英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第82話
~港湾区~
「………参ったな。」
「ええ、色々と教えてくれたのは助かったけど……まさかあそこまで露骨に本格的な抗争を仄めかすなんて………」
「このままだと確実にドンパチが始まるだろうな。下手すりゃ今回みたいな市街地で。……もしかしたら”ラギール商会”も加わって、三つ巴のドンパチになるかもしれねぇぞ。」
「しかも”黒月”本体からの増援の可能性アリですか………相当、キナ臭くなってきましたね。」
「………ツァオがああ言った以上、まだ猶予はあると思っていいだろう。後はラギール商会の方だが………そちらの方はセティ達が詳しい事を聞いてくれるだろう。いずれにせよ、ルバーチェの今回の襲撃には不審な点が多すぎる。黒月とラギール商会が本格的に動き始める前に色々調べてみた方が良さそうだな。」
「ええ、そうね。」
「となると今日も、各方面で聞き込みを?」
ロイドの提案を聞いたエリィは頷き、ティオは尋ねた。
「いや……―――やはりここは直接、ルバーチェを当たってみないか?」
「マジか………!?」
「た、確かに以前も訪ねたことはあったけど………」
「競売会の一件もありますし、さすがに無謀すぎるのでは?」
そしてロイドの提案を聞いたランディは驚き、エリィは戸惑った様子で呟き、ティオは真剣な表情で尋ねた。
「……ああ。いくら手打ちの話があってもキーアとエルファティシアさんの件についてだけだしな。ただ、どうしても気になることがあってさ………」
「気になる事………?」
「あのガルシアの動向さ。何度かやり合って思ったんだが彼は決して愚かでも無謀でもない。そして手下もちゃんと押さえて統率している印象だった。」
「確かに、元は名の知れた猟兵団の部隊長だったしな。普通だったら意味もない襲撃をやらせるとは思えねぇが………」
「昨晩の襲撃を彼が指示したのかそれとも手下の暴走なのか………確かに知りたい情報ではあるわね。」
ロイドの話を聞いたランディとエリィは頷いた。
「だろ?ルバーチェ商会の周辺を聞き込んでみるくらいでもいい。今から行ってみないか?」
「はあ………仕方ないわね。」
「まあ、周辺を聞き込む程度なら危険は少ないのではないかと。」
「しゃあねえ、行ってみるか!」
「ああ。………っと。」
仲間達の言葉に頷いたロイドだったが、自分のエニグマが鳴りはじめている事に気付いて、通信を始めた。
「はい、特務支援課、ロイド・バニングスです。」
「こちらセティです。チキさんから話が聞けたので、今伝えておこうと思うのですが、いいですか?」
「ああ、頼むよ。」
通信を始めたロイドはセティからセティ達がチキから聞けた話を聞いた。
「そうか………ありがとう。課長に報告したら溜まっている支援要請を始めてくれ。俺達はこれから聞き込みを始めるから俺達の代わりに支援要請の片づけを頼むよ。」
「わかりました。」
そしてロイドは通信を止め
「もしかしてセティちゃんから?」
「ああ――――」
エリィ達にセティ達から聞いた話を伝えた。
「………黒月とだいたい話は同じでしたね。」
「でもまさか”闇夜の眷属”とも対等にわたりあえるなんて………」
「けどまあ、ラギール商会は黒月と違って、静観に徹するみたいだな………この情報は俺達にとってかなり重要だな。」
ロイドの話を聞いたティオは静かに呟き、エリィは驚きの表情で呟き、ランディは口元に笑みを浮かべて呟いてロイドを見つめ
「ああ。………それじゃ、裏通りに行こうか。」
見つめられたロイドは頷いた。その後ロイド達は裏通りに向かい、ルバーチェ商会の建物を物陰から見つめた。ルバーチェの建物の入り口付近には多くのマフィア達が殺気立っており、今にも攻撃しそうな雰囲気をさらけ出していた。
~裏通り~
「やっぱり普段より見張りが多いみたいね………」
「しかも、想像以上に殺気立ってる感じだな………」
「焦りと興奮、警戒と不安……そんな感情がごちゃ混ぜに伝わってきます。」
マフィア達の様子を見たエリィとランディ、ティオは真剣な表情で呟き
(………どういう事だ?あの人間達からも”魔”の気配がするぞ………!)
(以前戦った時、奴等からは”魔”の気配はしなかった………それなのに何故、今の奴等から感じる………!?)
(アーネスト………ヨアヒム………ガンツ………そしてマフィア達………どうやら何らかの形で繋がっているみたいね………身体能力等の点を考えると妥当な所は薬物だけど………唯一の疑問は”運”まで強くなる事なのよね………)
それぞれの契約者を通してマフィア達を見ていたラグタスとメヒーシャは驚き、ルファディエルは目を細めて考え込み
「間違いなく”黒月”と”ラギール商会”の報復を警戒してるんだろう………しかし参ったな。あの様子じゃ、ガルシアの動向を確かめるなんてとても―――」
ロイドは真剣な表情で呟いて溜息を吐いた。するとその時
「―――俺が何だって?」
なんとガルシアが歓楽街の方面からロイド達に近づいてきた。
「ガルシア・ロッシ………!」
「チッ、デカイくせに気配を消しやがって………」
(クク、実際ランディとタイマンで戦えばどうなるのか、ちょっと興味があるねぇ。)
自分達に近づいてきたガルシアを見たロイドは驚き、ランディは舌打ちをし、エルンストは不敵な笑みを浮かべていた。
「フン、てめぇらか。あんな事があったってのによくもノコノコとこの場所にツラを出せたもんだなァ?」
「くっ………言い訳はしません。あなた達との手打ちについてはキーアとエルファティシアさんに関する事だけですから。」
「クク、わかってんじゃねえか。手打ちの件を盾に、勘違いして乗り込んできたら叩きのめしてやる所だったぜ。」
「………………………………」
(くかかかっ!それはそれで面白そうだな!敵の本拠地を襲撃するなんて、面白い事間違いなしだぜ!)
「フン、物騒なオッサンだな。」
不敵な笑みを浮かべて自分達を見つめるガルシアをロイドは黙って見つめ、ギレゼルは陽気に笑い、ランディは鼻を鳴らした。
「……てめえらがコソコソと嗅ぎまわっている理由はわかってる。だが、その件について俺から話すことは一切ない。とっとと消え失せろ。」
「くっ………」
ロイド達に忠告したガルシアはルバーチェの建物に向かい始めた。
「―――1つだけ、教えてください。もし、あなたが武装した敵の本拠地を攻略するとしたら………正面から力任せで行きますか?」
するとその時、ロイドの言葉を聞いて、ロイド達に背中を向けながら立ち止まった。
「ハッ、まともな猟兵団ならそんな作戦は絶対に立てねぇな。可能な限り有利な状況に持ち込んで最低限の被害で最大の戦果を狙う。そうだろう………”闘神の息子”?」
ロイドの質問を聞いて立ち止まって黙り込んだガルシアは鼻を鳴らして答えた後、ランディに言った。
「その名で俺を呼ぶんじゃねえ。………だがまあ確かにそれが猟兵の流儀ってヤツだ。」
ガルシアの言葉を聞いたランディはガルシアを睨んだ後、ガルシアの説明を補足し
「……そうか。―――ありがとう。答えてくれて感謝します。」
それらを聞いたロイドは頷いた後、静かな笑みを浮かべてガルシアに言った。
「クク………おかしなガキだぜ。ただまあ、ここから先は不用意に立ち入らねぇことだ。マジで死ぬぞ、お前ら。」
ロイドの言葉を聞いたガルシアは口元に笑みを浮かべた後、ロイド達に警告し、建物に向かって行った。
「何だか、少し様子が変だったな。張りつめているようで、どこか力が抜けてるような………」
(………諦め………後悔………不安………そういった感情が感じられるわね………さて………一体何があったのかしら?)
ガルシアが去った後、ロイドは戸惑った様子で呟き、ルファディエルは考え込んだ。
「……そうね。言ってる事は物騒だったけど殺気は感じなかったし……」
「少し疲れているような、そんな感じもしました………一体、何があったんでしょうか?」
「チッ………らしくねえツラしやがって。」
そしてロイドの言葉に頷くかのようにエリィ達が戸惑いの様子で呟いたその時
「うふふん。その理由、知りたい~?」
グレイスがロイド達に近づいてきた。
「グ、グレイスさん………!?」
「アンタもいい加減、神出鬼没な姉さんだな………」
グレイスの登場にロイドは驚き、ランディは呆れて溜息を吐いた。
「フッ、それが記者魂ってモンよ。それじゃ、例によって例のごとく、ギブ・アンド・テイクといきましょ♪そこのジャズバーで待ってるから♪」
そしてグレイスは近くにある酒場に入って行き
「………どうするの?」
「まあ、聞くだけ聞いてみよう。喋り過ぎないように注意する必要はありそうだけど。」
「………ですね。」
グレイスが酒場に入った後、ロイド達は相談し、グレイスを追うように酒場に入り、先に席について飲み物を頼んで飲んでいるグレイスに話しかけた。
「おっ、来たわね。早速だけど、黒月襲撃とラギール商会襲撃について知ってる事を喋ってもらおうかしら?ツァオ氏やチキ氏から色々と話を聞いたんでしょ?」
「いきなりですね………」
「というか、何故わたし達とセティさん達が黒月とラギール商会を訪ねた事を知っているのですか?」
グレイスの話を聞いたロイドは呆れ、ティオはジト目で見つめながら尋ねた。
「いや~、朝一番で話を聞いてツァオ氏とチキ氏に取材を申し込もうとしたら黒月にはダドリーが現れちゃって、ラギール商会にはエマっていう一課の刑事が現れちゃったて聞いてさぁ。どうしたもんかと様子を伺ってると君達が後から入って、ラギール商会の方の見張りを頼んでいたレインズ君からはセティちゃん達が後から入っていったて聞いてね。そうしたらダドリーが苦虫を噛み潰したような顔を出てきてその後、君達も思案顔で出て来て、セティちゃん達の方も大体同じような感じだって聞いたわけ。こりゃあ色々聞いたと思わない方がおかしいでしょ?」
「なるほど……そういう事でしたか。」
「どちらにしても、捜査上の情報を簡単に洩らす訳にはいかないのはご存知かとは思いますが………?」
「もちろんわかってるってば~。だからギブ・アンド・テイクじゃない。ガルシア氏についての情報、知りたくないの?」
エリィに尋ねられたグレイスは笑いながら頷いた後、口元に笑みを浮かべて尋ねた。
「それは………」
「相変わらず、美味しいエサをちらつかせてくるのが上手いよな。」
グレイスに尋ねられたロイドは驚き、ランディは溜息を吐いた。
「例の”競売会”の顛末も色々と聞いてるわよ~?ルバーチェがヘマをやらかして議長のご不興を買ったらしいけど………そのあたりの状況と合わせて色々と知りたくな~い?」
「はぁ、わかりました。ただし、ツァオ氏とチキ氏の話は全て仄めかされた非公式のものです。そのあたりは了解してください。」
その後ロイド達はグレイスに自分達が聞いた情報を話した。
「……なるほどね。うーん、思っていた以上にヤバイ状況になってるわねぇ。」
「ええ………そうなんです。今のところはどこも一般市民を巻き込まない配慮はしているみたいですが………」
「いや、それにしたって今回の事件は唐突すぎるわよ。いくら真夜中とはいえ、通信社の近くでの襲撃よ?しかも近隣には天下のIBCや、アルカンシェル、そしてホテル”ミレニアム”………さすがに思い切りが良すぎだわ。」
「ええ、そうですね………下手をすればクロスベルの金融・貿易センターとしての信頼や観光地としての信頼も揺るがしかねない出来事だと思います。」
グレイスの言葉にエリィは真剣な表情で頷いた。
「そこなのよね、ポイントは。うーん、こりゃあたしが掴んだ情報もあながち嘘じゃないかもしれないわ。」
「グレイスさんが掴んだ情報………」
「……話してもらえますか?」
「オーケー。今度はこっちのターンね。実はね………マフィアの内部事情なんだけど。最近、若頭のガルシア氏の統制が行き届かなくなっているって噂があるみたいなのよね~。」
「それは………本当ですか?」
「ちょいと信じられねぇな………あの化物みたいなオッサンに部下どもが逆らえるとは思えねぇが。」
グレイスの話を聞いたロイドは驚き、ランディは溜息を吐いた後目を細めて呟いた。
「まあ、そうなんだけどね。ただ旧市街の一件についても、鉱山町の利権を狙おうとしたのもガルシア氏の指示じゃないらしいの。手柄を立てようとした下っ端が独断でした結果らしいんだけど………そうした若手ならではの暴走が目立ってきているらしいのよ。」
「ふむ………」
「ちょ、ちょっと待ってください。それでは昨夜の襲撃も若手の勝手な暴走だと………!?」
「まあ、さすがに事が大きすぎるし、それは無いとは思うんだけどね………ただ、そういう事情を踏まえるとガルシア氏のさっきの態度は何となく理解できるんじゃない?」
「確かに………取り巻きもいなかったしな。」
「ルバーチェ内を統制するのに苦労しているという事か………」
「でも、例の会長さんの方はいったい何をしているんですか?」
グレイスの話を聞いたランディは納得した様子で頷き、ロイドは考え込み、ティオは疑問に思った事を口にした。
「聞いた話によると”競売会”での失態を取り戻そうと必死になっているみたいね。機嫌を損ねたハルトマン議長へのご機嫌取りはもちろんだけど………新たに自治州内の有力者を取り込もうとしているらしいわ。」
「新たな有力者……どのあたりなんでしょうか?」
「端的に言うと共和国派議員ね。それに警備司令あたりとも何度か会合をしているって噂よ。」
「なるほど………”黒月”の政治的な影響を抑えるのが目的でしょうか。」
「警備隊の司令を取り込んだのは武器の密輸を強化するためか………?」
「ま、そんな所だろうな。あと、あの阿呆司令はハルトマン議長の腰巾着って話だ。そっちに働きかけることで間接的に議長のご機嫌取りもしようとしてんのかもしれねぇ。」
「ええ、あたしもそう睨んでいるわ。いや~、やっぱ君達と話してると考えがまとまるわねぇ!うんうん!情報交換した甲斐があったわ!」
「はは……正直こちらも助かりました。でも、こうして整理してみるとやっぱり違和感を感じますね……」
笑いながら言ったグレイスの言葉を聞いたロイドは苦笑しながら頷いた後、考え込みながら言った。
「違和感?」
「………どういう事?」
ロイドの言葉を聞いたエリィは質問するグレイスと共にロイドを見つめた。
「一つ一つの行動については納得いく理由があるようですが………どれも場当たり的だし、組織として全く連携が取れていない気がします。俺がルバーチェに感じていたのは悪い意味での、大都市ならではの”スマートさ”だったんですが………それが殆んど感じられないんです。」
「なるほど……」
「ふむ………言われてみればそうね。」
「クロスベルという金の成る木から甘い汁を吸うためのシステム……それを確立した組織にしては確かに場当たり的かもしれませんね。」
「何か、そのあたりを狂わせるような俺達の知らない”要素”がある………そういう事かよ?」
ロイドの話を聞いたエリィとグレイスは頷き、ティオは説明をした後呟き、ランディは考え込んだ後ロイドに尋ねた。
「ああ……あくまでカンだけどね。”黒月”と”ラギール商会”を襲った襲撃者の戦闘力も不自然に高かったみたいだし………ガルシアの奇妙な態度にしてもそれが原因じゃないかと思ってさ。」
「うーん、さすがはロイド君。鋭い読みをしてくれるじゃない。ね、警察をクビになったらクロスベルタイムズに入らない?そんであたしと一緒にフィーリッツァ賞を狙いましょ!」
「いや、遠慮しときます……ていうか縁起でもないこと言わないで下さいよ。」
自分の推理を聞いて口元に笑みを浮かべたグレイスの言葉を聞いたロイドは脱力した後、グレイスを睨んだ。
「ところでそのフィーリッツァ賞ってのは何なんだ?」
「確かその年で最も優秀なジャーナリストに贈られる国際的な賞だったはずだけど………」
そしてランディの疑問にエリィが答えかけたその時、ロイドのエニグマが鳴りはじめた。
「―――すみません。ちょっと失礼します。はい、特務支援課、ロイド・バニングスですが………」
「すまない、私だ!マインツのビクセンだ!」
「ああ、町長さんでしたか。どうかされましたか?ガンツさんの事で問題でも?」
「そ、それが………今クロスベルのカジノハウスに来ているんだが………ど、どうも様子がおかしくなってそれで連絡を………」
「様子がおかしい………?一体、どうおかしいんですか?」
「さっきからガンツが他の客とポーカーをしているんだが………妙に暴力的というか物騒な雰囲気になってきて………すまない、とにかく様子を見に来てもらえないだろうか!?」
「りょ、了解しました。カジノハウスですね?近くにいるのですぐに行きます。」
「ああ、よろしく頼むよ。」
そしてロイドは通信をやめた。
「マインツの町長さん?」
「カジノがどうとか言ってたみてぇだが?」
「ああ、例のガンツさんが客同士の勝負で暴力的な事に巻き込まれそうな感じらしい。」
「ええっ?」
「相手の逆恨みでも買ったんでしょうか?」
「あの態度でバカヅキならいかにもありそうだな………」
ロイドの話を聞いたエリィは驚き、ティオは考え込み、ランディは溜息を吐いて呟いた。
「ふむ、それは急いで様子を見に行かないとね。それじゃあカジノへレッツ・ゴー!………あれれ、どうしたの?」
そしてグレイスは嬉しそうな表情で言った後自分の発言で表情を引き攣らせているロイド達を見て不思議そうな表情をした。
「いえ、その………」
グレイスの言葉にエリィは苦笑しながら答えようとしたその時
「………言っても無駄だから気にせず行こう。」
諦めの表情のロイドがグレイスを連れて行く事を言った。
その後グレイスと共にロイド達はカジノに向かった………
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