかにまとめて3つ………ツァオとチキさん達から聞いた”黒月”と”ラギール商会”襲撃に関する情報……グレイスさんと情報交換したルバーチェの現状に関する情報………そしてマインツの鉱員、ガンツさんに関する情報………」
「それらの3つの情報を結びつける要素があるわけね。」
「ふむ……何となくだが見えて来たな。」
「ああ、整理してみよう。」
そしてロイドは情報を整理してみた。
『関連しそうな要素』
①襲撃者の身体能力
②場当たり的な組織運用
③所持していた蒼色の錠剤
「こ、これは……」
「おいおい………キナ臭すぎるだろ。」
纏めた情報にエリィは驚き、ランディは目を細めた。
「だが、こう関連付けると色々と見えてくることがある。”黒月”と”ラギール商会”を襲撃したマフィア達が見せたという身体能力………神がかり的なギャンブルの腕を手に入れた鉱員のガンツさん………どちらも別々の現象だけどその人間の”潜在能力”が上がっているというのは同じだ。もし、それを繋ぐものがこの『蒼い錠剤』だとするなら……」
「……マフィア達が違法薬物に手を出し始めた………そして一般市民に流し始めているだけでなく戦闘力の強化にも使っている………つまりそういう事ですか。」
「ああ………まだ憶測のレベルだけどね。」
「で、でも確かにそれだと色々と説明できるわ。あの若頭の統率力がルバーチェ内で低下したのももしかして………」
「クスリをキメて力を手に入れ、態度もデカくなった下っ端連中が増え始めている………そのせいってわけかよ………」
「―――上出来だ。加えて昨日、イアン先生が言っていた噂話もあるだろう。」
ロイド達がそれぞれの推理をしているとセルゲイが話しかけた。
「急激に業績を上げたっていう貿易商と証券マンですか………!」
「そ、それでは彼らもその蒼い錠剤を………!?」
「それこそ現時点ではただの憶測になっちまうがな。だが、一つ一つの点が線となり面を構築する……そんな気がしてきたんじゃねえか?」
「ええ………」
セルゲイに尋ねられたロイドが頷いたその時
「………憶測ではなく、恐らく確定だと思うわよ。」
「ルファ姉。それって一体どういう………」
ルファディエルがロイドの傍に現れ、ルファディエルの言葉を聞いたロイドは驚いてルファディエルを見つめた。
「貴方達に言っても理解できないかもしれないけど………いいかしら?」
「ああ、頼む。」
「………”魔”の気配よ。」
「”魔”??」
「どういう意味ッスか?」
ルファディエルの言葉を聞いたロイドは不思議そうな表情をし、ランディは尋ねた。
「わかりやすく言えば”悪魔”の気配よ。ルバーチェ商会の建物を見張っていたルバーチェの構成員にあのガンツという鉱員……そしてその錠剤から同じ”魔”の気配を感じたわ。」
「ええっ!?」
「あ、”悪魔”!?」
「確かに”天使”のルファディエル姐さん言うと納得できるッスが………いくらなんでもクスリで”悪魔”になるなんて、ちょっと信じられないんスが………」
そしてルファディエルの話を聞いたエリィとロイドは驚き、ランディは納得した様子で頷いた後、真剣な表情で言った。
「普通ならそうね。でも昔からさまざまな方法で”悪魔”を召喚したり、”悪魔”の力を宿して”魔人”になる”外法”は存在しているわ。昨日の”僧院”の出来事を考えれば、薬物で”悪魔”になる方法があってもおかしくないでしょう?」
「あ………」
「………”悪魔”が出て来た魔法陣か………」
「フム…………………………………」
「…………………………………」
ルファディエルの説明を聞いたエリィとロイドは月の僧院で現れた”悪魔”や悪魔が現れた魔法陣を思い出し、セルゲイは目を細めて考え込み、ティオは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「それともう一つ。以前貴方たちが逮捕したアーネスト………彼からも同じ”悪魔”の気配を感じたわ。彼も恐らくその錠剤を服用していたと思うわ。」
「ええっ!?ア、アーネストさんが………!そ、そんな………」
「………言われてみれば奴の身体能力も凄かったよな………」
「ああ。加えて言えばあの時のアーネストはガンツさんのように錯乱していたからな………」
ルファディエルの話を聞いたエリィは驚いた後信じられない表情をし、ランディとロイドは考え込んでいた。
「………ただ、どの道考えた所で正直、支援課だけでは手に負えない状況かもしれません。特に薬物の件に関しては一課に連絡する必要があるんじゃないでしょうか?」
「ああ、その点に関しては丁度いいタイミングだったな。」
「え……………」
そしてセルゲイの言葉にロイドが呆けたその時、キーアが部屋に入って来た。
「あ、ここにいたんだー。」
「キーア、どうしたんだ?」
「お腹でも空いちゃった?」
「んーん、お客さん。ぶすっとしたオジサンがきたよー?」
「ぶすっとしたオジサン………?」
キーアの言葉にロイドが不思議そうな表情をしたその時
「失礼します。」
ダドリーが部屋に入って来た。
「あ………」
「ダドリー捜査官………!」
「おう、遅かったな。」
自分の登場で驚いているロイド達を気にせず、ダドリーは声をかけてきたセルゲイに近づいた。
「………済みません。捜査会議が長引いてしまって。例の話についてですが早速、始めさせてもらっても構いませんか?」
「おお、構わんぞ。コイツらも一緒で良けりゃあな。」
「セルゲイさん!冗談はやめてください!ルファディエルはともかく、こんなヒヨッ子どもに聞かせるような話では――――」
セルゲイの意見を聞いたダドリーは驚いた後真剣な表情で反対しかけたが
「だが、今回の件についてはこいつらが集めて来た情報がきっと役に立つだろう。同席させた方が手っ取り早いぞ?」
「なんですって………そういえば”黒月”と”ラギール商会”の聞き込みもお前達に任せていた所だったか。そのついでに………い、いやしかし………」
セルゲイの話を聞いたダドリーは驚いた後、ロイド達に視線を向けて迷った表情をしていた。
「えっと、課長。都合が悪いようでしたら俺達は退室しましょうか?」
「いや、その必要はない。その男も、伊達に一課のエースを張ってるわけじゃねえ。この状況で何が必要かはきちんと見抜けるだろうさ。現に今さっき脅迫状の件で支援課が真犯人を捕える為に、自分達を囮にしたルファディエルの同席は認めていただろう?」
「くっ………わかりましたよ。―――いいかお前達。これから話すのは警察内部の機密事項だ………みだりに他言することは絶対に許さんからな!?」
そしてロイド達に言ったセルゲイの言葉を聞いたダドリーは苦々しい表情をした後、ロイド達を睨んで忠告した。
「わ、わかりました。」
「なになに、ひみつのお話ー?キーアも聞きたい!」
ダドリーに睨まれたロイドは戸惑いながら頷き、キーアは無邪気な笑顔を浮かべ、その場にいる全員を脱力させた。
「え、えっと………」
「お菓子を用意するからツァイトと一緒に食べててね?」
その後キーアを部屋から出したロイド達はダドリーから話を聞いた。
「捜査一課に圧力………!?」
話を聞いたロイドは真剣な表情で声をあげた。
「いや、そこまで露骨なものではないが………”黒月”と”ラギール商会”の襲撃事件を受けてマフィア同士の抗争への対処に全力を傾けろとの指示が下った。………少し前から追っていた謎の薬物の捜査を打ち切ってな。」
「な………!?」
「一課の方でも薬物に関する捜査を………?」
そしてダドリーの説明を聞いたロイドはさらに驚き、ティオは尋ねた。
「フン、数日前からだがな。私としてはお前達が知っていた事の方が驚きだが。」
「で、一課の方はどこでその薬物のネタを掴んだんだ?」
「………昔から使っていた情報屋のタレコミです。それなりに信頼できる筋なので情報収集をしていた所ですが………今の所集まっているのは都市伝説のような噂だけですね。『願いが叶う薬』だの『幸せを運ぶ青い薬』だの………ただ、どうにもキナ臭いので噂になっている市民のリストを揃えている最中だったんですが………」
「「「「…………………………」」」」
「な、なんだお前達……その『やっぱり』という顔は。」
「フン………ビンゴだったようだな。ロイド、見せてやれ。」
「………はい。」
「???」
セルゲイの指示に頷いたロイドの様子にダドリーが首を傾げたその時
「これを―――」
ロイドが蒼い錠剤をダドリーに見せた。
「な………!も、もしかしてこれは………!?」
錠剤を見たダドリーは声を上げて驚いた。
「………今日、ある筋から俺達が入手した証拠物件です。その人の名誉を守るという条件で預からせてもらったんですが………」
驚いているダドリーにロイド達はこれまでの経緯を一通り説明し、さらにアーネストも関係がある可能性を説明した。
「クッ………やはり存在していたのか………しかもアーネストも服用していた可能性もある上、ルバーチェが流した可能性があるだと………!?」
説明を聞いたダドリーは唇をかみしめた後、表情を歪めた。
「その薬物捜査を打ち切れという指示………どこから降りてきたか見当はつくのか?」
「……上層部の誰かかと。一課の課長も納得できないまま、我々に指令を下していました。」
「フン、最悪だな。」
「ちょ、ちょっと待ってください。まさか警察の上層部がマフィアの要請を受けて………!?」
ダドリーとセルゲイの会話を聞いて驚いたエリィは怒りの表情で尋ね
「「…………………」」
尋ねられた2人は反論もせず、黙り込んでいた。
「そ、そんな………」
「おいおい、マジかよ………」
「………確かに最悪ですね。」
「……………………」
2人の様子を見たロイドは信じられない表情をし、ランディは目を細め、ティオは疲れた表情で呟き、ルファディエルは考え込んでいた。
「―――ダドリー。俺の所に相談に来たってことは上層部に不信を抱いたからだろう。それで、どうするつもりだ?」
「…………………………………正直、薬物捜査に関してはこちらでは動きようがありません。下手に動けば、今度は上層部も露骨に横槍を入れるでしょう。だが、それでは警察組織として余りに不甲斐なさすぎる………!」
「ダドリー捜査官………」
「だったら薬物捜査に関してはウチに任せてもらうしかないな。―――ロイド、エリィ。それにランディにティオ。これより特務支援課は非公式に捜査一課と協力体制に入る。身動きの取れない一課に代わってこのまま薬物捜査に当たれ。セティ達にも後でその事を伝えておけ。後、ルファディエル。俺にはお前の指示権はないが、こいつらをできれば手伝ってやってくれ。」
「はい………!」
「了解しました………!」
「フフ、頼まれなくても手伝うつもりだったわよ。」
セルゲイの指示にロイドとエリィは頷き、ルファディエルは微笑んだ。
「ふむ、その見返りだが………一課からはマフィア関連の情報を無制限で回してもらう事にする。」
「セ、セルゲイさん!?いくらなんでも極秘情報を無制限というのはさすがに………」
そしてセルゲイの話を聞いたダドリーは慌てた様子で反論したが
「別にこちらは構わんぞ?そちらが手詰まりになろうが勝手に動くだけだからな。」
「くっ………わかりました。その条件で構いません。」
「クク、決まりだな。」
セルゲイの説明を聞いて唸った後、疲れた表情で頷いた。
「いや~、あの一課に代わってわざわざ俺らが動いてやるわけか。」
「なかなか優越感をくすぐられる状況ですね。」
そしてランディは嬉しそうな表情で呟き、ティオは静かな笑みで呟き
「……………………………」
2人の言葉を聞いたダドリーは2人を睨み
「おおコワ………」
「………くわばらくわばらです。」
睨まれた2人はふざけた様子で呟いた。
「フン、まあ仕方あるまい。こうなった以上、お前達に薬物捜査を任せるのは納得したが………今後の捜査方針はどうするつもりだ?」
「そうですね………―――何はともあれ、薬の現物が手元にありますし。どういった成分かを突き止める必要があるでしょう。」
「ふむ………だが、どうやって突き止める?現時点での情報から推測するに全く新しいタイプの薬物だ。本部の鑑識では手に余るし、上からも目を付けられやすいぞ。」
「なるほど……そうなるとセティ達と医科大学………この2つに頼った方がいいかもしれません。」
「……なるほど。あの先生に頼りますか。」
「医科大学………聖ウルスラ医科大学か?」
ロイドとティオの話を聞いたダドリーは意外そうな表情で尋ねた。
「ええ、薬学を研究している知り合いの先生がいるんです。相当優秀だと聞いているので薬の成分を突き止められる可能性は高いのではないかと。」
「フン、なるほどな………ちょっと待て。今、お前達支援課のメンバーの名前も出なかったか?」
ロイドの説明を聞いたダドリーは頷いた後、ある事に気付いて眉を顰めた。
「はい。セティ達はなんでも創る”工匠”なので薬の成分も調べられると思いますし。」
「実際、セティちゃん達が創ってくれた治療薬にお世話になっているものな♪」
「フフ、そうね………彼女達の創った治療薬の方が市販の物より効果が高いから、いつも助かっているわ。」
ダドリーに尋ねられたロイドは頷いて説明し、ランディやエリィが説明を補足した。
「フン、こんな時に冗談はやめろ。確かにディオン3姉妹は”どんな物でも創る”といわれているあのウィルフレド・ディオンの娘達だが、いくら彼の娘達とはいえ、14,5の子供が薬の成分を調べられるわけがないだろう……」
そしてダドリーが呆れた表情で答えたその時
「――――いいえ、調べられますよ。」
セティ達が部屋に入って来た。
「セティ。急に呼び戻して悪かったね。」
「いえ、緊急性があるとの話でしたので。それで………私達が薬の成分がどうとかお話しされていましたけど、一体どういう話になっているんですか?」
「実は―――」
そしてロイド達はセティ達に事情を話した。
「なるほど………それで私達にその錠剤の成分を調べて欲しいんですね?」
事情を聞いたエリナは考え込んだ後、ロイドに尋ねた。
「………それと同時にもう一つ、してほしい事があるわ。」
「ルファ姉?」
その時ルファディエルが口を出して、ルファディエルの行動に首を傾げ
「あたし達に薬の成分を調べるだけでなく、何をしてほしいの~?」
「………その錠剤の解毒薬となる薬の作成を頼みたいのよ。」
「ええっ!?」
「な………!?」
シャマーラの疑問に答えたルファディエルの話にロイドとダドリーは驚いた。
「事は一刻の猶予もないわ。最悪の場合、服用者全員が”手遅れ”になる事もありえるわ。それを防ぐ為に解毒薬は創っておくべきでしょう?」
「一体何を考えている!?免許も持っていない者達が創った新薬を使える訳ないだろうが!」
ルファディエルの話を聞いたダドリーは怒鳴ったその時
「免許なら持っていますよ、はい。」
「あたしだって持っているよ♪」
「………これでよろしいでしょうか。」
セティ達はそれぞれ薬の取扱いや危険薬の扱い、さらに薬の調合、販売等、薬関係が纏めて許可になっている免許証をダドリーに見せた。
「なっ………!?」
「薬剤師に危険薬取扱い許可の資格………!?他にもさまざまな薬関係の資格があるし………セティ達、薬関係の免許でこんなに持っていたのか………」
「い、一体いつ取ったの………?」
免許証を見たダドリーとロイドは驚き、エリィは戸惑った表情で尋ね
「大使館で色々学んでいた時に試験を受けて合格した後、もらったんです。………こちらの世界ですと免許証が無いと武器は勿論の事、薬を創って売ったりすることはできませんし。」
「試験が一杯あって、面倒だったよね~。内容はあたし達からしたら今更な内容ばかりで正直、簡単な問題ばかりで時間の無駄だったし。」
「………シャマーラ。こちらの世界ではそういう風になっているのですから、仕方ありません。」
尋ねられたセティとシャマーラが答え、めんどくさそうな様子で呟いたシャマーラの言葉にエリナが指摘した。
「あ、それとダドリーさん。いつも私達の商品を買ってくれてありがとうございます。」
「何っ!?いつ私がお前達が創ったとかいう物を買ったというのだ!?」
そしてセティに軽く会釈をされたダドリーは驚き
「私達はチキさんのお店―――”ラギール商会”に自分達の創った商品を回して、売ってもらっていますから。」
「それでチキさんにどんな人達があたし達の商品を買ってくれているのかたまに聞いて、その中にダドリーさんがいたんだよ?」
「え………ダドリーさん、ラギール商会で売っている商品を買っているんですか?」
エリナとシャマーラの話を聞いたロイドは驚きの表情で尋ね
「………今の所違法性はないから、普通の店として利用してもおかしくはないだろうが。実際、あの店で売っている異世界の武器や治療薬は若干値段は高いが市販の物と比べるとかなり高性能だからな………」
尋ねられたダドリーは苦々しい表情で答えた。
「ちなみにどんな商品を買って行ったんだ?」
ダドリーの答えを聞いたランディは興味深そうな様子でセティ達に尋ね
「フフ、大型の銃と薬ですよ。特に薬は訪れる度に買ってくれたそうです。………ダドリーさん。もし、それでも疑うのならチキさんやエリザベッタさんに聞いてみてください。お二人ならダドリーさんが使っている銃や薬が私達が創った物である事を証明してくれますよ。」
尋ねられたセティは微笑みながら答え
「クク………どうやらこいつらが創った薬は既に自分で確かめていたようだな?それなら文句はないだろう?」
「グッ………………」
口元に笑みを浮かべて呟いたセルゲイに見つめられたダドリーは唸った。
「解毒薬か………それなら私も手伝いましょうか?」
「エルファティシアさん?」
そしてエルファティシアの申し出にロイドは驚き
「私は”エレン・ダ・メイル”の”王”だったからね。いざという時用の為の色々な治療薬や解毒薬の調合を私は知っているし、調合もした事あるわ。私が知る薬の調合の中には”エレン・ダ・メイル”にしか伝えられていない秘薬だってあるわ♪」
「わあ………!」
「ぜひ、教えてもらいたいです……!」
「ええ………一体、どんな薬なのでしょうか………!」
エルファティシアの説明を聞いたシャマーラ達は興味深そうな表情になった。
「ちなみにどんな解毒薬を創ってほしいのかしら?」
「………魔人化を浄化する薬を創って欲しいのよ。」
一方ある事に気付いたエルファティシアに尋ねられたルファディエルは静かな表情で答え
「ええっ!?」
「ルファディエルさんが恐れている”手遅れ”は服用した者達が”悪魔”になってしまうかもしれない事なのですね………」
ルファディエルの話を聞いたシャマーラは驚き、エリナは真剣な表情で呟き
「………エルファティシアさんはそういう薬って知っていますか?生憎ながら私達は魔人化を浄化するほどの高性能な薬のレシピは工匠のランクの関係で、まだ教えてもらっていないんです。」
セティは不安そうな表情でエルファティシアに尋ね
「ええ、知っているわよ。」
「そうですか………それじゃあ、解毒薬の調合の時はよろしくお願いします。」
尋ねられたエルファティシアは頷き、エルファティシアの答えを聞いたセティは安堵の表情を浮かべて言った。
「というか、セティちゃん達の世界ってスゲーな………そんなとんでもない薬もあるのかよ……」
「あ、ああ………本当に彼女達の世界は驚く事で一杯だよ………」
セティ達の会話を聞いていたランディは苦笑し、ロイドは疲れた表情で溜息を吐いた。
「フム………話は決まったな。セティ、シャマーラ、エリナ、エルファティシア。事は緊急性が高い。まず解毒薬の作成を最優先にしろ。それと解毒薬の効能が服用者に効く事が分かり次第、ウルスラ医科大学に調合の仕方等を教えて、量産化を図ってくれ。事情の方は俺の方から説明しておく。その錠剤を服用しているのはガンツという鉱員だけではないから、恐らく一つでは足りん。成分調査の方は医科大学でしてもらうから、そっちの方は後回しで構わん。」
「わかりました。」
「は~い。」
「はい。」
「わかったわ。」
そしてセルゲイの指示にセティ達は頷いた。
「ダドリー、そちらは一課でまとめた捜査報告書を今日中にこちらに回してくれ。それを元に、こいつらに今後の捜査方針を決めさせたい。」
「わかりました。すぐにお届けに上がります。―――では、私はこれで。今後ともよろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそな。それと、その言葉はこいつらに言ってやれ。」
「うっ………」
一方セルゲイの指摘を受けたダドリーは唸って考え込んだ後、ロイド達の方に振り向き
「―――いいか、お前達。くれぐれも迂闊なことをして事態を悪化させたりするなよ?それと薬物捜査はともかくマフィアどもの抗争への対処は我々一課の担当だ!首を突っ込んだりせずに大人しく任せておくがいい!」
「あ……」
ロイド達に忠告をした後部屋を出て行った。
「やれやれ。素直じゃねえ兄さんだな。」
「……あれは一種の照れ隠しなのではないかと。」
「ふふ、そうかもしれないわね。それに思っていたより、正義感がある人みたいだわ。」
「ああ………それは信用できる気がする。」
「基本的に一課の連中は真面目で正義感があるヤツが多い。まあ杓子定規で、融通が利かないヤツが多いんだがな。―――さてと、お前ら。さっそく病院に向かうのか?」
「ええ、そのつもりです。それと時間があれば他の支援要請も片付けておこうかと。セティ達は解毒薬の調合の方を頼むよ。」
セルゲイに尋ねられたロイドは答えた後、セティ達に視線を向け
「ええ、任せてください。」
視線を向けられたセティは頷いた。
「クク、元気な事だ。一課と協力する事になったとはいえ、お前達が気負う必要はない。いつも通り、お前達のやり方でその薬物の謎に迫ってみせろ。」
「はい!」
(下手にヨアヒムが怪しい事を言って先入観を与えるより、何も知らない状態で聞いた方が意外な情報を話すかもしれないから、ヨアヒムの事は黙っておきましょう………)
その後エルファティシアを加えたセティ達は自分達の工房で解毒薬の調合の開発を始め、ロイド達はセティ達に錠剤の数個をセティ達に渡した後、残りの錠剤を持ち、支援要請をいくつか片付けた後、ウルスラ病院に向かった………
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