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血のせいにはならない

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1部分:第一章


第一章

                    血のせいにはならない
 ケンタウロス達は今嘆いていた。
 その馬の下半身、腰から下の四本足で大地を駆けながらだ。そのうえで嘆いていた。
 そしてそのうえでだ。両手で頭を抱えながら言うのだった。
「何故だ、何故なのだ」
「何故我等は忌み嫌われる」
「どうして我等は孤独なのだ」
「誰からも疎まれるのだ」
 こうだ。嘆きながら言うのだった。
「我等は粗暴だ」
「そして好色だ」
 自覚はあった。彼等はよくそう言われそうしてだった。
 実際にそうしてきた。だからこそ今嘆くのだった。
「酒を好みそれに溺れている」
「大食でもある」
「礼節なぞ知らぬ」
「そして荒野でこうして生きている」
「獣の様に」
 彼等はこう話してだ。嘆いていた。そうしてだ。
 この日もだ。彼等だけで狩をして生きていた。そのうえでだ。
 狩った獣を焼いて食い酒を飲んでいた。そうしながらだ。
 彼等はまただ。嘆きながら話すのだった。
「この獣達もだったな」
「そうだったな。我等を見ただけで顔を顰めさせた」
「猟をするから当然にしてもだ」
「それ以上に軽蔑の目を向けていた」
「そうしていた」
 ただ狩られるから嫌うのではなく最初にだ。その感情を見たのである。
「神や人だけでなく獣までが彼等を疎む」
「そして忌み嫌う」
「我等は誰からも愛されない」
「ただ嫌われ憎まれる」
「そうされ続ける」
「やはり。血のせいか」
 ここでだ。彼等の中の一人がだ。項垂れた顔でこう言った。
「我等のこの汚らわしい血故にだろうか」
「イクシオンの血か」
「その血故にだというのか」
「そうだ。知っているだろう」
 そのケンタウロスは嘆く顔になり一族の者達に話す。
「我等はイクシオンから生まれたのだ」
「あのヘラ女神に懸想し雲の女神と交わった我等の父」
「我等はその時のイクシオンの精から生まれた」
「それ故にだというのだな」
「そうなのだ」 
 そのケンタウロスはまた言った。
「我等程汚らわしい出生の者達はいない」
「そうだな。イクシオンは今はタンタロスにいる」
 ヘラに懸想した罪であることは言うまでもない。ゼウスはそのことを知り雲をヘラに変えてそれをイクシオンの前に出して交わらせたのだ。それから彼をタンタロスに落としたのである。
 そしてその罪人のイクシオンから生まれた故にだとだ。彼等は思うのだった。
「その彼の子達だからだな」
「我等は卑しく汚れていてだ」
「誰からも疎まれ忌み嫌われる」
「そうなっているのだな」
「そうだ。我等の生まれは卑しい」
 そのケンタウロスはまた言った。
「そのはじまりから卑しいのだ。ならばだ」
「それならばか」
「我等はこのうえなく卑しく汚らわしいのだから」
「卑しく汚らわしく生きるしかないか」
「それしかないのだな」
「そうだ。そうするしかないのだ」
 そのケンタウロスの言葉だ。項垂れたまま。
「ではだ。そうして生きよう」
「そうだな。卑しく汚らわしくな」
「嫌われて生きよう」
「愛されることなぞも止めずに」
「疎まれていよう」
 仲間達もこう話してだ。そのうえでだった。
 酒に溺れ粗野に振る舞いだ。女を追い回して生きていった。彼等はその生まれの卑しさを常に感じながらだ。誰からも嫌われて生きていた。
 だがその彼等にも一人の賢人がいた。その名をケイローンという。彼はケンタウロスではあっても賢明であり人格も見事だった。彼だけはケンタウロスであってもそうだった。
 ケイローンはケンタウロス達の長老でもある。その彼がだ。自暴自棄になり今は野原で酒に溺れている彼等の前に来てだ。こう言ったのである。
 
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