英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第81話
ツァオに話を聞く為に”黒月貿易公司”の建物に到着したロイド達は一般人が近づかないように、入り口を見張っている知り合いの警官に話をして、通してもらい、ツァオがいる部屋に入った。
~黒月貿易公司~
「―――ツァオさん。今日の所はこれで失礼します。できればもう少し、詳しい話を伺う事ができればこちらも協力できるのですが。」
「フフ、これは失礼。何しろ深夜の事でしたからね。襲撃者が何者だったのか、どうして当社が狙われたのか皆目見当が付かないのですよ。」
ダドリーの言葉を聞いたツァオは口元に笑みを浮かべて答えた。
「………それにしては随分と手際よく防戦されたようですね。1階と2階は酷い状況でしたが、この部屋など綺麗なものだ。重機関銃で武装した相手に一体どのように対処したのやら。」
「はは、恐れ入ります。ただまあ、結局襲撃者には逃げられてしまいましたからね。こちらは何人も病院送り………やれやれ、とんだ災難です。」
周囲を見回して呟いたダドリーの話を聞いたツァオは微笑んだ後、疲れた表情で溜息を吐いた。
「お悔やみ申し上げます。それでは――――」
そしてダドリーが退出しようとしたその時
「―――失礼します。」
ロイド達が部屋に入って来た。
「お前達………!?」
ロイド達を見たダドリーは驚き
「おお、ロイドさん。それに支援課の皆さんですか。」
ツァオは意外そうな表情でロイド達を見つめた。
「失礼します、ツァオさん。お忙しいかと思いますが、少々、話を伺っても構いませんか?」
「ええ、もちろん構いませんとも。―――それではダドリーさん。事情聴衆、お疲れ様でした。」
ロイドに尋ねられたツァオは笑顔で頷いた後不敵な笑みを浮かべてダドリーを見つめて言い
「くっ………失礼する!」
ダドリーは悔しそうな表情で言った後、道を開けたロイド達の横で一端足を止め
(腹立たしいが………ヤツの相手はお前達に任せる。せいぜい情報を引き出してくるがいい。)
(あ………はい!)
小声でロイドに指示をした後部屋を退出し、そしてロイド達はツァオの正面に近づいた。
「フフ、お久しぶりですね。ロイドさん、それに皆さん。記念祭の最終日は、なかなかのご活躍ぶりだったそうですね?」
「”銀”からの情報ですか………―――俺達”特務支援課”は通常の捜査体制から外れています。それを踏まえて、率直な本音で話をさせてもらってもいいですか?」
ツァオの言葉を聞いたロイドは真剣な表情で呟いた後、ツァオを見つめて提案した。
「ほう………?」
「ロ、ロイド………?」
ロイドの提案を聞いたツァオは不敵な笑みを浮かべ、エリィは戸惑いながらロイドを見つめた。
「この人相手に、肚の読み合いは時間の無駄だろうからね。他にも色々聞きたい事もあるし、今回は単刀直入に行かせてもらおう。」
「おいおい………ぶっちゃけたな。」
「ロイドさん、たまに大胆ですね。」
(フフ、成長したわね、ロイド………)
ロイドの話を聞いたランディは呆れ、ティオは感心し、ルファディエルは微笑んでいた。
「フフ………ハハハハハッ!―――さすがはロイドさん。私が見込んだだけはありますね。いいでしょう。私も無意味なやり取りはあまり好きではありません。答えられる範囲であれば一通り答えさせて頂きますよ?」
一方ツァオは大声で笑った後、不敵な笑みを浮かべてロイドを見つめて言った。
「―――感謝します。お聞きしたいのは以下の3点についてです。一つ目は昨晩の襲撃者ですが……ルバーチェで間違いありませんか?全く関係ない連中が襲ってきた可能性は?」
「フフ………まずその可能性を疑いますか。―――ラウ。答えてあげてください。」
「は。」
ロイドの質問を聞いたツァオは口元に笑みを浮かべて言った後、自分の傍に控えるラウを促した。
「………襲撃者達は覆面で正体を隠していましたが間違いなくルバーチェの配下でしょう。武装が同じでしたし、何よりもクセが似ていました。そういうものは簡単に偽装できるものではありません。」
「なるほど………」
「しかし、そうなると少々解せなくなってくるな。アンタら”黒月”の構成員は相当な武術家揃いと聞いている。そっちの兄さんもかなりの腕みたいだしな?」
「………恐れ入ります。」
ランディに視線を向けられたラウは静かな表情で呟いた。
「一方ルバーチェの方は戦闘のプロではあるんだろうが一人一人はアンタら程じゃねえ。なのにどうしてここまで遅れを取っちまったのか………あの”キリングベア”のオッサンでも襲ってきたかよ?」
「いや、かの営業本部長殿は参加していなかったようですね。彼の右腕を務める元猟兵たちも参加はしていなかったようです。ルバーチェの中でも平均的な戦闘能力の者たちだけでしょう。」
「だったらどうして………」
ランディの質問に答えたツァオの話を聞いたロイドは真剣な表情でツァオたちを見つめ
「―――戦闘技術は並み程度でしたが力とスピードが段違いでした。重機関銃を片手で軽々と振り回して力任せに突入してきたのです。おかげでこちらの守りを崩され2階まで制圧されてしまいました。」
「そいつは……………」
「………………………」
見つめられて答えたラウの話を聞いたランディは目を細め、ティオは黙って見つめていた。
「力とスピードだけでなく、タフさも大したものでしたね。おかげで少々、危険な技を使う事になってしまいました。」
「き、危険な技………」
「……どうやら貴方自身もかなりの使い手のようですね。」
「フフ、”銀”殿と比べれば素人同然ではありますがね。」
そしてロイドの言葉にツァオは不敵な笑みを浮かべて答えた。
「2つ目の質問ですが………率直にお聞きします。―――今回の事件を受けてどう対処されるおつもりですか?」
「フフ………何を聞かれるかと思えば。我々がどういう存在であるかを考えれば訊ねるまでもないのでは?」
「…………………………」
自分の質問を聞いて不敵な笑みを浮かべて自分を見つめるツァオはロイドは黙って見つめ
「報復――――というわけですか。」
エリィは真剣な表情で呟いた。
「フフ、人聞きの悪いことを言わないでください。我々はあくまで営利会社………危機管理の話をしているだけです。自社の利益を損ねる状況があれば妥当な方法でそれを改善する………何かおかしいことがありますか?」
「ハン………」
「……本当に物は言いようですね。」
「………その”妥当な方法”の中に”本社”の援助を要請されるご予定は?」
不敵な笑みを浮かべて語るツァオの話を聞いたランディは鼻をならし、ティオはジト目で呟き、ロイドは考え込んだ後真剣な表情で尋ねた。
「あ………」
「”黒月”本体からの増援か……」
ロイドの質問を聞いたエリィはある事に気付き、ランディは目を細めてツァオを見つめ
「ハハ、本当に率直な人だ。―――私にも面子があるのでね。今の所、その予定はありません。もっとも状況次第では”本社”が無理矢理介入してくる可能性もあるでしょうが………」
ツァオは笑った後答え、そして意味ありげな表情で言い
「……………………………」
ツァオの言葉を聞いたロイドは真剣な表情で黙って見つめていた。
「フフ、まあしばらくの間は直接介入は抑えられるでしょう。―――いずれにせよ、先方の状況が掴めない事にはこちらも対処しようがありません。ちょうど今、そのあたりを探ってもらっている最中ですよ。我等の頼もしい協力者に、ね。」
「”銀”さんに………」
「ま、こういう状況には打ってつけのヤツだろうな。」
そしてツァオの説明を聞いたティオは驚き、ランディは疲れた表情で溜息を吐いて頷いた。
「最後の質問ですが………今回の件とは直接関係ない話なんですが、せっかくなのでお聞きします。―――あなた方は本当に、キーアとエルファティシアさんをご存知ないんですか?」
「あ………」
「ロイド、それは………」
「ふむ、キーアとエルファティシアさん………ですか?それは人名ですか?それとも何かの暗号か何か?」
ロイドの質問にティオが驚き、エリィが真剣な表情でロイドを見つめている中、ツァオは不思議そうな表情をした後、笑顔で尋ねたが
「……………………………」
「失礼――――どうやら本気のようですね。一応、例の競売会であなた方が保護した少女と異種族の女性の名前である事は存じています。我等の協力者が、あなた方にちょっとした助言をした事もね。」
真剣な表情のロイドに睨まれ、軽く謝罪した後答えた。
「『競売会の最後に出品される革張りの大きなトランク………その中にはルバーチェの立場を危うくする”爆弾”が仕込まれている。』―――その情報は我々の元に複雑なルートで届けられました。情報提供者は不明………結局掴む事はできませんでしたが逆にそれが信憑性を高めました。そこで念のため、我等の協力者に確かめに行くよう頼んだのです。まさか”爆弾”の正体がそのようなものであるとは夢にも思っていませんでしたがね。」
「ったく、どいつもこいつも知らぬ存ぜぬの一点張りかよ。」
「仮にその話が本当だとして………情報提供者について、何か心当たりはないんですか?」
ツァオの話を聞いたランディは目を細め、エリィは真剣な表情で尋ねた。
「さて、順当に考えるならばルバーチェ側の関係者による裏切りが考えられそうですが………こちらに情報を届けた手並みといい、抜け目のない相手ではありそうですね。―――いずれにせよ、キーアさんについて我々が知っている事実はそれだけです。ちなみにエルファティシアさんに関してはこちらも全くの想定外です。いつ、女神像とすり替わったのか私も正直な所、わからないんですよ。どうか信じて頂けませんか?」
「………わかりました。正直に答えて下さって感謝します。」
そしてツァオの説明を聞き、ツァオに尋ねられたロイドは疲れた表情で溜息を吐いて頷いた。
「さて………ご質問はそれだけですか?」
「ええ、色々と答えていただけて感謝します。概要については、警察本部にも伝えても構いませんか?」
「フフ、ご隋意に………―――ねえ、ロイドさん。」
「はい………?」
ツァオに話しかけられたロイドは不思議そうな表情をし
「正直、今回の襲撃は少々想定外の出来事でした。何でも聞けば”ラギール商会”にも同時に襲撃を仕掛けたとか。彼らの戦力とコネクション、そして思考パターンは読み切ったつもりだったからです。そして、現状で彼らが思い切った事をするはずがない………その予想が見事、覆されました。」
「…………………………」
ツァオの話を聞いて真剣な表情でツァオを黙って見つめていた。
「フフ、ですから私は今、非常にワクワクしているんですよ。ここ数年、私の見込みどおりに事が運ばなかったことなど久しくありませんでしたから。これでようやく、思う存分、力と知恵を振るうことが出来る………そんな悦びすら感じている所です。」
「!?」
「おいおい………」
「………貴方は………」
「とんでもないです………」
そして不敵な笑みを浮かべて言ったツァオをロイドとランディ、エリィは怒りの表情で睨み、ティオは溜息を吐いた。
「フフ、警察ごときに私の楽しみを邪魔されるつもりはありませんが………あなた方にだけは特別に”機会”を与えましょう。我々が本格的に動き始める前に何らかの解決方法を提示できるか……興味深く拝見させて頂きますよ?」
その後ロイド達は”黒月貿易公司”の建物を出て、ある程度の距離を取った場所で立ち止まって話し合いを始めた………
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