とある科学の裏側世界(リバースワールド)
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ep.014 決戦5
的場は階段を上る。
ここまで既に4人のstudentのメンバーを突破している。
そして階段を上り切ると、そこには1人の少年が待っていた。
「やぁ、的場聖持くん。 僕の名前は"池野操作"、君を止める次の相手だ。」
池野は右手に花柄の模様の入った小刀を持っていた。
「これが気になるのかい?」
池野は的場の視線を感じ取り、小刀を的場に見せる。
小刀の長さは日本刀の半分くらいで、鞘から抜かれたその刀身は青白い輝きを見せ、薄っすらと冷気すら感じさせる。
「これは無名の刀でね。 僕のために箱部さんが研いでくれたとびきりの刀なんだ。 だから名前をつけるなら"氷刀・鈴花"かな。」
まさに、その刀に相応しい名前だ。
的場ももう自己紹介をしなくても自分のことを知っていると考え、静かに戦闘態勢に入る。
先手を打ったのは池野だった。
池野は箱部同様、完全に気配をコントロールしていて、出会ってすぐに感じた異常な殺気は、驚くほど感じ取れなくなっていた。
しかし、視界で捉えることはできている。
池野は逆手に持った小刀を的場に振りかざす。
的場は体をずらすことでその刀身をかわした......
はずだったが、的場の右腕には斬撃の跡が入る。
「どういうことだ。 完全に避けきったのに......。」
的場が池野の方を見ると、池野は頭に人差し指を当てて的場を挑発するような態度を見せる。
次は的場が池野に攻撃を仕掛ける。
姿勢を低くし、地を蹴り、風すら切り裂きそうな速度で池野の懐に飛び込み、アッパーからの空中での回し蹴りを繰り出す。
「...........フフ.....。」
「............ッ!!!」
的場は異変に気付き、池野と距離をとる。
的場の攻撃は当たるどころか、何かに触れた感覚すら感じなかったにも関わらず、池野は確かにさっきと全く変わらない位置に立っていた。
『まさか......これがいわゆる幻術ってやつなのか。』
自分は既に相手の手の内にはまってしまっている。
的場がそう理解した途端に池野が話し出した。
「さすが的場くんだね。 これをすると相手は死ぬまで答えに気付かなかったりするんだよ。」
"死ぬまで"。
その言葉に的場の背筋が少し涼しくなった。
「安心して構わないよ。 君が見ている僕以外は、すべて実際のものだからね。」
「"僕以外"?」
的場の様子を見て池野は先ほどと同じように人差し指を頭に当てる。
「僕が君にしていることは、"認識のズレ"。 つまり君は僕を見ているようで見ていないんだよ。」
"認識のズレ"。
的場は池野の虚像を池野だと認識させられていた。
そのため、的場の攻撃はすべて触れることはなく、逆に池野の攻撃は防いでも食らったりしたのだ。
「でも...気付いても解除はしないよ。 僕は君を殺すくらいのつもりで殺りあってるからね。」
「..............。」
再び池野が動き出す。
的場は虚像から一定の距離をとり、どう対応するかを考える。
『周辺は実物で、池野さんは虚像。 でも虚像と実際の攻撃はほぼ同時のタイミングで起こった。』
的場は後方に下がるのをやめ、逆に虚像に突撃する。
再び虚像が小刀を的場に振りかざす。
この瞬間、的場は目を閉じた。
いわゆる"心眼"というやつだ。
すると、虚像からほんの少しだけズレた場所に同じモーションで動く何かを捉えた。
的場は目を開く。
「そこだ!」
的場は目では何も見えない場所に手を伸ばし、小刀を持つ腕を止めようとする。
すると、驚いたことにそこには実際には見えない実体のようなものがいた。
間違いなく何かをガードしている手応えがあった。
「見つけた!」
的場はガードした腕を掴むと、自分の方に引き付け、野口直伝の特殊な武術で小刀を持っている方の腕の肩の骨を外した。
「........うっ....。」
目には見えないが池野がダメージを負ったであろう声のようなものは聞こえた。
これならいけるかもしれない。
そう思った時だった。
突然、建物の床が割れ、巨大な池野の上半身のような物が現れる。
「これは.....でも!」
先ほどの虚像と同じく、攻撃されてもそれは脳の錯覚に過ぎないと思った的場は虚像を突っ切ろうとする。
巨大な虚像は的場をビンタのような払いで吹き飛ばそうとする。
『これは虚像だ。 当たらない。』
その直後だった。
虚像の攻撃は的場に命中し、その衝撃と威力は、まるでスピードに乗った巨大なトラックに正面衝突されたかのようなものだった。
この一撃のみで、直撃した左腕の骨が折れる。
的場は意識が飛びかける中で知った。
『コイツは虚像じゃないのか。』
「気付かなかったようだね。」
そこには何故か、吹き飛ばされたはずの的場が抜け殻のように突っ立っている。
的場は、今度こそ本当の意味で幻術にはめられていた。
池野の能力によって作られた仮想現実の中で的場は池野と空想の戦いをしているのだ。
『どうすれば.......どうすればいい....。』
吹き飛ばされた先の瓦礫から起き上がった的場は、血で滲んだ左目を閉じ、フラフラの足腰で立ち上がる。
前を向くと巨大な虚像は攻撃モーションに入っていた。
『左の払い。』
「うぐっ.......。」
的場は緊急回避でギリギリ攻撃を避ける。
しかし、ダメージと出血で体が重く感じる。
次に虚像は払った左手を床に滑らせ、ローラーのように瓦礫ごと的場を呑み込もうとする。
的場は歯を食いしばって立ち上がり、左足を引きずりながら攻撃から逃れようとする。
『俺....は.......ま.....だ.....................。』
的場はあまりにも重い目蓋を閉じた。
自分の終わりを悟った。
『ここで終われないよ、君は。』
突然、自分の中から声が聞こえた瞬間的場は目覚めた。
目の前にはローラーのように瓦礫ごと的場を呑み込もうとする虚像があった。
『君には、真の力があるんだ。』
的場の右腕が異様な光を発した。
それを的場は虚像にかざした。
すると、辺りの景色がドロドロに溶けて池野が現れた。
「能力を掻き消した.....だって!」
池野は再び幻術をかけるために的場に手をかざそうとしたが、次の瞬間、池野は天井を見ていた。
「.........あれ...?」
的場の姿はもうなかった。
どうやら突破されてしまったらしい。
そして、自身の右腕の感覚がなかった。
「ハハッ......腕を吹き飛ばされたか.....。」
池野から少し離れた場所に池野の右腕が転がっていたが
何が起こったかは分からなかったが、的場に変化があったのは確かだった。
「にしても、どうして能力が掻き消されたんだろう。」
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