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恋姫無双~2人の御使い~

作者:デイラミ
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第1話

 
前書き
なぜ、主人公がサッカー経験者という設定かというと。
単純に書き手が高校までやってたってだけの話です。 

 

 アパートの一室。
 部屋の主である青年が、ボーっとした表情でテレビを見ている。

 「次のニュースです。半年後に迫った世界大会に向けての強化試合、日本対イタリア戦の23歳以下の日本代表のメンバーが発表されました」

 その言葉に青年の表情が変わる。
 真剣な表情でテレビを見つめる。

 「ミッドフィルダーでは、室谷修也選手が選ばれており……」

 アナウンサーが他の選手の名前を呼んでいるが、青年の耳には入って来ない。

 「……やっぱ、選ばれるよな……修也」

 そう呟いた。



 青年の名前は鷺島暢介。
 先ほど、テレビで呼ばれていた室谷修也の幼馴染である。

 誕生日は1週間違い。
 家は近所で、両親同士が学生時代からの友人同士。

 物ごころついた頃には遊びに行く時は2人だった。
 
 「どっちかが女性だったら付き合ってたかもな」

 なんていう笑えない冗談を修也は言っていた。

 サッカーを始めた時も練習相手をしていたのは修也だった。
 別に2人してポジションを決めた訳でもなかったのだが。

 自然と、修也の出してくるパスを決めるという役割を暢介は務めていた。

 小学校・中学校とサッカーを続けていく中で2人の息は合っていく。
 やがて2人して同じ高校に進学。

 勿論、サッカーを続け3年の時、ついに頂点に上り詰める事が出来た。
 そう、高校選手権での優勝である。

 暢介はエースとして、修也は司令塔として活躍。

 2人ともその後の、高校選抜として海外遠征にも出ていたのだが……
 
 遠征後、2人の人生は大きく変わった。

 修也には多くのチームから獲得のオファーが届いた。
 その中には国外のクラブなどもあったようだ。

 暢介には……どこのクラブも手を上げてはくれなかった。
 
 理由は単純なもので。
 暢介は……普通すぎた。

 それは遠征の際に如実に表れていた。



 鷺島暢介には相手DFと競り合えるパワーがある訳じゃない。

 鷺島暢介には相手のDFラインの裏を取れるスピードがある訳じゃない。

 鷺島暢介には単独で状況を打破出来るテクニックがある訳じゃない。

 彼の活躍は室谷修也の天才的なパスによるものであり。
 彼自身は際だった能力がある訳ではない。

 それがプロのスカウトから見た鷺島暢介という人物の評価であった。



 勿論、彼にプロの道が無かった訳ではない。
 トップリーグからのオファーが無かっただけであり。

 下部リーグ、もしくは大学や社会人のサッカー部に行ってもよかった。
 チームのテストに参加することだって出来ただろうし。
 海外挑戦だって出来たはずだった。

 しかし、彼はそのどれも取らず就職し今に至っている。



 「まぁ、幼馴染が代表に選ばれるなんて光栄な事だよなぁ……あれさえなければ」

 そう呟き、暢介はため息をつく。

 ため息の原因は修也が受けたある雑誌の取材の件であった。



 『室谷選手が最高のパートナーだと思う選手はどなたでしょうか?』

 恐らく、記者の方は新加入した外国人選手が。
 或いは、フル代表で不動のレギュラーとなっている選手の名が出るかと思っていただろう。

 ところが……

 『それは……やはり、子供の頃から一緒にサッカーをしてた鷺島かなぁ……』

 という修也の答えが、そのまま雑誌に書かれていた。
 
 将来の代表の中心選手に 指名された訳だから嬉しかったのだが。
 同時に恥ずかしさもあった訳だが……

 この件は雑誌だけで終わらず。
 テレビでの取材でも同じ様な質問が出され。

 その都度、修也は暢介の名前を上げていた。

 ある番組では、とあるタレントが『そんなプロにもいない選手上げなくてもいいじゃん』という発言をし。
 それに修也が激怒、生放送だった為に編集が効かず、そのまま放送されていた。



 「……まぁ、おめでとうメールでも送っておくかな」

 そう言って暢介は携帯で修也へメールを送る。
 内容は簡単なもので『代表おめでとう』というものだ。

 暢介は彼が代表に選ばれる度に、同様の内容のメールを送る。
 そして修也からの返信もまた『サンクス』という内容だ。

 メールを送り終えた暢介は、欠伸をすると頭を振った。

 「……そろそろ寝るかな」

 そう言うと暢介は部屋の明かりを消しベッドに入る。
 そのまま目を閉じ、眠りに落ちる。






 「……」

 見渡す限りの荒野の中を険しい表情を浮かべた女性が馬に乗っていた。

 女性は先ほどまで、ある城の統治者の元へ行っていた。

 その統治者は女性の母親に。

 『あなたの娘の中で一番の才を持つという者を私の所に仕官させて頂けませんか』

 という要請をしてきた訳だ。
 
 女性は母親から。

 『丁度いいじゃない。あなたも使えるべき主を探さないとね……まぁ、あいつにあなたを使いこなせるとは思わないけどね」

 最後の部分は女性の耳には聞こえない小声だったが。

 兎に角、女性はその統治者の元へ行った訳だが。
 何度かの試験の後、言い渡された結果は不採用という内容だった訳だ。

 「……どうしよう。僕、母上に何て言えばいいんだろ……」

 女性は険しい表情のままため息をつく。
 
 ちなみに、女性の母親は元より採用される訳が無いと思っている事を女性は知らない。
 なので、女性が採用されなかったという話を聞いたとしても。

 『あぁ……やっぱりね』

 と答えるだろう。

 

 「……まぁ、いくら悩んでもしょうがないか……ん?」

 女性の視線の先に誰かが倒れているのが見え、女性は馬を走らせる。
 馬を降り、女性は駆け寄る。

 「あっ……不用意に近づいてるな僕」

 倒れている人物の横に着いた時にふと思い出した。

 賊の中には、倒れたふりをし、助けに来た人物を襲う手段を取る者もいる。
 うっかり忘れていた。

 しかし、倒れている人物が起きてくる気配が無い……死んでいるのだろうか。

 「……男性みたい……ちょっと、大丈夫ですか」

 女性は、倒れていた男性の肩を叩き声をかける。

 「……ん」

 男性から反応があり、女性は、ホッとする。
 流石に死体を見つけるのは勘弁願いたい。

 「さてと……どうしようかな……」

 意識が戻った相手を見つけて、女性には新しい問題が立ちはだかった。
 彼をどうするかである。

 死体だったら、そのまま放置も出来ただろうが。
 いかんせん、生きている訳だから放置は出来ない。

 まぁ、中には放置する人もいるだろうが……女性は、そういう事は出来ない様だった。
 しかし、家に運び込んでもいいものだろうか。

 見た所、男性の着ている服はみた事が無いもので怪しい。
 そんな人物を家に連れていくのはどうだろうか……

 「責任は、僕が取ればいいんだ」

 そう呟き、女性は男性を抱え馬に乗せる。
 男性の倒れていた近くにあった、良く分からない袋の様な物……スポーツバックも乗せ。

 最後は自分も乗り自宅へと馬を進めた。

 自宅に戻った後、母親に倒れていた男性の事を伝え。
 空き部屋に男性を連れていく為に掃除をし、彼を寝台に寝かせる。

 それから彼が目覚めるまでの間、女性は男性を看病し続けた。
 時々、妹達に代わって貰っていたけれど。





 「……ん? もう朝か?」

 目が覚めた暢介の視界に入ってきたのは見覚えのない景色だった。

 「……知らない天井だな」

 そう言い、自分はまだ夢の中かと自分の頬を抓る。

 「いてぇ……」

 夢では無い様だ。
 ひとまず起きてみようと身体を動かす。

 そこで暢介は自分の足元が重い事に気付いた。
 視線をそこに移してみると、見た事が無い女性が腕を枕にし、暢介の脚に突っ伏していた。

 髪は銀髪でロング。
 そんな女性が寝息を立てながら眠っていた。

 一瞬、暢介は動くのは女性が起きるだろうから止めた方がいいかもと思ったが。
 脚が動いてしまった為、女性も目を覚ましたらしい。 

 トロンとした寝ぼけ眼で左右をキョロキョロし、暢介を目が合うと、目が覚めたのか。
 凄い勢いで立ちあがると顔を真っ赤にして弁明を始めた。

 どうやら、眠っている所を見られたのが恥ずかしかった様だ。

 「す、すいません!」

 「い、いや……別に謝らなくても……」

 そう言っている暢介自身も現状を理解できていない。

 何故自分は、見覚えのない場所にいるのか。
 何故自分は、スーツ姿でいるのか、記憶の中での自分の最後の服装は寝間着だったはずだ。

 もしかしたら休みの間の記憶が抜けてるだけで、実際は休み明けで外回り中に倒れたとか。
 ……いやいや、確かに、たまに記憶が飛んでる事はあっても土曜と日曜の2日間の記憶が抜けるという経験は無い。

 「あのさ……ここってどこなのかな?」

 場所確認をしたい暢介は、女性に問いかける。
 女性は顔を真っ赤にしたままであったが答える。

 「ここは河内郡温県孝敬里ですよ」

 「え?」

 聞いた事の無い地名に暢介は混乱した。
 少なくとも自分の住んでいる場所、務めている場所の近辺にその様な地名は無い。

 しかし……

 (会話が通じているって事は、日本なんだよな……?)

 女性との会話が成立している以上は、互いに日本語で話しているという事のはずである。

 「……あっ!」

 突然、女性が大きな声を出したので暢介はビクッと身体を震わせた。

 「な、何かな?」

 「あなたが目を覚ましたら、会っていただきたい人がいまして……起きれますか?」

 「あぁ、大丈夫だよ」

 そういって寝台から降りる暢介。
 並んで立ってみて分かった事だが、女性の身長は暢介の肩ほどだった。

 「それで、会っていただきたい人ってのは?」

 「僕の母です」

 その言葉に暢介は頷く。

 「ではいきましょうか」

 そう言い、女性は歩き出した。
 暢介は女性の後ろを歩く。

 部屋を出て、少し歩いた所で女性は何かを思い出し、歩を止めて暢介の方を見る。

 「そう言えば、まだ名前を言っていませんでしたね」

 「あぁ……そう言えば、そうだね」

 よく考えると、目覚めてから一度も名前を聞いていなかった。
 いつまでも知らないままでいる訳にもいかないだろう。

 「じゃあ、俺から言っておこうかな。俺は鷺島暢介」

 「鷺島暢介……鷺が姓で島が名で暢介が字ですか?」

 女性の言葉に暢介は目が点になる。

 姓名は分かるのだが、字という存在が分からなかった。

 「いや。姓は鷺島で暢介が名だよ。字ってのは無いんだけど」

 「字が無い? 珍しいですね」

 どうも会話がかみ合って無い気がする。
 日本で自己紹介する際に、字は無い訳だからだ。

 (ここって、日本じゃない?)

 そんな考えが暢介の頭の中で少しずつ膨らんでいく。

 「じゃあ、僕の方も自己紹介をしておきますね」

 そう言って女性は一呼吸入れると口を開いた。

 「僕は、姓は司馬、名は懿、字は仲達と申します」

 自己紹介をし頭を下げている女性の言葉に暢介の頭の中は更に混乱していく。
 もしも、頭から湯気とかが出るならば、今頃暢介の頭の上は凄い勢いで湯気が出ている事だろう。

 「あ、あの。鷺島さん。大丈夫ですか?」

 心配そうな表情を浮かべて女性、司馬懿が暢介の顔を覗き込んでくる。

 「だ、大丈夫。ちょっと混乱しててさ……多分、寝起きだからかな」

 かなり苦しい台詞だったが、司馬懿は納得したのか頷くと案内を続ける。
 頭を抱えながら暢介は司馬懿の後に続く。




 「ここです」

 そう言って司馬懿は扉を叩く。
 すると……

 「誰かしら?」

 「久遠です。保護した男性が目を覚ましましたのでお連れしました」

 暢介は司馬懿が言った『久遠』という言葉に首を傾げる。
 ……さっきの自己紹介の時には出てこなかった名前なのだが……

 「いいわよ。入りなさい」

 「はい……それじゃあ、鷺島さん、行きましょう」
 
 司馬懿の言葉に暢介は頷く。

 それを見て司馬懿は扉を開ける。 
 

 
後書き
以前書いていたところまでは、誤字脱字の修正投稿になるかと。 
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