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血のせいにはならない

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2部分:第二章


第二章

「荒れているな」
「あっ、長老」
「何故ここに」
「私も酒を飲みたくなった」
 茶色の髪を短く刈っている。そして顔の下半分を覆っている髭は黒い彫の深い顔立ちをしていて鼻は高い。黒い目の光は強く叡智がある。その彼がだ。
 同胞達のところに来てだ。こう言ったのである。
「いいだろうか」
「はい、長老ならばです」
「どうぞお飲み下さい」
「酒は幾らでもあります」
「ですから」
「済まないな。それではな」
 同胞達の言葉を受けてだ。彼は彼等の中に入った。そうして酒を飲む。その酒は。
「麦の酒だな」
「そうです。バルバロイの酒です」
「それです」
「ヘレネスの酒ではないか」
 こちらは葡萄の酒だ。ギリシアでは麦の酒は蛮族、粗野な者が飲む酒だと思われていた。
「それは飲まないのか」
「我等にヘレネスの酒は飲めませぬ」
「飲んではいけません」
「だからです。これを飲んでいます」
「麦の酒をです」
 若いケンタウロス達は自虐そのものの笑みでケイローンに答えた。
「長老は違いますか」
「では葡萄の酒を出します」
「持ってきましょうか」
「いい。麦の酒も好きだ」
 ケイローンはそれはよしとした。そのうえでだ。
 その麦の酒を飲みながらだ。こう言ったのである。
「美味いな」
「はい、そう思います」
「我等に合っていますね」
「この我々には」
「合っている、か」
 彼等のその自暴自棄な言葉にもだケイローンはだ。
 その太い眉を動かしてだ。こう言ったのだった。
「諸君等はそう思っているのか」
「我等の様な蛮族には相応しいでしょう」
「イクシオンの末裔にはです」
「この麦の酒こそが相応しいです」
「そうではないでしょうか」
「そう思って飲んでいるのならだ」 
 どうかとだ。ケイローンはここでこう言ったのだった。
「この様なものは飲まぬ方がいい」
「では葡萄の酒を飲めと」
「そう仰るのでしょうか」
「何も飲むべきではない」 
 ケイローンは厳しい顔になり述べた。
「酒はな。何もな」
「それは一体どういうことでしょうか」
「あの、酒は何も飲むなとは」
「我等が酒を好むのは御存知ではないのですか?」
「長老もまた」
「知っているからこそ言うのだ」 
 ケイローンはまた言った。
「私は諸君等に言う。私はイクシオンから生まれた最初のケンタウロスの一人だ」
「はい、そうですね」
「そして我等の長老です」
「それが貴方です」
「私もまたイクシオンの子だ」
 ケイローンは酒を飲み自暴自棄になったままの彼等に続ける。
「しかしだ」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「私は学んだ」
 そうしたというのだ。
「そして己を保った」
「自分自身をですか」
「そうされたというのですか」
「そうだ。私もまた諸君達と同じ様にだ」
 同胞であるだ。ケンタウロス達と同じくだというのだ。
「誰からも疎まれてだ」
「そして嫌われましたね」
「憎まれましたね」
「ケンタウロス故にな」
 そうなったというのだ。ケイローンですらだ。
「石を投げられ弓矢で射られた」
「そして時にはですね」
「剣で襲われたこともありましたね」
「とにかく色々とあった」
 攻撃され命を落としそうになることもだ。少なくなかったというのだ。
 
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