とある科学の裏側世界(リバースワールド)
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ep.018 最終決戦
的場は最後の階に辿り着いた。
最後の階に待っていたのはもちろん野口勝哉だった。
「やぁ、君なら来ると思っていたよ.....的場くん。」
「どういう意味ですか?」
的場は冷徹になっている。
こうでもしなければ現実を受け入れなれない。
だって、どれだけ腐ろうと的場にとって野口は信頼している先輩なのだから。
しかし、それを真っ向から砕くように野口は話す。
「君は未だに僕の手の中にある。 すべてはまだ、僕の思い描く中でしかない。」
まるで、ここまでの展開はすべて野口の仕組んだ通りになっているように野口は語る。
風紀委員に居た時とはまるで別人だ。
「唐突だが、今の君の状況を説明してあげよう。」
「..........。」
「君の能力は"無敵貫通"。 科学と魔術の融合体に限りなく近くなった君は、互いの力を互いの力で相殺し合う。 そしてそれが相手の能力を消滅させる元となっている。」
普通に聞いているだけではさっぱり分からないため、要約してみると、
『今の的場は"科学"と"魔術"の2つの力を持っていて、科学の攻撃は魔術で、魔術は科学で打ち消している。 さらに身体能力を著しく強化し、神薙戦で見せた2段ジャンプのように物理常識を越えることができる。』
『彼に対して直接的に能力を使うと掻き消される。 ならば、間接的に能力を使えば良い。』
野口はロングコートから2丁の拳銃を取り出す。
拳銃は的場に狙いを定める。
静かに戦闘の空気に変わると、その静寂を消し飛ばすように的場が走り出した。
バン バン バン バン バン バン
野口は2丁の拳銃を連続で撃つ。
的場は瞬時に弾丸の軌道を見切り、野口に辿り着くための最善のルートを絞り出す。
バン バン バン バン バン バン
『よし!』
野口の使用している拳銃はリボルバー。
装填数は銃の形状からして6発だ。
つまり12発撃った今は弾切れになっている。
再装填にもいくら野口とはいえ多少の時間が掛かるため攻めるには絶好の機会だ。
的場は野口に一直線に急接近。
一方、野口は再装填どころか拳銃2丁をその場に捨て、コートの袖から細い糸のようなものを出し、それをビーンと伸ばす。
『あれは.....ワイヤーか!』
的場は何か危機感を感じたが、速度が乗っているこのタイミングに攻撃を決めることは重要なので、ワイヤーを引き千切る勢いで飛び蹴りをする。
しかし、ワイヤーは千切れなかった。
的場はワイヤーを足場のようにして蹴り、後方へ下がることで野口と距離を取った。
『あんな細さで断ち切れないのか。』
「このワイヤーは僕の知り合いに調達してもらった一級品でね。 1本で少なくとも1トンの重さに耐えられる。」
『とは言っても、さっきの攻撃で耐久性の半分は失ったからもう一度防げるかどうかだけどね。』
的場はクラウチングスタートのポーズを取る。
その頭の中は次の展開を考え出していた。
展開を組み立て終わると、再び走り出した。
『悪いけどさっき考えた攻撃の実験になってくれ。』
野口はコートからさっきとは違う銃を取り出した。
引き金を引くと、瞬時に何発も弾丸が飛ぶ。
的場はそれを見てすぐに"散弾"だと理解した。
しかし不思議なのは、散弾なのにも関わらず、弾丸が広がらない。
よは、分散しないのだ。
『どういうことだ。』
的場と何発もの弾丸はギリギリまで迫る。
弾丸の軌道を読み切った的場がそれをかわそうとした瞬間、弾丸の群れは弾けるように放射線状に広がる。
『何ッ!!』
的場は反応が一瞬遅れた。
散弾が2、3発命中し的場は怯む。
野口はすかさずハンドガンを取り出し、的場に撃つ。
右足に傷を負った的場は瞬時に大きな移動ができないと判断し、後方に倒れるようにして頭を狙う弾丸を回避。
呼吸が整うと分析をした。
この時点で的場の中の野口の情報には偽りがあった。
それは野口の能力の規模だった。
『野口さんの能力で俺が教えられたのは"時速100m以上の速度の物は操れない"、それと"距離が自身から10m以上離れると操れない"。』
これは大きく違っていた。
撃った弾丸を操っている時点で時速100mはあっさりと越えている。
能力の射程についてもおそらく50mはあるだろう。
つまり、このフロアすべてが射程圏内に入っている。
『重要なのはスピーディーで的確な攻防か。』
的場は息を整える。
この瞬間に先ほどの戦いで神薙が見せたチェンジオブペースを使おうと考える。
的場は走り出した。
速度は陸上競技の選手よりも少し速いくらい。
無論、そんな速度で攻めに転じても野口に通らない。
『あの動き......見覚えが....。』
銃口を向ける野口はこの光景をどこかで見た事は記憶していたが、何だったかは覚えていない。
引き金を引こうとした次の瞬間、的場のチェンジオブペースが発動する。
その変速は"ストップandゴー"のレベルだ。
突然、的場が視界から消滅する。
『そうか、思い出した。 これは神薙くんの....。』
的場は既に野口の後ろ。
蹴りのモーションに入っている。
野口はこれに反応し、食らうか食らわないかの紙一重でガードする。
しかし、野口のガードを貫通するように的場の攻撃は野口の腕の骨にヒビを入れる。
「っ......!」
少しばかりだが野口の表情が歪んだ。
どうやら確かな手応えはあったようだ。
左腕を折られた野口はもう銃を2丁持つことは不可能だ。
「忘れていたよ。 君の能力の効果はもう1つあった。」
その能力は"自身に掛かる物理法則を操る能力"だ。
的場の能力が無敵貫通と名付けられたのは、相手の能力の干渉の一切を遮断し、物理常識を越えた身体能力に物理法則を掛け合わせて確実に攻撃を当てる能力だからだ。
的場は攻撃を再開する。
左パンチから右フック、その場で横回りして踏み付けるように右キックし、右足で着地すると余った左足で後ろ回し蹴り。
野口は受け止めようとはせずにすべてギリギリ当たらないくらいで回避する。
全攻撃を回避し距離を取ると、コートのポケットからビンを取り出し、フタを開けて空中に投げた。
ビンが割れるが何も起こらない。
すると野口がマッチを取り出し、火をつけて放る。
『何をしたんだ。 臭いがないからガスじゃない可能性は高いが........。』
途端に的場の目の前で爆発が生じた。
何かを見落としているわけではないが、爆発の原因には辿り着かない。
「僕はこれを理解不能の爆弾と名付けているよ。」
理解不能の爆弾。
確かに相応しい名前だ。
的場も正体が分からない。
だが、ある物を見て的場はその正体を知る。
ふと爆発した周囲を見ると、水が発生したいたのだ。
・目に見えない物質。
・火を近付けると爆発を起こす。
・爆発の後には水が発生する。
この3点から考えれば答えは明白。
ズバリ"水素"だった。
しかし、分かったところで能力で水素を無くすことなんて出来る訳がない。
そこで考え付いたのは攻撃時の移動速度を上げることで水素の濃度を薄め、爆発を防ぐ作戦だ。
的場はジクザクに走る。
もちろん速度はマッハ3以上。
「食らえ!」
的場は野口の目の前で拳を構えて現れる。
完全に捉えた。
だがその時、的場は異様な光景を見る。
野口は黒く加工されたコインでコイントスをする。
コインが手元に落ちていくに連れ、そこには見ることすらできるほど強力な電気が発生する。
『これはあの!』
「超電磁砲。」
的場は咄嗟に体を右に傾けるが、レールガンは的場の左腕を根本から焼き切った。
的場はこの時何故か痛みを感じなかった。
人はアドレナリンを過剰に分泌していると、その興奮から痛みを感じなくなることがある。
今の的場はまさにその状態だ。
「まだだ!」
的場は右に傾きながら、左足に力を込め、野口の頭に側面から蹴りを入れる。
「ウォォォォォォォォォォオオオオラ!!」
野口は蹴り飛ばされ、その勢いからフロアのコンクリートの柱に激突し3本折った。
『はぁ....はぁ.......あばら骨が3本、あとはろっ骨が2本ヒビが入ったかな.......。』
むしろ、首から上に異常がないのが不思議だ。
すると野口の目の前がドロドロに歪んでいく。
『うっ....(俺に変われよ...)今はダメかな....君は加減しないから....(お前が死んだら加減も何もねぇよ.....)。』
「うっ......ぐっ.......!」
野口が心臓あたりを抑えて苦しんだ。
的場には何が起こったかさっぱり分からない。
「......ったく、痛えじゃねぇか......的場。」
野口は顔を見せた。
よく見ると先ほどまで青かった瞳が赤色になっている。
的場はこの異常事態の中、ただ冷静になろうと考え、静かに構えたまま話し掛けた。
「あなたは誰ですか?」
「そうか、お前と俺は初対面だったな。」
見た目、声は野口なのに言葉使いと雰囲気が明らかに違っている。
そして、入れ替わった野口は挨拶をする。
「俺は野口真哉。 勝哉とは体を共有してる身だ。」
的場は必死に冷静さを装っている。
野口が多重人格者だったことに、まだ驚きを隠せない。
すると、真哉がコートからナイフを取り出した。
見た感じで持っている数が2本や3本ではないのが理解できた。
「俺は勝哉とは違って不器用でな、器用に能力を使えない反面、武器を使った戦闘は得意なんだよ。」
真哉はナイフを2本投げ、さらに3本、4本と投げていく。
まさにナイフの弾幕だ。
的場はナイフを避けようとするが、ここで背後に強烈な何かを感じ取った。
「見てからじゃ遅すぎるぞ。」
的場は肩から背中にかけて斬られる。
後ろを見ると既に真哉がいた。
そして次の瞬間、真哉に気を取られた的場に無数のナイフが突き刺さる。
血が飛び散り、一瞬走馬灯に近いものが見えた。
「どうして.......反応が鈍った......。」
「出血多量だよ。 アドレナリンの出過ぎで痛みや出血に気付いてなかったのか.......。」
的場の視界が黒く沈んでいく。
体の感覚が分からなくなり、やがて自分が立っているのか倒れているのかすら分からなくなる。
的場は倒れた。
「終わったか......。」
真哉が呟いて後ろを見ると、倒れたはずの的場は何故か立ち上がっていた。
「何ッ!!」
真哉の動揺とほぼ同時に的場がパンチを繰り出し、顔面に命中する。
「痛え.....うっ....!!」
『もうフィナーレだ、真哉。』
野口は真哉から勝哉に戻った。
「最後にしようか.....的場くん....僕も君も..ダメージから見てあと一撃が限界だよ。」
「................。」
2人は構える。
精神が統一され、雑念が一切なくなる。
2人は走り出した。
「.......フフッ.......終わりだよ...的場くん。」
野口は的場に接近すると、攻撃せずに食らいに行く。
拳は腹に命中し、その一撃で両者とも糸が切れた人形のように倒れた。
........どれだけ時間が経ったのだろう。
的場はベットの上で目を覚ました。
その時は驚きさえしなかったが、的場の左腕は何事もなかったかのように接着されていた。
「まだ動かさないほうが良いぞ。」
声を掛けたのは桐崎だった。
的場はすぐに戦闘準備に入ろうとするが無理だ。
「俺を助けてくれるんですか?」
「元々、俺たちの役目は"計画の成功"か"お前の覚醒"だったからな。 どちらかが成功すれば、どちらかは失敗することは分かっていた。」
「何はともあれ、終わったわけなんですよ。 はい、コーヒーですよ。」
箱部が淹れたてのコーヒーを渡した。
すると、池野がやって来た。
「君の左腕のことで話すことがある。」
池野に指摘されて的場もようやく左腕がくっついていることに衝撃を受けた。
感覚もあるし、痛みも感じる。
「お前の腕は俺と池野で繋げた。」
「でも、1つ問題が生じたんだよ。 それは的場の腕が"焼き切られた"というところ。」
池野の能力、身体操作は"生物のみを操る能力"。
万能性は異常に高く、目に見えない飛び散った血液でさえ回収することができる。
しかし、焼き切られて灰になってしまった細胞や血液は操ることができない。
「細胞や血液としての機能を失ってしまえばそれは操れない。 僕の能力の欠点だ。」
しかし、体のバランスを保つためにも腕は完全再生させなければならなかった。
「そこで俺が能力の力の1部をお前に埋め込んだ。」
それにより的場は極小ではあるがフェニックスの治癒力を手に入れたのだ。
やがて、動けるようになるまで回復した。
箱部のコーヒーを呑み干すと、的場は去って行った。
「これで良かったのか野口。」
的場がいなくなると桐崎が野口に問い掛けた。
野口は的場に比べ傷が軽かったので既に完治していた。
「あぁ、どの道計画は成功したわけだしね。 それに、的場くんは地上には戻れない。」
理由はなくとなくだが分かった。
的場の能力は野口によって作られたものだったからだ。
それだけではない。
的場聖持という存在そのものが野口によって生み出されたものだったのだ。
「この物語は、僕の考える"第1章"。 そしてこれは的場が自分のすべてを知って地上に戻らなくなる。 いわゆるバッドエンドになるわけさ。」
野口は独り言のように語り出した。
まるでこの先に何が起こるのか、そのすべてを知っているかのような口ぶりだった。
「ここを離れようか、この建物は爆破する。 新しい話へと繋げるためにね。」
studentは建物を爆破した。
その後、池野の能力によって学園都市の地上全域に住む民間人の記憶が抹消された。
野口いわく、これも新しい話へと繋げるためらしい。
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後書き
更新が遅れてしまってすいません。
半ば強引な感じを残しましたが、第一章はこれにて終わりを迎えます。
ちなみに、もし的場が野口に勝てなかったら、
studentの計画『学園都市レベル化計画』がありました。
地上にあるいくつかのポイントから特殊な物質を放出。
その物質が人の脳に干渉し、学園都市全域の民間人を能力者にし、力で学園都市を支配する。
そんな計画だったわけです。
ですがこれは失敗し、true endとなりました。
これからは第二章が始まりますのでお楽しみに。
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