ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!
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第三十八話 バレちゃったのです!!!
前書き
アレーナがラインハルトとキルヒアイスに全部ぶちまけました。
ええい!!!ばらしちゃえ!!!!・・・・・という心境だったかどうかは知りません。
イルーナ・フォン・ヴァンクラフト、アレーナ・フォン・ランディールは極低周波端末で会談していた。その表情は両者異なっている。イルーナは深刻極まりない顔を、アレーナはあっけらかんとしている顔を。
『・・・どうしてそういうことを!!』
アレーナから、ラインハルトとキルヒアイスにすべてを話したと聞いたイルーナは日頃の冷静さをどこかに置いてきたような顔をしていた。
「仕方ないじゃない。いずれはバレるんだもの。だったら早いうちに話した方がいいでしょ?私たちが転生者で、あなたたちに協力するためにやってきた『チート』だって言えばいいだけなんだし」
『そんなことを言われたって誰も信じないし、第一今後あの二人との関係がギクシャクすることになるわよ!』
「あら、そういうもんだったの?おタクとラインハルトたちとの関係って」
イルーナはぐっと言葉に詰まった。彼女にしては珍しい事だった。それをみたアレーナはしれっとした顔をひっこめて生真面目な顔になった。
「ねぇ、イルーナ。私が勝手に話したのは悪かったわ。ごめんなさい」
『・・・・・』
「でもね、いつまでも隠し通せるわけないでしょ。私たちが知っていることは、私たちの才幹と技量以上の物をもたらすんだからね。歴史が私たちが介入したことで今後多少変わるにしてもよ」
『・・・・・』
「案外落ち着いていたわよ。ラインハルト、キルヒアイス」
えっ、という顔をイルーナはした。
「そう。落ち着いてたの。普通なら笑いとばすか、信じないか、怒りだすか、まぁこれらのうちどれかでしょ。でもね、彼らは違ってたわよ」
アレーナがその時の様子を話して聞かせた。
* * * * *
「なるほど、そういうことか」
全てを聞き終わったラインハルトはキルヒアイスと二人視線を交わしあった。それは怒りでも「こいつバカじゃないの?」という嘲笑でも「気が狂いましたか!?アレーナ姉上!?」という驚愕でもなく、どっちかと言えばあきれ顔に近いものだった。
「困ったものだな、キルヒアイス。どうやら俺たちは知らず知らずのうちにとんでもない人を仲間にしてしまったらしいぞ」
「ラインハルト様」
キルヒアイスがたしなめる。その掛け合いの調子がまったくいつものラインハルトとキルヒアイスだったことに、アレーナはおやっと思った。
「アレーナ姉上」
「あの、いいの?私たちのことを知っても、まだ『姉上』と呼んでくれるの?」
ラインハルトが答えるまでには数秒を要しなかったが、アレーナの胸の中はその数秒がとてつもなく長く、そしてどのような答えが出るかということに対しての不安が一杯だったのである。これまで築いてきた関係がここでおしまいになるか、それとも続くかはひとえにラインハルトとキルヒアイス自身にかかっていた。
「重要なのは・・・・」
ラインハルトがあたりを見まわして、ついでアレーナに向かい合った。
「重要なのは、アレーナ姉上たちの出自等ではない。要は私の大望を知ってそれに協力しようという意思と能力があるかどうかなのです。そして、アレーナ姉上たちにはそれがあった。少なくともこれまでずっと私はそれに接してこれたと思っています。姉上のことを支えてくださった事、私たちに様々な情報やきっかけを与えてくださった事、こうして軍属になってまでも私たちを支えてくれようという姿勢を見せてくださった事、数え上げればきりがありません。そうでしょう?」
アレーナはしばし言葉を失っていた。いや、かけるに差し支えない言葉を探していたと言った方が正しい。こうあってほしいという答え以上の答えをもらったことがまだ信じられなくて、そしてそれが夢であってほしくなくて、言葉を発してしまえば、それが壊れてしまうことを恐れていて。
「ラインハルト、あなた・・・・・」
アレーナはただそういうのがやっとだった。
「それに、この世界は姉上たちの言うところの『原作』とは少々かい離しているようではありませんか。ならば、今後の展開も必ずしも姉上たちの言う通りになるとは限らない。結構。私は私自身の意志と力で、そしてキルヒアイス、アレーナ姉上たちの助力で進んでいくだけです」
ラインハルトはキルヒアイスを見た。彼もまた同じように、いつもと同じように穏やかな顔をしていた。多少信じられないとか動揺を持っているとか、少なくとも表面上にはそう言った素振りは全く見せていなかったのである。
「わたくしも、ラインハルト様と同じ気持ちです。たとえアレーナ様方がどのような出自であろうとも、わたくしたちの友情はいささかも変わりがないと、思いますが」
アレーナはふっと相好を崩した。どうやらラインハルト、キルヒアイス、この二人は自分たちが思っていたよりもはるかに大物なようだ。
そして思う。ラインハルトとキルヒアイス、この二人に出会えて本当によかったと。そしてこの二人の大望を支えて願いが叶うようにしていきたいと。
* * * * *
アレーナの話を聞いていたイルーナは大きくと息を吐いた。顔を上げた彼女の端正な顔にはやれやれという表情と、そして安堵の表情が現れていた。
『将来のことはわからない。だからあなたのしたことがいい方法だったのかそれとも悪かったのかわからない・・・・。でも、なんだかスッとしたわ。隠し事してあの二人と接するの、ちょっとしんどかったの。・・・・ごめんなさいね。あなたを責めてしまって』
次の瞬間アレーナは目を疑った。イルーナ・フォン・ヴァンクラフトはディスプレイ上ではあったけれど、アレーナに向かって頭を下げたのである。
『そして、ありがとう・・・。言い出すきっかけを作ってくれて』
「な?!あ、ちょっ、そういう素直な言い方、あなたらしくないわよ」
アレーナがうろたえて、顔を赤くした。これも珍しい事だった。どうやら今日は珍しい顔をよく見られる日らしい。お互いが同時に相好を崩していた。
『私も後でラインハルトたちに会いに行くわ。そして私なりにすべて話そうと思うの』
「そうするべきね」
親友の言葉にうなずきかけながら、アレーナはふと、
「ねぇ、私思うんだけれどさ」
『なに?』
「原作でラインハルトが必要だったもの、それは『友人』じゃないのかなと思うのよね。そりゃあミッターマイヤーたち優秀な人はいるけれど、あの人たちはキルヒアイスとは一線を画していたわ。一番最初に幼少時代からずっと一緒にいれば、キルヒアイス同様の扱いを受けられるって二人で話したこと、覚えている?」
『もちろんよ』
「今更なんだけれどさ、もし私たちがずっとずっと後でラインハルトに出会っていたら、彼は私たちを友人として接してくれたと思う?ううん、もっと根本的なところで、私たちを味方として受け入れたかな?」
あまりのことにイルーナが応えかねていると、ごめんね、へんなことを最後に言って、とアレーナは少し間が悪そうに笑って通信を切った。イルーナはじっと椅子に寄り掛かってその命題を考えていた。
出会った時期が遅かった場合、ラインハルト、キルヒアイスは自分たちを味方として遇してくれたか?
わからないわ、とイルーナは思った。ラインハルト、キルヒアイスにとって自分たちの脅威となりうる存在は早めにつぶしておくのが望ましいし、キルヒアイスはともかくラインハルトならそれをやりかねない。だからこそ、こうして幼少期からずっと一緒に過ごしてきたのだったが、もし、と思う。
出会った時間が異なっていたら、出会った環境が異なっていたら、同じ人間同士でもその関係は変わってしまうのだろうか。例えばラインハルトとキルヒアイスが敵同士になる可能性は?ロイエンタールとミッターマイヤーが貴族連合に取り込まれて、ラインハルトとキルヒアイスに敵対することはなかったのか?
イルーナは頭を振ってその命題を振り落とそうとした。あまりにも重すぎる。少なくとも今考えるべきではないし、そのようなことはあってほしくない命題だ。
戦艦シャルンホルスト司令官室
■ ラインハルト・フォン・ミューゼル准将
今日アレーナ姉上から衝撃的な話があった。なんとアレーナ姉上、イルーナ姉上は前世とやらからの転生者で、この世界のことをすっかり知っている存在なのだという。フロイレイン・フィオーナやフロイレイン・ティアナ、そしてフロイレイン・レインもそうなのだという。皆俺たちに協力する目的でここに来たのだという。同時に俺たちに敵対する転生者たちもいるのだという。
最初聞いたときには全く訳が分からなかったが、整理してみると、思い当たることもいくつかある。考えてみれば二人がやたら帝国や自由惑星同盟とやらの反乱軍の実情について詳しすぎたのもこれでうなずける。
あれは二人の言う『原作』とやらの知識があったこそなのではないか。
だが、俺にとってはそのようなことはどうでもいい。二人がずっと幼少期から俺たちと共に過ごしてきた時間は変わらないし、何より姉上のことを見守っていてくれた。俺たちのことも、そして、俺たちの大望を知り、叱咤激励し、俺たちを支えてくれようとしている。これで充分すぎるほどだ。それに原作の知識どころか、アレーナ姉上たちの才幹と力量は今の帝国上級提督たちをはるかにしのぐ。そういう人材が味方であることはとても心強い。
あれからキルヒアイスと話をした。『原作』とやらの知識があれば、今後の動きもすべて予測できるし、何より敵の存在についても察知でき、その対策も容易になる。だが、それではあまりにもつまらない。何よりこの世界は原作とかい離しているそうなのだからそのような知識は逆に俺たちの思考を硬直化させ、かえって弊害になるかもしれない。ならば俺は今まで通り歩んでいくだけだ。俺自身の道を。それこそが俺にふさわしいのだと思うからだ。
■ ジークフリード・キルヒアイス
アレーナ様から衝撃的な話があった。正直言うと今でも信じられない思いでいるが、事実なのだ。そしてそれを受け入れなくてはならない。我々に協力してくれるアレーナ様たち転生者以外に、ラインハルト様に敵対する転生者がいるのだそうだ。よくわからないが、二次創作とやらでそういう転生者がラインハルト様を倒す物語がはやっているらしい。それがこの世においても起こっているのだそうだ。
とんでもないことだと言ったら、ラインハルト様は苦笑して「そのような転生者に倒されるようなら、俺も大した力量はなかったのだな」などとおっしゃる。とんでもない。元々そのような、あってはならない知識をもって転生した人間が異常すぎるのだ。
そして『前世』とやらでアレーナ様たちに敵対する転生者もこの世にきているのだという。つまり、ラインハルト様の敵側の人間は帝国の貴族や自由惑星同盟だけではないということだ。
そうと知った時私は思わず戦慄していた。二人きりで有れば、まだ帝国貴族や自由惑星同盟を相手にできるが、転生者相手ではどうしていいかわからない。だからこそ思う。こんな時に頼りになる方々がラインハルト様、そして私のそばにいてくれて本当によかったと。
フランクなアレーナ様、謹厳実直なイルーナ様、可憐で天真爛漫なフロイレイン・フィオーナ、気が強くかっとなりやすいが素直であるフロイレイン・ティアナ。物静かだが、常に冷静なフロイレイン・レイン、そしてアレーナさんが身柄を引き受けて、新たに仲間になったフロイレイン・アリシア。誰もかれもがそれぞれ個性がある人たちだが、誰もが皆ラインハルト様の大望を助けようとしてくれている。
私も皆に負けないよう、努力しなくてはならない。
それからしばらくして――。
電子戦略会議で、アレーナ・フォン・ランディール、イルーナ・フォン・ヴァンクラフト、フィオーナ・フォン・エリーセル、ティアナ・フォン・ローメルド、レイン・フェリル、ヴァリエ・ル・シャリエ・フォン・エルマーシュ、そして新たに加わったアリシア・フォン・ファーレンハイト等が顔をディスプレイ上に並べて真剣な表情で話し合っていた。
「ラインハルトとキルヒアイスには、私たちが転生者であること、二人に全面的に協力するためにやってきたということを正直に話しました」
こう聞かされたフィオーナたちは一瞬「ええっ!?」と声を上げたが、それを聞いてなおラインハルトとキルヒアイスが「あなたたちと共に歩んでいきたい。」などと言ったと聞かされると「流石はラインハルトとキルヒアイスよね!!」とかえって彼らの器の大きさを称賛する声に変わっていった。
「原作だの二次創作だのとうまく説明するのは難しいから『数ある未来の中の一つを私たちは知っている。あなたたちのことが後世では伝記として記されている。そしてそれをもとにして二次創作が作られている。』ということにしておいたわ」
イルーナ・フォン・ヴァンクラフトが説明する。
『その方がいいと思います。既に原作とだいぶかい離しているこの世界においては、原作知識というものは、かえって弊害になる可能性もありますもの。教官たちがおっしゃったことは正しいと思います』
フィオーナが支持した。
『私としては軽率だったと申し上げたいところですが』
ヴァリエがアレーナに対してちくりと棘を送る。
『やってしまったことは仕方ありません。もう取り返しがつかないのですから。今後それを活かすも殺すもあの二人次第ということですね。私はあまり心配はしていませんが』
『言ってくれるわね。でもラインハルトとキルヒアイスをなめないでよ。あの二人なら大丈夫なんだから』
アレーナがやりかえした。
「話を戻しましょうか。ヴァリエ、結論としてアンネローゼは無事だったのね?」
イルーナの問いかけに、
『はい。身柄には大事ありません。ですが、誰が仕掛けてきたのか、それを捜査する前に実行者がこと切れてしまいました。申し訳ありません』
ヴァリエが、そしてレイン・フェリルが頭を下げた。
「いいのよ。まずはアンネローゼの身柄の確保が第一なのだから。二人ともよくやったわ。ありがとう」
イルーナが情の詰まった声で礼を言った。
『イルーナ。対ラインハルト包囲網のこと、私少し舐めていたかもしれない』
アレーナがいつになく真剣な表情をしている。
『ごめんなさい。ヴァリエ、レイン、あなたたちには迷惑をかけたわね』
『大丈夫よ。今後も迷惑をかけないという保証はないでしょう?そんなに謝る必要はないわ』
ヴァリエが無表情に言う。付け入るすきもないという顔だったが、長年付き合いのある転生者たちはそのことを別段気にもかけていなかった。ヴァリエの辛辣さと冷淡さはいつものことだったからだ。
「対ラインハルト包囲網については、これ以上放置しておくわけにはいかないわ」
イルーナが出席者一人一人に声をかけるように視線をずらしていく。その視線には前世に置いて非情な処断を下すときにいつも放たれる、あの断固たる意志の光が宿っていた。
「ただちに対策を練りましょう。場合によってはベーネミュンデ侯爵夫人について断固たる処置を取らなくてはならないかもしれないことを・・・・全員心に留めておくように。いいわね?」
断固たる処置・・・それは、ベーネミュンデ侯爵夫人を対ラインハルト包囲網人員もろとも葬り去ってしまうことを意味していた。
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