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恋姫無双~2人の御使い~

作者:デイラミ
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第3話

 
前書き
話数でいうと10話までで止まっています。 

 

 司馬懿を探し回っていた暢介が、彼女を見つけたのは彼が司馬防の部屋を出てすぐの事だった。

 中庭で夜空を見上げている彼女に、暢介は声をかけようか迷っていたが見終わるのを待った。
 待っている間、暢介も視線を空に向ける。

 自分がいた場所と比べて、綺麗な星空が見える。
 これだけ綺麗な星を見たのは、久しぶりの様な感じがする。

 まだ自分が幼稚園に通っていた時の頃。
 父親の実家に帰省した際に、夜、家から見た星空もこれぐらい綺麗だった記憶が暢介にはあった。

 そんな風な事を考えながら夜空を眺めていると……

 「何してるんですか? 鷺島さん?」

 と、声をかけられ、暢介は視線を夜空から声の主の方へと移した。
 司馬懿は先ほどまでいた位置から暢介の目の前に来ており、見上げる形で見ていた。

 「あぁ、司馬懿を探してたんだ」

 「僕を? どうしてですか?」

 「それが……」

 そこで暢介は自分が、ここから旅立つ事。
 宛ては無く、誰かに仕えるのか、自ら立つのかそれも不明。

 それでも、自分がここに来た事に何か理由があるはずで、それを見つけたい。
 そして、その旅に同行して欲しいという事を伝える。

 話を聞き、考え込む司馬懿を見ながら暢介の頭の中はどうやって説得しようか考えていた。

 (さてと……彼女をどう説得すればOKを出してもらえるんだろうか……)

 彼女の様なタイプを説得するなら、自分と一緒ならこういう事があるという方法は上手くいきそうにない。
 逆に『俺についてこい』ぐらいの勢いで迫った方がいいんじゃなかろうかとも思ったが。

 (それじゃあ、本当に結婚とかを迫る男になるぞ)

 そう悩んでいる暢介に、司馬懿は。

 「分かりました。共に行きましょう」

 と、軽く答えた。

 「そうか来てくれ……え? 来るの?」

 「ええ」

 当然と言わんばかりに頷く司馬懿に、暢介は目をぱちくりする。
 これから、説得を行おうとしていたのに相手が了承した為、暢介は少し混乱していた。

 「えっと……何で?」

 と、了承した相手に失礼な質問をしている。
 
 「何で……単純に興味がある。それでは駄目でしょうか?」

 「興味か……駄目って事は無いし、元々俺から頼んだ事だし正直ホッとしてるよ」

 ホッとする暢介に司馬懿は何かを思い出した様に口を開く。

 「母上には僕の方から伝えておきますね。鷺島様は部屋に戻って旅立つ準備を」

 「あぁ、分かった……ん? ねぇ司馬懿。俺は明日出るとは言ってない気が」

 暢介の言葉に司馬懿は少し呆れ顔になる。

 「準備が一日で終わると? 数日は考えておいてください」

 「……ですよね」




 「という事で、鷺島様と共に行こうと思います」

 司馬防の部屋、そこで司馬懿は先ほど決まった、暢介に同行する事を司馬防へ告げる。

 「そう、あなたが決めたのなら何も言わないわ。それに……」

 「それに?」

 「やっとあなたの仕官先が決まったんだから親としてこんなに嬉しい事は無いわ」

 「……」

 「全くあなたはいつまで経っても仕官先は決まらない。理遠はすぐに決まったというのにね」

 また始まったと司馬懿は表情を曇らせる。
 仕官先が全然決まらなかった時、ほぼ高確率で司馬防から説教されていた。
 
 「……さてと、久遠。あなたにはもう1つ、大きな親孝行が残ってるわよ」

 「?」

 「これは理遠にも言ってるんだけどね。早い段階で私に孫の顔を見せなさい」

 「孫の顔」

 呆気にとられる司馬懿を尻目に司馬防は続ける。

 「ええ。勿論永遠達にも、ここを出る時には伝えるつもりよ」

 「は、母上」

 「まぁ、私も今日明日死ぬつもりは無いけどね」

 そこまで言うと司馬防の表情は真剣なものになる。

 「久遠。彼の事だけど、彼はまだ、あの経験をしていないわ」

 「……人を殺す事……ですね」

 「ええ。本人は覚悟をしている様だけど、実際に人を殺してどうなるかは分からないわ」

 「……」

 「もし人を殺した後、駄目だと思ったら彼を支えてあげなさい」

 「分かっています」

 「それでも駄目だと思ったなら、ここに戻ってきなさい」

 「ここにですか?」

 「ええ。男の子1人増えた所で問題ないわ。それに、永遠達も将来的にはここから巣立つ訳だしね」

 ただし、そう付け加え司馬防が続ける。

 「戻ってくるのは本当に彼が駄目になりそうな場合よ。支えられるなら支える事」

 その言葉に司馬懿は頷く。





 準備期間というものはあっという間に過ぎてしまうものだ。
 学生時代、体育祭だったり文化祭だったり、準備だったり練習をしているとあっという間に本番になっている。

 そういう経験は皆もある事だろう。

 暢介と司馬懿の2人が旅立つまでの数日間もあっという間であった。
 ただし、暢介自身はこの世界に落ちた際に司馬懿が回収したスポーツバック1つだけなので簡単なものであった。




 「鷺島さん。本当に良かったんですか? あの球を永遠にあげても」

 司馬家の家を出てしばらく歩いた所で司馬懿が暢介に尋ねる。

 「あぁ。あれは多人数でやって楽しむものだから……今の俺が持ってるよりも、あの子が持ってる方がね」

 「そうですか……」

 司馬家を出る際、暢介はサッカーボールを司馬孚に渡していた。
 司馬家の人達は驚いていたけれど、ありがたく受け取って貰った。

 「と言っても、預けたって形だからさ。いつか返してもらうさ」

 「あぁ、そういえばそうでしたね」

 そこまで言って司馬懿は考え込む。
 暢介はそんな司馬懿から視線を自分の腰に向ける。

 そこには司馬防から渡された剣があった。

 『自分の身は自分でね』

 と言われ。

 「……僕、何かを忘れてる様な……」

 未だに呟いている司馬懿。
 やがて……

 「あっ……さ、鷺島さん」

 「ん? どうした?」

 「僕さ……鷺島さんに真名を伝えたかな?」

 司馬懿の言葉に暢介は首を横に振る。

 「いいや。真名は聞いてないけど」

 その言葉に司馬懿の歩が止まる

 「言ってなかったか……さ、鷺島さん。ちょっと聞いてほしいんだけど」

 「どうした?」

 司馬懿の方を見ると、真剣な表情で暢介を見ていた。

 「鷺島さんに僕の真名を受け取ってくださいませんか」

 「真名を? いいのか、大事なものなんだろ?」

 「大事です。だから、これから一緒に旅するあなたに預けたいんです」

 真剣な表情の司馬懿に暢介は頷く。

 「ありがとうございます。それでは改めて、僕の真名、久遠をあなたに預けます」

 「分かった。君の真名である久遠。確かに受け取らせてもらったよ」

 そこまで言うと、暢介は『だったら』と呟き。

 「じゃあ久遠。君も俺の事は暢介って呼んでくれないか。どうも鷺島さんって呼ばれるのに慣れてなくてね」

 その言葉は予想外だったのか久遠の表情が驚きに変わる。

 「よ、暢介ですか」

 「あぁ、下の名前の方が呼ばれ慣れてるからさ」

 暢介の言葉に納得したのか、久遠は。

 「分かりました。では、暢介と呼ばせて頂きますね」

 と返した。




 さて、旅をしていれば賊に襲われる事がある。
 勿論、何もしなければ身ぐるみを剥がされる、最悪、殺される事だったあるだろう。

 そうならない為に武器を持っている。
 殺さなければ、こちらが殺される訳なのだから……

 「大丈夫ですか。暢介」

 並んで歩く久遠が心配そうな表情を浮かべて暢介を見る。

 「大丈夫だよ」

 そう答える暢介の表情は少し青い。

 原因はつい先ほど襲っていた賊が関係していた。

 賊は3人組で、武器をちらつかせ2人を脅した。
 恐らく、何度かはその方法で上手く行っていたのだろう。

 ただし、今回は『お前達にやる様な物は無い』という久遠の言葉に逆上。
 2人に襲いかかってきた。

 3人のうち2人は、あっさりと久遠によって始末されたのだが。
 残り1人が暢介を狙ってきた。

 暢介自身、無我夢中で剣を振っていた。
 教えられた振り方とかそんなものは、頭から吹っ飛んでいた。

 あったのは殺されるかもしれないという恐怖。
 うっすらと浮かんでいた、自分の死体の光景を振り払う様に。

 やがて、鈍い手ごたえを感じ、手を止めた暢介の視線に入ったのは賊の死体。
 今、自分が殺した賊の姿だった。

 吐き気はすぐに来た。
 止めようがないその吐き気に暢介は吐いた。

 吐いていた暢介の背中を久遠が擦る。

 「悪い……覚悟はしてたんだけどな」

 「いいえ。初めて人を殺してこの反応は正常ですよ」

 「そうかな」

 「そうですよ。人を殺して何とも無い人の方が問題ですよ」

 そう言いながら久遠は暢介の背中を擦り続けた。



 「慣れていくしかないよな……」

 「ん? 何か言いましたか暢介?」

 「いいや独り言だよ。それより、どっちに向かってるんだい久遠」

 「南です」

 そう言って、2人は南に向けて歩を進める。
  
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